◆蜘蛛の巣◆ 4








その言葉を聞いた瞬間の虎徹の顔は見物だった。
理性が少し戻ってやや険しくなっていた表情が一気に崩れ、絶望へと変化する。
ブラウンの瞳が瞬時まん丸く見開かれ、唇が震える。
呆気に取られてしきりに瞬きした後、すっと瞳に絶望の影が差し込み、瞼が伏せられ黒い睫が微かに揺れる。
今の所は絶望だけ感じていればいい。
そのうちにそんな絶望など全く塗り替えられるような暗い悦楽に浸ってしまうだろう。
それも彼自身が自らせがむ形で。
「では、こちらへ。ここで四つん這いになって私の方に尻を向けたまえ。分かるね、これから何をするか?」
「……」
返事をする力も無いのだろう、虎徹が項垂れたまま床にぺたりとついていた尻を力無く上げた。
のろのろと身体の向きを変え、ロイズに尻を向ける。
それから床に手を突き、膝を突いて、獣の恰好を取った。
目の前に、虎徹の尻が突き出される。
そこは、しとどに体液に濡れていた。
先走りの透明な液体と精液が混ざり合ったねっとりとした粘液が陰嚢を濡らし、蟻の戸渡りをてらてらと光らせ、アナルまでぬるりと覆っている。
「足を開いて。…腰をもっと上げて」
もう抵抗する気力も無くなったのか、命令に素直に従ってくる。
四つん這いの足が開かれ、上体が屈み込んで尻が上げられた。
そうするとよりいっそうアナルの様子が目に飛び込んでくる。
そこは襞が綺麗に揃って窄まっていて、慎ましやかな様子なのに色が濃く、その分淫猥だった。
体毛が元々薄い体質なのか、陰嚢や肛門にも殆ど毛が生えていない。
手を伸ばして、ロイズは人差指で襞をぬるりとなぞってみた。
「ぁ……くっ…」
虎徹が微かに声を上げる。
項垂れて俯いた顔が僅かに揺れる。
ロイズは肛門の中に人差し指をつぷ、と埋め込んだ。
虎徹が切なげに顔を振る。
もう、許してくれ、とでも言うように頭を垂れ、目を硬く瞑って唇を噛む。
その様がまたロイズの嗜虐欲をそそってくるのも気がついていないのだろうか。
「とてもいい形をしているね、タイガー。ここを使った事がないようだ。男とはした事がないのかな?…でも私の指を歓迎しているようだね、すっかり柔らかくなっている」
ぐにゅ、と内壁を押し広げて指を根元まで埋め込む。
虎徹がびくりと背筋を震わせた。
アナルの内部は先程入れた座薬が溶けて程良くぬめっていた。
座薬の成分は薬効成分以外殆どが油だ。それが潤滑油となっている。
ロイズは人差し指に加え、中指も無造作に差し込んでみた。
虎徹の背中が再度震えたが、アナルはやわやわと柔らかく指を迎え入れた。
「初めてなんだろうが、随分と君の尻は柔らかいね。それに…色が美しい。見た事があるかな?とても鮮やかな赤い色だよ、タイガー。ひくついて、私の指が入ると嬉しそうだ…。淫乱だね?」
やや軽蔑したような口調出言うと、虎徹が項垂れていた顔を更に俯かせた。
返事をする気はないらしい。
ロイズは肩を竦めた。
もう一本増やして3本の指をぐぐっと挿入する。
虎徹の全身が震える。
しなやかな背中が震え、肩胛骨がぐっとせりあがる。
浅黒く汗で濡れた肌が間接照明に照らされて光って、淫猥で美しい光景だった。
ずっとそのまま見ていたくなる程だ。
この、髭の生えた一見冴えない中年男がここまで淫靡で快楽に敏感だとは。
人は見かけによらないものだ。
アナルは、指を挿入すると熱く柔らかな肉が指を入れまいとするかのように押し返してくる。
そこを指先で引き裂くようにして押し広げ、腸壁を爪で擦りながら出し入れする。
「っ、あ…や、っ……ぁ…っっ」
虎徹が僅かに掠れた声を上げた。
少し高いその声は、どこか心細く不安げで、頼りない感じがまたたまらない。
