◆After a storm comes a calm.◆ 7
仕事の時はそれでもなんとか大人の余裕を保つようにしていたが、最近ではそれも少しずつ危うくなってきた。
というのも、バーナビーがジェイク・マルチネスを倒し、その様子がシュテルンビルト市民一般に広く周知された事によって、タイガ&バーナビーの人気が格段に上がったのだ。
勿論、虎徹の人気も上がった。
バーナビーが、ジェイクを倒せたのはタイガーさんのおかげだ、と公言したからである。
自分の人気も上がったが、バーナビーの人気は特にすごかった。
外見の良さや育ちの良さも相俟って、バーナビーの所には取材が引きも切らず、インタビューの申し込み、あるいはドラマの出演要請なども来るようになった。
どのような要請が来てもバーナビーはできるだけ断らず、そしてそつなくなんでもこなしていく。
所謂マスコミ受けをする人物というように周知されて、その知名度はうなぎ登りだった。
その日も虎徹はバーナビーと一緒にアポロンメディア社の近くのスタジオに赴いていた。
そこでタイガー&バーナビーのインタビューが行われる。
自分は添え物で主役はバーナビーだが、二人で出演という事なので、虎徹もスタジオに入る。
虎徹の方が絶対的に出演する回数が少ないので、そういう所に行くとどうしてもおどおどとしてしまうが、バーナビーは堂に入ったものだった。
控え室に通されて、豪華なソファにくつろいでいる様子はすっかり芸能人のようだ。
対する虎徹は茶色の地味なスーツにアイパッチ、帽子を被ってやや落ち着かなく座っていた。
……トントン。
控え室の扉がノックされる。
「はい」
バーナビーが返事をすると扉が開いて、若い男が入ってきた。
「バーナビーさん、こんにちは」
入ってきた人物を見て、虎徹はぴくっと眉を寄せた。
その青年は20台前半でバーナビーよりは若いだろうか。
バーナビーと同じようにふわふわとした金髪に青い瞳、すらりとした少し華奢な体格のいかにも可愛らしいといった容貌の青年だった。
最近ブレイク中の若手俳優だ。
「やぁ、ハンス、君も今日はここに用があるのかい?」
バーナビーが親しげに声をかける。
「えぇ、僕も打ち合わせがあってスタジオに来たんです。そうしたらバーナビーさんが丁度来ているっていうから挨拶に」
にっこりと微笑むとまるで天使が微笑しているようだった。
虎徹はぼんやりと、そのハンスと呼ばれた青年を見上げた。
ハンスとバーナビーは、先日公開された2時間枠のドラマで共演した間柄だった。
バーナビーには単発だがドラマのゲスト枠で出演のオファーが相次いでおり、ヒーローという仕事の合間に彼はそういうドラマ出演の仕事も引き受けていた。
なんでもできる彼の事だから、ドラマもプロの俳優ほどうまいという訳ではないが、それでも十分視聴に耐えるほどには演技も出来る。
その2時間枠のドラマは虎徹も視聴した。
そのドラマの主演だったのが、今挨拶に来た若者だった。
ハンス・ケルゼンという俳優で、天使のような容貌と雰囲気で人気がある。
「バーナビーさんは今日は何時までここでお仕事なんですか?」
「インタビュ−自体は30分ぐらいで、すぐ終わるけどね」
「そうなんだ。その後はどうするんですか?」
「今日はそのまま直帰していいという事になっているから、どうしようかな…」
「僕の方もこれから打ち合わせ30分ぐらいしたら終わるんですよ。良かったらその後飲みに行きませんか?」
ハンスが目を輝かせてバーナビーに言ってくる。
言いながらバーナビーの隣に座って、バーナビーに親しげに寄り添ってきた。
横目でちらっと虎徹の方を見てくる。
虎徹はおどおどとして笑顔を作った。
そのハンスという俳優がバーナビーの事を好きなのは、見ていると一発で分かった。
自分もバーナビーの事が好きなので、同類はすぐに分かるわけだ。
ハンスはゲイだ。
それはハンス自身が公言しており、雑誌などにも載っているのでよく知られている。
ゲイだというのを隠していない所が好感が持てる俳優として、人気にもなっている。
その彼が、微妙に自分を見てくるのが気になる。
もしかして、自分がバーナビーの事を好きだと言う事が、分かっているのだろうか……。
いや、でも社外でそういう態度を見せた事は無いから大丈夫だろうとは思うが、…と虎徹は不安になった。
人前でそんな事が分かってしまったら、恥ずかしくて居ても立ってもいられない、。
特にこのハンスみたいな人物には。
というのも、どう考えてもこの若者の方がバーナビーの相手にふさわしいからだ。
バーナビーと同じ金髪、色の白い肌、青くて美しい瞳。
可愛く華奢で守ってやりたくなるような雰囲気。
そして性嗜好が同じ。
セックスの相手としてだけでなく、恋の相手としても申し分がない。
年齢もバーナビーとほぼ同じだし、理想的だ。
誰から見ても、バーナビーにふさわしい相手と思われるだろう。
もしこの若者がバーナビーに好きです、と告白してバーナビーが受け入れたら、それはもうそれで幸せなカップルとして認められるだろう。
あるいはこの若者が身体だけの関係でもいいから、といってバーナビーに迫ったとしても、それはそれでお互いが了承しているなら、口を挟むべき問題ではない。
きっとその方がバーナビーとしても満足できるのではないだろうか、と思わず考えてしまって、そんな自分の考えに虎徹は自分で傷ついた。
ゲイ、という事はそれなりに他の男と経験があるのだろうから、きっと、セックスの相手としても楽しめるのではないだろうかと思ったのだ。