衝動 
《2》












「え………ちぜん…………」
部室のドアを半分ほど開けて、もたれ掛かりながら腕組みをしてじっとこちらを眺めている人物を見て、手塚は呆然と呟いた。
今、手塚が頭の中で妄想していた人物、越前リョーマだった。
「ど、うして…………?」
もう、かなり前に帰ったはずだ。
手塚が譫言のように言うと、リョーマはウィンクして見せた。
「帽子忘れちゃって。……気が付いて、取りに戻ってきたって訳っス。中入っていいっスか?」
手塚の返答も聞かず、リョーマはずかずかと部室に入ってきた。
そのまま、しどけなくワイシャツをはみださせて、黒い学生ズボンの中に手を入れたままの手塚に近付いてくる。
はっとして、手塚は顔から火が出るほど羞恥を覚えた。
よりによって、一番見られたくない人物に、こんな霰もない格好を見られてしまった。
「はい、これ……」
リョーマがにやっとしながらティッシュを差し出してくる。
「拭かないと、汚れちゃうっしょ?」
「……………」
恥ずかしさのあまり、涙が滲んで視界がぼやけてきた。
俯いてリョーマの差し出したティッシュを取り、リョーマの視線から逃れるようにして手に付いた精液を拭く。
「そんなに恥ずかしがることないじゃないっスか、男だったら誰でもやってることっスよ?」
リョーマが、手塚の前の机の上に腰掛けて笑い掛けてきた。
「オレだって、何回もやってるっスよ?……まぁ、部長はこういう事興味なさそうだったから、ちょい意外でしたけどね」
「………………」
何を言われても、返答できなかった。
涙が頬を一筋伝い落ちる。
「泣かないで下さいよ、部長………」
リョーマのからかうような声音が優しくなった。
「ねえ、部長、オレの事考えながら、抜いてたっしょ?」
「……ちがう……」
「嘘吐いちゃ駄目っスよ。……オレの帽子さわりながら、オレの名前言ってたじゃないっスか?」
「………………」
「……ね、オレをヤる事想像してたの?……それとも、オレにヤられるとこ?」
「……そういう話はよせ……」
「部長……」
越前が手塚の静止も聞かずに、更に尋ねてきた。
「オレにヤられるとこ、想像してたっしょ?」
返答できない。
しかし、言葉通りだった。
唇を噛んで俯く手塚に、リョーマが更に言葉を続けてきた。
「ね、アンタを見てたらさ、オレも興奮したっスよ。………アンタのこと、ヤっていい?」















「え、えちぜん………!」
さすがに驚いて、手塚は顔を上げた。
「いいっしょ?……オレ、自分で言うのもなんだけど、下手じゃないと思うっスよ。アメリカ育ちっスからね」
「だ、だめだ、そんな……」
「そんな格好で言っても、さまにならないっスよ」
リョーマが苦笑した。
まだ手を拭いただけで、両手はズボンの中で、ワイシャツははだけられた格好のままなのに気付いて、手塚は真っ赤になった。
急いで手をズボンから抜こうとすると、その手をリョーマが上から押さえてきた。
「ねえ、部長……………オレのこと、好きっしょ?」
リョーマがじいっと手塚を見つめてきた。
猛禽類のように鋭く、自分を射抜くように見つめてくる視線に、手塚は総毛立った。
この目に、囚われたのだ。
あの日から、俺は、この目に。
「どうなんスか、部長、ちゃんと言って下さいよ……」
リョーマの顔が近付いてきたかと思うと、すっぽりと唇を覆われて、手塚は仰天した。
ぬめった舌が生き物のように動いて、手塚の唇を舐め、それから口腔内に入ってくる。
熱い弾力のある舌の感触に、ぞくぞくと身体の芯がまた燃え上がってきた。
「オレのこと、どう思ってるんスか?」
唇が離れて、リョーマが手塚の耳元に囁いてきた。
「……………」
「……好きっしょ?」
重ねて聞かれる。
思わず手塚は正直に頷いてしまった。
リョーマが唇の端を上げて満足げに笑った。
「じゃあ、合意の上ってコトっスね………部長、こっちに乗って……」
呆気に取られているうちに、手塚は部室の机の上に座らされ、すぽっと学生服のズボンを下着もろとも剥ぎ取られてしまった。
リョーマが年齢にそぐわず落ち着いているのに対して、自分が不安で怯えているのが恥ずかしかった。
「ふーーん、部長って、こういうとこまで綺麗なんスねえ………」
リョーマが手塚の両脚を掴むと、ぐいっと広げてきた。
机の上で脚を広げられると、リョーマの眼前に、自分の秘部が晒け出される。
そこをリョーマにしげしげと見られて、手塚は恥ずかしさのあまり涙が溢れてきた。
「え、越前、見るな……」
「いいじゃないっスか……オレ、アンタのこういうとこ、見てるとすっごく興奮する………」
そう言いながら、リョーマが身体を屈めて、手塚の秘部を舐め上げてきた。
「……っ!!」
先程射精したばかりだというのに、もう勃ち上がっている性器と、その下でぱっつりと張り詰めている双果、それから、更に奥の蕾みの周りとリョーマが舐めてくる。
「や……やめろッッ……」
そんな所、今まで一度も他人に見せたこともなければ、勿論、触れさせたこともない。
それなのに、リョーマが舌を使って、蕾に唾液を送り込みながら、周囲をねっとりと舐めてくる。
「良く慣らさないと、痛いっスからね………」
顔を背けてしゃくりあげる手塚を宥めるように、リョーマが言ってきた。
「大切なアンタを傷つけちゃったりしたら、オレが先輩達に怒られるっス」
「い……やだ………越前………」
嗚咽を漏らしながら微かに言うと、リョーマが声音を和らげた。
「泣いてる部長も可愛いっスよ。………ここも可愛いっスけどね……」
ちょんちょんと、舌が入り口をつついて、中に熱い唾液を次から次へと送り込んでくる。
恥ずかしさで身体中が焼けるようだった。
ワイシャツを着たまま、ズボンだけ脱いだ格好で靴まで履いたままで、恥ずかしいところを広げられて舐められている。
それでも、拒絶できない。
リョーマが舐めている部分が熱く熟れてきて、どんどん気持ちが良くなってくる。
「は………ぁッッ…………!」
リョーマの舌が入る度に、びくん、と身体が揺れて、手塚は熱い吐息を漏らした。















