RUBBISH
亜久津があからさまにオレを避けるようになった。
まず、部活に出てこない。
亜久津が部活に来ないのは今に始まった事じゃないから、それはいいとして。
学校で擦れ違っても、全くオレの方を見ようともしない。
それどころか、オレの姿を見た途端に、踵を返して去っていってしまう。
亜久津がよく煙草を吸っていた特別棟の4階の便所にも、こっそり何回か行ってみたけど、亜久津は一回もそこにやってこなかった。
やっぱり嫌われたのかな?
というか、最初から好かれていなかったんだよな。
亜久津にとっては、オレはただの暇つぶしって訳なんだよな。
オレがマジになって告白なんかしたから、気味悪がられて避けられてるんだろうな。
そう思うと、胸が痛んで、オレは涙が出そうになった。
俯いて唇を噛んで、なんとか耐えて、それからオレは、隣に立っている南をそっと盗み見た。オレたちは、部活が終了して、コートを見回って、最後に部室に入ってきたところだった。
他の部員はみな既に帰っている。
部室には、オレと南しかいなかった。
南も…………あんまり元気がなかった。
南のは、オレが原因だけど。
この間、南とセックスして…………あの時真面目に告白してきた南を茶化したら、それからずっと元気がない。
南を見るたび罪悪感というか、良心の呵責ってヤツで、オレは辛かった。
「健ちゃん………?」
ロッカーの前で、押し黙ったままの南をうかがうようにしながら、オレは南に話しかけた。
「ねぇ、…………大丈夫?」
オレが南の元気が無くなる原因を作っておきながら、大丈夫かと聞くのはヘンだったが、本当に南は元気がなかったんだ。
「別に…………」
南がオレから視線をずらしてぼそっと呟く。
「健ちゃん…………」
いつも優しい南がつっけんどんだと、オレもなんだか悲しくなってしまった。
「……この間は、……ごめんね?」
なんとなく謝ってみた。
そうしたら突然南がきっと顔を上げた。
「なんだよ、今更謝るなよ!」
----------ガタン!
肩を掴まれて、ロッカーに押し付けられる。
南がオレを睨んできた。
南の方がオレよりも少し背が高いから、オレは南の顔を見上げる格好になった。
乱暴な言葉使いなのに、南はとても辛そうだった。
オレのせいだ。
「……ごめん………健ちゃん………」
オレは胸が苦しくなって、そう言いながら、南の唇に自分から唇を押し付けた。
南がびくっとした。
南は…………怒っている割には優しくて、オレのコトが好きだから、乱暴なこととか絶対にしてこない。
今だって、………南にとっては、オレの肩を掴むくらいがぎりぎりなんだ。
それ以上の事なんて、南にはできやしない。
それが分かっているから、なおさら悲しかった。
南の首に手を回して、オレは南の唇を舌で舐めあげ、南が唇を開いた所にすっと舌を差し込んで、深いキスをした。
南がおずおずと、オレの腰に手を回してきた。
キスをしたまま、ずるずると頽れて床に座り込むと、オレは南のジャージを引き下ろし、自分のハーフパンツも脱いだ。
南のペニスは既に半分ぐらい勃ち上がっていた。
何回か扱くと、あっという間に大きくなった。
南の先走りの液で濡れた指を自分のアナルに挿入して、オレは南を迎え入れる準備をした。
「健ちゃん………して?」
あんまり準備が出来なかったが、ここで時間を取ると南が尻込みして萎えてしまうかも、と思って、オレは唇を離したときにそう囁いた。
足を大きく広げて、南のペニスを導く。
南が泣きそうな顔をして、オレのアナルにそれを突き立ててきた。
「……………ッッ!!」
思わず仰け反って天井を見上げると、少々汚れた白い天井に、窓から差し込んだ光が反射して、ぼんやりとカーテンの影を映しだしていた。
「千石………千石………ッッ!」
南の押し殺したような声が真剣で、オレは鋭い痛みに顔を顰めながらも、それよりも胸が痛んで、それを忘れるかのように南にすがりついた。
「健ちゃんッ………もっとッッ…………!」
----------ごめんね。
オレは亜久津が好きなんだ。
ごめんね、南。
おまえのことはいいヤツだと思うけど、でも、駄目なんだ。
セックスはできるけど、でもオレは本当は亜久津としたいんだ。
亜久津に抱かれたいんだ。
おまえがオレを好きなように、オレは亜久津が好きなんだ。
……………不毛だよね。
「千石…………ッッ!」
南が低く呻いて、オレの中に温かな粘液を迸らせるのを、オレはぼんやりと感じていた。セックスをすると、南は少々落ち着いたようだった。
笑顔も見せてくれた。
ごめんなって言ってくれた。
オレはにこにこして、
「健ちゃんが元気になってくれれば嬉しい」
と言った。
南が一緒に帰ろうと言うのを、オレは部室で部誌を書く順番になっているからと言って断った。
南とこれ以上一緒にいると、もっと酷いことをしてしまいそうで。
南に優しくして、南に希望を抱かせるのが、怖かった。
南のこと、嫌いじゃないし、好きだって言えると思うけど。
………でも、オレは亜久津が欲しいんだよ。
--------ごめんね。南が出ていって、オレは独りになった部室で溜め息を吐いて、部誌を書き始めた。
その時。
「千石さん………」
背後のドアがぎいと音を立てて開いて、物置部屋の方から人が出てきた。
ぎょっとして振り向くと、出てきたのは、室町だった。
室町はオレをじいっと見つめてきた。
オレは心臓がバクバクした。
もしかして……………見られた?
