THROTTLE












特別棟の4階の西の外れのトイレは、オレ専用だった。
生徒は誰もオレを怖がって来やしねえし、センセイ連中もここまで巡回にはこない。
その日もオレは授業を途中で抜けて、トイレの便器に座ってぼんやり煙草をふかしていた。
紫煙がトイレの大きな窓から流れて、窓枠で切り取られた四角い青い空に吸い込まれていく。
あぁ、怠い。
つまらねェ。
珍しく朝から学校なんかに来たのが間違いだった。
別に出席日数なんか気にしてねえし、ちょっとでも顔を出せば、はっきり言ってその日は出席になる。
オレの顔色をおどおどと窺いながら、卑屈な笑いを浮かべて機嫌を取ってくるセンセイ連中を揶揄うのも、いい加減飽きてきた。
何をやっても、面白くねェ。
今日はじーさんがどうしても来いっていうから、わざわざ朝から来てやったっていうのに、当のじーさんが午前中は出張でいやしねぇ。
このまま帰っちまうかとも思ったが、じーさんに会わねぇで帰るのは、少々気が引けた。
これでも一応、じーさんとの約束だけは反古にしねぇようにしている。
「……くそ」
小さく悪態を吐いて、オレは新しい煙草を取り出した。














------バタン。
間が悪い。
ここまで誰も来やしねえと思っていたのに、誰か来やがった。
「……だ、誰かいるのか?」
しかもセンセイかよ。
便器から立ち上がって個室を出ると、出入り口のドアの所に、若い男が蒼白になって立っていた。
おっと、今年教員になったばっかりのイマイじゃねえか。
「亜、亜久津………煙草吸っていたな!」
声が震えてるよ、センセイ。
オレはにやにやした。
「……た、煙草、出しなさい!」
足が竦んでやがるじゃねぇか。
オレは大股でゆっくりと、センセイの前へ歩いていった。
イマイがびくっとして後ずさる。
「よー、センセイ……煙草なんか、吸ってねえぜ?」
「な、何言ってるんだ!今、煙が…」
「……ああ?……んだよ、テメェ、オレに濡れ衣着せようってのか?」
顎を突き出してイマイを威嚇すると、イマイがおかしなほど震えだした。
涙が滲んでやがる。
「……そ、それが教師に対する態度か!」
って、テメェがそんなに震えてるんじゃ、教師もクソもねぇだろ?
「アンタ、いたいけな生徒に無実の罪着せるってのか? 教育委員会に訴えてもいいんだぜ?」
イマイが泣きそうになった。
「だ、出しなさい!」
「持ってねえって言ってんだろ!」
泣きそうなくせにしつこいので、オレは苛々してきた。
肩をいからせて、イマイを顔を斜めにして睨みあげてやる。
「……おぅ、オレを怒らせんじゃねェ……」
----------バタン。
「あ、センセイっ」
突如、緊迫した空気に似合わない、明るい声がトイレに響いた。
イマイが目に見えてほっとする。
「センセイ、下で教頭先生が呼んでますよ?」
「そ、そう、………ありがとう、千石」
渡りに船とばかりに、イマイは脱兎の如く走り去っていってしまった。
「……んだよ、テメェ………」
もうちょっと、イマイをいたぶってやりたかったのに、くそ。
と思って、入ってきた千石を睨む。
「駄目だよ、亜久津……」
千石が人なつこく笑い掛けてきた。
こいつはオレを怖がらねぇ。
それどころか、妙に馴れ馴れしく話しかけてくる。
どこで聞きつけたのか、オレがここでよく煙草を吸ってるのも知っている。
「センセイを苛めたりしちゃ。可哀想だろ、イマイセンセイ」
「どこがだよ?」
「……だって、亜久津に凄まれたら、怖いって……」
「テメェはどうなんだよ?」
ばかばかしくなって、オレは便器に腰掛けて、煙草を口に咥えた。
「テメェも出てけよ」
「イマイ先生が、誰か連れてきたらどうするの、亜久津?」
「うっせえ、出てけ!」
さっきからイマイにしろ千石にしろ、周りがしつこく煩いのに、いい加減オレはキレてきた。
オレを覗き込むように見ている千石の胸倉を掴む。
「うわっ、乱暴〜〜!」
口ではそう言いつつ、全然怖がっていない様子なのが気に入らねぇ。
こいつは、暴力や脅しには慣れてるのかも知れねぇな。
…………じゃあ、これでどうだ?
オレは右手で、千石のペニスを学生ズボンの上から掴んだ。
「ひぁ!」
これには千石も驚いたようだった。
「あ……や、やだ………!」
さっきまでの余裕かました態度が消え、羞恥の色が千石の顔に浮かぶ。