内部は座薬の効果で更に敏感になっているはずだとロイズは思い、この辺りか、と言う箇所でぐりっと指を曲げた。
すると思った通りに腸壁越しにこりっとする部分が指に当たった。
そこを抉ってやる。
「うぁぁぁっっっっ!あっ、あ、な、にっ……あ、ひ、ぁ―っっっ!」
前立腺を刺激されたことがないのか、虎徹が驚愕して悲鳴を上げた。
狼狽したように茶色の目が振り向いてきて、呆然とロイズを見る。
「気持ちいいかい?敏感なのは悪くないよ、タイガー」
そこをぐりぐりと指先で転がし、潰すように抉れば、虎徹があぁぁ、と呆気に取られたような声を上げ、身も世もないというように身悶えた。
アナルがきゅうっと引き締まり、指がぬめぬめと熱い粘膜に締め付けられる。
虎徹のペニスがぐん、と膨らんで、三度勃起し始める。
見ているだけでも愉快な光景だったが、ロイズは肩を竦めて指を一気に引き抜いた。
「あ……ァ、……?」
不意に快感が消失した事に戸惑ったのか、虎徹が呆けたような顔でロイズを見上げた。
虎徹の視線を感じながら、ロイズはデスクの引き出しから、直径が3センチ程度の透明な硝子玉をいくつか取り出した。
「……な、んですか、それ…」
虎徹が恐る恐る、掠れた声で尋ねる。
「いいかな、タイガー、これ一つを1万シュテルンドルと考えたまえ」
「………え?」
「君が現在抱えている個人賠償金の総額、知っているかね?」
虎徹が眉を寄せ、微かに首を振る。
「知らないのかね?随分と楽天的だねぇ」
ロイズは肩を竦めて薄笑いしながら、虎徹の顔の横に、ガラス玉を並べた。
ガラス玉を10個並べて、虎徹に示す。
「一つ1万シュテルンドルとして、総額でこのぐらいだね。何も知らないとはな。だから先日も気にせずモノレールを壊したのかね?」
「………」
虎徹が涙で汚れた目を伏せる。
己の所行に心当たりがありすぎて言い返せないのだろう、伏せたまま唇を噛み締める。
「ちょっとした余興だよ。これを全部入れることができたら、君の個人賠償金もアポロンメディア社が肩代わりする。いいかな。タイガー?」
「……入れる……?」
「そうだよ。これを、君の可愛いここにね…?」
そう言ってロイズはガラス玉を一つ摘むと、それを虎徹のアナルに持って行った。
窄まった入り口に軽く押し当てて示してみせる。
「………… 」
ごくり、と虎徹が唾を飲み込んだ。
照明にきらりと光るガラス玉をじっと見つめる。
ロイズがアナルに押し当てたガラス玉を虎徹の手に乗せてやると、虎徹はそれを眉を寄せて見つめ目を伏せて溜息を吐き、悲しげに頭を振って、それからおずおずとその玉を、四つん這いのまま、自分のアナルに押し当てた。
「………っ…」
ぬるり、とそれは呆気なくアナルの中へと吸い込まれていった。
てらてらと座薬の油が襞から垂れ、ガラス玉が入るときに濡れた鮮紅色の粘膜が照明に淫靡に光る。
一つ埋め込んで息を吐くと、虎徹は眉を寄せたまま更に二つ目に手を伸ばした。
ゆっくりと押し込んでいく。
二つ目も容易に飲み込まれ、虎徹は押し黙って3つ4つと入れていった。
が、さすがにあと2、3個になると、虎徹の眉は苦しげに歪み、アナルはガラス玉を飲み込みきれずに括約筋が開いて今にも玉を吐き出しそうになった。
8個目を埋めると、もう限界、というように虎徹が背中を震わせ、顔を振って床に突っ伏す。
尻だけを掲げた恰好になり、ロイズの目からは虎徹のアナルがよく見えた。
括約筋が引っ張られ襞が無くなり、入り口がガラス玉によって盛り上がっている。
「あと2つだね」
ひくひくとひくついてはガラス玉を押し出してしまおうとするアナルを、虎徹が意識してきゅっと引き締め、腹筋に力を入れ、内部へガラス玉を押し込めようとしている。