「……室町クン、どしたの?………まだいたの?」
できるだけ明るく、オレはおどけて言ってみた。
室町が何か言いたそうな雰囲気で、オレを見てくる。
といっても彼はサングラスをしているから、視線は分からない。
それが一層不安を煽った。
見られたとしたら……………どうしよう。
オレはまぁいいとしても、南がまずい。
南は部長だし、あんなことするようなヤツだと思われたら。
「部誌書いたら閉めるけど……………いい?」
オレは素知らぬ風をして話しかけた。
室町がオレの前まで歩いてきた。
「千石さん………」
「………なに?」
オレはどきどきした。
室町が、薄い唇を舐めてから、唇を動かした。
「………千石さんから、誘ったんスか?」
「………………」
やっぱり見てたんだ。
まぁ、隣の部屋にいたら、そりゃ見えるよな。
どうしよう。
オレは途方に暮れてへらへらと笑った。
「やだな〜、室町クン。………出歯亀?」
「千石さん………」
「……そう、オレから誘ったの!……健ちゃんが、自分からあんな事するわけないでしょ?」
南に迷惑はかけられないから、オレはそう言った。
オレから誘ったのは事実だし。
「オレね、男とセックスするのが好きなんだ。それにしても、室町クンに見られてたとは恥ずかしいな〜。……あ、健ちゃんには内緒だよ。彼、室町クンに見られてたなんて知ったら死んじゃうからさ」
「そりゃ言いませんけどね…………」
そう言いながら、室町がじいっとオレを見てきた。
「千石さん、……部長と付き合ってるんスか?」
「オレが………?」
オレはちょっと困った。
「別に、付き合ってないけど………」
付き合ってることにしちゃった方が丸く収まる気がしたけど、それは事実じゃないから、オレは正直に答えた。
「あのね、健ちゃんは普通の人なんだから、誤解しないように。室町クン」
南の人間性まで疑われたら、困る。
南はあくまで普通の人で、優しくて真面目で男らしくて、いいヤツなんだ。
だから、オレみたいに変態なヤツだと思われたら困る。
「………じゃあ、遊びっスか?」
「遊びっていうかぁ………オレがやりたいから、健ちゃんを無理矢理誘ったの」
室町がしつこく聞いてくるので、オレは困惑した。
「ね、部誌も書き終わるし、そろそろ帰るよ?」
そう言って立ち上がろうとしたところを、室町が日に焼けた腕を伸ばしてきた。
「千石さんって、色白いっスよね……」
「………え?」
室町が微妙にオレの腕をさすってくる。-------そうか。
室町、オレとやりたくなっちゃってるんだ。
そう思い当たって、オレは瞬時どうしようと思った。
室町はそれ以上進まず、ただオレの腕を触っている。
でもさぁ、南ともやっちゃったのに、更に室町とも?
それって、いくらなんでも無節操過ぎないか?
…………と思ったが、室町がオレの出方をじっと待っているのがいじらしくて、オレはついついその気になった。
「室町クンも…………する?」
言いながら室町を引き寄せて、室町の薄い唇にキスをする。
室町はびくっと身体を震わせたが、嫌がらなかった。
舌を絡ませると、室町が応えてきた。
なんだか、可笑しくなった。
どうしてこうなっちゃうんだろう?
