「勝った……勝ったんだよな………」
宍戸さんが掠れた声を出した。
周り中から歓声が上がって、俺は思わず宍戸さんの顔を見た。
宍戸さんは呆然としたように茶色の目を見開いて、それから両手を上げてガッツポーズをした。
俺も宍戸さんにならって両手を上げて空を見た。
青い空と眩しい光が目に入ってきた。
視界がぼやけた。
-------勝ったんだ。
サーブが入らなくて、宍戸さんに励まされたこととか。
とにかく宍戸さんを負けさせたくなくて、頑張らなくちゃ、と思ったこととか。
いろいろな事が一度に胸にこみ上げてきて、俺は涙が滲んでしまった。
「長太郎っ!」
宍戸さんが駆け寄ってきた。
汗がきらきらと日の光に光って、日に焼けた肌が艶めいている。
つんつん立った短い黒髪が、帽子の間からはみ出ている。
嬉しそうに駆け寄ってくる宍戸さんを見て、俺は眩暈がした。
ああ、なんて可愛いんだろう。
一生懸命で、本当に何事にも真剣で、俺を頼ってくれる、愛しい人。
二人で並んでコートを出ながら、俺はこの上もなく幸福だった。
clumsiness
「宍戸さん、随分汚れちゃいましたね。洗った方がいいですよ」
歩きながら見ると、宍戸さんは、肘や膝が擦れて汚れていた。
ボールを取るのに無理をして転んだからだろう。
「そうだな、長太郎、トイレ行こう」
宍戸さんが突然俺の手を掴むと、ぐいぐいと引っ張った。
「は、はい、宍戸さん……」
珍しく宍戸さんが強引に俺を引っ張る。
俺は面食らって、宍戸さんに引きずられるままに、コートの外れに建っている洗面所へ入った。トイレの中には誰もいなかった。
入った途端、宍戸さんがすごい勢いで俺を壁に押し付けてきたので、俺はびっくりした。
宍戸さんはそのまま、首を伸ばして、俺に噛み付くように口付けをしてきた。
(宍戸さんッッ!!)
宍戸さんがそんな風に積極的に仕掛けてくることなど無かったので、俺は呆気に取られた。
俺の首にしっかりと腕を回して、宍戸さんが角度を変えて何度も口付けをしてくる。
熱い舌が入り込んできて、俺の舌と絡み合う。
俺はびっくりするやら嬉しいやら、身体がじんじんするやら、何がなんだか分からなくなってしまった。
取りあえず、宍戸さんの腰に手を回して、抱き締めながら舌を絡ませ合う。
「長太郎……俺、今すぐしてぇ……」
唇が離れたとき、宍戸さんが押し殺した声で言ってきたので、俺は驚愕した。
「し、宍戸さんっ?」
「なぁ、駄目か?長太郎?」
宍戸さんが潤んだ目で甘えるように囁いてくる。
そんな宍戸さんを見たら……たまらない。
俺はアッという間にムスコが大きくなるのを感じた。
「で、でも、場所が……」
宍戸さんに誘われて、したくならないはずがない。
だって、俺は宍戸さんにベタ惚れなんだから。
でも、ここは関東大会会場。
いくらなんでもこんな所で………。
俺が尻込みしていると、宍戸さんが切なげに吐息を漏らした。
「なぁ、俺、我慢できねえんだ…………声出さなければ、分かんねえだろ?」
そう言って、宍戸さんは俺を引きずるようにして個室に入った。
バタン、とドアを締める。
「突っ込んでくれるだけでいいからよ………声出さなければ、他のヤツ来ても、なげえクソだとしか思わねえよ」
------ああ、どうしよう!
こんなに宍戸さんが積極的で、しかも「突っ込んでくれるだけでいい」なんて!
言葉の悪いところが、一層宍戸さんの愛らしさを引き立てる。
俺はクラクラした。
いつも、宍戸さんとセックスする時は、まずキスとか一杯して、恥ずかしがる宍戸さんをなだめすかして、そうしてやっとさせてもらえるのに………。
なのに、「突っ込んでくれるだけでいい」だなんて---------!!
「わ、分かりました……ッッ!」
思わず声が上擦ってしまった。
宍戸さんを壁に押し付けて、一気にハーフパンツを引き下ろす。
宍戸さんのペニスはすっかり勃ち上がっていて、可愛らしく頭を振りながら、涙をこぼしていた。
それを見たら、我慢できなくなってしまった。
だって、俺、宍戸さんとだったら、いつでもどこでもいくらでもヤれる。
そのくらい、宍戸さんに夢中なんだ。
しかし、いくら宍戸さんが「突っ込んで」いいって言っても、ちゃんと準備をしないと宍戸さんを傷つけちゃう。
俺は逸る心を抑えて、自分の指を唾液で濡らすと、宍戸さんのアナルにその唾液を塗りつけた。
「あ、長たろッッ!!」
宍戸さんが甘い喘ぎを漏らして、それからはっとしたように慌てて手で口を押さえる。
「声、出さないで下さいね?」
俺は苦笑してそう言うと、宍戸さんの後ろから、自分のペニスを押し当てた。
宍戸さんがぎゅっと目を瞑って壁に手をつく。
あぁ、可愛い------------!!