腹筋がうねり、括約筋がきゅっきゅっとリズミカルに締まって、アナルが生き物のように動く。
見ているだけでぞくぞくするような、卑猥な光景だった。
普通の人間だったら堪えきれずに埋め込んだ玉を押し出してしまうだろうが、そこを虎徹が鍛えた筋力で押さえているのがそそる。
もう一つ、無理矢理に虎徹が中に埋め込んだ。
「……うぁ……」
苦しげな声にも興奮がいや増す。
そのままじっと見つめていると、最後の一個を手に取って、震える手を虎徹がアナルへ押し当てた。
「……う、…ぁ……はっ……ぐ、――…」
なかなか入らない。
ともすれば入れようとするより中でぎちぎちに詰まっているガラス玉を括約筋が押し出してしまいそうになる。
虎徹の額に汗が玉のように浮かびつうっと流れていく。
その苦悶の表情にも興奮する。
無理矢理ガラス玉を腸内奥まで指で押し込んで、最後の一個を虎徹はぬぷ、と体内に埋め込んだ。
「……こ、れで、…いい、です、か…」
切れ切れに、か細く尋ねてくる。大きな声を出すと玉が出てしまうのだろう、震える声が可愛らしい。
ロイズは薄く笑った。
「あぁ、いいよ。では次にそれを全部出してみたまえ。鶏が卵を産むみたいにね?」
「………んく…っっっ!」
言われるまもなく、限界だったのだろう、濡れ光ったガラス玉が次々と虎徹のアナルから押し出されて、床にカツンカツンと落ちた。
「あ、ぁぁ……っ、く…」
頭を振って、尻を高く上げて、尻穴から次々と玉を産んでいく様は、いかにも変態で倒錯的だった。
鑑賞しがいがある。
全身を震わせて虎徹は全ての玉を産み落とした。
力尽きたのか、がくっと頭ごと肩を落とし、頬を床につけて目を閉じてはぁはぁと息をする。
間髪を入れずロイズはあらかじめデスクの引き出しから取り出しておいた小ぶりのバイブレーターを、玉を産み落としたばかりで柔らかく緩んだアナルに突き立てた。
「うぁぁーっっ!」
弛緩していた虎徹が一気に覚醒する。
顔を上げ喉を詰まらせて叫ぶのにも構わず、バイブを一気に埋め込むと、内壁を抉るように乱暴に動かして掻き回す。
「あっ、あっあ、…あ、ーっ、や、っ、変に、なるっっ…あ、あぁっっ!」
喘ぐことしかできないようで、しきりに顔を振り黒髪を振り乱して虎徹が喘ぐ。
ぐちゅぐちゅと尻穴から座薬が溶け出す。
バイブは滑りよくずぶりと入り、ロイズはそれを回転させながら、切っ先で内壁を抉ってやった。
「…はっああーっっっっ!」
あたりをつけて抉ると、どうやらそこが前立腺だったらしく、虎徹が一気に顔を上げて叫んだ。
薬の効き目は最高潮に現れているはずだ。
前立腺を擦られるだけでも我慢できないに違いない。
その証拠に、虎徹のペニスは一気に腹に着くほどにそそり立って、ロイズが後ろから内部をバイブで抉ると同時に亀頭からピュッと薄めの白濁を吐き出した。
「あ、あぁ――ぁ、……っ…も、…、ロイズ、さん……っ」
黒髪を振り乱し上げていた顔を次には床に突っ伏して、虎徹が呻く。
全身が細かく震え、背骨のへこみを汗がたらりと流れていく。
汗は引きしまった脇腹を流れ落ち、ペニスから滴った白濁と共に床に雫だまりを作る。
――そろそろ、いいか。
虎徹がほぼ限界に達したのを見て取って、ロイズは彼のアナルに埋め込んでいたバイブをずるりと引き抜いた。
抜け落ちたアナルはぽっかりと開いたままえで、内部のぬめぬめと濡れ光る鮮紅色の腸壁を垣間見せている。
いやらしくそこがひくつき、きゅ、と引き締まっては呼吸に合わせて柔らかく解れ、内部からとろりと座薬の油と腸液の混ざった体液が滴る。
