次の瞬間、身体を真っ二つに割り裂かれるような、信じがたい痛みが、手塚を襲った。
「…………………ッッ!!」










病 
《4》














絶叫したつもりだったが、跡部に口を塞がれていた。
「きついな………」
跡部が顔を顰める。
「ちゃんと脚持ってろよ、樺地」
跡部の言に樺地が頷いて、手塚は更にきつく身体を拘束された。
そこに、身体を裂くようにして、異物が侵入してくる。
千本、万本の針で脳味噌を突き抜かれるような、痛みだった。
全身が戦慄いた。
内臓が一つ残らず口から出てしまうような気がした。
下から、異物が押し上げてきているのだ。
死んでしまいそうなほどの痛みが、どこから来ているのか分かって、手塚は愕然とした。
「分かるかい、手塚さんよ……」
跡部が、手塚に囁いた。
「今、アンタのこと犯してるんだぜ、オレが。……分かるだろ、オレが入ってるのがよ?」
「……………」
口を塞がれているため、声が出なかった。
目を張り裂けんばかりに見開いて、目の前の跡部を呆然として見ると、跡部が瞳を細めた。
「結構、悪くねえな、アンタもさ。……そういう風に驚いているところが、可愛いよ。…………言っとくが、オレはアンタを別にヤりてえってわけじゃねえんだぜ? あの周助に頼まれたからさ。……なぁ、周助、そうだろう?」
「そう………」
不二が、柔らかい声で返答した。
「ごめんね、手塚……」
優しい声だった。
いつも、テニスコートで聞いているような、ふんわりとした声。
(………どうして?)
「さて、っと動くか」
疑問の浮かんだ頭は、次の瞬間、真っ赤な痛みに取って替わられた。
跡部が律動を開始したのだ。
「………………ッッッ!」
目の前に火花が散る。
赤い血がどくどくと流れ出ていくような気がする。
裂かれて、傷付いた柔らかな部分に、容赦なく楔が打ち込まれる。
手塚は喉を仰け反らせて、掠れた悲鳴を挙げた。
悲鳴も、跡部に口を塞がれているため、押し殺した呻きにしかならなかった。














目の前で繰り広げられる凄惨な光景に、不二はじっと見入っていた。
手塚の白く美しい脚が無惨に広げられ、その中心を跡部が蹂躙しているのを、じっと見る。
しなやかな脚が、痙攣でも起こしたかのように震える。
それが、美しかった。
信じられない、というように目を見開いて、自分を見てきた手塚の瞳が、綺麗だった。
ふぁさッと宙に舞う、さらりとした黒髪が、儚げだった。







………きっと、手塚は知らない。
どうして、こんな事をされるのか。
永遠に、分からない。
------ごめんね、手塚。
キミを好きになってしまった、僕が悪いんだね。
僕に好かれてしまったキミには、本当に申し訳ないと思ってるよ。
キミはなんにも悪くないのに。
-------僕が。
僕が、もっとキミと同じぐらい綺麗だったら、良かった。
キミと、同じぐらい強かったら、良かった。
そうすれば、キミを貶める事なんて、しなくてすんだのに。
ごめん、手塚。






---------キミが、好きなんだ。










跡部が欲望を吐き出して、手塚の体内から、ずるり、とその楔を抜いたとき、すでに手塚は意識を手放していた。
白晰の頬が青ざめて、涙が幾筋も伝い落ちていた。




















「いいのか、これで?」
「うん、ありがとう。……ごめんね、いろいろ無理言って……」
身支度を整えた跡部に、不二はそっと抱き付いた。
「いや、オレは別に………でも、おまえは……」
「僕は大丈夫……」
心配そうな跡部に、自分から口付けをして、不二は笑った。
「あとは僕が片付けるから。………また、あとでね……」
「ああ……」
振り返りながら、跡部と樺地が去っていくのを、不二はふわりと笑って見送った。














