kiss me,honey 《2》
先輩が正レギュラーに戻ってきて、俺達は一緒に練習することになった。
というか、オレとダブルスのペアを組んでいた滝先輩が落ちたので、そこに宍戸先輩が入る形になったのだ。
先輩と一緒にダブルスが組めて、先輩と一緒にずっと練習が出来て。
夢のような毎日なのに、俺は辛くて辛くて、息が詰まりそうだった。
先輩が、話をしてくれない。
あの日、俺の家から飛び出していってから、------必要最低限の連絡事項だけは話してくれるけど(何しろダブルスを組んでるし)、それ以上俺の方に近寄ってきてくれない。
それまでの秘密の特訓で、先輩も俺もお互い相手の試合の仕方や動き方を熟知していたから、試合運びや連携プレーには全く支障がなかったけれど、でも、こんな状態、俺は耐えられない。
宍戸先輩と話がしたい。
俺に笑い掛けてきて欲しい。
俺を怒ってもいいから。
なんでもいいから、俺に冷たくしないで!とうとう我慢できなくなって、数日後、俺は帰り道の先輩を待ち伏せした。
「宍戸さん!」
物陰から突然飛び出していって、驚いている先輩の手をがっしりと掴むと、有無を言わせずぐいぐいと引っ張る。
「お、おい、なにすんだよ!」
先輩が抗議の声をあげたが、ここで先輩を離したら、もう、二度と先輩は俺に近寄らなくなる。
そう思ったから、俺は死んでも先輩の腕を離さないつもりだった。
そのまま引っ張って、近くの公園に連れ込む。
人気のない隅まで引っ張ってきて、俺はそこで先輩を思いきり抱き締めた。
「よ、よせったら」
先輩が俺の腕の中で身じろぐ。
絶対、はなすもんか!
体格的には俺の方が背が高く力も強いから、先輩を力一杯抱き締めたら、先輩は俺に適わない。
「くそ、離せよ、おい長太郎、離せ!」
先輩はしばらく藻掻いていたが、俺が絶対離さないと決意を固めているのを悟ったのか、やがてあきらめたように大人しくなった。
俺の腕の中で俯いている先輩に、俺は声をかけた。
「宍戸さん………この間はすいませんでした……」
「てめぇっ、今頃謝んのかよ!」
先輩が小さな声で抗議してきた。
「俺、あの日宍戸さんを抱いたんですよね?」
そう言うと、途端に先輩がびくっと身体を震わせた。
「……宍戸さん?」
顔を覗き込むようにしながら腕の中の愛しい人を見ると、見る見るうちに先輩が顔を真っ赤にした。
「てめぇ、あんなことしやがって、……全然覚えてねえなんて……」
「すいませんでした」
「すいませんですむかよ!……俺は、俺は……」
先輩の澄んだ茶色の瞳が切なげに狭められる。
長い睫毛がふわっと揺れて、俺も切なくなった。
「宍戸さん、俺、あなたが好きです………」
なんとか先輩に自分の気持ちを知ってもらいたくて、意を決して告白する。
「……知ってるよ」
「………え?」
「てめえ、この間も熱く告ってきたじゃねえか?」
「あ、そ、そうですか……」
-----なんだよ、覚えてねえよ!俺!
「すいません、俺、ほんとに覚えてなくて……」
情けなくなって、涙が出そうになるのをぐっと堪えて言う。
「…………」
先輩が睫毛を伏せて、俺の背中にそっと手を回してきた。
あ、なんかいい感じ?
もしかして、先輩、許してくれるのかな?