では、最後に自分がいただくとしよう。
ロイズは引き出しより、外側に大きないぼ状の突起の付いたペニスリングを取り出して、それを自分の陰茎に装着した。
リングの幅は約3センチ、輪になったリングの外側にごりごりと粘膜を抉るのが目的の、釘の頭を少し出して打ったかのようないぼ状の突起が、ぐるりと取り巻いている。
それを自分の陰茎に3つ装着する。
ペニス自体が殆どリングに隠され、その直径は1.5倍程度になる。
そうして自分のペニスを補強した上で、ロイズは虎徹の解れて柔らかく収縮するアナルに、無造作にペニスを突き入れた。
「…ぐぁ、―あ゛あぁぁぁっっ!」
先程のガラス玉やバイブとは比べものにならないほどの大きさとリングによって補強された硬さ、それにいぼ状の突起で周囲を取り囲まれたペニスが、なんの遠慮もなく虎徹の粘膜を抉ってくる。
括約筋がほぐれきっていたためにそれは突起で粘膜を容赦なく抉りながら、最奥まで一気に埋め込まれた。
虎徹の背中が折れるほどにぐんっと反り返る。
全身が震え、床についた手が血が滲むほどに握られる。
身体が硬直し、どっと汗が溢れ、逃げだそうと身体が動くのをロイズは腰を強く掴んで引き寄せ、ペニスを虎徹の中へ根元まで深々と突き入れた。
「あっ……あー…ぁ…………っ……」
虎徹が喉を詰まらせる。声も出ないようだ。
強張った身体に冷たい汗が流れ落ちていく。
浅黒い尻肉の割れ目に、自分のものがずっぽりと埋まっている光景を上から眺め降ろしてロイズは瞳を細めた。
とても美しい眺めだ。素晴らしい。
「くっ、…や…っ…ぁ…い、てぇ……っ……!」
暫くすると硬直していた身体がくったりとして、今度はがっくりと床に上体が突っ伏していく。
鍛え上げられた理想的な身体が突っ伏して筋肉がさざ波のように震える。
力無く頭を振る様も十分扇情的だった。
虎徹は眉を寄せ、目を硬く瞑り垂れた目尻の端から涙を幾筋も零して、その衝撃に耐えていた。
男に犯されるのは初めてのようで、薬で興奮させられ、アナルをほぐされているとはいえ、アナルに許容量を超える異物が入ってきた衝撃でがくがくと震えて、顔面は蒼白になっている。
しかしペニスは先程からの不自然な刺激によって勃起したままであり、びくびくと脈打っては赤黒く充血した茎を揺らしている。
「ぁっ…ぁーっ、…あ゛、い、てぇっっ…あー…も、無理っ……お、ねがいだからっ…も、もうっっ」
虎徹が切れ切れに呻く。苦しそうに息を継ぐ。
しかし、呻きつつも腰は言葉とは反対にロイズに突き出され、もっと入れてくれ、というようにいやらしく動く。
その肉を強く掴み抓り上げると、虎徹の内部がきゅうっと締まった。
浅黒い尻の肌に爪も立ててみる。
ぎり、と爪を立てて引っ掻くとあっという間に痕がみみず腫れとなって浮かび上がり、引き締まった尻の筋肉が震える。
痛みに連動して内部が収縮してロイズを締め付けてくる。
締め付ければペニスリングの突起に内壁が擦られるらしく、それだけで身悶え、更に腰を揺らしてくる。
「お願いだから、なんなんだね?相変わらず口の利き方がなってないようだ、さっき教えたばかりだろう、タイガー」
「あ、あっ、す、いませんっっ…お、ねがい、です、からっっ…も、っ、許して、く、ださいっっ」
「…気持ち良いかね?」
「あーっ、は、はいっ、すっげぇ、気持ち、いい、ですっつ…も、我慢、できねぇ、っ、…あ、で、すっっ」
「私に感謝しているかね?」
「あっは、いっっ、感謝、してますっ…あ、―っ」
「一体何を感謝しているんだね、ちゃんと言ってみたまえ」
「っ……あ、っ―――っっ…そのっ、ばい、しょう、きんっ、ですっ…」
