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(亜久津はオレのこと、………嫌いなのかなぁ?)


昨日からそんな事ばっかり考えていて、ちっとも勉強が捗らないオレを、南が気遣わしげに見ているのが分かる。
オレ達-----オレと南は、南の家で勉強しているところだった。
来週、山吹中では5教科の校内模試がある。
山吹中は個性と自由を校風にしている学校で、制服さえちゃんと着ていれば髪の色とかそういう細かな所は煩く言わない、いい学校だった。
そのかわり、競争は厳しい。
成績もそうだし、スポーツや、あるいは芸能関係とか(で入学するヤツも多い)、とにかく一芸に秀でている生徒を集めるってのが、うちの学校の特色だ。
オレや南は-----一応テニスで入ってるけど、でも成績の方だって頑張らないと危ない。
南はいつも真面目で成績もいいから安心だろうけど、オレは結構ムラがあって、不得意な分野は駄目なんだ。
だから、南に教えてもらうことにした。
今度の模試の数学の範囲、ちょい苦手なんだよな。
南んちに勉強を兼ねて遊びに行くことは前々から約束してあったから、オレは部活の後、家に帰らずにまっすぐ南の家に行った。
でもさ、あんまり勉強する気分じゃないんだ。
頭の中は、亜久津のことでいっぱいで。
昨日、亜久津が珍しく部活に出てきたから、オレは嬉しくて、また亜久津にしつこくまとわりついてしまった。
そうしたら亜久津が怒って------あれは怒ってるんだよな-------また犯されてしまった。
っていうか、オレ、………亜久津にヤられるの、嫌いじゃ無いみたい。
昨日も亜久津に抱かれて気持ちよかったし、嬉しくなってしまった。
でも、亜久津は別に、オレの事なんてどうでもいいみたいだった。
単に、オレが煩くじゃれついてたから、抱いただけみたいだった。
きっと亜久津はそういう相手がたくさんいて、オレもその中の独りなんだろうな。
…………とか思ったら、すっごく悲しくなった。
オレ、亜久津のことが好きなんだと思う。
今まで、誰かのことを考えてこんなに胸が苦しくなったり、勉強が手につかないくらいそいつの事を考えたりなんて、したことなかった。
亜久津は、オレのこと、………なんとも思ってないよな。
オレを抱いたのだって、最初は強姦だし、どうみても遊びっていうか、単なる暇つぶし?
溜め息が出た。
オレ、亜久津に遊ばれてるんだよな。
たまたまオレがいたから、ちょっと抱いてみただけだよな。
オレだけマジになって、…………バカみてぇ。
「おい千石、何溜め息なんかついてるんだよ?」
はぁ、とテーブルに頬杖ついてがっくりしていたからか、南が話しかけてきた。
「あ、うん、………」
オレはテーブルの向かいの南を見た。
真剣な顔をして、額に皺寄せて、教科書と睨めっこしている真面目な南。
「……ねぇ、健ちゃん………」
ふとオレは心に浮かんだ事を口に乗せてみた。
「オレってさ…………抱いてみたいって思う?」
「……はぁ?」
「……男から見て、オレの事、抱きたいって思ってくれるかな?」
「…………?」
南が変な顔をした。
「ちょっと説明不足だよね」
オレは照れくさそうに笑った。
「男がさ、オレ見て、抱きたいとか、………うーーんと、真面目に付き合ってみたい、とか思ってくれるかなって………」
「……千石って………ホモなのか?」
「違うけど………でも、……やっぱ駄目かな。……オレなんかより、やっぱ女の子の方がいいに決まってるよね………」
亜久津はただからかってるだけなんだよな、きっと…………。
大きく溜め息を吐くと、南が眉を顰めた。
「別に………男とか女とか、そういう事で卑屈になる必要ないと思うけどな。……好きになったら、しょうがないんじゃないか?」
「ありゃ、健ちゃんって、すっごくリベラル……」
嬉しくなって、オレは南に笑い掛けた。
「……健ちゃんはどうよ?……もしオレがさ、健ちゃんに好きって言ったら、………やっぱ気持ち悪い?」
南の顔をのぞきこむようにしながら問い掛けると、一瞬南が大きく目を開いて、それから頬を染めた。
あれ、南ったら………照れてる?
「オ、オレは、別に………気持ち悪いなんて、思わねえよ……」
「……ほんと?」
「だって、千石は…………」
南が俯いた。
もしかしてさ、南ってば、オレのこと、………好きだったりして?
……なんて、そんな事ないだろうけど……でも、気持ち悪いとかそういうふうには思って無いみたいだな。
南が顔を真っ赤にしているのを見て、オレはなんだか嬉しくなった。
南には、オレが魅力的に映ってるってことだよな。
南、オレのこと、……抱きたいとか思ってくれてるのかな?
オレの興味は眼前の南に移った。
亜久津の事好きだってので悩んでたくせに………オレも結構気が多いかな?
「ね、健ちゃん………じゃあさ、オレがさ、抱いてって言ったら、……抱いてくれるの?」
立ち上がって、南の隣に座る。
そしてオレは南の手を取った。
「ねえ、どうなの?」
「オ、オレ………」
南が顔を背ける。
「………やっぱ、駄目?」
ちょっと悲しげな声を出すと、南がぱっとオレの方を向いてきた。
「せ、千石、おまえ………」
南ってば、結構格好いいし、真面目でいいヤツなんだよな。
浮いたうわさも聞かないし、奥手なのかな?
「健ちゃん………抱いて?」
オレは少々意地悪い気持ちになって、南に甘えてみた。
言いながら、南の唇に自分のそれを押し付けてみる。
「……………!」
あれ、……キスも初めて?
南がすっかり固まってしまった。
「健ちゃん………」
囁くように言って、唇を何度も押し付けて、舌で南の唇をなぞる。
「……せ、千石!」
突如南が噛み付くようにキスを返してきた。
どさっとそのまま押し倒されて、オレはちょっとびっくりした。
南、結構情熱的なんだ…………。
亜久津も、こんな感じでオレのこと求めてきてくれればいいのに。
……なんて瞬時思ってしまって、そんなことするヤツじゃないから、オレは亜久津のこと好きなんじゃないかって思ってみたりもした。
…………そうなんだ。
亜久津は………オレのことをぞんざいに扱う。
別に、どうでもいいみたいに。
ただの遊びの相手っていうか、そこまでも行かない、ただの欲望処理って感じで。
………だから、好きになったんだよな。
そんな風にオレを扱う亜久津が、好きなんだ。
「あ………ん…………」
南はすっかり興奮していて、オレのシャツを乱暴に剥いできた。
「健ちゃん、もっと………優しく……」
南の手がスボンの中に潜り込んできて、オレのペニスを痛いぐらいに握り込んできたので、オレは語尾を長くして甘えてみた。
「あ、ご、ごめん……」
「うん、いいから……ねぇ……」
自分からズボンを脱いで、オレは南の服も脱がせた。
南は、目に涙まで溜めていた。
なんか、オレが強姦してるみたいじゃないか?
ちょっと南が気の毒になった。
「ごめんね、健ちゃん…………」
謝罪の意味も込めて、オレは露になった南のペニスをそっと口に含んだ。
南のそれは結構大きくて、ぴくぴくと脈打っていて、オレは見た途端にどきんとなった。
オレでこんなに興奮してくれてるんだよな。
なんかオレって、…………南を悪の道に引きずり込んでるような気がする。
------まぁ、いいか。
オレは口を窄めて、根元から先端まで南のペニスを舐め上げた。
「あ………せ……んごく………ッ!」
南が形の良い男らしい眉を顰める。
格好いいよな、南も………。
ちょっとどきどきした。
南を唾液で充分に濡らして、それからオレは四つん這いになってアナルを南に向けた。
「ね、ここ、舐めて………?」
南がぎょっとする。
「濡らしてくれないと、南の入んないよ?」
「千石………おまえ、こういう事よくやってんのか?」
……今日で3回目だけど。
でもオレは、なんとなく慣れてるようなフリをした。
「早くぅ………」
振り返って南を誘うように見上げると、南がごくり、と唾を飲んで、ふらふらとオレのアナルに顔を近づけてきた。
ねっとりとした舌で舐められて、オレはぞくぞくした。
「あ………ん………」
南が興奮するようにわざと甘えた声をあげると、南がその度にびくっと反応する。
ちょっと嬉しかった。
南なら、オレの思い通りになってくれるんだ。
なんて考えたからだ。
南に悪いけど、でも嬉しくて興奮する。
「もう、いいよ。…………来て?」
ある程度舐められて濡れたところで、オレは身体の向きを変えて、手を伸ばして南のペニスを掴んだ。
熱くて硬くてすごかった。
ちょっと頭がぼぉっとした。
大きく足を広げて、アナルにソレを押し当てる。
「入れてよ……?」
南の顔を見上げながら掠れた声で囁くと、南がきつく唇を引き結んで、オレの腰を掴んできた。
「………………!!」
次の瞬間、熱い塊がずしん、とオレの中に突き入ってきた。
「……千石!」
南が低い声で言いながら、オレの中にぐいぐいとペニスを突き込んでくる。
南って、結構凄いんだ。
オレは全身が蕩けた。
とろとろになった中を南に貫かれて、快感が津波のように襲ってくる。
「あン………あッあッ………健………ッッ!」
オレはたまらず南にしがみついた。
「千石、千石ッッ…………」
一生懸命な南が気の毒になったが、でも気持ちがいい。
「ん………もっとッッ………健…………!」
南の息づかいや、汗に濡れた肌が心地良かった。
オレなんかに誘惑されて、呆気なくオレの言うなりになっている南が、哀れだった。
なんか、オレって…………サイテー。
オレは目を閉じて、南の動きに合わせて腰を振った。














