◆Livin' in the city◆ 2







◆2


俺は生きるのが面倒くさい。
は、じゃあなんでヒーローなんてやってるのかって?
そりゃあ、他人様から感謝されて、目立てて、他人様の役に立つっていうすげぇ生き甲斐があって、表向きにも、裏向きにも文句の付けようのねぇ仕事だからだ。
特に俺みたいに空っぽな人間の中身を、ヒーローって仕事はみっちり詰めてくれるだろ?
俺の空洞は、他人様からの感謝ぐらいでしか埋まらねぇしな。
空しいもんだ。
あぁ、あと、誰かと寝ると埋まるってのはある。
一瞬だけどな。
一時期はこんな俺にも、奇跡みたいな素晴らしい妻が居て、彼女の健全な思考や生き方に俺も救われたもんだが、彼女は俺を一時期助けてくれただけで逝ってしまった。
結局俺はやっぱりカラのままだ。
まぁそういう星回りなんだろ。
カラの俺の周りには不思議と人が寄って来る。
俺の中身の空っぽな所に惹かれてくるんだろう。
ほら、空っぽだから他人の話をいくら聞いても溢れる事がねぇからな。
そういうわけでバニーちゃんなんかすげぇ俺に懐いている。
俺が話を聞いてやってバニーちゃんを甘やかしてやるからだ。
バニーちゃんの童貞を奪ったのも俺だ。
可愛いからつい悪戯心が湧いた。
つまみ食いしちまうのは俺の悪い癖だが、バニーちゃんに手を出したのは今はちょっと後悔している。
何しろバニーちゃんは真剣すぎる。
勿論うざいから適当にあしらってはいるが、これ以上うざくなったら俺も少し考えないとな。
…という態度を先日うざいバニーちゃん相手に表明したら、バニーちゃんは危機感を抱いたらしい。
それから俺にしつこく言い寄ってきたり、俺を独占しようっていう企みは今の所あきらめたようだった。
俺は誰とでも寝る。
寝て、その相手に俺を少しだけ埋めてもらう。
アントニオとは前々から寝ているが、ヤツもちょっとうざい所がある。
が、ヤツは俺の性格をよく分かっているから、いつもある一定の距離を保ったままでそれ以上は近寄ってこない。
助かる。
じゃねぇとヤツと寝ていられねぇ。
俺は誰にも自分を打ち明けられない。
他人様の話を聞いて、他人様の相談に乗って、他人様の悩みを聞く。
けれど俺自身の悩みや話は他人様にはできない。
代わりに俺は他人様と寝る。
寝るのが俺の打ち明け話の代わりだ。
言葉じゃ言えない代わりに身体で話す。
それが唯一、俺のガス抜き方法だから、勢い誰とでも寝る事になる。
毎日でも寝る。
そうじゃないと俺の中にヘドロがたまって、俺は自分で自分を潰しちまう。
ネイサンとも折紙とも勿論寝た。
あまりぱっとしなかった。
ネイサンは大人すぎて、俺を健全な方向へと修正しようとしやがるしな。
怖い。
折紙は子供過ぎて重い。
折紙と寝たのもあとで少し後悔した。
それ以外に、ロイズさん。
ロイズさんは俺がしつこく誘ってやっとOKしてくれた。
かなりサービスした。
でもロイズさんはよき社会人家庭人なので、1回きりだった。
ロイズさんみたいな大人の男は俺の好みなのでかなり残念だった。
斎藤さんとも寝た。
俺がやっぱりしつこく誘った。
斎藤さんと寝るのは意外と悪くない。
けど、斎藤さんは俺以上に自分を見せねぇから、滅多に誘いに乗ってこない。
彼のガス抜きはひたすらメカ改造や開発みたいだ。
仕事オタクだな。
その他だと…パーティ会場で意気投合した取引会社の人とかとは結構気軽に寝ている。
大人だし物わかりがいいし、後腐れがない。
たまにしつこいのもいるが、それはそれで悪くない。
取引会社のヤツとかだと、俺のワイルドタイガーとしての側面しか知らないからかえって都合がいいというのもある。
相手はワイルドタイガーを抱いて満足し、俺は自分を晒け出す心配もなくワイルドタイガーとして振る舞って寝る事ができるという訳だ。
市民の命を守るヒーロー、ワイルドタイガーを抱けるってのはかなり付加価値が高いらしい。
そういう相手は俺を大事にしてくれるし、気持ち良くもさせてくれる。
そういう風に扱われると俺は俺に価値があるのかって錯覚できる。
俺の空洞がワイルドタイガーという付加価値でちょっとの間埋まる。
悪くない。
