◆Mimosa◆ 2









セックスフレンドという関係に何故か引っかかりを感じる。
どうもすっきりしない。
中途半端で落ち着かない気分だった。
つまり自分は、バーナビーとセックスフレンドという関係では不満なのだろうか、と虎徹は考えた。
その関係は自分にとっても都合の良いものだったのではないか。
妻を亡くしてからというもの、人肌が恋しくなっても虎徹もおいそれと相手を見つけるわけにはいかなかった。
特定の相手は勿論範疇外である。
自分には何よりもまず守らなければならない大切な娘がいる。
かと言って、では軽く遊べるような相手がいるかというと、そんな相手がそう都合良くいるわけがない。
プロと遊ぶ、という程の気持ちにもなれず、結局虎徹は一人で自分を慰める程度で、他人との接触は長い間していなかった。
そこに同性ではあるが、美しく若く、相手として遜色のない素晴らしいセックスの相手ができたのだ。
しかもそれは信頼できる相手で、お互いに秘密も守れる。
彼にとっても好都合だし、考えてみると自分にとってもこの関係はとても都合の良いものであるはずだ。
このまま後腐れのないセックスフレンドとしてお互いに肉体の欲望を満たし合い、仕事上は相棒として親密な関係を築いていければ申し分がないはずである。
――セックスもできる友人、相棒。
全くの好条件で悪い事はない、と思ったのだが、どうもそう思っても胃の中がざわざわとした。
何かが違う気がした。
自分の本当の気持ちを誤魔化している気持ちがした。
違和感がどうしても拭えない。
この違和感はなんだろうか。
自分はもしかして、バーナビーの事が好きなのではないか。
恋愛対象として好きになっているから、セックスフレンドという関係に引っかかりを感じるのではないか。
いや、それともそれは自分の考えすぎであって、単にバーナビーの事が、例えば親が子供を案じるように気になっているだけなのだろうか。
親子という関係では全く無く、性の対象として肉体的接触を持っているわけだが、それはそれだけ親密な関係と言う事にはなる。
そうはいっても、こういう風に身体だけのライトな関係、というのが虎徹には未経験だった。
そういう自分に比べてバーナビーは、今までの24年の彼の人生の中で身体だけのライトな関係しか結んでこなかったわけだ。
そこに大きな齟齬があるのは仕方のないことなのだろう。
「どうしました、おじさん?」
虎徹の身体の下で、バーナビーが虎徹に声を掛けた。
どうやらこれからセックスをしようという場面になって、些か考え事をしてしまったらしい。
はっとして虎徹はごめん、と言うようにバーナビーの頬にちゅっと口付けをして笑った。
「悪い悪い、おじさんだから少しぼぉっとしちゃったよ、ごめんなバニーちゃん」
「疲れているんじゃないですか、大丈夫ですか?」
バーナビーが、形の良い眉を潜め、深い緑の視線を虎徹に向けてくる。
「いやいや大丈夫。バニーちゃん、ホント可愛いね」
イイながら柔らかく唇を食むと、応えてバーナビーが唇を開き、舌を伸ばして虎徹の少し尖った犬歯を舐めてきた。
そんな風に触れ合えば、身体がぞくりと反応し股間がずしりと重くなる。
「おじさん………」
バーナビーが焦れったい、と言わんばかりに股間を擦りつけてきた。
ペニス同志が直に触れ合って、総毛立つような快感が湧き起こる。
そうなると、頭の中はセックス一色になって、先程までいろいろと考えていた事は隅に追いやられる。
「バニー……」
虎徹はバーナビーの首筋に顔を埋め、行為を続行した。










その日は朝からメカニック室のシミュレーションルームで、ヒーロースーツを着用してコンビのシミュレーションの訓練だった。
殺傷能力の高い武器を持った犯人一味を回り込んで追い詰めるという想定だ。
犯人一味がショットガンを持ち、家屋に立てこもっている。
攻撃の仕方について、バーナビーは犯人グループの位置を確実に把握してから踏み込むべきだと言った。
が、虎徹はそんな事をしていたら、犯人に逃げられてしまう、犯人が立てこもっている家屋にすぐに突入すべきだと言った。
そこで意見が食い違い、久し振りに虎徹とバーナビーは喧嘩をした。
バーナビーが両方の方法を試してみないかとやや妥協して提案したのに対し、虎徹は悠長に犯人の位置を探っているなど逃げろと言っているもんだといって頑固に譲らなかった。
結局バーナビーが虎徹に折れる形で即突入のシミュレーションをして一応犯人逮捕まではこぎ着けた。
が、やはり俺の作戦で良かっただろうと、虎徹がバーナビーにやや得意げになって言うと、バーナビーが虎徹を冷ややかな目で見て、
「おじさんはそうやっていつも自分の意見を押しつけますよね。少し頭を冷やして考えてみたらどうですか。自分の考えが妥当なのか正当性があるのかとか、貴方にはそういう自省ってものが欠けてると思いますよ」
と感情のこもらない冷淡な声で言ってきた。
その返答に、内心虎徹はかなり傷ついた。
腹も立ったし、ぐさっと来た。
バーナビーがそんな突き放したような冷たい言い方をするとは予想していなかったのだ。
今まで何故予想していなかったのか、改めて虎徹は考えてみた。
バーナビーと出会った当初の頃は、こういう物言いが彼の素で、すっかり慣れていたはずなのに。
何故今になって傷つくのか…。




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