「それだけかね?こうして君を気持ち良くさせてやっている事には?」
「あ、あっ、はいっ、かん、しゃ、し、て、ますっ…だから、っ、もうっ…」
「きちんと言葉を言いたまえ」
「きもち、よく、っ、して、く、ださって、っっ…あ、りがとうっっ…ござ、い、ます…、っっ、あ、あっあっっ!」
意図的に前立腺を抉りながらも、虎徹のペニスをぎゅっと掴んで根元を潰す勢いで握り込む。
虎徹が苦しげに呻きながら、全身を戦慄かせる。
必死に言葉を紡ぎながらロイズに合わせて腰を振る様が哀れっぽく扇情的で、これがワイルドタイガーとして活躍してきたヒーローかと思うと、倒錯的な興奮が込み上げてくる。
内部からの絶大な快感と、堰き止められた苦しさに、理性など吹きとんでしまったのだろう。
最早自分が何を言っているのか理解も覚束ないようで、ひたすら快楽を貪りながら、ロイズを振り返っては涙の堪ったブラウンの瞳を揺らす。
「あ、っ…は、ぁ…、ぁ、ぁ………お、ねが、…い、です…も、…む、り…ッ……」
虎徹の声がだんだんと虚ろになってきた。
もう、限界らしい。
ロイズもそろそろ限界に近くなっていた。
年齢的に勃起して射精するのにエネルギーが必要でもある。
ペニスリングの力を借りているとはいえ、息も上がる。
虎徹のペニスを戒めていた手を離すと、ぐりっと虎徹の前立腺をリングの突起で抉りながら、ロイズはぐっと虎徹を引き寄せて内部深く腰を進めた。
「ひッ、あっあ゛ぁ――っ…っっっっ!!」
奥深くまでペニスで貫き更にその奥の腸内に射精する。
虎徹が背中を瑞枝のように撓らせて、顎を仰け反らせた。
黒髪が宙に舞い、身体が一瞬硬直する。
もう精液は出ないようだった。
ぴくぴく、と全身を痙攣させながら虎徹が空イキする様子を、ロイズは背後からじっと見つめた。










射精して、虎徹の中からペニスを抜くと、開いたアナルからどろりと白濁が流れ出してきた。
少し出血したらしく、泡の立った淡いピンク色の粘液がこぽ、と溢れる。
鮮紅色の粘膜と淡いピンク色の液体の色の対比にロイズはしばし見とれた。
虎徹が力無く床に突っ伏す様を見ながら、自分の後始末をする。
局部を綺麗に拭いてリングを外し、服装を整えると、ロイズはゆっくりと立ち上がった。
締め切っていたカーテンを開ける。
晴れやかな青空と、その下の大河が眼下に見渡され、メダイユ地区の高層ビル群の林立している様が額縁で切り取られた絵のように窓を飾っている。
目を空に向けると、そこには飛行船が優雅に浮かんでいた。
その目を今度は部屋内に向ける。
虎徹は足を開いて犯された恰好のまま、床に突っ伏してはあはぁとひたすら息をしていた。
全身を使って息を吸っては吐いている。
開いた脚の間から白濁が流れ落ちても、彼自身が放った白濁が腹を濡らしていても、そんな事を気にする余裕もないらしい。
もう、矜持も羞恥心もすっかり消えてしまったのだろう。
あられもない恰好を晒したまま、激しすぎる快感の余韻にただただ全身を浸している。
「起きたまえ、タイガー」
ロイズが声を掛けると、のろのろと顔があがり、振り向いて快感に塗れた虚ろな目を向けてきた。
「悪くなかったよ、タイガー。これで契約は成立だ。君が現在抱えている個人負債の賠償金については、取引銀行より明細を受け取っている。それは私の方で君名義から会社名義に書き換えておこう。これで君も正式なアポロンメデイア社の社員という事になる。いいかね?」
「…………はい……」
ふら、と虎徹が上体を起こす。
床にぺたりと尻を付いて、なんとか上体を起こして顔を振る。
身体中汗と涙、それに精液に汚れきっている。