もっときちんと頑張ればいわゆる枕営業って事で俺の賠償金とかをなんとかしてくれるのかもしれないが、そういう風にビジネスを入れちまうと、セックスをしても俺の空洞が埋まらなくなっちまう(代わりに金が入る)ので、そこまではしてない。
終わった後に小遣いもらうぐらいはしてるけどな。
まぁでも今一番気に入っている相手は、司法局の裁判官兼ヒーロー管理官のユーリ・ペトロフだ。
ヤツとは前に言ったような偶然で会ったわけだが、俺はヤツの前だと一番心が安らぐ。
自分の虚無を意識しなくて済む。
それはきっと、俺以上にユーリの方が空洞を持ってるからだろう。
ユーリの心の傷はすげぇ深い。
勿論俺はヤツの傷がなんなのかとかは知らない。
聞く事もしない。
が、ヤツの傷がすごい事は分かる。
俺は到底そこに立ち入れない。
しかもユーリは超人的な自制心で理性を保っている。
ユーリのガス抜きはなんだろう、とは思ったが、そこには立ち入らないようにしている。
きっとヤツのガス抜きは俺の想像を超えたハードなものだろうと予想できたからだ。
知るのが怖い。
知らないでこうしてぬるま湯状態でのんびり抱き合っているのが気に入っている。
「起きましたか?」
ユーリの声が上から振ってきた。
「ん……」
目を擦って見上げる。
窓の外から外光が刺して、それが寝室の床まで伸びている。
気怠い腕をユーリの首に回して俺は起き上がった。
ユーリは何故俺に優しいのだろう、と不思議に思うことがある。
俺が我が儘を言っても、甘えてもヤツは許容してくれる。
年齢的にはヤツの方が数歳俺より年下だと思うのだが、…でもヤツは俺を包んでくれる。
何も考えたくない時、俺は誰かと寝る。
自分が慰めて貰いたい時、俺はユーリとセックスをする。
意地悪い気持になった時、俺はバニーちゃんを誘う。
あぁ面倒くせぇな…。
なんだか急にそう思ってしまった。
ユーリが瞳を細めた。
「辛そうですね、タイガー…」
「そうかぁ?」
「ええ…」
俺はへらっと笑った。
起き上がって、ユーリの唇に自分のそれを押しつける。
「腹減った。お昼食おうぜ」
「そうですね…ちょっと待っていてください」
立ち上がったユーリが部屋の片隅のキッチン部分で買ってきた食事をプレートに移すのを俺は欠伸をしながら眺めた。
こうやって俺を甘やかしてくれるのはユーリだけだが、ユーリはどこで甘えるのか。
それだけはちょっと心配だった。
俺に甘えてきてくれてもいいんだが…そうすると唯一俺を甘やかしてくれるユーリも俺が寝ている他の奴らと同じ立場になっちまうわけで、それは嫌だな。
俺は一方的にやつらの心を受け止める。
代わりに俺はそいつらと寝て、身体で話をして少し発散する。
あー、でも面倒くせぇなぁ…。
死にたい。
「ダメですよ…」
ユーリが俺の口元に食事を差し出してきた。
トレイにのったそれは、コンソメスープとサラダ、それにグラタンだった。
レンジで温めたものらしい。
「悪いな」
受け取ると俺はもぐもぐと咀嚼した。
腹が減っていたからか美味い。
ユーリも俺の隣で黙って食べている。
ヤツの銀色の髪が揺れる。
綺麗だ。
バニーちゃんやスカイハイの金髪も綺麗だが、ユーリの髪はもっと涼やかだ。
「最近新しく誰かと寝ました?」
「えー…そうだなぁ…。ポセイドンラインの営業部長?あ、あと、司法局の××さん」
「手当たり次第ですね…」
ユーリが呆れたように言う。
そんなに手当たり次第ってわけでもないんだが、まぁ一貫性はないか。
俺はへらへらっと笑った。
「たまたま会ってうまい具合に話が運んだやつだからなぁ」
「みんな貴方の噂知ってますからね、そこで引っかかってくる相手ならすぐでしょうね」
その通り、俺が誰とでも身体の関係を持つ、しかも男専門ってのは結構知られている。
別に俺も秘密にしておくつもりはねぇからいい。
俺は肩を竦めて笑いながら、スープを飲んだ。
ユーリが瞳を細めた。
「タイガー…。貴方はいつも気まぐれだ…」
そう言って唇を軽く食んできた。
そうだろうか。
気まぐれなんだろうか。
ただ面倒くさいだけなんだが。
ユーリが俺の頭を抱えるようにして抱いてきた。
ヤツはこういう風に俺を抱き締めてくれるから好きだ。
気持ちいい。
頭も撫でてくれる。
俺は目を閉じてヤツの頬に頬を擦りつけた。