「ねえ、宍戸さん、それから俺、どうしたんですか?」
先輩が作っていた二人の壁が取れてきたような気がして、俺は勇気を出して聞いてみた。
「それからって……」
先輩が赤面して口ごもる。
「こういうこと、しました?」
俺は先輩の顎に手を掛けると、そっと上向かせて、赤く熟れた唇に自分の唇を近づけた。
軽く触れさせ、それから強く押し付けて、舌先で唇をこじ開け、舌を入れる。
先輩の口の中は、甘くて熱くて、俺はくらくらした。
弾力のある舌が、俺をおずおずと迎え入れてくる。
絡め合わせて唾液を交換して、無我夢中で吸う。
「長…………たろ……」
唇を離したとき、先輩が甘く掠れた声で名前を呼んできた。
ズキ、と下半身が疼いて、俺は思わず眉を顰めた。
「好きです、宍戸さん。ずっと好きだったんです。でも、言える訳ないって思ってました。あなたは先輩で、プライドが高くて、綺麗で。俺なんか、いっつも後を追いかけてるばかりの、後輩で。でも………宍戸さんも、俺のこと、好きですか?」
先輩の形の良い可愛い耳を軽く噛みながら、息を吹き込むようにして言うと、先輩がこくん、と頷いた。
「……ほんとに?」
「この間も、言ったろが!」
「すいません、覚えてなくて……」
「バカ……」
先輩が俺にぎゅっと抱き付いてきた。
「すいません………」
そんな先輩が可愛くて、俺は先輩の身体を骨も折れんばかりに抱き締めた。
そして、耳元で更に囁いた。
「ね、先輩………俺んち、来て下さい………この間のこと覚えてないから、俺ちゃんとしたいんです……」
先輩が耳まで赤くして頷くのを、俺はなんともいえず幸せな気分で眺めた。「……ね、宍戸さん、俺この間、どんなことしたんですか?」
「どんな事って、おまえがこうやって俺のこと押し倒してきて、そんで………って、どうしてそんな事を俺が教えてやらなくちゃならないんだっ!」
ベッドの上で宍戸先輩が顔を真っ赤にして怒鳴る。
そんな先輩も可愛くて、俺はついつい頬を弛めて笑った。
「おい、俺のことバカにしてるのか?」
「違いますよ。宍戸さんがあんまり可愛いから……」
どうしても顔がにやついてしまう。
俺の顔、真面目にしてればかなりいいんだけど、にやけるとすっごく崩れるんだよね。
そんな情けない顔、先輩に見られたくないな。
でも、この間思い切り見せちゃったかも。
「すいません、宍戸さん、……でも、俺、今日がホント初めてみたいなもんなんで、すっごく緊張していて……」
「嘘吐くな。この間だって慣れてたじゃねえか?」
「えっ?……そ、そんな事ありませんよ! 俺、女も男も、宍戸さんが初めてです」
と言ったら、先輩が目を見開いて、それから恥ずかしそうに視線をそらせた。
「ねえ、宍戸さん……服、脱がせていいですか?」
「……自分で脱ぐ………」
恥ずかしいのだろうか、宍戸先輩は慌てたように服を脱ぎ始めた。
俺が脱がせたかったけど、それは次のお楽しみにとっとこう。
宍戸先輩を待たせないように、俺も急いで制服を脱いだ。
「長太郎……」
先輩が、どこか不安げな声を出してきた。
困ったような視線で、俺を見上げてくる。
先輩の身体は……………この間、朝ちらっと見たきりだったので、俺はまじまじと眺めた。
日に焼けて、健康そうな色の肌。
ぷっくりと膨らんだ、桃色の胸の突起。
筋肉が綺麗についた腹。
しなやかそうな腰。
そして、-------俺の目に、先輩の薄淡い茂みが目に入った。
柔らかそうに繊毛が茂って、その中で濃い肌色をした性器が見え隠れする。
ドクン、と血がうねって、たちまち自分のペニスが勃起するのを俺は感じた。
「……おい、何一人でおっ勃ててんだよ……」
先輩が顔を赤らめて、口ごもりながら言ってきた。
「す、すいません、あの………」
------だって、先輩が可愛すぎるから………。
俺は、先輩のその茂みに吸い寄せられるように近付いた。
「お、おい……」
先輩が慌てたような声をあげるけど、それは無視して、先輩の足をぐいっと開かせる。
そこは…………茂みの中で、俺と同じように頭を擡げていた。
おいでおいでをするように首を振りながら、先端から既に涙をこぼしている。
先輩と同じように、綺麗で、しなやかなペニス。
俺は誘われるようにそれを口に含んだ。
熱く弾力のある肉塊を、歯で扱きながら咥えこむ。
「……やッッ!!」
先輩が俺の頭を掴んできた。
「長太郎っ! 駄目だったらッッ!」
そんな声まで可愛い。
俺はぞくぞくして、興奮のままに先輩のペニスを扱いた。
根元から裏筋を辿り、出っ張った部分に歯を立てて、先端を甘噛みする。
「あ………だ………だめだ………ッッ!」
俺の頭を挟んだ太股が痙攣したように震え、先輩は次の瞬間、温かな粘液を迸らせた。--------夢みたいだ。
顔を上げて、イった後の先輩の顔を見ていると、俺はだんだんと感動がこみ上げてきた。
こんな風に、先輩と…………いつかしたいと思っていたけど、でも、まず実現不可能だとあきらめていたのに。
「長太郎………」
うっとりとしたまま先輩の顔を眺めていると、先輩がはぁはぁと息を切らしながら、俺を潤んだ目で見上げてきた。
「おまえも……」
そう言って、先輩が俯せになって、俺の前に腰を突き出してくる。
そうして、ベッドサイドの棚からクリームを取って、俺に手渡してきた。
えっ、なんか…………どうして?
