◆ありがとう◆ 5









その言葉を聞いた途端、ずくん、とペニスが痛いほどに疼いた。
「あ、あぁ…分かった…」
最早我慢などできそうにもなかった。
我慢ができるなんて思ったのは、錯覚だったんだろうか。
こんな愛おしい存在を前にして、我慢ができるはずがない。
虎徹はそれでもバーナビーを怖がらせないようにと、できるだけそっと彼の唇に自分の唇を重ねた。
熱くふんわりとした感触に、触れ合っている所からとろとろと溶けていくような気がする。
角度を付けて深く唇を合わせ、つるりとした並びの良い歯を舌先で舐め、緩んだ所に舌を差し入れる。
濡れた粘膜同士が触れ合うと、それだけで肌が触れ合ったのとはまた違う、もっと相手を直に感じられるという感激が高まる。
その感激がそのまま至福感に変わっていく。
こんな風に好きな相手と口付けを交わすなんて、一体何年ぶりだろうか。
思い起こすと、胸の中が切なく痛む。
その痛みと思い出の分、余計にこうして今、愛しい相手と口付けを交わしている事の喜びが実感される。
バーナビーの舌を捕らえて絡み合わせ、引っ張るようにして吸うと、バーナビーの身体が震え、彼が感じている事が分かる。
そうすると、虎徹もより一層熱くなってくる。
口付けをしながら肩に引っかかっていたバスローブを脱ぎ捨て、ぴったりと身体を密着させる。
バーナビーの肌は自分よりは少しひんやりとしていて、でも吸い付くように肌理が細かく、身体を押しつけると張りのある筋肉を直に感じる事ができて、それだけでもぞくぞくとした。
自分の勃起した股間をバーナビーの腰に擦りつけると、バーナビーがびく、と身体を捩らせた。
すぐにでも彼の中に入りたかったが、それ相応の準備が必要だった。
逸る心を抑えて虎徹は一度身体を起こすと、何か潤滑剤の代わりになるものはないかと探した。
するとバーナビーがその虎徹の様子から察したのか、目元を赤らめ視線を微妙にずらしてやや躊躇しながら、ベッドサイドから保湿用のクリームを取り出した。
「こんなのしかありませんが…」
「お、なんだ、バニーちゃん分かったのか…」
自分が探しているものが何か分かったバーナビーにちょっと驚きながらも、そんな風にバーナビーが恥ずかしさを押し隠して積極的に自分を求めてきてくれる事に嬉しくなる。
「じゃあ、遠慮無く使わせてもらうな?」
受け取ると、蓋を取って虎徹はクリームをたっぷりと指に乗せた。
「バニー、足、開いてくれねー?」
「あ、…はい…」
バーナビーが足を開いていく。
恥ずかしいのか目を伏せ、それでも虎徹の動きが気になるのかちらちらと虎徹を見てくる様子が可愛らしい。
虎徹は肩を竦めて心配要らない、というように笑って見せながら、左手でバーナビーの右の太腿を掴むとぐっと開かせた。
「…あっ!」
やや狼狽したような声が上がるのにも構わず、そのまま太腿を掴んで上に持ち上げ、後孔が露わになるようにする。
「お、じさん…っ…」
恥ずかしいのだろう、バーナビーが震える声で呼んできた。
宥めるようににっこりと笑ってから、虎徹は右手の人差し指をバーナビーの密やかな蕾に押し当てた。
其処は柔らかく茂った濃い金色の茂みの下で、色の白いバーナビーらしく、白い肌の真ん中に桃色にほころびかけた薔薇の花のように美しく窄まっていた。
綺麗に揃った襞にたっぷりとクリームを塗りつける。
「んっ……ぅ…」
襞をぐるりと指の腹でなぞりながら、つぷ、と人差し指を埋め込むと、そこは意外にすんなりと虎徹の指を飲み込んだ。
そのままぐっと指を押し込んで根元まで埋め込む。
「…大丈夫か…?」
問い掛けるとこくこくと頷く様がまた愛らしい。
指をぐるりと掻き回して第二関節を曲げ、バーナビーの中を探る。
中は粘膜が指にまとわりつくように動いて、指を押し出そうと蠕動すると思えば反対に吸い込もうともしてくる。
