罠 
《5》












戦慄く手を必死で宥めながら、手塚はのろのろと服を脱いだ。
学生服の上下を脱ぎ、ワイシャツとトランクス姿になる。
不二が腕組みをして、観察するかのように見ている視線が、針のように突き刺さってくる。
「全部ね。手塚……」
手が止まったところに言われて、手塚はびくり、と身体を震わせた。
ワイシャツを肩から落として、下に着ていたTシャツをたくしあげて脱ぐ。
トランクスに手をかけるが、そこで手が止まってしまった。
不二を窺うと、顎で動作を促してきた。
手塚は不二に背を向けて、トランクスを下ろした。
足から抜いて、それから靴下も脱ぐ。
全部脱いでしまうと、部屋の空気が肌を粟立てた。
不二の視線を痛いほどに感じる。
「ふふふ………こっち、向いて………」
不二が低く笑ってきた。
動かない身体を無理に動かして、不二の方に向き直ると、不二が鑑賞するかのように瞳を細めてきた。
不躾な視線が、特に、身体の中心部分を射抜くように見つめてくる。
「……結構、大きいね……」
くすっと笑いながら、不二が言ってきた。
「キミって、清潔なイメージがあるからさ、あんまりそっちは発育してないのかな、なんて思ってたけど…………実は好き者だったりして?」
「なッ………!」
「ははは、ごめんごめん、冗談だよ。………じゃ、こっちへ来て……」
不二が、肩を竦めて笑った。
かぁっと頭が熱くなって、身体中がぶるぶると震える。
それでも手塚は、不二の言葉を忠実に守った。
促されるままにベッドに座る。
「僕に、キミの可愛いところがよく見えるように、脚を開いて……」
「………えっ?」
「肛門が見たいんだよ」
「……不二っ!」
不二の口から普段使わないような単語が出ると、どうしても羞恥で身体が強張る。
「ほら、早く………」
手塚の両脚を掴んで、不二がぐいっと広げさせてきた。
「不二っ、いやだっ!」
脚が広がり、その中心に、不二が顔を近づけてくる。
興味深そうに、手塚の縮んだものや、その下の双果を見つめてくる。
恥ずかしさで身体中が焼けるようだった。
「もっと広げて、腰を浮かせて………」
「いやだっ、……不二っ!」
「うるさいなあ、手塚…………縛るよ?」
不二が少々苛立ったように言ってきたので、一気に恐怖が込み上げてきて、手塚は押し黙った。
その間に不二が、双果の更に奥にある窄まった入り口を晒け出した。
「……綺麗な色をしているね、手塚………すごく、可愛い………」
不二が機嫌を直したように言った。
「やっぱりキミって、男に好かれるタイプみたいだね。……ココも、僕を誘っているみたい……」
不二が指に唾を付けて、その指をつぷ、と秘孔に差し込んできたので、手塚は背中を海老のように反らせて仰け反った。
「この間のさ、井上って記者だって、キミだからあんなコトしてきたんだよ?……分かってるの、手塚?」
「……何、言って……」
「キミを見てると、めちゃくちゃに犯してやりたくなるんだよね。……あの時は、あいつに先越されたかって焦ったけどさ………良かった、僕が一番みたいで……」
冷たい指が、粘膜を擦りあげてくる。
不二がぐっと指を奥まで突き込んできた。
「……………ッッ!」
内部の特に敏感な箇所を擦られて、手塚は掠れた悲鳴を挙げた。
鮮烈な電流が、そこから頭まで走り抜ける。
たちまち性器に血が集まって、重く脹れてくるのを感じる。
必死で不二を睨むと、不二が満足げに笑った。。
「そういう顔、すごくそそられるよ、手塚。……キミは、男を悦ばせるやり方を、生まれつき心得ているみたいだね。………天性のものかな?」
卑猥な言葉が不二の口から出ると、一層淫猥に聞こえる。
不二の表情が変わっていないのが、なお不気味だった。
「………うッッ!」
突然不二が指を三本に増やして、廻すようにしながら突き入れてきた。
何か塗ったのだろうか、ぬるぬるとした感触が手塚をぞっとさせた。
「……どう? 気持ちいい?……薬を塗ったから、痛くないでしょう?……こっちも随分勃ってるしね……」
不二が苦笑しながら、勃起している手塚の性器をぴんぴん、と弾いてきた。
「こうやって、キミがよがってる姿をずっと見ているのもいいけど、ここまで広げたんだから、もう、入れても大丈夫みたいだね……」
突如指が抜き取られ、身体に重く不二が圧し掛かってきた。
脚が更に広げられ、身体を二つに折り曲げられる。
足が胸について、その上から不二が体重をかけて覆い被さってきて、手塚は身体が軋んだ。
「い………やだっ………ふじッッ!!」
恐怖が俄に襲いかかってくる。
グチュ…………。
粘膜同士が擦れ合う湿った音がして、次の瞬間、不二が手塚の内部に押し入ってきた。













