◆夕顔◆  2






虎徹の前まで進むと、弟の肩を掴む。
びく、と震える肩を掴んで、畳の上に押し倒す。
虎徹が嬉しげに笑みを浮かべた。
「…悪い…けど、兄貴じゃなくちゃ、俺のこの悩み、打ち明けられなかった…」
「しゃべるな。虎徹…」
上から身体を重ねて、弟の唇を塞ぐ。
「……んっ……」
虎徹が答えて、熱い舌を伸ばしてきた。
口付けを交わしているだけで、興奮で戦慄いた。
人間として許されない行為をしているという背徳感が、一層自分を燃え立たせているのだろう。
それは弟も同じようで、この異常な行為によって明らかに快感を得ているようだ。
禁忌の行為のなんと甘美な事だろうか――村正は眩暈がした。
「ぁ……んっ……あに、き……は、も、っと…」
弟の強請る声など、聞くのは生まれて初めてだった。
今までずっと弟がこの世に生を受けてから、生活を共にしてきたのに。
もっとも成人してからは離れていたので、村正の中にある弟像は、些か幼い。
その彼が、こうして淫靡に自分を誘い禁忌を犯させ、二人でこうして背徳行為に身を落としている。
そう思うと、背筋がぞくりとした。
身体が一気に熱くなり、驚くほどに興奮した。
弟のシャツを強く引っ張って脱がせ、ジャージのズボンも脚から抜き取って、その脚を大きく広げさせる。
「…っ、…兄貴っ……気持ち悪く、ねえ…?大丈夫、か…?」
自分から脚を広げ、ペニスや陰嚢、それから奥まった窄まりまで見せつけるようにしながら、虎徹がやや不安げに聞いて来た。
「何を今更…。気持ち悪いならとっくにやめている」
バカにするなというように語気を強めて言うと、弟は頬を染めて笑った。
「そうだよなあ…良かった…俺のここ、すぐに入るようになってるから…ほら、この通りに…」
弟が指を唾液で濡らして無造作にアナルに挿入した。そこは柔らかく解れて指を容易に飲み込んでいく。
「すげぇここ使われたからな…二輪刺しとかされたし。…なんてなぁ、こんな話するの恥ずかしいんだけどさ。…ごめんな、兄貴を利用して…」
自虐的に笑って言うのを村正は遮った。
「利用なんかされてねぇぞ、虎徹。…。俺もしたいからするんだ。…お前が負担に思う事は無い。…いいか?」
「……うん、ありがとうな…」
申し訳なさそうに笑う弟の顔が儚げで、村正は胸が詰まった。
こんな顔をさせたいわけではない。
弟にはいつも屈託なく笑っていてもらいたかった。
「な、兄貴…。入れて…兄貴のが、欲しい…」
濡れた声で言われて、我慢できるはずもなかった。
カチャカチャともどかしげにベルトを外しジッパーを下げると、村正は中から自分の勃起したものを取り出した。
弟相手にこんな事をする羽目になるとは…予想だにしていなかった。
…が、自分があり得ないほど興奮しているのも自覚していた。
相手が虎徹だからだ。
これから、虎徹と、――弟とセックスをする…。
そう頭の中で言葉にすると突如としてそれが現実となって村正を襲い、背徳感に全身が戦慄いた。
甘美な誘惑だった。
抗いがたい衝動に襲われ、村正はペニスを虎徹の後孔に押し当てた。
「…あ、にきっ……っっっ!」
一気に弟を貫く。
ずぶり、と淫靡な肉の音がして、硬い凶器はやすやすと柔らかな穴に埋まっていった。
「あっ――…あっあっ…すっげぇ、イイ…兄貴っ、す、げぇ良くて、…あ、あ―…も、っと奥までっ、な、ぁ……もっと、酷く、してくれよっ…」
髪を振り乱して虎徹が喘ぐ。
身体を押さえつけ、腰を深々と突き入れれば、熱く狭い肉筒にペニスが締め付けられて、激烈な快感を感じた。
「あーっ、い、いいっ、す、げぇっ…あっあーっ…ひっ…兄貴っ、兄貴っ、…熱いっ…、そこっ、…そこ、もっと突いてくれっ…。あ、あっあっ…!!!」
弟がこんな嬌声を上げるとは知らなかった。
いや、弟のこんな姿自体、知らない。
兄弟であれば絶対に見る事のない、見てはいけない姿だ。
ぞくぞくして堪らなかった。
信じられないほど興奮した。
もっと蹂躙し、いたぶって泣かせたい。
もっと酷くして、許しを請わせたい。
凶悪な欲望に村正は戦慄した。
自分の中に、こんな強烈な情欲があるとは。自分ながら恐怖を感じた。
高ぶる嗜虐心のままに弟のペニスを強く掴む。
「…ひぁっっっ!」
弟が目を剥いて悶絶する様子も、途轍もない快感だった。
潰すぐらいに強く圧を加えて、ペニスを扱く。
「あっあーっあぅ…し、ぬっ、…あ、あっっ…も、っ、ダメだっ…兄貴っ…そ、んなっ、強いっ…い、てぇよっ…」
切れ切れに訴えてくる声が、涙を滲ませて潤んだ茶色の瞳が、自分を誘惑する。
「…虎徹っ……っ…!」
弟の名前を呼ぶと一瞬彼が目を大きく開いて、両手を伸ばして自分にしがみついてきた。
はぁはあという息づかいが耳元で聞こえて、それだけで身体が痺れるほどの興奮を煽ってくる。
握ったペニスを根元から先端にかけて何度も扱いてやれば、くっ…、と瞬時弟の身体が戦慄いて、手に熱い粘液が迸った。
同時に内部をきゅうっと閉められて、一気に射精衝動が高まる。
我慢できず深々と突き刺せば、弟の身体が反り返って綺麗な弧を描いた。
「虎徹っ…」
「……ぁ…あー……っっ」
貫いて、腸内に白濁を噴出する。
どくどくと流れ込むソレは、弟の身体の中に、背徳という名の甘い蜜となって浸透していった。










