◆すれ違いあっちこっち◆ 14
「虎徹さんっ…!」
そんな風に強請られて我慢できるはずもなかった。
催眠が解けた今となっては、前以上に虎徹を愛しいと思う気持ちが心の中に溢れかえって、もういっぱいっぱいになっていた。
それに、彼との肉体的接触ももう2週間ほど持っていなかった。
その間、忙しさにかまけて自分で処理をするという事もしていなかった。
そういう事に気付くと、どくん、と心臓がうねり、身体が一気に熱くなった。
虎徹をすぐにでも貪りたくなって、その凶悪な欲望にバーナビーは目の前がくらりとした。
「だめですよ、虎徹さんっ。…今、僕、すごくあなたのことが欲しくて堪らない。こんな状態じゃ、あなたに酷くしてしまいそうだ…。病気なのに…」
「バニー、お願い、抱いてくれよ。なぁ…、俺、お前の事欲しくて欲しくてたまらねーんだ。病気なんて、きっとすぐ治るって。だってお前が好きって俺のこと言ってくれたし、……抱いてくれたら絶対すぐ治る…」
「虎徹さん…」
「…あ、でも俺、身体汚いか…」
「何言ってんですか…。そんなの気にするわけないでしょ?」
虎徹が頬を赤らめて俯いたので、バーナビーはたまらなくなって彼を骨の折れるほど強く抱き締めた。
「んっ……んん……っ!」
虎徹が小さく呻く。
再び唇を奪って深く合わせ、彼の口の中に舌をねじ込む。
彼が応えておずおずと舌を差し出してきた。
絡めて吸い上げて歯で甘噛みし、再び咥内に舌を伸ばして、中をぐるぐると舐り回す。
それだけでじいんと身体が熱くなって、股間に一気に血が集まるのが分かる。
「んっ…っんんう……ん…っっ」
虎徹も同じようで、もじもじとして息を荒げながら、股間をバーナビーに擦り付けてきた。
口付けだけでももう、我慢ができない程に興奮しているのに、更に虎徹が自分を誘うような淫靡な仕草をしてきたので、バーナビーは目の前が霞むほどの衝動を覚えた。
「虎徹さん……っ!!」
上擦った声で彼の名前を呼びながら、衝動に任せて虎徹をベッドに押し倒す。
「バニー…っ」
虎徹が震える声で自分の名前を呼んできた。
顔を少し離して虎徹を見る。
琥珀色の瞳が潤んで少し涙の膜が張って、そこに黒いシルエットとなって自分の姿が映っている。
赤く少しぽってりとした唇が震えている。
不揃いの無精髭に手を伸ばしてざらりと指先でなぞると、虎徹が瞬きをして恥ずかしそうに目を伏せた。
「ごめん、髭も剃ってねぇし、きたねぇだろ、俺…」
「いいえ虎徹さん、……とても可愛いです。僕は、取り繕ったあなたを見たいわけじゃないんです。こういう風に日常の普段のあなたがいい。大好きです、虎徹さん。……愛してます…」
「バニー……俺も…」
虎徹の両腕がバーナビーの首の後ろに回って、ぎゅっと抱き締めてくる。
心の底に暖かな愛情が湧き上がって溢れる。目の前の彼が愛おしくて愛おしくてたまらなくなる。
その気持ちがそのまま性欲に直結して、バーナビーは少しも我慢ができなかった。
目の前で自分を求めて震えているこの愛しい身体を抱きすくめ、一つに繋がって何もかも共有したかった。
「虎徹さん、ごめんなさい、僕、我慢できそうにないです」
彼のパジャマのボタンを荒々しく外し、ズボンを脱がせる。
自分ももどかしげに服を脱いでしまうと、バーナビーは何か潤滑剤になるものはないかと周りを見回して、ベッドサイドに置かれていたクリームを手に取った。
「ごめんなさい、これでいいですか?」
「う、うん、もう、なんでもいいからさぁ、バニー、早く。…俺ももう、なんか我慢できねーし…」
そう言って虎徹が恥ずかしそうに頬を染めながらも、ベッドの上で両足を左右に開いてバーナビーに股間を見せつけるようにしてきた。
そこはすっかり勃起して腹に着くほどにペニスがそそり立ち、先端をびくびくと揺らしながら透明な蜜をふるりと零している。
更にその下には張り詰めてふっくらとした陰嚢が、その奥にはココア色にすぼまった肛門が見える。
一瞥しただけで、バーナビーはぞくりと全身が震えた。
ペニスがどくん、と脈打って先走りが溢れるのを感じる。
戦慄く手にクリームをたっぷりと取り、その指を虎徹のアナルに押しつける。
ぐるぐると円を描くようして襞に馴染ませ、それから指を2本、逸る気持ちを抑えてできるだけゆっくりと挿入していく。
「……あっ、ぅ……んっ…」
途端に中がうねる。
括約筋を突破するとその中は熱くぬめって、バーナビーの指を誘い込むように奥へ奥へと蠕動する。
ぬるりとして熱く絡みついてくる粘膜の感触に、眩暈がした。
もう、我慢できない。
「虎徹さん…!好き、愛してます…!」
殆どほぐす余裕もなく相手を貫く事への謝罪のように言いながら、バーナビーは虎徹の両膝を抱えてぐっと折り曲げると一気にペニスを突き入れた。
「う……ッッッ!」
途端に虎徹が背中を反り返らせて苦しげに呻く。
久し振りの挿入で彼が痛みを感じているのは分かったが、それでも止められなかった。
ズプっと根元まで一気に突き刺せば、もう自分が限界を超えたのが分かる。