「うぁぁぁッッッッ!!」
目の前を閃光が走る。
頭をぐいとベッドに押し付けられて、手塚は喉が狭まった掠れた悲鳴を挙げた。
「大きな声出すと、下に聞こえるよ?」
不二が手塚の両脚を肩に押しつけながら、低く囁いてきた。
「他人にばれるのがいやだったら、我慢するんだね」
「ぅ…………ッッ!!」
ずん、と深い衝動が、手塚の身体の芯を貫く。
重く鋭い痛みが、尾てい骨から脳まで突き抜ける。
身体の奥まで熱い肉塊が挿入される感覚に、手塚は首を千切れるほど振った。
銀砂のような艶やかな髪が、ふぁさ、とシーツに舞う。
「……なんだ、キミも感じてるんだね、手塚?」
怒張を根元まで突き入れて、不二は身体の下の手塚を見て苦笑した。
「痛くしないように気を使ったんだけど、別に、そんなに優しくしなくても大丈夫だったかな?」
「ふ……じ……………ッッッ!!」
不二が手塚の仰け反った喉に、食い付くように歯を立ててきた。
「やめ………ッッ!」
「可愛いよ、本当に…………食べちゃいたいくらいだよ、手塚……」
「……つッッッ!!」
喉に鋭い痛みが走り、手塚は呻いた。
「ふふふ、冗談だよ、キミが僕を食べてるんだよね、下の口でさ……」
「……ふじッ!」
不二の口から下品な言葉が出ると、皮膚が総毛立つ。
「無理矢理、してるんじゃないからね、手塚…………キミも、了承した上での、合意の元での行為、って事だからね……」
不二が手塚に言い聞かせるように一言一言区切って言うと、行為に専念するかのように激しく腰を動かし始めた。
「……うッッ…………くッッ……………あッッッ…………いッッッ!!」
目の裏がちかちかと光り、下半身が溶鉱炉のように蕩けきって、その中を不二が掻き回してくる。
何度も身体を揺さぶられ、手塚のシーツを掴む手にも汗が飛び散る。
どれだけ時間が経ったのか、下半身の感覚が無くなり、身体全部が熱くどろどろと融けた頃、不二が一際深く凶器を突き込んで、手塚の最奥に白い粘液を迸らせた。
ほぼ同時に、お互いの腹で擦られ続けた手塚の性器も、勢い良く濁った液体を飛び散らせていた。













「随分熱心に勉強しているのね、お疲れさま……」
不二の姉の由美子が、にこにこしながらお茶を運んできた。
「私が焼いたパイなの。手塚君の口に合えばいいんだけど」
そう言いながら笑い掛けられて、手塚は必死で笑顔を作った。
鉛のように重く怠い身体と、座っただけでじんじんと痛みと余韻を伝えてくる後孔が、手塚の余裕を奪っていた。
それでもなんとか、由美子には悟られなかったらしい。
姉が部屋を出ていくのを見送って、不二が苦笑した。
「さすが、手塚。さっきまであんなによがってたのに、今ではそんな事考えたこともありませんって感じの優等生になってるよ、すごいな〜」
「……………」
何を言われても、言い返せなかった。
不二に犯されただけではなく、自分も射精してしまった。
「ふふふ、困ってるね……」
不二がくすっと笑った。
「自分がどういう人間なのか、分かっただろう、手塚?」
「………えっ?」
「キミはさ、本当は嬉しいはずだよ、僕にこうされて……」
「……何、ふざけた事をっ!」
「……なんで?」
手塚の抗議に構わず、不二が続けた。
「キミの行動を見ていると、よく分かったよ。誰かにめちゃくちゃに犯されたかっただろう、手塚。……心の底で、ずっと願ってたはずだよ。僕は、キミの願いをかなえてあげたんだ……」
「嘘だ………」
「嘘じゃないよ。……だって、キミ、本当に嫌だったら、僕が何言おうと、帰れたじゃないか。僕は、キミには力じゃかなわないよ?……本当に嫌なら、犯されている途中で殴っていたはずだよ。それなのに、キミは感じていた。すっごく感じていたでしょう?……僕でさえびっくりしたよ。キミがあんなに気持ちよくなってくれるなんてさ………」
「………………」
「キミが言い訳しやすいように、いろいろ無理強いしたけどね。……無理矢理やられましたって事なら、キミの面目も立つと思ってさ。………でも、本当は、キミが望んだんだよ、手塚………僕は、キミの願いを知って、キミの望むように動いてあげただけ……」
「嘘だ………ふざけた事言うな、不二……」
全身がすうっと冷たくなる。
精一杯抗議したつもりだったが、語尾が消え入るように震えた。
「僕には感謝してもらいたいな、手塚。……結構、手順を考えるのが大変だったんだから……」
不二が顔を近づけてきた。
「……ね、感謝のしるしに、キミからキスしてよ……」
「………できない……」
「どうして?……ねえ、キスしてくれたらさ、これからもキミを可愛がってあげるよ?………キミの望むとおりに、酷く犯してあげる。………どう? 今度は縛ってあげようか?……縄で、キミの全身を、全然動けないようにしてあげる。……キミがいくら泣いて嫌がっても、脚を広げて突っ込んであげるよ。………どう?」
「………ふ………じ………」
不二の茶色の瞳が、にっこりと優しく手塚を見つめてくる。
「ね、手塚………」
身体が自然に動いた。
考えるよりも早く、不二の唇に吸い寄せられていく。








「ふふ………手塚、好きだよ………」
不二の満足げな声が聞こえる。
甘い眩暈がした。
手塚は観念したように、瞳を閉じた。














FIN

めでたし??