◆茨(いばら)の冠◆ 9









そう言って彼が自分の手を伸ばして自分のペニスをぎゅっと握ってきたので、バーナビーは思わず、
「あっ!」
と小さな悲鳴を上げた。
性急に激しく擦られ、一気に快感のゲージがあがる。
「…あ、あ、あっっっ!」
ペニスを擦られながら後から激しく深く突かれて、目の前が霞んだ。
顎を仰け反らせ、ベッドのシーツに後頭部を打ち付けて快感に耐える。
が、堪えきれなかった。
「んっ……う…っっっ!」
目を固く瞑り、バーナビーは彼の手に擦られるままに射精した。
少し遅れて、彼が自分の体内で勢い良く爆ぜて下腹部がじんわりと熱くなるのを感じた。
彼がふう、と大きく息を吐く。
どさり、と脱力したようにバーナビーの上に覆い被さってくる。
はぁはぁと全身で息をしながらバーナビーを抱き締めてくる。
そのまま、額や目尻、頬に何度もキスをしてきた。
普段なら、そんな風にまるで愛情の籠もった行為のようにされたら、反対に興醒めする所だった。
そんな風にしてくる男は過去にもいたが、バーナビーは冷たく撥ね付けていた。
が、その時は何故か身体が動かなかった。
何度もキスをされるのが、何故か心地良かった。
押し黙ったままバーナビーは、どうして嫌ではないのか内心訝しく思いつつも、彼の愛撫を受けていた。






* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *





大きな嵌め殺しの一枚ガラス窓の傍に立って、バーナビーは遙か眼下に広がるシュテルンビルトの街やその彼方の入江、更にその向こうに広がる海を眺めた。
午後の光がそれらの景色を美しく煌めかせて、海は青く、澄んだ空と共に目に飛び込んでくる。
「ここは私の部屋だから、いつでも来ていいんだよ、バーナビー」
バーナビーを案内したのは、その部屋の主であるアポロンメディア社のCEO、アルバート・マーベリックだった。
窓の外に向けていた目線を室内に戻し、振り向いてバーナビーはマーベリックに微笑した。
「はい、マーベリックさん、ありがとうございます」
「君の所属部署は、このほどアポロンメディア社に新しくできることになるヒーロー事業部。直属の上司は事業部長のアレキサンダー・ロイズだ。ロイズは仕事ができて信頼できる人間だから、君も安心してくれたまえ。写真を見るかい?」
「ええ」
バーナビーはここ、マーベリックの部屋に、入社前にアポロンメディア社を見た方がいいと言われて招かれていた。
既にヒーローアカデミー大学院の方は修了していた。
アポロンメディア社には、一週間後に入社する事になっている。
渡されたアレキサンダー・ロイズの写真と資料ファイルを、バーナビーは見るとも無しに眺めた。
グレイの髪の、上品そうな中年の紳士だ。
いかにも仕事ができそうでもある。
「それからバーナビー。君にはもう一人、別の現役ヒーローとコンビを組んで二人組として活動してもらう事になっている。……いいかな?」
「二人組…?」
ぴくりと眉を上げて、バーナビーはマーベリックを見た。
マーベリックがバーナビーを見て頷く。
「そうなんだ。君も名前は知っているだろうが、……ワイルドタイガー。現在トップマグ社に所属しているヒーローだ。能力は君と同じハンドレッドパワー。同じだから下手をするとライバルになってしまうだろう?まぁどう見ても君の方が彼より優秀だけどね。……ただ、君を売り出すときの効果的な方法として、同じ能力のベテランヒーローと組むとより注目されやすいと思ったんでね。ちょうど今度ヒーロー事業を七代企業で独占統括する事になってね、それでワイルドタイガーをうちの会社に移籍させる手はずになっている」
「そうですか…」
「まぁ君としてはあまり気が進まないかもしれないが、これも君の名前と顔を売る手段だから、よろしく頼むよ。これがワイルドタイガーの資料と写真だが、見るかい?」
先程のアレキサンダー・ロイズの資料と同じく、マーベリックがファイルに綴じたワイルドタイガーの資料を手渡ししようとしてきたが、バーナビーは手を振ってそれを断った。
どうせ働き始めれば嫌でも顔を合わせざるを得なくなる。
それまで別に見たくもなかった。
元々誰かとコンビを組んで活動するなどという事は苦手だ。
一人がいい。
しかし会社の方針だし、自分の名前を売るには仕方がないだろう。
だったらその嫌な事はその場になるまで考えなくてもいい、そう思った。
バーナビーがワイルドタイガーについて知っている事と言えば、ヒーローを10年やっているベテランであるという事、それからやたらに物を壊す『壊し屋』として名前が知られているという事ぐらいだった。
同じ能力の持ち主だから、ヒーローTVで活躍を見た事はあるが、折角のハンドレッドパワ−を無駄に使っている印象も否めなかった。
他には、古くさいヒーロースーツだな、とぼんやり思ったぐらいだ。
なので、実際それから数日後、試作段階のヒーロースーツを着て空中から落下するワイルドタイガーを助けた時は、まぁ予想通り、ぐらいしか思っていなかった。
いや、予想よりも少し口うるさいとも思った。
が、ワイルドタイガー自体に興味が無かったので、フェイスガードを上げて彼と相対した時に、彼があれ、というような顔をしたのには殆ど気付いていなかった。



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