◆茨(いばら)の冠◆ 25









『おーい虎徹ぅ、もっと飲むんだろ?』
電話の向こう、背後からロックバイソンらしい声が聞こえる。
がやがやと笑い合っている声は誰だろう。
『タイガー、あんたの番よぉ?』
これはファイヤーエンブレムの声だ。
ヒーロー達皆で飲んでいるのだろうか。
もともと、自分が飲みにいこうと約束をして、自分の方から断った。
だから、虎徹は今夜、身体が空いていたはずだ。
暇になった虎徹が自分の代わりにロックバイソンやファイヤーエンブレムを誘って飲みに行ったのだろうか。
なんら不思議な事ではない。
自分は予定が入って行けなくなったから、仕方がない。
代わりの友人を誘って虎徹が飲みに行ったとしても、そこに自分が口を挟む余地などないし、虎徹が楽しい時間を過ごせたなら、それに越したことはない。
けれど………。
電話の声を聞いて、一瞬にしてバーナビーは頭にかぁっと血が昇った。
怒りがふつふつと煮えたぎる。
それが、噴火するがごとく、一気に爆発する。
本当に体温が一気に上がった。
そう感じた。
「……すぐに僕の家に来てください……」
電話で一言そう言うと、バーナビーは電話を切った。
虎徹の返事も聞かなかった。
怒りのあまり、それ以上、言えなかった。
息をするのもできない程だった。
もし30分程待って虎徹が来なかったら、自分から虎徹の家に行こう。
彼が帰ってなくても、何時間でも待ってやる。
頭がわんわんとして、血の気が引いていくようなのに、熱かった。
どうしたらいいのか分からないほど、いらついてむかついて、身体を動かす事もできなかった。
頭の中を、血流が渦巻く音が聞こえるような気がした。
怒りの余り、血管が切れてしまうのではないか、と思えるほどだった。










しかし虎徹はそれから10分ほどしてやってきた。
驚いて慌ててやってきたようだった。
バーナビーの部屋の呼び鈴が鳴ったのでドアを開けると、彼は全身ではぁはぁと息をし、心配そうな顔をしていた。
「ど、どしたの、バニーちゃん、……なんかあったの?」
自分が先程電話で、厳しい声音ですぐに来いと言ったから、驚いてやって来たのだろう。
髪が乱れ額にかかっていた。
ベストやネクタイからは仄かに酒とたばこの匂いがした。
ドアを開けて虎徹を見た瞬間……。
バーナビーは彼に殴りかかっていた。
自分がどんな行動をするかなんて、そんなの全く考えていなかった。
無意識のうちに虎徹につかみかかっていた。
「……バニー?!」
虎徹が大声を上げ、かろうじてバーナビーのパンチを除ける。
除けられて更に頭に血が昇った。
さっと手を退いて、もう一度虎徹の鳩尾に拳を突き入れる。
どすっと重い感触がして、今度はまともに拳が入った。
「――うぅっっ!」
虎徹が呻いて背後の壁に寄りかかる。
更にそこを殴ろうとすると、顔をしかめながら虎徹がバーナビーの手を掴んでくる。
掴みながら足払いを掛けてくる。
反撃されるとは思っていなかったバーナビーは、体勢を崩した。
足払いでよろけ、壁に思い切り肩を打ち付ける。
痛みに顔を歪ませて虎徹を見上げる。
すると虎徹が、先程とは違って厳しい表情をしていた。




「……何やってんだ、バニー。……いい加減に怒るぞ!」




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