NIGHTMARE 《3》
「なんや、もしかしてアンタ、バージンか?」
忍足が意外だという声で言ってきた。
「てっきり監督はんに抱かれてる思うたんやけどな。……そうか、あの監督はん、そういう趣味ないんか…………ま、ええか」
一人で納得して、忍足は含み笑いをした。
「アンタ、ほんまに初めてなんやな?……ちょっとびっくりや」
ぐいぐいと太い指が、跡部の体内に入ってきた。
それと共に、なんとも表現しようのない吐き気が込み上げてくる。
------どうしてこんな事をされなければならないのか。
鼻の奥がつぅんとしてきて、跡部は必死で唇を噛んだが、堪えきれなかった。
「なんや、泣いとるんか?」
忍足が驚いたような声を出してきた。
「もしかして、こういう事、全くやったことないんか?……女とも、無いんか?………そうなんか……」
実のところ跡部は、同性は勿論の事、異性とも性的な接触を持ったことはなかった。
いろいろ遊んでいるように思われていることは知っていたが、実際には跡部はかなりストイックな性格であったし、何より、他人と必要以上に接するのが煩わしいと思う性格だった。
相手の気持ちを気に掛ける手間を考えると、自分で処理していた方がずっといい。
そういう考えの持ち主だった。
だから、決まった相手もなければ、遊びもしていなかった。
しかし、周囲からは、遊び人だと思われているようで、それは忍足も例外ではなかったらしい。
跡部の反応に、忍足は、少なからず驚いているようだった。
「……そうか。アンタ、結構うぶやったんやなぁ。それは悪い事したわ……」
「……だったら、抜けよ!」
忍足に妙な所で気遣われたのが口惜しくて、跡部は顔を背けてそう言った。
「……アンタ、ほんま可愛ええなあ。ますます気に入ったわ……」
しかし、忍足は、指を抜く気などはさらさら無いらしく、嬉しげにそう言うと、更に指を内部で蠢かしてきた。
どうにかして忍足から逃れようとしても、腕が縛られているので上半身は殆ど動かせない。
そして、忍足の太い指が腸壁を擦りあげてくる衝撃も、跡部の余裕を失わせていた。
忍足が慣れた様子なのも、跡部には恐怖だった。
もしかしたら、こういう事をよくやっているのかも知れない。
忍足が実際はどういう人物なのか、考えてみると、跡部は何も知らなかった。
知っているのは、忍足が関西から転校してきたという事だけだ。
つまり、こちらに越してくる前の彼については、何の情報もない。
それだけに、一層忍足に対して恐怖が募った。
必死で耐えていると、忍足がもう一本指を増やして、乱暴に肛門に埋め込んできた。
「……うッッ……!!」
粘膜が引き攣れて、鋭い痛みが走る。
跡部は思わず瞳を閉じて呻いた。
「………どうや?」
言いながら忍足が、二本の指で掻き分けるようにして内部を刺激してきた。
「……………!!」
内部のどこかを擦られて、脳髄まで痺れるような快感が突き上げ、跡部は驚愕して忍足を見上げた。
忍足が眼鏡の奥の目を細めて、にやりと笑った。
「ここがええようやな?」
「……よせッ!」
感じる点を指で擦られ、堪えきれず跡部は頭を激しく振った。
「こっちも大きゅうなってきたで………?」
忍足が、跡部の勃ち上がってきた性器を左手で握り込んできた。
強く握られて、背筋を電流が突き抜け、跡部は背骨を反り返らせて呻いた。
「ふーーん、結構感じやすいんやな。………こりゃ楽しめそうや」
自慰で得ていた快感とは比べものにならないほど、鋭く深い快感。
しかも、それを忍足から与えられているという事実が、跡部を打ちのめした。
何より、跡部にとってショックだったのは、忍足に無理矢理にこういう事をさせられて、屈辱と憤怒で悶死しそうな程なのに、身体は快感を感じているという事だった。
最初感じた痛みももう無くなり、前と後ろから愛撫されて、全身が震えるような快感が突き上げてくる。
跡部がイきそうなのが分かったのか、忍足は性器を掴む手に力を込め、激しく上下に扱きあげてきた。
