陥穽 
《6》















「……どうだった?」
手塚の中に射精して、放心状態に陥っている所に、部屋の扉を開けて不二が入ってきた。
話しかけられても、桃城は返答もできなかった。
ただ、虚ろに目を開いて、不二を見るばかりである。
「あれ、あんまり嬉しそうじゃないね?……手塚、ちゃんとしてあげたの?」
不二が、桃城の様子を見て、手塚に問いかけた。
手塚は、桃城の身体に乗ったままで頷いた。
「ふうん………でもさ、桃城、なんだかびっくりしてるよ?……キミ、性急だったんじゃない?」
「………………」
不二にからかうような調子で言われて、手塚が視線を逸らして唇を噛む。
「駄目だよ。桃城は初めてだったんだから、もっと優しくしてあげなきゃ。キミさ、無理矢理襲ったでしょ?」
「……そんな事言われても困る……」
手塚が、不二から視線をずらしたままで、小さく答えた。
「俺は、おまえの言う通りに、ちゃんと桃城とセックスしたつもりだ……」
「あのね、手塚……」
不二がソファに座って、腕組みして微笑んだ。
「相手を喜ばせてあげなくっちゃ、駄目でしょ?……桃城、怯えてるじゃない?」
「…………」
手塚が俯く。
桃城の腹に置いた拳が細かく震えているのを、桃城は感じた。
「ねえ、桃城……」
不二が桃城に話しかけてきた。
「ちょっと待ってて。もう一回、させてあげるから」
手塚がびくっと顔を上げた。
「手塚、ちょっと桃城から離れて?」
手塚が、のろのろと立ち上がる。
呆然としたまま見ていると、不二が手塚にベッドに仰向けに寝るように指示した。
「床の上でするなんてさ、桃城背中が痛くなっちゃうじゃないか? そういう所もちゃんと気を使わなくちゃだめだよ?」
不二が苦笑しながら、手塚の脚を広げる。
「桃城、こっち来て?」
起きあがると、じぃん、と床に当たっていた肩が痺れた。
くらっと眩暈がして、少々蹌踉めく。
身体全体がまだじんじんと熱を持っていて、熱くてしっとりと汗を掻いていた。
「ねえ、桃城………ベッドに上がって?」
不二がにっこりしながら言ってきた。
「もっとリラックスしなくちゃ、つまらないよね?……手塚、桃城を誘ってみて?」
不二の言葉に、手塚がぎくり、と目を開く。
「ほら、ここをさ、こうやって………」
不二が、手塚の脚の中心に手塚の手を差し込ませた。
「ここを弄りながら、こっちをよく桃城に見せるんだよ。桃城が興奮するようにね?」
「不二………」
苦しげに、手塚が眉を寄せる。
それでも手塚は、不二の言う通り、大きく脚を広げて、桃城を見上げてきた。
左手で自分の性器を扱きながら、その奥の入り口に、右手の指を差し込む。
とろり、と自分が吐き出した白い粘液が流れ出すのを、桃城は見た。
かぁっと身体が熱くなった。
同時に、また下半身に一気に血が集まる。
どくん、と大きなうねりが襲ってきて、性器が痛いほど膨張する。
「誘ってごらんよ……?」
不二が、手塚に囁いた。
「桃城が怯えないように、色っぽく、可愛くね?」
「桃城…………」
手塚が、掠れた声で桃城を呼ぶ。
鼻にかかった甘い声だった。
そんな声は聞いたことがなかった。
ぞくり、と身体中の毛が逆立った。
幾分厚い下唇を、桃色の舌がちろり、と舐める。
黒く長い睫毛を伏し目がちに震わせて、桃城を見上げてくる。
いつもは強い視線が、今は不安げに揺れていた。
眉を寄せて、辛そうに、それでいてうっとりと陶酔したような声音だった。
「桃城………ここに………」
濡れた声に誘われて、桃城はふらふらと手塚に近寄った。
近付くと、手塚が瞳を揺らしながら、桃城の首に腕を巻き付けてきた。
「桃城………」
甘い響き。
身体中に電流が走った。
「……部長……」
譫言のように言う唇に、手塚の柔らかい唇が押し付けられた。
「ぅ…………」
歯列を割って、桃城の口の中に舌がぬめっと入り込んできた。
桃城の舌を捕らえると、嬉しそうに絡みついて、それから吸い付いてくる。
桃城は、キスも初めてだった。
手塚の舌の動きに、頭が爆発しそうだった。
今まで桃城は、唇が触れ合うぐらいのキスしか想像した事がなかった。
それなのに、今、ディープキスを、しかも手塚にされている。
あの部長が、こんな事まで-----!
「桃城、来てくれ……」
唇が離れると、手塚の甘い囁きが聞こえてきた。
それとともに、手塚の大きく広げられた脚が、桃城に絡みついてきた。
「部長……」
「俺の中に、もう一度………」
掠れた甘い声に、脳が沸騰した。
頭の中でぱん、と音を立てて何かが破裂した。
「……部長っっ!!」
広がった脚の中心の奥まった蕾に、桃城は叩き付けるように自分の性器を突き込んだ。
「…………ッッッ!!」
手塚が白い喉を反り返らせて身体を震わせる。
火傷するほど熱い、熟れた肉襞が、桃城を歓迎してきた。
脳がぐずぐずと溶けるようだった。
激しく抜き差しを繰り返すと、ぐちゅ、と湿った音が部屋に響く。
それを聞くと、桃城は一層興奮した。
「部長っ、部長っ!!」
自分の身体の下で、苦しげに眉を寄せて、唇を半分開いて、熱く吐息を吐いている手塚。
密着した肌から、手塚の清涼な匂いが立ち上ってくる。
繋がっている所が、やわやわと自分を締め付けながら蠢いてきて、全身が歓喜で震える。
「……部長ッッ!!」
一際深く突き込むと、手塚がく、と喉を鳴らした。
瞬間、桃城は、手塚の最奥に二度目の精を勢い良く迸らせた。
手塚がびくびくと痙攣して、腹の間に生暖かい精液を噴出させたのを感じながら。