「ごめんなさい…っ」
ここで虎徹を思い遣って自分の動きを止めるような余裕も無かった。
彼の身体をしっかりと抱き締めると、バーナビーは激しく腰を動かし始めた。
「ひっ、ァ…っっん――くぅっっ!」
ズチュズチュと淫靡な水音をロフトに響かせながら、無我夢中で虎徹の身体を貪る。
虎徹が苦しげに呻こうが身体が逃げかけようが、止められなかった。
全身が火照って熱くて、虎徹の中に入っている部分が蕩けてしまうようだった。
締め付けられ、奥へ奥へと吸い込まれる。
ベッドをぎしぎしと軋ませながら、腰を打ち付ければ、虎徹の体臭が自分を誘うように立ち匂ってきて、嗅覚からも興奮を煽られたまらなくなる。
「…ううっっ…ァ、バ、ニっっっ!」
声が聞こえれば、それもずきん、と痛みを伴う興奮になる。
「も、う駄目ですっ、虎徹さん…っ!」
身体の奥で一気に堰が崩れる。
愛情の奔流が、ペニスの先から相手の体内へ流れ込んでいく。
虎徹が全身をぶるっと震わせ、ぎゅっと目を閉じた。
腹の間がピュッと熱く濡れて、彼も絶頂に達したのが分かる。
全身から一気に汗が噴き出て、くらりと視界が廻った。
今まで封印していた思いが止めどなく溢れてくる。
腕の中の彼が愛おしくて、どうしようもなくなる。
「虎徹さん、虎徹さん…好きです…大好きです…」
何度も何度もそれだけを繰り返して言いながら彼を抱き締める。
虎徹がゆっくり目を開いて、間近にバーナビーを見上げてきた。
「……バニー…。俺も、…俺も大好き。…お前の事、すげぇ好き。…ごめんな…」
「謝る事なんかないです。僕の方こそ、ごめんなさい…」
「いいんだ。俺がさ、お前に辛く当たっちまったし…」
「虎徹さん…」
「でも良かった、お前が元に戻ってくれて。……俺、ホント辛かったよ…」
「ごめんなさい…」
「ごめん、謝らせるつもりじゃなかったんだけど。……でも今すげぇ幸せだし、夢みてぇだし。辛かったから余計に幸せなのかもしれねぇしな。……バニー、愛してる…。催眠術かかって、良かったかも、俺。お前に対する気持ち分かったし…、考えてみたら、俺が催眠術にかかってお前とこういう風に抱き合えたんだしな。それにお前が催眠にかかったから、俺はお前の事好きだって分かったし。……もしかして催眠術さまさまかもしれねぇぞ?」
「虎徹さんたら…。でも本当にそうかも知れないですね。ファイヤーエンブレムにお礼言わなくちゃですね」
「ははっ、そうかもしんねぇなぁ」
「虎徹さん…ありがとうございます…」
「ん?お礼言うのは俺の方だよ。バニー、すげぇ好きだ、愛してる。俺のこと、離さないでくれ…」
「勿論ですよ。虎徹さんの事、絶対離しません…」
「……実を言うと俺、絶対離れねぇと思ったけどな」
「ふふ、可愛いな、虎徹さん。…愛してます…」
「俺も…俺の方こそ愛してる。きっと離れろって言われたって絶対離れねえし、お前の事絶対離さねぇよ…」
「本望ですよ、虎徹さん…」
お互いにそう言って、なんとなくくすくすと笑いあう。
虎徹がゆっくりと目を伏せて、唇を近づけてきた。
濡れた唇にちゅっと一度口付けて、それから一度離れて、もう一度柔らかく唇を合わせる。
舌を伸ばすと、虎徹の舌が自分の舌に擦り寄ってくる。
くちゅくちゅと唾液を交換すれば、こくりと飲み込んで、それからまた舌が絡まってくる。
心の底から暖かくなって、幸福感で全身がぽかぽかした。
抱き締めると、密着して触れ合った肌の所からも解け合って一つになるようだった。
湿った肌の感触も精液の匂いも息づかいも、何もかもが幸せに感じられた。
「虎徹さん…」
名前を呼ぶだけでも心の底から愛おしさが溢れてくる。
たまらずちゅっちゅっと何度も口付けをすると、虎徹が琥珀色の瞳を細めて笑った。
「好きです…」
もう一度、囁く。
何度言っても、その度に虎徹を愛おしく思う気持ちが新たに溢れてきて、バーナビーはどうしようもなかった。
視界が潤んだ。
虎徹に顔を擦り付けるようにすると、虎徹がふっと笑みを浮かべ、バーナビーの頭を包み込むように抱き締めてきた。
「なんだよ、バニー、泣いてんのか?可愛いなぁ…」
「……いいじゃないですか…」
「ん、…もっと泣いていいぞ?俺がずっとこうして抱き締めていてやるから…」
身体はべたべただったけれど、反対にそれが心地良かった。
暖かく濡れた肌が密着して、虎徹の心臓の鼓動が直接響いてくる。
身体が繋がって、身も心も全部蕩けあったようだった。
「このまま寝ようか、バニー。…身体は明日洗えばいいし、な?」
虎徹の低く甘い声が耳に子守歌のように響いてくる。
こんな幸せな気持ちになるなんて、…夢のようだった。
もしかして、夢なのではないだろうか…と思って目を開こうとするが、ふわふわとした幸福感に包まれて、眠くなっている。
大丈夫、夢じゃない。
こうやって虎徹を抱いている。彼に抱き締められている。
「…愛してるよ、バニー…」
虎徹の優しく甘い声を聞きながら、いつしかバーナビーは幸せな眠りに就いていた。