「手塚………俺は…………」
「……好きだよな?」







Boy Friend 
《5》















乾の言い訳など聞きたくなかった。
乾の言葉に被せるようにして言うと、乾が覚悟を決めたように手塚を抱き締めてきた。
身体を反転させると、手塚を自分の身体の下に抱き込んでくる。
「乾……………」
上から抱き締められて、胸が詰まる。
乾のがっしりとした腕が、自分をしっかりと抱き締めてくる。
暖かくて、……乾の匂いがした。
ねだるように口付けをすると、応えて乾が舌を差し入れてくる。
「ん……………」
くちゅ、と粘膜の擦れ合う音がして、それがまた手塚を興奮させた。
ぞくぞくと身体が沸き立つ。
------乾に抱き締められている。
乾が、オレに、キスしてきている。
そんな事絶対しそうにない、乾が…………。
「…………いいのか?」
唇が離れると、乾が低く掠れた声で聞いてきた。
-----ドキン。
乾の、そういうせっぱ詰まったような声を聞いたのは初めてだった。
胸が大きく打って、手塚は目を閉じた。
頷いて、乾に身体を預ける。
乾が、ごくり、と唾を呑み込むのが分かった。
「……乾……」
もっと興奮して欲しくて、ねだるように名前を呼ぶと、乾が乱暴に手塚の服を脱がしにかかった。
「……………!」
瞬く間に学生服を剥ぎ取られ、ズボンも引き下ろされる。
乾がかなり性急に物事を進めてきたので、手塚はたじろいだ。
「……乾?」
呼ぶと、乾が手塚を見た。
狂おしい情熱を秘めた瞳に射られて、どくん、と血が逆流する。
乾は黙って手塚の服を脱がせ、それから自分の服も脱いだ。
ドキドキと鼓動が全身に鳴り響いて、手塚は身体が震えた。
乾を強引に誘ってはみたものの、手塚はこういう事には全く免疫がなかった。
だから、いざとなると、乾が落ち着いているわりに自分が怖がっていることに気付いて、愕然となったのだ。
「いぬい………」
乾が別人のように見えた。
手慣れた様子が、怖い。
もしかして、乾は、既にこういう事を経験しているのだろうか?
俺じゃなくて。
………他の女性と。
そう思うと、身体がカァッと熱くなった。
自分の知らない乾がいるようで、嫌だった。
「……手塚……」
服を脱いだ乾が、手塚の名を呼びながら、そっと手塚を抱き締めてきた。
--------トクントクン。
鼓動が重なり合って、熱い肌の感触にぞくりとなる。
乾の身体は着やせするのか、裸になると逞しかった。
自分よりも背が高い分、体つきも大きい。
手塚は自分が震えているのに気が付いた。
乾が、…………怖い。
自分の知っていた乾ではないようで、…………震えた。
「乾……」
思わず、心細げな調子が声に出てしまった。
乾が、自分と手塚の眼鏡を取って、脇のテーブルに置くと、優しく瞳を細めて手塚を見下ろしてきた。
「……どうした?」
低く、響く声。
眼鏡を取った乾は、大人びていた。
くっきりとした眉と、その下の思慮深い瞳が、自分をじっと見つめてくる。
「乾………俺は………」
「………止めるか?」
「……違うっ!」
手塚が怯えているのが分かったのだろうか、乾が静かに言ってきたので、手塚は慌てて首を振った。
ここまで来ても、まだ乾は俺に気を遣っている。
それは嬉しいことではあったけれど、でも反対に苛々もした。
もっと、俺の事なんか気にしないで、乾の好きなようにして欲しい。
俺のことが好きなら………もっと欲しがってくれ。
「じゃあ、やめないよ………?」
乾が掠れた声でそう言うと、手塚の首筋に唇を落としてきた。
「ぁ…………!」
濡れた舌でざらり、と首筋を舐め上げられ、ぞくぞくとした戦慄が走り抜ける。
思わず首を縮めて吐息を吐くと、乾が手塚を押さえつけたまま唇を移動させて、手塚の胸の突起を舐ってきた。
「ゃ………ぁ…………!」
乾の短髪が、自分の胸の上で動く。
舌で舐られ、歯で甘噛みされて、そこから甘い疼きが広がって、手塚は身を捩らせた。
「や………だ…………いぬい…………」
「駄目だ、もう、やめないよ………」
乾が、小さく、しかし毅然とした声で言う。
びくっとして手塚は乾を見た。
顔を上げた乾の目が、射すくめるように手塚を見つめてくる。
「手塚が泣いて嫌がってもやめない。………いいね?」
「………………」
どきん、と胸が鳴って、手塚は視線をそらせた。
どきどきして、身体がぽぉっと熱くなる。
いつもの乾じゃない。
今、自分を抱こうとしているのは、………初めて見る乾だった。
「…………ぁっ!!」
乾が身体を移動させて、手塚の下半身を口に含んできたので、手塚は兎のように身体を飛び跳ねさせた。
そこを、がっちりと押さえつけられる。
「……だ、駄目だ……!」
根元まですっぽりと咥えられて、快感が全身を駆けめぐる。
誰かにそんな所を舐められるなど、勿論初めてだった。
暖かく濡れた粘膜の感触に、頭の中が白く爆発する。
「……あっ……あッッ!」
数回扱かれただけで、呆気なく手塚は絶頂に達してしまった。
解放感と、痺れるような快感が全身を突き抜けて、思わず背を反らして、乾の髪を掴む。
顎を仰け反らせて、深く溜め息を吐いて快感に浸っていると、そのまま乾が更に性器の奥の窪みに舌を這わせてきたので、手塚はびくんとした。
「い、いぬい………?」
ピチャ、と濡れた音が聞こえて、乾がとんでもない所を舐めている。
男同士でセックスをするときにそこを使うと言うことは、耳学問では知っていたが、実際にそこを愛撫されると、耐え難い羞恥心が襲ってきた。
それに、恐怖もわき上がってきた。
本当に、そんな所に、乾が?
乾が、入ってくるのか?
俺は、乾と、------するのか?
「や……だ…………いぬい………ッ!」
羞恥と恐怖から腰を引きかけると、乾がその腰をがっちりと押さえてきた。
乾と自分とでは、力に差がないはずなのに、その時は乾に逆らえなかった。
「や………いや………だ………!」
首を振りながら泣きそうになって言っても、乾はやめてくれなかった。
さんざん舐められ、そこに指が挿入され、微妙な加減で内壁を擦られて、手塚は喘いだ。
ざわざわとした快感が内部から突き上げてくる。
なんとも言い様のない、感じたことのない快楽。
乾の指が入ってくるたびに、ぞくっと電流が走り、じっとしていられないような快感が頭の先まで突き抜ける。
「ぁ………ッッッ!」
何度も指を出し入れされ、もう手塚は乾を止めようという気持ちさえ無くなっていた。
--------気持ちが、いい。
もっと、もっと………してほしい。
そう願う心が、手塚を支配する。
「いぬい…………」
ねだるように乾を呼ぶと、乾が顔を上げて、それから手塚の足をぐっと抱え上げてきた。
「行くよ………?」
低い声で囁かれて、秘孔に熱い塊が押し付けられたのが分かる。
ぞくり、と戦慄が走った。
次の瞬間、ぐぐっ、と灼熱の楔が手塚の体内に押し入ってきた。
「………………ッッ!!」
内臓がぐいと押し上げられ、胃が迫り上がってくる。
乾が入ってきた部分が、熱く焼ける。
奥深くまで自分の中に潜り込んでくる楔に、手塚は身体が裂けてしまうような錯覚に陥った。
「あ………く…………ッッ!」
鋭い痛みが脳に突き刺さってきて、手塚は呻いた。
痛くて、身体が焼けるようだった。
ぐっと深く挿入され、抜き差しを始められる。
乾が、腰を勢い良く打ちつけたかと思うと、それが抜け落ちてしまうほど身体を引いて、また激しく打ち込んでくる。
「うっ……………くっ………つッッッ!!」
激しく揺さぶられて、手塚は切れ切れに呻いた。
身体が熱を持って、乾が入っているところから、とろとろに溶けてしまうようだった。
乾と、身体だけでなく心の底まで一つになっていくような気がする。
「い、……ぬい…………ッッッッ!」
乾との間にあった壁が崩れていく気がした。
崩れて、跡形もなくなって、やっと乾と一つになる。
「あ……………ああッッッ!!」
どくん、と熱いうねりが襲ってきて、手塚は堪えきれず声を上げた。
腹の上に二度目の精を放出する。
ほぼ同時に、乾が手塚の体内深くに熱く精を迸らせたのを感じて、手塚は目を閉じた。
嬉しいのに、涙が溢れた。
目尻から頬を伝って、涙はカーペットに吸い込まれていった。
