「……………!!」
歯を食いしばって耐えようとしたが、無理だった。
目の前が真っ白になるような快感が押し寄せてきて、次の瞬間、跡部は忍足の手の中に濁った粘液を迸らせていた。
「やっぱり慣れてないようやな、反応がうぶやわ、アンタ。
知らなかったなぁ、アンタがこういう事に疎いやなんてな。てっきり経験豊富だと思ってたんやで?……男も女もいける口やと思うてたんやけどなぁ。
……ま、でも感度が良さそうなんで、嬉しいわ」
忍足がくすくすと笑いながら、左手に溜まった精液を跡部の肛門に塗りこんできた。
「アンタがてっきり監督はんを誘惑して、ヤってると思うたんやけどな。結構真面目なテニス部員だったんやな。思い違いしてすまんわ。
オレも、実のところここまでやろうとは思ってへんかったんやけどな、……けど、アンタがあんまり可愛ええもんで、もう我慢できへんわ。
悪いけど、アンタのバージン、いただくで?」
そう言って忍足が、ジャージから勃起した彼自身を引き出す。
跡部の両脚をぐい、と広げて抱え、今まで指が埋め込まれていた肛門に、硬い肉棒を押し当ててくる。
跡部はそれを呆然として見た。
何か言わなければと思うのだが、言葉が出ない。
呆けたように忍足を見上げているのが分かったのか、忍足が苦笑した。
「アンタ、ほんま、うぶで可愛ええわ。オレ、ほんま好きになりそうやで?
……ほな、行くで?」
次の瞬間、信じられないような痛みが、瞬時に肛門から脳天まで駆け上がってきて、跡部は顎を仰け反らせて身体を痙攣させた。
脚の間から、身体が二つに引き裂かれて、その間に熱い楔がぐいぐいと打ち込まれる。
目の前が霞んで、思わず目を瞑ると、目の裏で極彩色の光が瞬間的に明滅した。
「きっついなあ………やっぱりバージンは違うわ………」
鼻歌でも歌いそうな感じでそう言いながら、忍足は跡部の腰をがっちりと押さえた。
ソファを壊すほど揺らしながら、抽送を始める。
「………う……くッ…………うッッッッ…………!!」
忍足が入っている所、自分の体重の掛かった手首、忍足の重みで広げられた内股、全てが引き攣れるように痛んで、どこがどこやら判別もつかなくなる。
抵抗する気概も無くなって、跡部はただ忍足に揺さぶられるままに、喘いだ。
「やっぱり最初は痛いだけやろな。……悪いなあ、跡部……」
痛みとショックで正気を失っているような跡部を見て、忍足が肩を竦める。
「次はもっと可愛がったるさかい、今日は許してや。オレももう限界やで」
一応跡部に断りを入れて、それから忍足は抜き差しを激しくした。
部屋の中に、荒い息づかいと、ぐちゅ、という粘膜同士の擦れあう淫猥な音が響く。
薄暗くなった部屋に、窓からぼんやりとした夕闇が忍び寄ってきて、跡部の白い肌に微妙な陰影を付けた。
程なくして、忍足が絶頂に達し、跡部の腸内に白い精液を叩き込んできた。
最後の一滴まで放出して、満足げに息を吐いて、楔を抜く。
ずるり、という感触と共に、自分を蹂躙していた熱い灼熱の棒が抜かれるのを、跡部はぼんやりと感じていた。
仰向いた目には、薄暗くなってぼやけた天井と、窓枠が黒々と浮かび上がった宵の空が見えた。
-------どうしてこんな事になったのか。
一体自分は何をしているのか。
-------されたのか。
現実をちゃんと把握しているようで、実のところ頭は全く働かない。
ただ、脚の間に入り込んでいた身体と、体内を抉っていた異物が出ていって、それだけでも跡部はほっとしていた。
安堵すると、意識が飛びそうになる。
そのまま数分ぼんやりしていたのだろうか、ふと我に返ると、忍足が縛っていた跡部の腕を解いていた。
ずきずきと鼓動に合わせて肛門が痛んで、微かに呻きながら忍足を見上げると、忍足は既に制服に着替え、飄々としたいつもの表情で、跡部の衣服を整えていた。
見ると、いつの間にか、ズボンも穿かされており、忍足がシャツのボタンを留め、器用に跡部のネクタイを締めているところだった。
