「してくれ、大石……」

不意に手塚が唇をぶつけるようにして口付けてきた。





片思い 
《4》














「ぅ……………」
ふっくらとした感触が脳を蕩かしてきて、大石は思わず手塚を抱き締めた。
「ん………ん………」
手塚が大石の口の中に舌を差し入れてきた。
熱く弾力のある舌の感触に、脳が沸騰するような興奮を覚えて、大石は戦慄いた。
これは、夢じゃないのか?
手塚が、彼の方から求めてきているなんて。
----------現実なのか?
「大石…………」
深い口付けを交わして、唇が離れると、手塚が大石をじっと見据えてきた。
「俺は、おまえに避けられるまで、本当はよく分からなかった。
 おまえのこと、好きかどうかなんて、考えたこともなかったから。
 おまえは、いつも俺の側にいてくれたし、いつでも俺を助けてくれて、それが当然だと思っていたから、考えたこともなかったんだ。
 でも、おまえに避けられて、初めて分かった。
 俺も、おまえのこと、好きだったんだ…………こんな事、したい、して欲しいと思うくらい………」
手塚が伏し目がちに視線を揺らして、小さな声で言ってくる。
大石は呆然として、それを聞いていた。
まだ、信じられなかった。
「大石…………してくれよ…………」
手塚が思いきったように言うと、大石のズボンに手を掛けた。
「て、てづか…………」
ジャージを引き下ろされて、大石は慌てた。
「で、でも……」
「……嫌なのか?」
「ち、違うけど…………でも、ここ、部室だぞ?」
「いいじゃないか、誰もいないし。………それに、今おまえと離れたくない………」
しっとりとした、濡れた声。
あの手塚が、本当にこんな台詞を言っているのか。
大石は、まだ呆然としていた。
動けないでいると、手塚が大石のジャージを脱がせて、下半身に頭を埋めてきた。
「………て、てづかっ!!」
すっぽりと、自身を手塚が咥えてきて、大石は驚愕した。
「ちょ、ちょっと、手塚!」
自分の予想以上に早く進展する事態に、大石は為す術がなかった。
こんな事、手塚がするのか?
本当に、手塚が?
呆然としたまま、下半身で動く黒い頭を見つめる。
さらりとした髪が揺れて、時折上目遣いに見つめられ、大石はぞくり、と背筋が震えた。
たちまち、其処が勃起してくる。
クチュ……と濡れた音が部室に響いて、その音にも大石はびくっとした。
舐められて、舌で先端部分を擦られて、鋭い快感が駆け上がってくる。
「ぅ…………て………づか………!」
大石は頭を振って、快感をやり過ごした。
「だ、駄目だったら………手塚………」
不意に其処が解放され、大石は深い溜め息を吐いた。
後少しで、イってしまう所だった。
肩で大きく息を吐きながら、なんとか身体を鎮めようとしていると、手塚が大石の身体の上に乗ってきた。
「………手塚?」
ぺろり、と手塚が指を自分の口腔内に入れて濡らし、その指を背中から回して、自らの秘孔に唾液を馴染ませている。
「……………てづか…………」
真剣な表情に、大石は抵抗できなかった。
ただ呆然として見ていると、何度かそうやって入り口を馴染ませた手塚が、下唇を噛み締めて、大石自身を秘孔に押し当てると、ぐっと身体を沈めてきた。
「手塚ッ!!」
手塚の狭い肉輪が、痛いぐらいに自分を締め付けてくる。
まさか、手塚が…………………!
「くっ…………!」
痛いのだろう、手塚が苦しげな呻きをあげた。
「だ、駄目だっ、手塚っ!」
狼狽して、手塚の身体を押しのけようとする。
が、手塚にきり、と睨まれて、大石は手を止めた。
自分だって、締め付けられて痛いんだから、手塚はどんなに痛いだろうか。
しかし、手塚は唇を噛み締めて、身体を震わせたまま、根元まで大石を飲み込んだ。
「だ、大丈夫か……………?」
大石の腹に手を付いて、はぁはぁと身体を震わせながら息を吐く手塚に、恐る恐る声をかけると、俯いていた手塚が顔を上げた。
---------ドキン。
目元に涙を溜め、少々厚めの唇を戦慄かせて、切なげに見つめてくる表情に、大石はぞくりとした。
手塚の中に入っている性器が、大きく蠢く。
その動きを感じたのか、手塚が眉根を寄せて苦しげに息を吐くのが、喩えようもなく扇情的だった。
痛いのだろう、白い額に、汗が滲んでいる。
「ごめん……………」
思わず謝ると、手塚がぎっと睨んできた。
「なんで謝るんだ!…………俺は……俺はおまえが………ッ!」
言葉がうまく出てこないのか、手塚は唇を噛むと、俯いた。
それから、堰を切ったように腰を動かし始めた。
「てっ、てづかッッ!!」
狭く熱い肉壁に擦られて、快感が波のように送られてくる。
大石は、手塚の動きにとても太刀打ちできなかった。
今まで一度も感じたことのないような、途轍もない快感が次から次へと押し寄せてくる。
「う………く………ッッ」
痛みを堪えているのか、漏れ聞こえる手塚の呻きさえもが、大石を煽った。
「ぅ……………ッッ!」
忽ち興奮が大石の全身を凌駕し、大石は手塚の熱い内部に、思いの丈を解き放っていた。