虎徹は人差し指を引き抜くと、中指にもクリームをたっぷりとつけて、二本の指をそっと挿入した。
「うっ……」
少し抵抗があったが、入り口の括約筋を抜けると、中は柔らかく虎徹の指を歓迎してきた。
とろけるように熱くうねる内壁を感じただけでも、すぐにでもここに入りたいという欲望が強烈に湧き上がってきた。
ぐっと堪えて、数度指を出し入れし、それから内部で前立腺を探る。
指を回して探っていると、柔らかい粘膜越しにこりっとした感触があり、そこを指を曲げてぐりっと押してやると、瞬間、バーナビーが目を見開いた。
「…あっ、あぁっ!!」
断続的に悲鳴を上げながら身体をびくりと震わせ、慌てて両手で強くシーツを掴む。
内部がきゅっと締まって、虎徹の目の前で先程達したバーナビーのペニスがむくむくと頭を擡げたのが分かった。
瑞々しい桃色の亀頭をしとどに透明な蜜で濡らし、その蜜がとろりと裏筋を伝って滴り落ちている様が間近に見え、情欲が一気に高まる。
必死に堪えたが、もう、あまり保ちそうにもなかった。
指を三本に増やしても大丈夫なぐらいに中をぐちゃぐちゃに掻き回せば、バーナビーももう、快感に如何ともしがたいのだろう、すがるように虎徹を見上げてきた。
緑の澄んだ瞳が涙を一杯に溜めて、自分を見上げてくる。
そんな様子を見たら、もうこれ以上どんな事があっても我慢なんてできるはずがなかった。
ごくりと唾を飲み込んで指を引き抜くと、虎徹は、柔らかく解れ、クリームまみれになったバーナビーの蕾に、自分の硬い肉棒をひたりと押し当てた。
衝撃を予想してバーナビーがきゅっと目を瞑る。
優しくしてやりたかったが、どうにももう堪えきれない。
些か乱暴に虎徹は、ペニスを突き入れた。
「う……んっ…く…っっっ!」
バーナビーの内股がひきつり、身体が逃げかけようとする。
それを反対に抱き締めて自分の方に引き寄せながら、腰を突き入れる。
指とは比べものにならない体積のものに入り口は抵抗を示したが、そこを突き破れば一気に深々とペニスが突き入った。
「バニー…入ったぜ?」
顔を近づけて硬く目を閉じているバーナビーの耳元に囁く。
目尻に口付けをし、軽くキスを繰り返し、溢れ出た涙を舐め取る。
バーナビーがゆっくりと目を開いた。
「おじさん……」
「痛くねーか?」
「痛いです…」
「…そ、そうか、じゃ……」
「…いいです、このまま…」
痛いと言われて慌てて身体を退こうとすると、バーナビーの手が虎徹の首裏に回ってきた。
「痛いけど、すごく幸せです…。貴方が僕の中にいるのを感じる。こうしていると、鼓動が一つになって貴方の中に溶けていけそう…。嬉しい……」
そんな健気な台詞を言われて、それ以上堪えていることなんてできるはずなかった。
身体の中で堰を切ったように情欲が溢れ出し、体内を駆け巡って、バーナビーの中に入っている部分へと集まる。
「悪いっ、動くっ!」
切羽詰まった声で言うと、虎徹はバーナビーの頭をしっかりと抱きかかえ、感情の迸るままに抽挿を始めた。
腰を引いてペニスが抜け落ちるほどに抜いては、一気に腰を撓めて突き入れ、根元まで埋め込む。
バーナビーの内部がやわやわと絡みついてくるのをめくりあげるようにして再度引き抜いては勢いを付けて突き入れ、震える愛しい身体を強く抱き締める。
「あっ…―っあ、あっ…お、じ、さんっっ…も、っ…む、りっっ!」
バーナビーの切れ切れの弱々しい声が聞こえた。
「…はっ、ぁ…、っっ、あ、あっあっ…」
もはや喘ぐしかできないようで、涙をいっぱいにためた緑の目を宙に彷徨わせて激しく顔を振りながらも、虎徹に動きについていくように腰を振る。
可愛い。
可愛くて、愛しくてどうしようもない。
「…おじさんっ、お、じさん、っ好きっ……あ、あっあっ!」