◆3


「タイガ…っ……す、げぇいいっ」
「んぁっ……あ、あっあーっ!!!」
今の相手は、ヒーローTVディレクターのケインだ。
いつものように出動して犯人を逮捕したあと、トランスポーターでアンダースーツだけになった所にケインがやってきた。
先程の俺の活躍を見て興奮したらしい。
俺を欲しくて堪りませんって風情がいい。
そそる。
バニーちゃんがものすごい顔をして睨んできたが、俺はそんなバニーちゃんはうざくて嫌いなので、目線で向こうに行ってろって指図した。
バニーちゃんはがっくり項垂れて出て行った。
ケインはアニエスの下で働いているヤツで、これといって特徴のないやつだが、まぁ気楽に遊ぶにはちょうどいい。
気安く俺に声を掛けてくる性格も気に入ってはいる。
年は俺よりいくつか下なんだろうな…。
トランスポーターの中で、俺はアンダースーツを脱いで全裸で四つん這いになり、ケインは背後から俺を貫いていた。
出動の後はアドレナリンが無駄に分泌されているせいか、それでなくても興奮している。
ケインの方もTV中継で興奮しているようで、まぁそのタイミングがうまく合えば気持ち良く発散する事ができるというわけだ。
「…タイガーっ、、イくっ!」
「―――っっ!」
ケインがびくびくと身体を震わせながら、俺の中に熱い液体を放出してきた。
コンドームを着用しているから、後始末は楽だ。
ずる、とペニスを引き抜いてケインが息を吐く。
俺もソファに脱力してはぁはぁと息を吐いた。
気持ち良くて、しばしの間放心する。
そうしていると、自分の空洞が、何か不思議な液体で満ちた気になる。
精液なのかもしれない。
ほんのちょっとの間だけど、充足した錯覚に陥ることができる。
「タイガーさん、それじゃぁ…」
「あー、またな?」
そそくさと乱れた服装を直して、ケインが挨拶をして出て行く。
俺はまだくったりとしてソファに寝転がっていた。
「虎徹さん」
そこにバニーが入ってきた。
隣の部屋で聞いていたんだろう。
顔が強張っている。
「バニーちゃんもする?」
強張っているけれど、俺に何も言えない様子なのが可愛くて、俺はバニーに向かって両手を広げて見せた。
「……」
バニーが無言で覆い被さってくる。
ゴムはもう無かったから中出しかな…。
まぁいいか。
「虎徹さん…虎徹さんっ」
バニーが愛おしげに俺を呼んで口付けしてくる。
口調がちょっと重い。
俺に指図したり、独占しようとしてこないだけましだが。
バニーちゃんのセックスは情熱的で悪くない。
ケインとのセックスがアドレナリンに任せてのものだったので、ここは擬似的恋愛に浸るのも悪くねーな。
俺はそう思って、バニーに微笑んで見せた。
「バニーちゃん…俺の事、好き?」
「好きですっ、虎徹さんっ…貴方が好き…っ、僕のものに」
「ストップ。それは言いっこなし。言わなければ、今は俺はバニーちゃんのものね?」
「虎徹さん……」
バニーが苦しげに顔を歪める。
ははっ、ちょっと楽しい。
イケメンが俺の言葉一つで嬉しがったり落ち込んだり。
そりゃ誰でも楽しいよな。
「今だけでもいいです。…虎徹さん、愛してます…」
バニーが苦しげに囁いてきた。
その辛そうな表情たまらないわ。
おじさん興奮しちゃうよ。
「俺も…愛してるよ、バニー」
リップサービスをしてやると、バニーが顔を引きつらせたまま、俺を抱きすくめてきた。
荒い息を吐きながら、俺のアナルにペニスを押しつけてくる。
いいぜ、バニー。
早く来いよ。
お前が俺をそんなに欲しがってくれると、俺は錯覚できる。
俺にすげぇ価値があるみたいに。
ありがとうな、バニー。
お前本当に可哀想だな。
同情するよ。


足を限界まで開いてバニーのペニスを誘い込みながら、俺は唇端を微かに上げて笑った。




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