身体を離すと、手塚の下半身から桃色の粘液が垂れているのが分かって、大石はぎょっとした。
放心したように手塚がぼんやりと壁に凭れる。
慌ててタオルを持ってきて、大石は手塚の脚の間を丁寧に拭った。
自分の吐き出した精液と一緒に、鮮血がタオルに付いてきて、大石はなんとも言えない気持ちになった。
こんな事をさせてしまうほど、自分は手塚を追いつめてしまったのだろうか。
-----オレは、自分の事しか考えていなかった。
自分が、手塚に嫌われたら傷付くと思って、それが怖くて、手塚を避けていた。
その間、手塚は、すごく辛かったんだ。
手塚の気持ちなんて、考えてやらなかった。
自分の気持ちばっかりで、………あんなに手塚のこと、好きだって思ってたはずなのに。
その大切な手塚に、酷いことをしてしまった。
こんな事を--------手塚の方から無理矢理に誘うなんて事を----------させてしまうなんて。
オレは…………………。
体液や汗のこびりついた身体を綺麗に拭うと、大石はそっと手塚に服を着させた。
糸が切れた凧のようにぼんやりとしたままで、手塚が素直に大石に従う。
自分も服を着ると、大石は手塚のテニスバッグも一緒に背負った。
「立てるか?」
「……………」
手塚が途方に暮れたような瞳で、大石を見上げてきた。
抱き締めたいような衝動に駆られたが、大石はぐっと我慢して笑顔を作った。
「帰ろう、手塚。……オレ、おまえのうちまで送ってくよ……」
「大石………」
「そんで、明日も朝おまえんち寄ってく。……休み時間も、おまえのクラスに遊びに行くよ。………あんまり行くと邪魔かな?」
「……………」
手塚が首を振る。
涙がつつっと頬を伝って一筋流れた。
「ごめん、手塚…………」
手塚の手を取って立ち上がらせながら、大石は言った。
「もう、オレ、おまえの側を離れたりしないよ。……絶対。おまえがオレをいらないっていうまで、オレはずっとおまえの側にいるよ」
「いらないなんて、言わない………」
「……そうか?……じゃあ、ずうっとだな!」
努めて明るい調子で言うと、手塚が僅かに微笑んだ。
「好きだ、手塚……」
立ち上がった手塚をそおっと抱き締めるようにしながら言うと、手塚が恥ずかしそうに身じろいだ。
「………ああ………」
安心したような声。
大石は胸が一杯になって、涙が滲んできた。
こんな幸福、本当にあっていいんだろうか。
オレは、手塚と相思相愛で、しかも、手塚ともう、他人じゃないんだ…………。
夢みたいだった。
でも、夢じゃない。
オレの腕の中には、手塚がいて、オレを好きだって言ってくれてるんだ。








痛みでよく歩けない手塚に肩を貸しながら、大石は幸福な気持ちに包まれて、帰途についたのだった。
















FIN

手塚がえらく積極的ですが、こういう手塚好きですv