バーナビーの言葉にどうしようもなく胸がいっぱいになった。
嬉しくて気持ち良くてどうにかなりそうで、虎徹は歯を食いしばったがダメだった。
「…バニー!」
深々と埋め込んで最奥の奥を抉るように白濁を放出する。
バーナビーがぶるぶると身体を小刻みに痙攣させるのを強く抱きすくめ、首筋に顔を埋める。
甘やかな彼の匂いが鼻孔の奥まで入ってきた。
「……俺も、好きだ…」
掠れた声でそう囁くと、バーナビーが『あ…っ』、と小さく身悶えた。
顔を上げてバーナビーを覗き込むと、耳元まで赤くして視線を逸らす。
「バニー、…大丈夫か?」
そう聞くと、頬を染めたまま、虎徹を睨んでくる。
「…そんな事、聞かないでください…。大丈夫じゃなくたって、今すごく幸福なんです…。嬉しくて、なんだか今までの自分と違う感じで…」
「…そ、うなら、いいんだけど…」
「おじさん、好き。…大好きです。…愛してます…」
素直なものいいに、ずきん、と胸が甘く痛んだ。
バーナビーが頬を擦り寄せてくる。
素直で率直な告白は、虎徹のように、そういう素直さからは随分と遠ざかってしまった年代には眩しかった。
「ありがとな…」
不意に感謝の気持ちが感動とともに込み上げてきて、虎徹は目を瞬かせた。
感動して泣きそうになった。
バーナビーだから、こんな風に言ってくれるんだ。
自分は、優柔不断で自分勝手でバーナビーに寂しい思いをさせた、
それなのに、こんなに優しく言ってくれる。
自分よりずっと年下で、若造で、生意気で、なんて始めは思っていたのに、全然違う。
素直で、自分の卑怯な所も臆病な部分も全部許してくれる。
自分を気遣って、痛いのも我慢して、…辛かっただろうに文句も言わないで、こうして自分を愛してくれている。
「…バニー、ごめん」
「どうしたんですか?」
「……バニー、好きだ、…俺も愛してる…」
「ええ、分かってます。…おじさん、そんな、泣かないでください…」
バニーが柔らかな声で言ってきた。
そっと目尻にキスをされて、虎徹は自分が涙を流していたことに気付いた。
こんな年になって、恥ずかしい。
顔を背けるとそれを追ってバーナビーがキスをしてくる。
くすぐったくて、幸せだった。
「おじさん、好き。…だから、こっち向いてください。…虎徹、さん…」
名前を呼ばれて一瞬心臓が跳ねた。
思わずバーナビーの顔を見ると、バーナビーが緑の瞳を柔らかく潤ませ微笑んでいた。
「愛してます…」
「…俺も…、愛してる…」
「ふふっ、なんか夢みたいだな…こうして貴方とこんな時間を過ごせるなんて」
バーナビーがそう言って再度目尻にキスをしてきた。
「前から、貴方のこと好きでした。貴方がチョコレートをくれた時、どきどきした。貴方と目があって、話せなくなって…。すぐに邪魔が入るから、あそこから進めなかったけど、あれだけでもすごく幸せだった。…けれど、貴方と今こうしている時間は、幸せすぎて比べものにならないかも…」
「バニー…」
「ありがとうございます、おじさん。…僕の事好きになってくれて…、ありがとうございます…」
「何言ってるんだよ、俺の方こそ、…俺の方こそ、ありがとな。こんな俺の事好きになってくれて」
「こんなってのはやめてくださいね。僕が好きになった、大切な大切な人なんですから、貴方は…」
「バニー……」
幸福感で全身が温かくなる。
そっとバーナビーを抱き締めると彼も抱き締め返してきた。
こんな幸せを感じる事ができるなんて。
泣かないでと言われたけど、無理だった。
涙が後から後から溢れて、虎徹の頬を伝っていった。
「しかたがないですね、おじさん、泣き虫なんだから…」

目尻をまた舐められて、虎徹は涙を流しながら笑った。

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