innocent boy












「ふあ…………」
部室のソファの上で、いつものようにジローがだらしなく寝ている。
「おい、今日は誰が起こすんだよ」
着替えを終わらせて、部室に鍵を掛けたい跡部が、不機嫌そうに正レギュラーに声をかけた。
部室にいるのは、跡部の他に、樺地、忍足、向日、宍戸、それに鳳。
お互いに顔を見あわせて、肩を竦める。
「いつものようにじゃんけんで決めようぜ」
「また、じゃんけんかよ、あみだでくじ引きしようぜ」
じゃんけんに弱い向日が唇を尖らせる。
「……じゃんけんだ」
早く帰りたい跡部は、向日の提案を無視した。
「最初はグー、ジャンケンポン」
鳳の掛け声で、6人でじゃんけんをする。
「やった〜、勝った!」
向日が嬉しそうに戦列から離れた。
「最初はグー、ジャンケンポン」
何回かやって、最後に負けたのは、
「……俺か」
がっくりと肩を落とした忍足だった。
「じゃ、忍足、鍵閉め頼むぜ」
跡部がほっとしたように忍足に鍵を渡すと、樺地を引き連れてさっさと部室を出ていってしまう。
「そんなにはよ行かんでも……」
と言った忍足の声は、ドアのばたんと閉まる音で遮られてしまった。














「はぁ、しょうもな………」
ぐうぐう寝ているジローの隣に座って、忍足は溜め息を吐いた。
「ジロー、起きぃや……」
色素の薄い髪をそっと掻き上げて、耳元でできるだけジローを刺激しないように静かに囁く。
ジローがゆっくり目覚めれば、忍足は難から逃れられるのだ。
「ん………うーん………」
「ジロー…………」
「ん…………っと!!」
刺激しないように声をかけたつもりだったのに、やっぱり失敗したらしい。
ジローが突如、目を開けた。
「……忍足だ〜!!やった〜!」
「……あ、あかんって!」
次の瞬間、がば、とジローが起きあがって、自分を抱き締めてきたので、忍足は狼狽した。
ジローは、眠りから突然覚醒すると、どうしてだか起こしに来た人間に抱き付く習性がある。
抱き付くだけならいいのだが、起きたときのテンションが高く、しかもジローのお気に入りの人物が起こしに来たりすると、そのまま事に及ばれてしまう事もあるので、要注意なのだ。
ジローのお気に入りとは、則ち、忍足。次に跡部。
「いーじゃんかっ!忍足っ!」
にかにか笑いながら、ジローが忍足を俯せにソファに転がして、ズボンを勢いよく脱がせてきたので、忍足は途方に暮れた。
「……駄目や言うてるやろっ!」
とか言ってみたが、起きたばかりのジローは理性が働いていない。
何言っても無駄である。
それに起き抜けのジローはものすごく気力体力ともに充実していて、下手に逆らうと、二人とも怪我してしまう。
(はぁ、今日もまたや………)
忍足は心の中で既にあきらめていた。
「えっへへ、忍足っ、大好き--!!」
とか言いながら、背後から圧し掛かってくるジローに、忍足は溜め息を吐いて目を閉じた。