「な、なぁ、………千石って、オレのこと、好きなのか?」
事が終わって、はぁはぁと忙しく息を吐きながら、オレがぼぉっとして南の腕に抱かれていると、オレの髪を撫でていた南が口ごもりながら聞いてきた。
「ん…………?」
南を見ると、南は顔を真っ赤にして視線をずらした。
南って純情なんだ。
ちょっと心がちくちくした。
「……健ちゃんはさ〜、どうなの?」
オレは反対に聞いてみた。
「オレは………千石のこと、好きだよ……」
南が恥ずかしげに告白してくる。
心が更にちくちくした。
どうしよう。
オレ、別に……南のこと、好きでも何でもない。
好きだよ、って言ってやればきっと南は喜ぶだろうけど、でも、真面目な南を騙すのは厭だった。
だって、南はいいヤツだ。
こんないいヤツをオレったら…………。









「あのさ〜、健ちゃん、男同士で好きも何もないでしょ?」
返答に困って、オレは殊更おどけて見せた。
南が目に見えてショックを受ける。
「千石………」
南が悲しげな目をした。
心がツキン、と痛んで、オレは南に抱きついた。
「いいじゃん、ね、もっと抱いてよぅ……?」
とりあえず何も考えたくなかった。
だって、オレだってよく分からない。
亜久津の事とか、南のこととか、自分の事とか。
なんだか頭が混乱して来ちゃったよ。







「……ね、もう一回やろ?」
オレは頭を振って囁くと、南を押し倒した。















FIN

千石君一人称。なぜか浮気しているキヨ。