◆Prometheus◆ 






「兄貴……、俺、どうしたらいい…?」
カウンタに突っ伏して虎徹が泣くのを俺はじっと見つめた。
コイツは昔から、泣き虫だった。
普段はぎりぎりまで自分を押さえ込んでいて、必死で隠しているくせに、一度感情が表に出てしまえば、隠して我慢していた分、反動で振り幅が大きくなる。
いつまで経っても、基本は同じか…そう思うと、何故か嬉しくなった。
嬉しいと思うなんて、弟がこんなに苦しんで居るのに不謹慎にも程がある。
だが、気持ちが高ぶる。なんだろう。
虎徹が昔と同じでいつまで経っても俺の弟だ、と今更ながらに認識できたからだろうか。
テレビの画面越しに見る、格好いいヒーローではなくて、俺の前で心細げに肩を震わせながら泣く、俺のたった一人の弟…。
俺はカウンタ内から出て、虎徹の傍の椅子に座ると、虎徹をそっと抱き寄せた。
虎徹が一瞬身体をびくっと震わせ、それからしがみつくように俺に抱きついてきた。
「兄貴……っっ…俺……」
嗚咽混じりの声に、胸が詰まる。
随分、一人で苦しんでいたんだな。
バカなヤツだ。
そうやって自分を追い詰めて、それでも吐き出せなくて、こうしてやってきたわけか。
「虎徹……好きなだけ泣けよ。ここならいくら泣いても大丈夫だ。…恥ずかしいとか思う事もない。お前は俺の弟だからな…」
そう言って、虎徹の肩をぎゅっと抱き寄せる。
虎徹が涙で濡れた瞳を上げてきた。
潤んだ琥珀色の目に、俺が映る。
「……っ、…俺は……っっ…」
「しゃべらなくていい。…虎徹、無理するな、俺に頼れ…」
頼れと言って、素直に頼れるような弟ではないことは、俺はよく知っていた。
だてにコイツが生まれた時から兄をやっているわけではない。
コイツの人生はずっと俺が見守ってきたんだ。
俺は虎徹の顎に手を掛けると、その短い髭の感触を指で確かめながら上向かせた。
虎徹が涙をぽろりと目尻から零す。
柔らかく唇を押しつけて口付けすると、虎徹が目を閉じた。
「……ァ、…んっ、…あに、き……」
深く口づけて、舌を差し入れる。
虎徹の舌がおずおずと俺に応えてきた。
こういう時の虎徹は、昔の、能力に目覚めたばかりの頃を思い起こさせる。
その頃のコイツは、大人しくて内向的な少年だった。
大人になってそんな内向的な所はすっかり消え、誰にでも如才なく振る舞える性格に変わったように見えて、その実、奥底には昔の繊細な少年の頃のコイツが隠れている。
その繊細なコイツを慰めてやれるのは俺だけだ…。
俺は唇を重ねたまま、虎徹の腰に手を回してぐっと力を込めて抱き上げた。
「……っ…」
虎徹が唇を離して俺を見上げてくる。
そのまま店の奥の畳の部屋に連れて行って降ろす。
「虎徹、目を閉じてろ…」
そう言うと、虎徹が小さく頷いて目を閉じた。
虎徹のシャツのボタンを外し、インナーのタンクトップをたくしあげて、俺は虎徹の胸に顔を埋めた。
同時に、右手を降ろして、ズボンの中に手を差し入れる。
虎徹がびくり、と身体を震わせた。
「何も考えるな…、頭を真っ白にしていろ。いいか、虎徹」
「………」
虎徹が再度頷く。
下着の中に手を差し入れてやんわりと性器を握ってやる。
虎徹が顔を左右に振った。
乱れた髪がぱさぱさと畳を叩く。
目を閉じて唇を少し開いて、目尻から涙を流している虎徹は、全く変わっていなかった。
俺が守ってやらなくてはならない、小さな弟だった。
指で輪を作って、虎徹のペニスをぎゅうっと握る。
「ぁっ…あっ…あ、にきっ…」
虎徹が困ったように声を上げた。
「何も考えるんじゃない。…俺が気持ち良くしてやる。いいな、虎徹…」
「あ、ぁ…ん…っ…」
虎徹のソコはあっという間に大きくなってきた。
下着毎ズボンをずり降ろさせ、性器を外気に触れさせると、そこはぴくぴくと脈動しながら、頭から透明な先走りを滲ませた。
リズミカルに指で押し潰すように扱いてやる。
指にぬるりとした先走りが滴ってきて、茎をつたって根元で張り詰めている二つの玉袋を濡らす。
「や…っ、ぁ…っ…」
声に艶が混じる。
――もっと甘えてこい、虎徹。
お前がこうして何もかもさらけ出して甘えられるのは俺だけなんだからな。
「あ、…、あ、あっ…ァ…っっ、や、だっ、一人じゃっ、あにきっっ!」
目を見開いて、虎徹が切羽詰まった声を上げた。
涙で濡れた瞳が俺を見上げてくる。
「兄貴もっ…な、ァ……来てくれよっ…気遣いとか、いらねぇからっ…」
そう言って、虎徹は膝上に引っかかっていたズボンを抜き取ってしまうと、俺にしがみつきながら足を開いてきた。
「兄貴の、ここに、くれよっっ…」
そう言いながら、震える手で俺のズボンを脱がせにかかる。
その手を押さえて、俺は自分でボトムのベルトを外しジッパーを下げて中から自分のものを引き出した。
虎徹が涙でぐしゃぐしゃになった目を俺に向けてきた。
「あにき……っ」
不安げな声に胸が詰まる。
そんなに一人で抱え込んでいるんじゃない。
俺が居るだろう。
お前のたった一人の兄の俺が。
俺がお前を守ってやる。
痛い思いはさせたくなかったので、俺はテーブルの上のワンカップの中に指を入れ酒で濡らしてその指を虎徹の中に挿入した。
「ぁあっっっ!!」
虎徹が一瞬目を見開いて首を振る。
アルコールで内部が焼けるのだろう、ぶるぶると震える身体を俺はしっかり抱き締めた。
――全部、今だけは忘れてしまえ。
お前には、何も考えない、真っ白になる時間が必要だ。
何度も指を酒に浸してその指で虎徹の中を抉る。
そこは柔らかく解れて、指の動きに合わせて、柔らかくうねってきた。
「虎徹……」
弟の名前を一度呼ぶと、俺は自分のペニスを虎徹の後孔にぴたり、と押し当てた。
びくっとして虎徹が目を開ける。
至近で目線が合う。俺が微笑すると、虎徹も安心したように微笑んだ。
「大丈夫だ…心配するな…」
そう言いながら、俺はゆっくりと虎徹の中に身を沈めていった。