「……あ、あかんよ……駄目やったら、ジロー」
今日のジローはいつになく執拗だった。
いつもの寝起きだったら、一気に入ってきて元気よく動いて射精して、結構早く終わるのだが。
ジローがすぐに終わるのを良く知っているだけに、忍足も、少しの間自分が我慢すればいい、といつもジローに押し倒される度にあきらめているのだ。
ところが、今日はいつもと違った。
何が原因なんだろう。
ジローに後孔を舐め上げられ、更に中で指を蠢かされて、忍足は荒く息を吐きながら考えた。
別に、いつもと変わったことがあったわけでもないのだが。
------やっぱりあれか。
コンソレーションで久しぶりに試合をしたからだろうか。
3年生になってから、ジローが公式試合に出たのは、コンソレーションが初めてだった。
それ以前の公式試合というと、2年の時の秋の新人戦だから、随分と時間が経っている。
公式試合をして、より覚醒度が上がってるんだろうか?
「あ……駄目やって………」
不意にジローが忍足自身を扱いてきたので、忍足は狼狽した。
そんなこと、しなくていい。
それより、早いとこ突っ込んで、終わらせて欲しい。
別に自分はジローとこういう事をしたいわけではないのだから。
「だーめ、忍足も、気持ち良く、なろ?」
しかし、すっかり元気になったジローが、きらきらと目を光らせて、嬉しそうに言ってきた。
「え、ええよ、別に……」
「だ〜め!」
きゅっと握られて、電撃が背骨を駆け上がる。
思わず背中を仰け反らせて呻くと、ジローがえへへ、と笑った。
「忍足、可愛い……」
ジローに可愛いと言われて、忍足はげんなりした。
ジローの方がずっと可愛い。
少なくとも外見は。
なのに、その可愛いジローに、好き放題されてる自分って一体なんなんだろう。
「あ………あかん……て……!」
忍足の性器を扱きながら、ジローが後孔に突き入れた指をぐいぐいと動かしてきたので、忍足はたまらず喘いだ。
「ね、気持ちイイよね?」
ジローがそう言いながら、忍足の後孔に熱い肉棒を押し当ててきた。
「入れて、いい?」
「ええから、はよやって……」
嫌だなんて言ってもしょうがないので、忍足は溜め息を吐いてそう言った。
「じゃぁ、行くよっ!」
嬉しげに言って、ジローがおもむろに性器を挿入してくる。
「ぅ………く、あ………ジロッ!」
挿入しつつ、絶妙にジローが前を扱いてきた。
堪えきれず甘い吐息を漏らすと、ジローが興奮したのか、ぐいぐいと忍足を突き上げてくる。
「あ、あっあっ………ジロ………あかんって……!」
ちょっと乱暴だった。
慣れてるとは言え、鋭い痛みが身体の中心を走って、忍足は長めの黒髪を揺らしてソファの布を掴んだ。
「忍足の中、すっごいイイ……」
ジローが忍足の腰を掴んで揺さぶりながら、嬉しげに言ってくる。
「やっぱり、俺、忍足が大好き!」
「………そりゃおおきに……」
本当なら、こんな事されてるなど噴飯ものなのだが、どうも忍足は、ジローに弱い。
ジロー相手だと、何をされても怒る気にならないのだ。
こんな風に自分が女のように抱かれているなど、考えるだけでおぞましい事なのに。
でも、ジローだと、どうでもいい気になってくるから不思議だ。
どうも自分はジローを甘やかしすぎているような気がする。
ジローもそれが分かっているから、こうして自分に無体な事を仕掛けて来るんじゃないだろうか。
「忍足、イってよ……」
忍足の勃起したものを扱きながら、ジローが背後から熱く言ってきた。
「あ、あ、あ……ジロ……ッ!」
「忍足〜!!」
ぐぐ、っと一際深く貫かれて、閃光が脳まで突き抜ける。
その瞬間、どくん、と自分の精が迸ったのを忍足は感じた。
「忍足……可愛いっ……!」
そう言ってジローが忍足の中に射精したのと、ほぼ同時だった。














セックスしてしまうと、ジローは完全に覚醒して、にこにこしながら帰り支度を始めた。
忍足はぐったりとソファに凭れたまま、そんなジローを内心呆れて眺めていた。
「忍足、帰ろうよ!」
制服に着替えて、テニスバッグを背中に背負ったジローが忍足に話しかけてくる。
「ああ、そうやな……」
忍足は軽く溜め息を吐いて、脱げてしまっていたズボンと下着をはき直した。
「忍足、また俺のこと、起こしてね?」
帰り道、軽くスキップをしながら明るく話しかけてくるジローに、忍足ははぁっと今日一番深い溜め息を吐いて、それからあきらめたように頷いたのだった。















FIN

分別くさい苦労人受忍足v