◆茨(いばら)の冠◆ 21
自分が虎徹を欲しい、と思った時には、虎徹は自分の傍にいるべきだ。
自分がこんなに辛く寂しい思いをしているのに、虎徹はそんな自分なんか全く気にもかけずに楽しく過ごしているとしたら……。
なんて不公平なんだろう。
……酷い。
許せない。
彼が憎い…。
自分をこんなに動揺させ、いらいらさせているのに、彼はへらっとして楽しく過ごしているのだろうか。
許せない。
彼には、自分だけを見て、自分だけに笑いかけて欲しい。
いや、そうするべきだ。
自分が傍に居て欲しいと思った時には、すぐさま駆けつけて来なければいけないはずだ。
それなのに、そうしないで他の奴と楽しく過ごしているのは許せない。
むかむかするのか寂しいのか、心の中がぐちゃぐちゃになってきて、バーナビーは調子が出ないままに自宅に帰った。
帰っても虎徹の事ばかり気になって、どうしようもなかった。
いらいらした。
携帯を取りだしては、何度も見てしまう。
鳴らない携帯が憎らしかった。
いらいらのあまり、バーナビーは携帯を床に投げつけた。
ガチッ、と鈍い音がして携帯がフローリングに叩き付けられる。
「……くそっ!」
投げつけても腹立ちが収まらなかった。
ソファを蹴り上げて、バーナビーは悪態を吐いた。
なんでこんなにいらいらするのか分からなかった。
不安が次から次へと押し寄せてくる。
いらいらと腹立ちが、風船に空気を入れるようにどんどんと膨らんでいく。
自分がこんなにいらいらして辛い思いをしているのに、きっと虎徹は自分の事など全く考えていないんだろう。
楽しく過ごしているんだろう、と思うと許せなかった。
自分の気持ちが変だ、と言う事は分かっていた。
だいたい、他人に対して許せないとか思う自分の心の有り様自体がおかしい。
おかしいとは思っていても……。
でも、理性ではどうにもならなかった。
許せない。
憎らしい。
こんなに自分が辛い思いをしているのに――。
どうしようもないから仕方が無く寝ようと思ってベッドに入ったが、全く眠れなかった。
ますます腹が立ってきて、バーナビーはベッドの中で煩悶した。
胸がむかついて腸が煮えくりかえるようでどうしようもなかった。
ベッドに突っ伏していると、呼び鈴が鳴った。
はっとして起き上がって、エントランスに行く。
ドアの外に虎徹が立っていた。
カメラの画面を見た瞬間、バーナビーは無我夢中でドアを開けた。
開けると虎徹が手に飲み会の帰りの土産だろうか、小さな袋を持ったままにっこり笑ってきた。
「………何しに来たんですか?」
嬉しいと思うよりも何よりも、見た瞬間に腹立ちが一気に爆発した。
「………えっ?」
バーナビーの剣幕に驚いたらしい虎徹が、目を丸くしてバーナビーを見上げてきた。
「……その、バニーちゃんに会いたかったから…」
「もう寝てました。迷惑です」
腹立ち紛れに吐き捨てるように言うと、虎徹がどう答えて良いのか分からないというように目を左右に彷徨わせた。
「……ごめん…」
そう言って眉を寄せ、俯く。
悄然とした様子でそのまま身体の向きを変え、帰ろうとする。
虎徹が自分に背を向けた瞬間、バーナビーは一瞬にしてかぁっと体温が上がったような気がした。
知らぬ間に大声が出ていた。
「なんで勝手に帰ろうとするんですか!?」