オレは、亜久津が好きだけど、別にホモじゃない。
それに、可愛い女の子好きで通ってたのに。
なのに、亜久津には冷たくされてるし、別の男と好きでもないのにセックスしてる。
しかも、オレから誘惑してるって、一体なんで?
「……ね、室町クン、初めて?」
部室のソファの方に移動して、そこに座って室町を見上げると、室町が頬を赤らめて視線を逸らした。
なんだか、女の子に悪い事をするおじさんになったような気がした。
室町もソファに座らせて、オレは室町の制服を脱がせた。
室町はじっと押し黙ったまま、オレの動作を見守っていた。
それでも室町は、すごく興奮していた。
ズボンを下着毎引き下ろすと、勢い良く勃起したペニスが飛び出てきた。
勃起したペニスを見るのは、自分を含めて4人目だった。
あんまりこういうのって同性同士で見ないよな。
ちょっと笑えた。
室町のは、結構色が濃くて、角度がすごかった。
ちゅ、と音を立ててその先端に口付けると、室町は息を荒げた。
「……すぐイっちゃいそう?」
上目遣いに室町を見ると、室町がこくこくと頷いた。
「……じゃ、口じゃなくて、こっちでしようね?」
そう言って、オレは 室町の上に跨った。
さっき南がオレの中に吐き出した精液が身体の中に残っていたから、オレのアナルは充分ほぐれていた。
室町の腹に手をついて、オレはぐっと身体を沈めた。
「千石さん…………ッ!!」
室町が眉を顰めて、オレの名前を呼んできた。
「………どう?」
室町のペニスを根元まで飲み込んで、はぁ、と息を吐いて言うと、室町が顔を真っ赤にして目を閉じた。
やっぱりオレが襲ってるみたいだ。
「……気持ち、いい?」
「は、はい………」
室町が緊張して言ってくるのが可笑しい。
「……じゃ、動くからね?」
オレは室町の身体の上で、腰を動かし始めた。
ぐっと身体を引いて室町から離れ、それから腰を落として、室町を深く飲み込む。
その度に快感が背筋を駆け上がってきて、オレも唇を噛み締めてそれに耐えた。
「あ、あ……千石さん………ッッ!」
何回か出し入れしていると、室町がせっぱつまった声を出してきた。
「……イっていいよ?」
そう言って、更にぐいと腰を沈めると、室町が全身を痙攣させた。
瞬間、オレの中に熱い飛沫が迸ったのが分かる。
それを感じたと同時に、オレも室町の腹の上に、白い粘液を放出していた。セックスをしてしまうと、室町は我に返ったようだった。
「千石さん、すんません、オ、オレ………」
とか、口ごもりながら謝ってきたので、オレは肩を竦めた。
「……なにが?……もしかして、オレとヤっちゃったの、後悔してる?」
「い、いえ、そんな事は………」
「……じゃあ、いいじゃん」
「でも………」
室町は何か言いたそうだった。
なんとなく、言いたいことが分かるような気がした。
どうして、千石さんは、こんな事してるんですか?とか。
千石さんって、遊びでこういう事できるんですか?とか。
そういう事聞きたそうだった。
「……ごめんね、室町クンの童貞、奪っちゃって……」
重い沈黙が厭だったので、オレはおどけて笑って見せた。
「そんな事は………」
室町が頬を赤くする。
「……初めてが、男じゃねえ?」
「そんな事ないっス!……千石さん、すごく、すごく……」
室町の口調が真剣になってきたので、オレは慌てた。
室町までマジになったら困る。
「……ま、オレはさ、誰でもどこでもOKだから、室町クン、やりたくなったらいつでも言って?」
室町の声を遮るようにオレは明るく元気な声を出した。
「………はぁ………」
会話を中断させられて、室町が困惑気味に短く言う。
オレは笑いながら、室町の肩をぽんと叩いた。室町と一緒に部室を出て、校門の所で別れると、オレは独り溜め息を吐いた。
自分で自分の事が、よく分からなくなってきていた。
オレは亜久津が好きで、亜久津だから、抱かれてもいいって思って。
亜久津だから、無理矢理やられても構わなかったんであって…………。
なのに、なぜ亜久津とじゃなくて、他の男とばっかりセックスしてるんだろう。
それも、好きでもないのに。誰とでもできてしまう自分が、すごく汚らしく思えた。
なぜか視界がぼやけて、オレは俯いて、目をごしごしと擦った。
FIN
千石君一人称。なんだかどんどんと浮気の人数の増えるキヨ。