(宍戸さん、行きます!!)
ぐぐっと身体を進めると、宍戸さんがくぐもった呻きを漏らした。
唇を必死で噛んで、声を出すまいとする仕草が愛らしくて、俺は宍戸さんの尻を掴んで、ぐい、と自分の方に引き寄せた。
「ぅく…………ッッ!!」
宍戸さんの形の良い眉が顰められて、額に汗が滲む。
構わずぐいぐいと内部に突き進むと、熱く濡れた内壁が俺に絡みついてきた。
ああ、宍戸さん…………!!
目の前が霞むような快感で、背筋がじぃんと痺れる。
ぴったりと密着すると、はぁはぁという熱い息づかいと、宍戸さんの汗の甘い匂いが漂ってきて、俺は陶然となった。
「あ………ん………く………ッッ」
宍戸さんが息も絶え絶えという感じで微かに喘ぐ。
一生懸命声を殺しているけれど、どうにも堪えきれず出てしまうっていう感じの濡れた声。
ああ、俺も、もう………駄目!
俺は宍戸さんに自分の腰をぶつけるかのように激しく動き出した。
宍戸さんが苦しげに頭を振る。
「あ………は………う………ッッッ!」
宍戸さんのせっぱ詰まった声に、俺も我慢の限界を超えた。
(……宍戸さんっ!!)
心の中で叫んで、俺は宍戸さんの内部奥深くに精液を迸らせた。
同時に宍戸さんも身体を激しく震わせて、白い粘液を個室の壁に飛び散らせた。興奮が収まると羞恥心が戻ってきたのか、宍戸さんは、俺を誘った時とは大違いで、顔を真っ赤にしながらズボンを穿いてしまった。
もう少し、宍戸さんとくっついていたかったのに。
でも、あまり長く入ったままだと、不審に思われるかも知れない。
外の気配を窺って、誰もいないようなのを見計らって、俺達はそっと個室のドアを開けた。「やぁっと出てきたで〜」
誰もいないと思ったのは大間違いで、ドアを開けた途端、聞き慣れた声がした。
「……お、忍足先輩……」
水道の前に忍足先輩と向日先輩が並んで立っていた。
二人とも、にやにや笑っている。
二人を見た宍戸さんがぎょっと身体を強張らせる。
「あーぁ、おまえらってホント、サカり過ぎなんじゃねえの?」
向日先輩が、呆れたような声を出した。
「な、なんだよ、おまえら………」
どもりながらも宍戸さんが気丈に声を出す。
でも顔が真っ赤で肩が震えている。
聞かれたんだよな、きっと……………。
俺も顔が赤くなってしまった。
「どうや、鳳に可愛がってもらってすっきりしたか、宍戸?」
忍足先輩がくすくす笑いながら宍戸さんに話しかけてきて、宍戸さんは更に赤くなった。
「てめえらっ、何しに来たんだよっ!」
「何って、なぁ、クソでもしようかなって思うて来たんやけどなあ……」
忍足先輩が肩を竦める。
「なんや、お取り込み中やったから、外で待っとったんや。………いやぁ、宍戸もええ声で鳴くな〜」
「……忍足っ!!」
宍戸さんが忍足先輩に飛びかかろうとしたので、俺は慌てて宍戸さんを抱き締めた。
「だ、駄目ですよ、宍戸さん!」
「まぁ、ヤり終わったんなら、クソさせてもろうてええか?」
「あ、ど、どうぞ………」
個室は他にもあるのに、わざわざ……という所が忍足先輩らしい。
俺は苦笑して、宍戸先輩を抱き締めたまま個室を出た。「くそッ、あいつら、ぜってぇクソなんか嘘だぜ!」
テニスコートに戻る途中、ずっと宍戸さんはぶつぶつ言いながら顔を赤らめていた。
どうやら、最中の声を聞かれたのが、すごく恥ずかしいらしい、
俺も恥ずかしかったけど、でも、こんな可愛い宍戸さんは俺のものなんだって、忍足先輩や向日先輩に自慢できたような気がして、なんだか嬉しかった。
宍戸さんは俺のもの。
誰にも触らせない。
俺『だけ』のものなんだ。
「おい長太郎、なにへらへらしてんだ?」
急に頬をぐい、とつねられて、俺はいたたた、と情けなく叫んでしまった。
「す、すんません、宍戸さん」
慌てて謝ると、宍戸さんがぷい、と視線を逸らした。
「樺地の試合、早く見ねぇとな……」
俯いて口ごもりながら小さい声で言ってくる。
「……そうですね」
やっぱり可愛い。
こんな可愛い人と恋人になれて、俺ってなんて幸せなんだろう。
つねられたにも関わらず、俺は頬が緩んでしまうのを止められなかった。
試合場でヤるか普通(汗)………ですな。