二人が出ていって、部屋に静寂が戻ってくる。
不二は、そっと手塚に近寄った。
血の気の引いた青い頬に手を伸ばす。
「ごめんね…………」
そう言いながら不二は、手塚の涙で汚れた頬に唇を寄せた。
ひんやりと、冷たくて柔らかな感触がした。
塩辛い味が舌に広がる。
眼鏡を取って、それから、労るように、拘束されていた手首の縄をそっと解いてやる。
手塚はぐったりとしたままだった。
「てづか………」
人形のように、不二にされるがままの、手塚。
両脚に手をかけて、ゆっくりと広げると、ほの黒い茂みと、その中で縮こまっている手塚自身、それから、精液と血液で汚れた肛門が見えた。
常に清潔好きで汚い状態を好まない手塚のこと、自分の身体がこんなになっていると分かったら、どれだけショックだろうか。
「ふふ、もう、ショック受けすぎるほど受けてるか………」
不二は唇を歪めた。
傷付いた蕾が、ひくひくと微かに蠢いていた。
その度にそこから、ピンク色に染まった液体がとろり、と流れ出してくる。
不二は、自分のズボンのファスナーを降ろすと、自身を引き出した。
手塚の秘孔に押し当てて、一瞬息を詰め、それから一気にそこを貫く。
火傷しそうに熱い内部が、不二を迎え入れてきた。
手塚の身体が痙攣する。
痛みが手塚の意識を覚醒させたらしい。
苦しげに呻きながら、手塚がぼんやりと瞳を開けた。
「手塚…………分かる?」
焦点の合わない瞳に、不二は呼びかけた。
「僕だよ、手塚………」
「……ふ…………じ?」
「そう、僕………」
深く突き上げると、手塚が白い喉を蛇の腹のようにくねらせた。
「痛い? 手塚……?」
「………あ……………」
手塚が弱々しく首を振る。
よく事態が飲み込めていないようだった。
「今、キミを抱いているの、僕だよ…………」
「………ぁ…………」
肉襞を抉るように角度を変えて突き込むと、手塚の身体がびくんと跳ねた。
切れ長の潤んだ瞳から、涙が滴り落ちる。
その光景が綺麗で、不二はしばし見とれた。
「好きだよ、手塚……」
恋人に愛を囁くように優しく言って、更に突き上げる。
手塚ががくんと仰け反った。
「僕のこと、好き?」
「………ぁ……ぁ………」
「ねえ、手塚、好きって言って…………僕のこと、好きだって…………」
「………す………きだ…………」
何を言っているのか、分かっていないのだろう。
不二の言葉を、そのまま鸚鵡返しに言っているだけだろう。
それでも、胸がずきん、と疼いた。
切なくて、苦しくて、息が吐けなかった。
「……僕のこと、好き?」
「……す…………き…………」
掠れた声。
紛れもない、手塚の声。
手塚の、低くて甘い声。
不意に涙が溢れてきて、視界がぼやけた。
「うっ……ううううッッッッッ!」
突き上げるような慟哭が襲ってきて、不二は耐えきれず嗚咽を漏らした。
「……手塚ッ、手塚ッッ!」
激しく身体を揺さぶると、操り人形のように手塚ががくがくと揺れた。
黒髪が舞って、美しい残像を作る。
力を失った腕が、奇妙な形を描いて揺れる。
そのまま激しく動いて、最後に、手塚の体内深く精を吐き出すと、不二はふらりと立ち上がった。
どさり、と手塚の身体が力無く床に放り出される。
ぴくりとも動かず倒れたままの手塚の内股に、ほの紅い液体がとろりと流れ出す。






「ハハハ…………あはははッッッ………!」


不意に笑いが込みあげてきて、不二は両手で顔を覆った。
身体がよろけて壁に突き当たって、そこで壁伝いに座り込む。
「あははははッッッ」
笑いは止まらなかった。
身体を捩らせて、不二は笑い続けた。
部屋に笑いが幾重にも木霊する。
笑いは、最後には嗚咽に代わった。
笑っているのか、泣いているのか、もはや不二にも分からなかった。
ただ涙が溢れた。
両手の隙間から、涙が幾筋も不二の頬を伝い落ちていく。








両手で顔を覆ったまま、不二は泣き続けた。
涙は、後から後から溢れて、床に滴り落ちていった。
















FIN

暗くて救いのない終わりでした。ラブラブにはならないですよね〜、こういう話は(汗)