気を失った虎徹を俺は壊れ物を扱うように優しく抱いて、その頬に唇を落とした。
涙で濡れた頬は汚れていて、その汚れをぬぐうように舌を這わせた。
激しく抱いてしまったので、今日はもう、目を覚まさないかも知れない。
ここの所ずっと悩んでいたんだろうか、いつになく影の落ちた顔を、俺はじっと見つめた。
目元が少し落ちくぼんで疲労の色が濃く浮かんでいる。
目尻を指でそっとなぞると、苦しげに眉が寄った。
バカなヤツだ…
いつも他人のために頑張って自分をないがしろにして。
そうやって自分を後回しにするから、こんなになるまで苦しんでしまうんじゃないか。
甘え上手のように見えて、その実本当に必要な時に甘えられない。
人を頼れない。
最後まで一人で抱えて、一人で悩んでなんとかするつもりだったのか。
そんな虎徹の心の奥底に隠れた本当の虎徹を引き出すには、こうするしかなかった。
勿論、この行為が世間一般的には到底認められない背徳行為である事は分かっている。
けれど、虎徹がそれで救われるのなら、いい。
俺はいつでも、お前を抱いてやる。
お前を救ってやる。






この気持ちを、兄弟愛と呼ぶのか、それとも異常な愛情と呼ぶのか。
それは分からない。
そんな事はどうでもいい。
お前の重荷が少しでも軽くなれば、それでいい。
もしこれで罪に堕ちるような事があるなら、それは俺が全部引き受ける。
お前がこの世に生まれた時から、俺は、お前を愛しているのだから。
俺はお前のたった一人の血を分けた兄なのだから。



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