ACCELERATOR












そろそろ試合も近いから、練習に出てこいとじーさんに言われて、オレはしぶしぶ登校した。
今日は練習するためにだけ出てきたので、学校に着いたのは午後3時頃だった。
「あ………亜久津、……おはよう」
学校について昇降口から土足のまま上がった所で、担任のカトウにばったり出会った。
カトウは30過ぎのうだつのあがらない男で、ずり下がった眼鏡とすでに禿げ始めた頭が特徴の、冴えないヤツだ。
オレを見て、おどおどと卑屈な笑いを浮かべている。
「…………」
こんなヤツと口を利くのもかったるかったから、オレはじろりと一瞥をくれてやった。
「亜久津………ちゃんと授業出ないと、駄目だろう?」
「……うるせえな」
オレにぶるってるくせに、たいそうな口きくんじゃねぇ。
ぎろり、と睨むと、カトウはぎょっとして後ずさった。
けっと唾を吐いて、オレはさっさと歩き始めた。
下校途中のやつらがオレを遠巻きにして、こそこそ話している。
オレが睨むと、微妙に視線をずらし、口を噤む。
くそ、気にいらねぇ。
本当は教室に寄っていくつもりだったが、オレはそのまま外に出た。














コートに行っても、他人の、オレに対する態度が変わるわけでもなかった。
オレを遠巻きにしてこそこそとしゃべったり、オレがじろりと睨むと、そそくさと離れていく。
別にそれはそれでかまわねぇんだが、真面目に練習をしなくてはならないのがだるかった。
どうせ、オレと対等に打ち合えるヤツなど、いやしねぇ。
室町や南と適当にラリーをして、一息吐く。
「……あ、亜久津〜」
脳天気な声が聞こえてきた。
---------千石だ。
ばたばたと走ってくる音が聞こえて、後ろからぱふっと抱き付かれた。
「亜久津っ、練習出てきたんだ?」
渋面を作って振り返ると、千石が満面の笑顔でオレを見上げてきた。
懲りねぇヤツだ。
この間、手酷く犯してやったのに。
「ね、亜久津、オレとラリーやってよ? こっちこっち」
オレの手を取って、ぐいぐいと引っ張る。
こいつは、オレが怖くねぇんだろうか?
オレを怖くねぇと言うヤツは結構いる。
………勿論、口だけだ。
オレがちょっとボコってやると、それまでだ。
もう二度と、そんな事は言わなくなる。
………なのに、こいつは違った。
オレに強姦されたっていうのに、前よりも馴れ馴れしい。
やっぱ、ボコればよかったのか?
いや、こいつには利きそうにないと思ったから、もっとこいつに恥をかかせてやれる方法にしてみたんだった。
しかし、どうも、計算違いだったようだ。
というか、こいつは何をされてもこたえないのか?
「亜久津、行くよ〜?」
千石が機嫌よさそうにボールを打ってきた。
「…………」
なんとなく気が抜けて、オレは適当に返した。
「……こら、ちゃんと真剣にやってよ!」
千石のヤツ、マジに怒ってやがる。
「こっちから行くよ〜?」
突然、鋭いサーブが襲ってきた。
千石の得意な『虎咆』だ。
勿論、オレが取れねぇ球じゃねえから、素早く返してやった。
千石の取れねぇ場所へ。
「ちょっと〜、試合じゃないんだから、あんまり苛めないでよ〜」
千石が唇を尖らせる。
なんだか、緊張感がねえ。
これじゃ、オレと千石が仲良しみてぇじゃねえか。
現に、周りで見てる奴らが和んでやがる。
オレは舌打ちして、コートから出た。
「亜久津、どうしたの、もうやらないの〜?」
じーさんを見ると、今日はいいだろうという顔をしていたので、オレは後ろからしつこく話しかけてくる千石を無視して、部室に戻った。