ふと、リョーマが立ち上がる気配がして、手塚は涙で汚れた目を上げた。
リョーマがじっと覗き込むように、手塚を見ていた。
「えちぜん……………」
無意識に甘えるような声が出た。
リョーマが微笑んだ。
「好きっス」
次の瞬間、秘孔にリョーマの熱い肉塊が侵入してきた。
「………………!!」
背中を瑞枝のように反らせて、手塚は呻いた。
机ががたがたと音を立てる。
机毎押し出すようにして、リョーマがぐっぐっと身体を進めてきた。
「え………ちぜんッッ………!!」
ぐちゅ、と粘膜の擦れる音がして、内臓が抉られるような衝撃が手塚を襲う。
身体が二つに裂けてしまうような勢いで、リョーマが中に入ってくるのを、手塚は全身で感じていた。
「入ったっスよ……」
深々と自身を埋め込むと、リョーマは、固く目を閉じて、閉じた瞼から涙を流している手塚にそっと言った。
「痛いっスか?」
痛みを感じてはいたが、手塚は微かに首を振った。
痛みよりも、言いようのない快感がした。
自分の中に、あの越前が入ってきている。
そう思うだけで、眩暈がした。
手塚が大丈夫そうなのを見て取ると、リョーマは腰を動かし始めた。
「ぅ………ッッ…………ううッッッ!!」
さすがに、楔を抜き差しされると、手塚は堪えきれず声を漏らした。
焼け付くような鋭い快感が、痛みと綯い交ぜになって、手塚を翻弄する。
内部深くに楔が打ち込まれ、内臓を引き出すようにそれが抜かれ、手塚は息も吐けなかった。
リョーマに、内部を全て喰らい尽くされるようだった。
試合の時感じた激しい高揚感が、脳裏に再現される。
「はッ………あッ………えッッッ…ちぜんッッ!!」
不意に快感の昂まりが押し寄せてきて、手塚は堪えきれなくなった。
それを察したのか、リョーマが手塚のものをぎゅっと握り上げてきた。
「…………ッッ!!」
手塚が二度目の射精をしたとほぼ同時に、リョーマも手塚の体内深くに熱い欲望を吐き出していた。















興奮が治まってくると、代わりに涙が止まらなくなった。
リョーマが優しく後始末をしている間、手塚は唇を噛み締めて泣いていた。
「ねえ、泣かないで下さいよ、部長………いやだったスか?」
リョーマが手塚を覗き込むようにして、囁いてきた。
「…………いやじゃ……ない…………」
嫌じゃなかった。
それどころか、気持ちよくて、嬉しくて、どうにかなりそうだった。
だからこそ、涙が止まらない。
「オレさ、ここんとこ、アンタのことばっか、考えていたんスよ」
不意にリョーマが言ってきたので、手塚は驚いて顔を上げた。
リョーマが視線を和らげて、手塚を見つめてきた。
「アンタのこと、寝ても醒めても考えてたっス。……だから、アンタがオレと同じみたいだって分かって、すっげえ嬉しかったっスよ……」
「越前………」
「部長、オレのこと…………好きっスか?」
心の奥がじいんと温かくなる。
リョーマが愛しい。
「好きだ…………」
手塚は何度も目を瞬いて、消え入りそうな声で返答した。
「部長、好きっス……」
リョーマが嬉しげに笑って、また顔を近づけてきた。
(………越前、好きだ………)
リョーマの口付けを受けながら、手塚は心の中で何度もそう言っていた。


















FIN

というわけで、大人なリョーマ君にやりたい放題やられて幸せな部長なのでした(笑)