「この間、おまえ、これ使っただろ?……痛くするなよな?」
先輩はそう言って頬を赤らめた。
ああ、そうか………先輩にとっては二度目なんだもんな。
えらい手慣れてるなぁ、とか一瞬呆気に取られた自分に苦笑する。
気を取り直して、俺は目の前に晒け出された先輩のアナルを見た。
この体勢も、………この間俺が頼んだのかな?
覚えてないのが、改めて悔しい
くそ、この間の分まで取り戻さなくっちゃ!
俺はごくんと唾を飲んで、先輩のアナルにクリームを塗りつけた。
すっごく可愛いアナルだった。
他人のこんなとこを見て、こんなに興奮できるなんて。
すごく不思議な気がしたけど、先輩のは本当に可愛くて、ピンク色できゅっと窄まっていて奥ゆかしくて、俺は心臓が破裂しそうになった。
指を一本差し込むと、恥ずかしげに収縮して、俺の指を飲み込んでくる。
背筋がぞわぞわした。
俺は一刻も早く、先輩の中に入りたくなってしまった。
「長太郎、早く……」
先輩が心細げな声なんか出してきたものだから、もうちょっとも我慢できなくなった。
「すいません、行きます!」
俺は掛け声のように強張った声を出して、先輩のアナルに自分のペニスを押し当てた。
ごく、と息を呑んで、一気にそれを突き入れる。
「ちょ………たろ………ッッッ!!」
先輩が背筋を仰け反らせる。
日に焼けた肌が艶やかに光って、すごく色っぽかった。
俺を受け入れた中も、火傷しそうに熱く蕩けていて、突き入れる度に俺を離すまいとするかのように締め付けてくる。
「あ、あ、………宍戸さんッッ!」
俺にとっては、これが初体験。
何度か抜き差ししているうちに、あっという間に俺は堪えきれなくなった。
「すいません、宍戸さん!」
ぐっと一際強く突き込んで、熱く俺にまとわりついてくる腸壁に、俺は欲望を叩き付けた。「宍戸さん………大丈夫ですか?」
ずるり、とペニスを抜くと、先輩が精根尽き果てたというようにぐったりとベッドに突っ伏したので、俺は不安になった。
そっと抱き寄せて顔を覗き込むと、先輩は忙しく息をつきながら、俺を潤んだ目で見上げてきた。
「バカ………」
「バカって、宍戸さん………」
先輩が笑っていた。
俺は心の底からほっとして、思わず先輩をぎゅっと抱き締めた。
「おい、いてぇよ……」
「あ、すいません、で、でも………」
なんだか急に胸が詰まって、俺は鼻の奥がつうんとした。
まずい。涙が出そうだ。
と思ったけど、既に遅かった。
涙がぼろぼろとこぼれてしまっていた。
「何泣いてんだよ! 泣きてえのは俺だよ!」
「だ、だって………」
「だってもくそもねえだろ! 俺なんか、せっかく覚悟決めて抱かれてやったのに、おめえは覚えてねえし、好きだって言ったくせに、忘れてるし……」
「すいません……」
何言われても言い返せない。
それに、先輩に怒られてると、なんだか心が温かくなってくる。
泣きながら、更に先輩をぎゅっと抱き締めると、先輩が苦笑して俺を抱き締め返してきた。
「長太郎、俺のこと、好きだよな?」
「はい! 好きです!」
先輩が、俺の頬に唇を寄せてきた。
「泣くなよ………俺も好きだよ……」
「はい……」俺は宍戸先輩を尊敬していて愛していて、先輩のためならなんだっててきる。
でも、その時ばかりは、いくら先輩に言われても、涙を止めることが出来なかった。
涙でぐしょぐしょになった頬を、先輩がそっと舌で舐めてくる。
「宍戸さん………」
俺は嬉しくて、どうしようもなく泣けてきて、先輩に縋り付いた。
「バカ………」
掠れた甘い声とともに、先輩の唇が俺のそれにすっぽりと覆い被さってきた。
やっぱり夢みたいだ。
こうやって先輩とキスして、セックスして………先輩も好きだって言ってくれて………。
俺は先輩の存在を確かめるかのように、先輩を強く抱き締めて、深く口付けをした。
FIN
ラブラブバカップル誕生って感じですね。