山吹中テニス部の部室は二部屋に分かれていて、オレは奥の物置部屋の方に入ると、煙草を取り出した。
一服して、着替えたらさっさとずらかろう。
他の奴らと仲良く練習するなんざ、全くオレの性に合わねえ。
反吐が出る。
物置部屋は、薄暗かった。
部屋の隅にボールカゴやらラケットやらが積んである。
手前の古びたソファに腰掛けて、煙草に火を点けようとすると、
「……亜久津っ!」
-------ちぇ、ここまで追ってくるかよ。
千石だった。
「折角来たのに、もう帰っちゃうのか? もう少し一緒に練習しようよ……」
オレの前まですたすたとやってくると、千石は馴れ馴れしくオレの隣に腰掛けてきた。
「てめぇらとやってもつまらねえ。オレより強いヤツがいねえじゃねえか?」
「……う、………そ、それはそうだけど…………でも、オレ、亜久津とやりたいな!」
めげねえヤツだ。
それに、オレを全然怖がってねえ所が気に障る。
この間の事、忘れてんのか、おい?
「……オレは、こっちがやりてえな……」
そう言って、オレはぐい、と千石を引き寄せると、ソファに押し倒した。
「や………あ、亜久津っ!」
千石が狼狽したような高い声をあげる。
なんだ、こういう事されるって予想していたわけじゃねえのか?
ここまで来るって事は、オレにヤられたいってことだろう、千石?
「ちょ、……ちょっと待ってよ、亜久津!」
うるせぇから、オレは千石の口を左手で押さえつけてやった。
「ぅ…………!」
千石が驚いたように大きな目を見開いて、オレを見上げてくる。
オレはにやにやしながら、右手で千石のハーフパンツを引き下ろした。
ぐい、と足を広げさせてアナルに指を突き立てる。
「…………!!」
千石がびくん、と身体を震わせた。
濡れてねえからかなり痛いようだ。
「よぉ、でけぇ声たてるなよ?」
オレはそう言って、千石の口を押さえていた手を口の中に突っ込んで、指を濡らした。
その指を、千石のアナルに突き立ててやる。
「……やッッ!」
千石が、困惑気味に頭を振った。
やっぱり嫌がってるわけでもねぇな?
こいつ、こういう事好きなのか?
ちょっと意外だった。
千石は表向き優等生で、こんな事をされて喜ぶようなヤツには思えなかったからだ。
……オレのことが好きなのか?
…………まさかな。
オレは指をアナルの中で掻き回した。
ほどよく広がったところで、ジャージから引き出した自分のペニスをあてがう。
千石がぎゅっと目を瞑って、オレにしがみついてきた。
なんだよ、すっかり準備しているぜ、こいつ。
わかんねえヤツだな。
…………まぁ、いいか。
オレは一気にペニスを千石の内部に突き入れた。
千石が、オレの服を千切れるほど掴んでくる。
「おい、いてえのか?」
千石の腰を掴んで前後に揺さぶりながら聞くと、千石が小さく首を振った。
なんだ、痛くねぇのか。
それはそれで、ちょっと面白くなかった。
別にオレは、千石を喜ばせようとしてるわけじゃねえ。
こいつを気持ちよくしてやって、どうする。
オレは意図的に乱暴に、千石の内部を抉るようにペニスを突き入れてやった。
「あ………くつ………いた………ッッ!」
千石が涙声になった。
ぞくぞくした。
頭の芯が痺れてきて、腰がじんじんと蕩ける。
久しぶりに感じるセックスの快感だ。
その辺の女とヤるより、ずっとイイ。
オレは突き上げてくる快楽の波に任せて、激しく腰を動かした。
「や……あ……い………あ………くつ…………うッッ……!」
切れ切れな喘ぎが、やたら色っぽい。
絶頂がすぐにやってきて、オレは千石の中に大量に精液を流し込んでやった。
千石は、ずっとオレにしがみついていた。














なかなか気持ちいいセックスだった。
オレが満足して身体を離すと、千石がぐったりとしてソファに転がった。
「亜久津ぅ………」
千石の声がまだ濡れている。
結構可愛い。
着替えをしながら、オレは千石を見下ろした。
千石が大きな目を潤ませて、オレを見上げてきた。
「………んだよ?」
「……亜久津は、オレのこと、………好きなの?」
なんだか困惑したような声だ。
「……別に、好きでも嫌いでもねぇよ」
「だって………」
「………うぜえな。てめぇはどうなんだよ?」
「オレ?………オレは亜久津のこと、好き………」
ストレートに返されて、オレは返答に詰まった。
「………千石、てめぇホモか?」
「……違うよ。……亜久津だから、好きなんだよ……」
上目遣いに茶色の大きな瞳で見つめられて、ヘンな気分になった。
少々唇を尖らせて、千石がじっと見上げてくる。
「気色悪いこと言ってんじゃねえ!」
なんだか落ち着かなくなって、オレは千石を怒鳴りつけた。
千石がびくっと身体を震わせる。







オレはケッと唾を吐いて、部室を後にした。
もう千石には関わらねえ。
そう思いながら。















FIN

亜久津君一人称。だんだんキヨが好きになってしまって戸惑う仁君(笑)