「虎徹さんとセックスがしたいです」
――え……?
唐突にそう言われて俺は思わずぎょっとした。





◆なんでこうなった?◆  1





その日は二人で仕事がうまくいった週末で、俺はバニーの部屋の床に座り込んで、気分良く酒を飲んでいた所だった。
バニーとの関係も良好になって、俺の事を下の名前で呼んでくれるようになったのもすげぇ嬉しくて、焼酎を傾けながら、俺が、
「バニー、俺にしてもらいてぇ事とかねぇか?おじさんなんでもしてやるぞー」
なんて機嫌良く大口を叩いた返事が、『セックス』だった。
俺が驚いたのが分かったんだろう、バニーがはっとしてぱぁっと頬を染めた。
「あ、すいません、何言ってんでしょうね、僕。…今のは聞かなかった事にしてください。本当に、なんて事を言ってしまったんだか、恥ずかしいです…」
消え入りそうな声で言われて俺は慌てた。
そんな深刻な感じになられると困る。
ほら、もっとこう、冗談っぽく、ってここは俺がなんとかしねぇと……!
「あ、いやいや、その、…セックスしてぇの、バニーちゃん?」
俺が故意に明るい声で言うと、バニーが俯いていた顔を上げた。
俺を窺うように眉を寄せる。
「ごめんなさい、すごく失礼なことを言いました…」
「え、いや、そんな気にすんなってば!ほら、アレじゃねぇ、たまってんだよ、な?」
バニーは結構思い詰めやすいしプライドが高いから、すぐに落ち込む。
せっかく楽しく飲んでいたのに、ここで落ち込まれたりしたら困る。
フォローするように言うと、バニーが目を揺らした。
「変なことを言ってしまって、恥ずかしいです。虎徹さん、軽蔑しませんでしたか?」
「えー?なんで?別に悪くねぇよ?だって、男なら溜まれば発散したくなるし、それに、ほら、俺がなんでもしてやるって言ったから、溜まってた気持ちが出ちゃったんじゃねぇの?……な?」
「………」
「いやぁ、俺、男だけどっ、女じゃねぇけど、別にほら、男でもセックスできねぇわけじゃねぇもんなぁ!あー、ついでに言うと、おじさんだけどっ…、でもまぁ、ほら、穴はちゃんとあるぞー!」
なんだか下品になってしまった。
けれどバニーが落ち込みそうなのでなんとかフォローしねぇと、と俺は結構必死になった。
バニーが俺をじいっと見てきた。
「あなたが明るく言ってくれるのは嬉しいんですけど、でも、本当は呆れてないですか?……あなたにあんな事を言ってしまうなんて、僕、自分で自分が信じられないというか、……軽蔑されてもおかしくないですよね。…恥ずかしくて、消えてしまいたいです…」
まずい。
声が小さくなっている。
そりゃ確かに、突然『セックスしたい』なんて言われたら驚くが、でも別にバニーに対して呆れたりなんかしてねぇ。
そりゃまぁ……でも、驚いたけどな、驚いた事は…。
――なんで俺なんかとセックスしたいって思ったのか…。
いや、アレだ。
目の前に俺がいて、俺がなんでもしてやるぞ、なんて言ったから、つい、バニーの心の底の『セックスしたい』っていう欲望とさ、俺の言葉がたまたまくっついて出ちまっただけだろうし。
それでバニーが落ち込んだりしたら、すげぇ困る。
「あー、っだっ、ほら、別にいいんだぞー?俺で良ければっ、なっしようぜっ?」
気まずく暗い雰囲気がバニーから漂ってきて、俺は焦った。
どうしよう。
きっとバニーは、ひっそり隠してた欲望を言ってしまった事に対して、自分が許せないはずだ。
バニーはそういうプライド高いとこあるからな…。
これで落ち込んで、せっかく明るくなってきたのにまた思い詰めたりされたら困る。
俺はかなり必死になった。
目の前のバニーを見るとすっかり暗くなっている。
先程までの明るい雰囲気がどこにもない。
やばい。
このまま落ち込んでいったら元の木阿弥だ。
「バニーっ、あ、そうそう、俺もさっ、セックスしたかったんだ!ほら、俺も溜まってるしなっ。駄目?あー、ここでしよっか?あ、俺に入れていーからなっ?」
一瞬、俺とセックスしたいというのはバニー的にはどっちをしたいんだろう、と思った。
が、つい口が滑って言っちまったんだったら、どう考えても、バニーが男役だよな。
オンナとセックスしたいと思っていても、なかなかそういう機会が無くて(まぁバニーは顔出ししてヒーローやっているからそういうのはかなり無理な気がする)、たまった性欲を発散したくて、ついついって感じだろうしな。
ってわけで、こりゃ俺が女役だよな、とか思った。
いやそんな事まじに思ってもしょうがねぇんだが、でもその時はとにかくバニーをなんとか笑わせねぇと、とか必死だった。
「あー、バニー、ちょっと待って、尻洗ってくるから!ほら、バニーだって綺麗じゃねぇとやだろ!ちょ、ちょっと待ってろよ!どこにも行くんじゃねぇぞ!」
バニーの前を離れるのは不安だったが、とにかく俺が乗り気でバニーよりもやりたいんだぞ!って思わせないと、バニーが落ち込んでどうしようもなくなりそうだった。
俺はバニーに嬉しいなっという風に笑って見せてから、トイレに駆け込んだ。