「ほら、できあがりやで?……帰ろうか?」
まだ、呆然としたような表情をしていたのだろう。
忍足がにっと笑って、跡部に話しかけてきた。
「……どうや、歩けそうか?」
聞かれて跡部は、思わず顔を背けた。
何を話していいか分からない。
こんな風に扱われたことなど一度もなかったし、自分にあんな事をしてくる人間もいなかったから、どう反応していいか分からなかったのだ。
黙ったままソファから立ち上がると、ずきん、と鋭い痛みが背骨を駆け上がって、跡部は思わず蹌踉めいた。
「やっぱり痛いんか?」
蹌踉めいた跡部を優しく抱き締めて、忍足が跡部の耳に囁いてくる。
「今日は悪いことしたな。今度はゆっくり可愛がったるさかい……」
低く通る声で囁かれて、ぞくり、とする。
「……ふざけた事、言ってんじゃねぇ……」
漸くのことで、跡部はそれだけを喉から絞り出した。
忍足が、口の中で含み笑いをした。
「ま、そう言うなや。オレ、アンタのこと好きになったようなんや。アンタみたいに可愛ええやつ、おらへんわ。ほんま、最高やで、景吾……」
突然名前で呼ばれて、跡部はぎょっとして忍足を見た。
「二人だけの時は、オレのことも、侑士って呼んでや」
「……ざけんな!」
しれっとした物言いに思わずむかっとして睨み付けながらそう言ったが、忍足には全く効いていないようだった。
「まぁ、ええからええから。はよ帰ろ?……どうや、バッグ持ったるよ?」
跡部が何か言う前に、忍足がさっと跡部のテニスバッグを抱えてしまった。
「いっつも樺地が持っとるやろ?……今日は樺地がおらへんから、オレが持ったるわ。優しい男やろ、オレ?」
どうにも調子が狂って、跡部は不機嫌に眉を顰めたまま、歩き出した。
歩く度に身体の中心がずきずきと痛んだが、痛いという事をこれ以上悟られるのは我慢できなかった。
「家まで送ったるわ」
跡部の後に続いて部室を出た忍足が、部室の鍵を掛けてから、跡部に追いついてきた。
「……うぜぇから付いてくんなよ」
「ま、そう言わんとき。よう歩けないやんか、景吾?」
校門を出たところで、忍足がさっと手を挙げてタクシーを止める。
停車したタクシーに跡部を押し込むようにして座らせると、忍足もその隣に座った。
「アンタんち、どこや?」
渋面を作ったまま、跡部は運転手に小さな声で自宅の住所を告げた。
運転手が頷いて、タクシーが走り出す。
5分ほど走って、高級住宅街の一角にある跡部邸にタクシーが止まった。
忍足が運転手に金を払うと、さっと立ち上がって、跡部に手をさしのべた。
「ほら、遠慮せんで……」
強引に抱きかかえられ、タクシーから降ろされる。
門扉を開けても、忍足が付いてこようとしたので、跡部は、
「もう付いてくんなよ」
と、忍足を睨んだ。
「怖いな〜、景吾は……」
忍足が嬉しそうに笑う。
「でも、そういう顔も可愛ええわ。な、オレのこと、好きやろ?」
「んなわけねえだろ!」
だいたい、今日の事は二度と思い出したくもないほど頭に来ているというのに、どうしてこの男はしれっとして失礼な事を言ってくるのだろう。
「……二度とオレに近付くんじゃねえ!」
門扉を隔てて中に入ると、跡部は少々元気が出てきて、それと同時に、怒りが再燃してきた。
「ま、ええよ。今日の所は、これで帰るわ。……でもな、景吾。今日のことは事実やで。アンタ、オレに抱かれたんや。その事忘れんようにな……」
忍足がテニスバッグを跡部に差し出してきた。
受け取ろうと手を伸ばしたところを、ぐい、と掴まれて、跡部は門扉越しに抱き締められた。
その耳元に宣言のように呟かれて、跡部は唇を震わせた。
「アンタの事、好きや………」
ぞくり、と身体が震えた。
「ほな、さいなら」
ぱっと身体が離されて、忍足がくるり、と踵を返す。そのまま小さくなっていく後ろ姿を、跡部は渾身の力を込めて睨み付けた。
FIN
というわけでいつの間にかラブラブ??