へぇ、千石がこんな顔するなんてな。
今までテニスでもなんでもオレに煩くまとわりついてきて、何言ってもへらへらしてやがったこいつの初めて見る表情に、オレは急に興味を感じた。
そのままペニスを手で掴むようにして扱いてやる。
手の中で千石のソレがむくむくと大きく変化してくるのが分かった。
「なにおっ勃ててんだよ?」
千石の耳元で囁いてやると、千石が頬をぱっと赤くさせた。
………結構、可愛いじゃねぇか?
じーさんが来るまでどうせ暇だし、ちょっとこいつで遊ぶか?
オレは千石を便器の上に乱暴に突き倒すと、千石が抵抗を始める前に、素早くズボンを引き剥いだ。
それから両脚を思い切り掴んで広げさせる。
「…………!!」
千石は驚いて声も出ない様子だった。
こいつの余裕のない表情を見ると、妙にわくわくした。
直にペニスを握り込んでやると、千石がびくっと身体を震わせてオレにしがみついてきた。
「や、やだ……」
とか言いつつ、そんなに嫌でもねえ様子だ。
なんだよ、結構好きなのか、もしかして?
手の中で熱く跳ねるペニスをぎゅっと掴んで、根元から先端まで何回か扱いてやる。
「あ………あッあッ!」
千石が甘い声を漏らした。
結構、……腰に来た。
ずくん、とオレのペニスも疼く。
悪かねえな、こいつ………。
「や………あ………くつ………ッッ!」
オレの腕に縋って、顔を嫌嫌をするように振るところなんて、結構そそる。
意外と可愛い顔してるしな。
厚めの唇から覗く舌とか、大きな目とか、よく見ると色っぽい。
上機嫌で、きゅっきゅっと千石を扱くと、千石は呆気なくオレの手の中に生暖かい粘液を迸らせた。
その粘液を、千石のアナルに塗り込めてやる。
「や………ぁ………?」
千石はまだ事態がよく飲み込めてないようだ。
抵抗される前に、ヤっちまおう。
適当に精液を塗り込め指で解すと、オレはズボンからペニスを引き出した。
千石のアナルにあてがい、一気に挿入する。
「いたぁッッッ!!」
千石がオクターブ高い声を出してきた。
「おい、でけぇ声出すなよ! 困るのはテメェだろ?」
まぁ、スムーズに入るとは思っていなかったが、千石のアナルはきゅうきゅうとオレを締め付けてきて、その刺激だけでもイってしまいそうに良かった。
オレは歯を食いしばって根元までペニスを突き込むと、千石を揺さぶりながらピストン運動を始めた。
「あ……い……た………あ……くつ………いたッッッ………!」
千石が涙声で切れ切れに呻く。
オレのシャツを千切れそうになるほど強く掴んで、必死でオレの動きに合わせてくる。
結構けなげな所が気に入って、オレは千石を揺さぶりながら、優しく髪を撫でてやった。
何度か突き上げると、オレも限界が来た。
……なんか、今日は早いな。
そう思いつつ、千石の奥深くに精液を叩き込んでやる。
「や…………ッッッ!!」
オレが放ったのが分かったのか、千石が身体を震わせた。
固く閉じた目尻に涙がたまっている。
オレは肩を竦めて、千石から身体を離した。
どさり、と力無く便器の上に座って、千石が涙の溜まった目をごしごしと擦った。
「……よぉ、どうだった?」
新しい煙草に火をつけながら、オレは個室の壁に凭れて千石を上から見下ろした。
「男にホられた気分はよ?」
千石がオレを見上げてきた。
------ドキン。
千石の充血した大きな目を見た途端、オレの胸が何故か痛んだ。
……なんだよ、コレ。
「亜久津………痛いよ………」
千石が心細げに言ってくる。
オレはなんとなく落ち着かなくなって、煙草をむやみやたらとふかした。
千石がオレをじっと見上げている。
嫌な気分だ。
なんだか、悪いことをしたような気になる。
元はと言えば、テメェがしつこくオレにちょっかい出してくるから悪いんだ。
…………くそ。
「……じーさんに会ってくるわ」
煙草を洗面台に投げ捨てると、オレは千石に背を向けた。
「亜久津………?」

気安くオレの名前を呼ぶんじゃねぇ。



オレはテメェの事なんか、好きでも何でもないんだ。
ただの暇つぶしだったんだ。



トイレに千石を置き去りにして、長い廊下を歩いている間、オレは心の中で何度もそう呟いていた。















FIN

4月2日が亜久津の誕生日だと聞いて、じゃあ何か〜とか思ってこれ(笑)