「…兄貴……すまねー…」
暫く弟を抱き締めたまま畳に寝転がって乱れた息を整えていると、腕の中の虎徹が微かに呟いた。
「何言ってる。…いちいち謝るな。嫌だったらお前の誘いになんてのってねぇよ、虎徹」
「…うん……」
「バカなやつだな。…お前の事で俺が負担に思う事なんてねぇって言っただろうが…」
「そうだけど…でも、これはちょっと、どう考えてもよくねーだろ…」
「自分で誘っときながら言ってんじゃねぇよ。…俺たちはいい年の大人だ。良いか悪いかなんてのは、自分で判断するもんじゃねぇか。俺は悪くねぇと思った。だからお前を抱いた。…虎徹、お前はどうなんだ?後悔してるのか?」
「まさかっ…」
虎徹が慌てて首を振って、心外だと言うように睨んだ。
「俺は、兄貴とこうしたかったから、ここに来たんだ。…兄貴を誘惑するつもりで…」
「ったく、誘惑とか、お前も随分と都会人になったよなぁ。ここに住んでた時はそんな事考えもしなかっただろ?」
やや皮肉めいた物言いをすると虎徹が目元を赤らめて視線を外した。
「ごめん…兄貴。俺って悪い弟だよな。でも…すげぇ、良かった。死ぬかと思った。…満ち足りて、気持ち良かった…」
視線を和らげて村正は虎徹の頭をくしゃっと撫でた。
「構わねーよ、誘惑でも何でもしてこい、虎徹。悪い弟なんかじゃねぇ、お前は俺の自慢の弟だ。…俺はお前の兄なんだからな…どんな我が儘言ってもいいんだぞ…?分かったか?」
「…ん…ありがとうな…」
「いちいち言わなくていい。他人行儀じゃねぇか」
「兄貴……」
甘えるような声音で、虎徹が村正に口付けしてくる。
応えて唇を深く重ねて、村正は目を瞑った。
これが一般的に許容されがたい行為であるなら、自分たちは許容されなくていい。そう思った。
こうして弟と繋がって、背徳感も後悔も何も起きなかった。
それどころか、弟が愛しくて、もっと愛してやりたい、幸せにしてやりたいという気持ちが強くなった。
今後、弟がどういう道を進むにしろ、自分はそれを後押しし、どんな時も彼を見捨てず、抱擁し許容し抱き締めてやるだけだ…。
唇が熱を持ったように熱く、その熱を共有している自分たちが、愛おしかった。
誰に認められなくても良かった。
批難されてもいい。唾棄されてもいい。
こうして二人だけで、分かっていればいい――。



「虎徹…」
最愛の弟の名前を呼んで、再度村正は深く唇を合わせた。




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