Without your love 《2》
突然跡部がとんでもない事を言ってきたのでオレはさすがに仰天した。
「な、何言ってんの! 駄目だったら!」
-----バシッ!
次の瞬間、目から火花が散った。
ぴかぴかと散って、世界がくるくると回る。
気が付くとオレは、路地の壁に背中を押し付けられて、跡部にズボンを脱がされていた。
頬がずきずきと熱を持って痛んで、涙が流れていた。
……跡部クンに殴られたんだ。
どうして…………?
暴力は良くないよ、跡部クン。
オレは、ぼぉっとして跡部を見た。
跡部は、オレのバッグから、ジェルとコンドームを取り出していた。
……オレがこれを取り出したとこ、見てたんだな。
なんだかどうでも良くなって、オレは壁に凭れ掛かって空を見上げた。
ネオンサインに遮られて、消え入りそうな月の光が目に入ってきた。
--------ちょっと悲しかった。
跡部と初めて二人きりで話ができるっていうのに、こんな状況で。
オレは跡部には結構憧れていたから。
性格はともかく、テニスの上手いヤツは好きなんだ。
オレ、自分が努力型だから、生まれつきうまい天才型のヤツには憧れてるんだ。
「おい、なに呆けてんだよ!」
------パシッ!
軽く頬を叩かれた。
「いたっ!」
オレは涙目で、跡部を見上げた。
「いたいよぅ、跡部クン……」
「女じゃあるめぇし、そのくらいで弱音吐くなよ」
跡部は相変わらずにやにやしながら、オレの脚をぐい、と広げてきた。
「痛っ!」
脚を広げられてバランスを崩して、オレは壁に頭をぶつけた。
跡部はそんなオレに構わず、ジェルのチューブをそのままオレのアナルに突き立ててきた。
胴体部分を絞って、内部にジェルを入れてくる。
「は………あ………ッッ!」
さっき不良とヤった時中途半端に昂ぶったままだった身体に、また火が点いた。
「ヘェ………こっちはその気になってるみたいだな……」
オレのペニスが勃起してきたのを見て、跡部が鼻先で笑う。
「テメェが男好きとはな………『女好きの千石』ってのは有名だったが、男もイけるのか?」
くすくす笑いながら、跡部はカチャカチャと音を立ててズボンのベルトを外し、自分のペニスを引き出してきた。
霞んだ目でそれをみて、オレはズキン、と身体が疼いた。
………全く、もう。
すっかり身体が興奮してきちゃった。
オレの身体のいい加減さにも、ちょっと笑える。
跡部のペニスは彼同様色素が薄く、綺麗な桃色をしていた。
大きさは十分だし、形も綺麗で、これなら女も喜んでフェラチオしそうだ。
いいなぁ、なんて瞬時思ってしまって、オレは心の中で苦笑した。
コンドームを付けた跡部が、オレの片足をぐっと持ち上げてきた。
そのままにやにやしながら、一気にオレの中に肉棒を突き立ててくる。
「…………ッッ!!」
最奥まで突き立てられて、甘い戦慄が背骨を駆け抜けた。
「千石………」
耳元でまた跡部に囁かれて、びくっとする。
跡部の声って、セクシーでぞくぞくする。
「ん………あ………んッッ!」
オレは無意識に跡部の背中に腕を回して、跡部の動きに合わせて腰を振った。
「なんだよ、ヨがってるじゃねえか?」
跡部がくすくす笑いながら、動きを激しくする。
「こっちも可愛がってやるよ……」
跡部の手が、オレのペニスをぎゅっと握り込んできた。
「……はッッ!!」
目の前に閃光が散って、オレは喉を仰け反らせた。
気持ちが、イイ。
後ろと前から絶妙に刺激されて、オレは息も絶え絶えになった。
跡部クンって………やっぱり、うまい。
------ずるいよな。
顔も良くて、テニスも上手くて、……こっちまでうまいなんて。
何もかも、オレは適わないじゃん。
「あ…………あっあっ……!!」
身体の奥から快感が迫り上がってきて、もう堪えきれなくなった。
「あ、とべクン、いい…………ッッ!」
オレの声に合わせて、跡部が動きを速めてきた。
「も、もうッ………だめ……ッッ!」
「イけよ………」
跡部に囁かれて、その瞬間、オレは跡部の手の中に白濁した粘液を迸らせた。
やや遅れて、跡部が満足げに息を吐いて、オレの中で弾けた。跡部が上機嫌でズボンの乱れを直し、カバンから煙草を取り出して吸うのを、オレは壁に凭れたまま、ぼんやりと眺めていた。
「跡部クン………煙草、身体に良くないよ?」
「……バーカ………なにもっともらしいこと言ってんだよ?」
跡部が肩を竦める。
ふうっと紫煙を吐き出して、笑いながらオレを見つめてきた。
「服着ねえのか? 着せてやろうか?」
少々表情を弛めて言ってくる。
---あれ………優しいかも?
オレはちょっと嬉しくなって、跡部に照れ笑いをした。
「だいじょぶ……」
急いでズボンを穿いて、バッグを肩に背負う。
「ほら、自転車」
跡部がオレに自転車を突き出してきた。
「うん、ありがと………」
なんとなく気恥ずかしくなった。
跡部クンは、オレのこと、どう思ったのかな?
きっと、ろくでもないヤツって思ってるよね。
だって、こんなとこで男と平気でヤっちゃうし、そのための道具とかいろいろバッグに入れ持ち歩いてるなんて………ね。
まぁ、跡部クンも節操無いって点では似たり寄ったりかもしれないけど……でも、少なくとも男にヤらせたり、しないよね。
どう思ったかな、オレのこと。
ヘンタイ、とか思われたかな。
オレはちょっと不安になって、跡部をこそこそと窺った。
跡部はそんなオレの様子を、面白げに見ていた。
「おい千石、テメェのこと気に入ったぜ。またヤらせろよ……」
突然跡部がそう言ってきたので、オレはびっくりした。
「……えっ?」
「いいだろ?」
跡部の顔が接近してきて、オレは思わず赤面してしまった。
だって、跡部の瞳があんまり綺麗だったから。
こんな風に覗き込まれて、断る事なんてできないよ。
きっと女相手にも、こういう戦法使ってるんだな。
「うん……いいよ……」
頷くと、跡部がくすっと笑った。
笑うと、ちょっと幼い表情になって、すごく可愛くなる。
こういう表情の変化も、きっとモテる要因なんだろうな。
「ほら、これ」
「えっ?」
跡部がオレの鼻先に、携帯電話を突き出してきた。
「これにテメェの番号、入れとけ」
「あ、う、うん………」
やっぱり跡部君、態度がエラそう………。
でもそんなに不快でもなかった。
却って跡部らしくて、思わずオレは微笑んでしまった。
跡部から携帯を受け取り、メモリーにオレの番号を登録する。
「……できたよ?」
そう言って携帯を返すと、跡部が無造作にそれをバッグに突っ込んで、それからにやっと笑った。
「……じゃあな」
くるり、と踵を返して、跡部が去っていく。
オレはぼんやりと、その後ろ姿を眺めた。視界から消え去るまで見送ると、なんとなく溜め息が出た。
「あーあ…………」
空を仰いで肩を竦める。
「跡部クン……ねぇ…………」
なんか調子が狂う。
オレが振り回されちゃった。
「…まぁ、考えてもしょうがないか……」
オレは独り言を言って、それから自転車に乗って家に帰った。
FIN
結局ラブラブっぽいです。