「ご苦労様……」
身支度をして玄関まで降りると、不二がにっこりと笑いながら声をかけてきた。
「今日は良かった?」
「……はい……」
不二の顔がまともに見られない。
「そう、キミに満足してもらえて嬉しいよ」
「不二先輩は……?」
満足げな不二に思わず問い掛けてしまって、桃城は慌てて口を閉ざした。
「……なに?」
不二が小首を傾げて桃城を見てくる。
「い、いいえ、なんでもないっス………」
「また手塚としたくなったら、させてあげるよ。キミと手塚を見ていたら、すっごく良かったから、気に入っちゃった」
不二がくすっと笑う。
「オ、オレ………」
「……ね? 良かったら、また連絡して?」
「…………」
有無を言わさぬ調子の不二に、押し黙ったまま頷いて、桃城は不二の家を出た。
出ると、天空には、冴え冴えとした半月が浮かんでいた。
「………………」
頭がぼうっとしたままで働かない。
今日の出来事が信じられなかった。
俺は、一体--------!
突然、ぞくりと悪寒がして、桃城は胸を押さえた。
強烈な吐き気が込み上げてきた。
「うっ、………うぇっ!!」
思わず道路の端に蹲る。
苦く酸の強い胃液が逆流してきた。
蹲って何度も吐いていると、突如鼻先がつうんとして、次の瞬間、突き上げるように涙が溢れてきた。
「ううっ………………うううっっ!!」
道路に突っ伏して、桃城は激しく泣いた。
いくら泣いても、涙が止まらなかった。






人気のない暗い路地で、桃城は果てることなく泣き続けた。


















FIN

見てよろこぶヘンタイ不二になっちゃいました(汗)