とにかくアレだ、尻の穴洗うんだ。
ウォシュレットでいいよな。
水量最大、勢い最大にして尻の穴に温水をぶち込む。
早くしないとバニーが出奔しそうだから必死だ。
何度か尻の穴を広げて洗えば、そこはじんじん痺れてふやけてきた。
―――よし、綺麗になった!
化粧室を見回してローションをひっつかむと、部屋に戻る。
「バニーちゃん、お待たせっ!はいはい、ほら、すぐできるぞ!」
――俺だって男とセックスしたことなんざねぇし、ましてや入れられる方なんざ経験がねぇ。
が、とにかく穴を使うにはほぐせばいいんだろっ、なんでもやってやれねぇ事はねぇ。
バニーは先程と同じ格好でうずくまって下を向いていた。
どよんとしたオーラが漂ってくる。
やばい。
もっと俺がはじけねぇと駄目か!
「バニ−、ほら、おじさん、もう準備万端だぞ!」
狼狽して俺はズボンを下着ごと脱ぐと放り投げ、バニーの前で四つん這いになって尻にローションを垂らしてみせた。
……よく考えてみたら、バニーに尻の穴見せるとか……恥ずかしすぎやしねぇか?
でもその時はそんな事考えている余裕はなかった。
とにかくバニーになんとか明るくなってもらわねぇと。
ローションを垂らすと冷たくて尻がきゅっと引き締まったが、肛門に無理矢理指を突っ込んでみる。
う………気持ち、悪いかも……。
いやいや、自分の気持ちなんざどうでもいいんだった。
とにかくバニーだ。バニーを笑わせねぇと……!
「………」
振り返ると、バニーが目を丸くして俺を見ていた。
俺は肩越しにバニーにウィンクして見せた。
「おじさんの尻でも、使えるぞー!綺麗にしてきたから、大丈夫!」
肛門の括約筋をぐいっと左右に指で広げて見せる。
「ほら、大丈夫だろ…?」
「……虎徹さん……」
あれ、バニーが怖い声を出している。
なんか、間違ったか、俺……?
いや、でも、最初にバニーが俺とセックスしたいって言ったから、それならって言うんで…。
「あなた、男とセックスした事あるんですか?」
「へっ?……い、いや、ねぇよ?」
「だったらなんでそんな気楽に尻とか出すんですか?しかもノリノリじゃないですか…」
え、だって、ノリノリじゃねぇと、お前が落ち込むだろうがよ!
「そ、そりゃバニーが俺としたいって言ってくれたからさ、嬉しくて……駄目?」
「尻もですけど、股間が丸見えですよ…」
「っだっ、べ、別にいいじゃねぇかよっ!あ、ちんことか見えると萎える…?」
「…そういう意味じゃないですよ…」
はぁ、とバニーが溜息を吐く。
え、なんで、そこで溜息つくのバニー。
……でも、暗い雰囲気はちょっと治ってきたかな?
大丈夫かな?




「分かりました。じゃあ、セックスさせてもらいますね?」



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