「……ごめんね………」
熱い時間が過ぎ去って、部屋に静かな空気が戻ってくると、乾が手塚を抱き締めたまま、優しく囁いてきた。
手塚は、乾の腕に抱かれたままで、まだ熱く息を吐いていた。
快楽の余韻が、まだ身体の芯にたゆたっていて、気持ちが良かった。
身体よりも、心が癒されて、それが手塚には嬉しかった。
乾と、本当に仲良くなれた気がする。
「俺の方こそ、ごめん………」
手塚は小さく呟いて、乾の胸に頬をすり寄せた。
厚い胸板に耳を付けると、力強く規則正しい鼓動が聞こえてきた。
「俺さ、手塚に嫌われたのかと思ってたよ………」
乾が手塚の髪をそっと撫でながら言ってきた。
「俺が、おまえを……?」
目を上げて乾を見ると、乾が鳶色の瞳を細めた。
「なにか、おまえの気に障るようなことしたのかと思って…………もしそうだったら、教えてくれないか?」
「……違う………俺の方が、悪いんだ。勝手に乾に嫉妬して、勝手に一人で怒っていたんだ。乾は、いつも優しかったのにな。………俺が我が儘だったんだ。……乾に甘えてた……」
「俺にはいくらでも甘えてくれよ、手塚………」
乾が微笑んで、手塚の頬に触れてきた。
「……そういう事言うと、どっさり甘えるぞ? 我が儘も言うし、怒るかも」
「ああ、かまわないよ……」
乾が笑う。
「手塚………好きだよ………」
優しい告白と共に、しっとりとした口付けが降りてきた。
心の奥までじぃんと暖かくなって、手塚は瞳を閉じて、乾のキスを受けた。
(乾…………)
心の中で、甘く名前を呼びながら。


















FIN

結構乾って理想的な恋人になる感じですね〜