肌はまだ全身汗でぬめっており、腹や胸には白い粘液が転々とこびりつき滴り、尻の狭間から溢れる白濁が内股をぬめぬめと濡らしている。
陰毛もぐちゃぐちゃに濡れそぼっていて、口元をぐい、とぬぐって上げた顔は頬がすっかり涙で汚れ、目尻の垂れた瞳は薄茶色に潤んでいた。
酷い有様だが、それでもほっとしたのだろう、少し俯いて目元もごしごしとぬぐっている。
「さて、と…」
ピー…。
その時、部屋のインタフォンの人工的な音が響いた。
ロイズがデスクの上の釦を押すと、机の上に画面が立ち上がり、そこに部屋の外に立っている人物が映し出される。
「ロイズさん、バーナビーです。入っていいですか?」
はっとして虎徹は顔を上げた。
信じられないというように顔をドアの方に向け、それから慌てて床に散らばった玩具類をかき集めて隠そうとする。
ロイズはその狼狽した虎徹の様子を面白そうに見つめた。
着ていた服を両手に掴むとその服で床の汚れを拭き、ガラス玉やらバイブレーターやらを服の中に集めているのが滑稽でもあり楽しくもあった。
「バスルームにでも行ってなさい。そこだよ?」
顎で示すと、服を胸元に抱え、よろよろと起き上がって、ふらつきながら壁面の扉を開けバスルームへと消える。
バスルームにはトイレと簡易シャワーがあり、部屋に直結したディスプレイが壁に設置されていて、部屋の様子がバスルームから映像で見えるようになっている。
おそらくそれを見ているに違いない。
ロイズは瞳を細めてバスルームの扉を一瞥し、部屋の換気を強にしてから、ゆっくりと机の上のマイクに向かって声を掛けた。
「バーナビー君か、ちょっと待っていてくれたまえ」
「はい」
一通り換気が済んで、部屋の空気に情事のねっとりとした色が無くなる。
床も点検し、虎徹が拭ききれなかった汚れはティッシュで拭き取ってから、ロイズは扉を空けた。
シュン…。
と涼やかな音がして扉が開く。
かつかつ、と大股に歩いて、金髪の美青年が入ってきた。
「お呼びですか?」
「あぁ。…今度君とコンビを組む事になったワイルドタイガー君の資料が送られてきたからね、持ち出し禁止なのでここでちょっと見てくれる?」
そう言うと、バーナビーが軽く肩を竦めた。
「別に、見なくてもいいですよ。この間話してある程度知ってますし」
「ま、そう言わずに…。君たちには仲良くしてもらわないといけないからね?」
そう言って資料を渡す。
気の無い様子で受け取ってぱらぱらと眺め、バーナビーがロイズにそれを返した。
「見ました。ワイルドタイガーがどんな人物なのかとかは、実際出動してみないと分かりませんね。どっちにしろ気が重いですが…」
「タイガー君だけど、意外と悪くないと思うよ?まぁ実際コンビを組んでから感想を聞くことにしようか」
「それじゃ、もういいですか?」
「いいよ、あ、そうそう開発室で君に用事があるそうだ。あとで行ってくれるかな」
「じゃあ今行きます。では失礼します」
バーナビーが一礼して部屋を出て行く。
扉が閉まると、ゆっくりとロイズは返された資料を眺めた。
バスルームでは息を殺しているのだろう、虎徹の気配は微塵も感じられない。
先程床を服で拭いていたから、あの服では帰れまい。
どうするつもりなのか?
精液と汗がしとどに染みこんだ服でも着て帰るつもりだろうか。
まぁ、彼には似合いの服かも知れないが。
考えると笑いが込み上げてきた。
ふっと笑いながら、ロイズは資料を机の引き出しにしまった。



振り返れば、澄み切った青空に浮かぶ飛行船が、優雅な午後のひとときを演出していた。



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