heartbreak 
《3》












忍足が出ていって、部室にはオレと跡部が残された。
オレはまだ全裸で……忍足が後始末をしてくれたとは言え、身体のあちこちに、忍足がつけたキスマークなんかが残っていた。
「ふん……」
跡部が鼻を鳴らして皮肉っぽく笑い、オレをどさ、とソファに押し倒してきた。
「忍足はどうだった、千石?」
「ど、どうって………」
「アイツはテメェの事、気に入ったみてえだがな……」
そう言うと、跡部は、オレの両足首を掴んで、がばっと広げてきた。
「わ……っ!」
思い切り広げられて、その中心をしげしげと跡部に見られる。
さすがに恥ずかしくなって、オレは顔が赤くなった。
「や、やだよ、跡部君……ねぇ………」
さっきイったばかりだと言うのに、跡部に見られていると思ったら、オレのペニスはまた勃起してきてしまった。
目の前でむくむくと頭を擡げてきたそれを見て、跡部がくすっと笑った。
「テメェって、ホント、淫乱なのな……」
「……だって……」
「こっちももう、ひくついてるぜ?」
跡部の長い指がぐい、とアナルに差し込まれたので、オレは無意識に尻の筋肉を固くした。
「ほら、弛めろよ……」
尻をパン、と叩かれて、更に指が内部に押し込まれる。
「あ………ん…ん………!」
感じるポイントをうまく突かれて、オレは忽ち下半身が蕩けた。
「まぁだヤりたりねえって感じだな、千石?」
-------そうなのかな。
身体が熱く火照って、頭の中が快感で支配される。
「ん、跡部クン………」
思わず甘えるように跡部の名前を呼ぶと、跡部が指を3本にふやして、乱暴に突き入れてきた。
「は……んんっっ!!」
感じる点をけざまに擦られて、オレは目の前が霞んだ。
グチュグチュ、と淫猥な水音を立てて、跡部がオレのアナルに指を出し入れする。
「ここも随分と解れてるよな、千石。……おい、この間オレとやってから、何人とやったんだ?」
「ん……ぁ………ッ!」
「よがってんじゃねえよ、質問に答えろ」
不意に指を突き立てられ、衝撃が背筋を駆け上がる。
生理的な涙が滲み出てきて、オレは滲んだ視界で跡部を見上げた。
「何人、ここに突っ込ませんたんだよ?」
「……やってないよ……」
「嘘吐け」
「ホント……」
これは本当だった。
跡部と関係してから、なんだか他のヤツとやる気がなくなっちゃって、亜久津も誘ってこなかったし、それでオレはずっと清い身体でいた。
「ホントに、誰ともやってないよ……」
「ふーん……じゃあ、久しぶりってわけか……」
跡部がにやにやした。
「好き者のテメェが随分と我慢できたもんだな。……あれか? 俺が忘れられねえってわけか?」
「……うん……」
実のところ、やってなかった原因が跡部かどうかは、オレにも分からなかった。
でも、跡部の問にそうだと肯定しておいた方が、跡部が喜ぶような気がして、オレは素直に頷いた。
案の定、跡部は嬉しそうな顔をした。
「結構可愛いトコあんのな、千石………じゃあ、俺が欲しいか?」
「……うん、欲しい…………跡部クン、抱いて?」
跡部の嬉しそうな顔を見ていたら、跡部をもっと喜ばせたくなった。
オレはお願いするように跡部に言ってみた。
跡部が瞳を眇めた。
「ホントかよ、千石………嘘言ってんだろテメェ……」
「嘘じゃないよ、ホント……」
「俺のせいで忍足にやられたってのに、それでも俺にやられてぇのかよ?」
「……跡部クン、意地悪しないでよ……」
跡部の気に入るように答えてるのに、彼が意地悪い質問をしてくるので、オレは泣きたくなってきた。
-------やっぱりさ。
跡部って、オレのこと、好きでも何でもないんだよね。
だって、好きだったらさ、こんな意地悪しないもの。
面白い玩具なんだろうな、オレって。
オレのことからかって遊んでるだけだよな。
なのに、なんでオレって一生懸命、跡部の機嫌とか取ってるのかな?
遊ばれてるだけなのに。
そう思ったら、鼻の奥がツンとしてきた。
やばい、まだ涙でそう…………。
跡部がそんなオレを見て、表情を和らげた。
「おまえってホント、変な奴だよな。……本気なんだか冗談なんだか分からねえ……」
まぁ、いいけどよ、と言いながら、跡部がカチャカチャとズボンのベルトを弛めて、中から勃起した性器を引き出した。
それをおもむろに、オレのアナルに挿入してくる。
「うぁ……ッッ!」
さっき一度忍足を受け入れたし、跡部の指の愛撫もあって入り口が十分解れていたから、跡部のそれはスムーズに奥まで入ってきた。
「ん……う………ッ!」
ズシン、と重い快感が脳天まで突き上げて、オレはたまらず甘い声をあげた。
気持ちがいい。
すっごく、イイ。
脳が蕩けて、身体も全部トロトロになっってくる。
「千石……」
跡部の低い声にずきん、と下半身が疼いた。
「あとべ……くん………」
やっぱり、オレ、跡部の事が好きなのかな?
なんか、どんなことされてもいいって思っているみたいなんだ。
オレの事なんて、跡部はなんとも思ってないのにね。
オレって………こんなに一途なヤツだったっけ?
「千石……イけよ……」
跡部の声が腰にずうん、と突き刺さる。
後ろから何度も突き上げられ、前を擦られて、オレはたちまち我慢の限界を超えた。
「あ、あッあッ……跡部クン……んんッッ!!」
せっぱ詰まった上擦った声で名前を呼ぶと、跡部が瞳を細めた。
蒼くて澄んだ綺麗な瞳だ。
透明で、本当に綺麗だ。
などと一瞬思って、オレは次の瞬間、絶頂に達した。
跡部が唇の端を上げて少し笑ったのが、最後に胸にズキン、と来た。














事が終わると、もう用はないとばかりに跡部は冷たくなった。
忍足とは大違いだ。
さっさと自分だけ服を着て、オレの方なんて全然見ない。
でも跡部自身は機嫌が良さそうだった。
鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で服を身に着けている。
「おい、なに呆けてんだよ。はやく服着ろよ」
オレがぼけっと跡部を見ていたのに気付いて、跡部が眉を顰めた。
「あ、ごめんね……」
慌ててそう言って立ち上がると、さすがに尻が痛んだ。
「いた………」
顔を顰めてちょっと呻くと、跡部が肩を竦めた。
「なんだよ、この程度で弱音か、千石?」
きちんと服を着て、バッグを肩に担いで、オレを上から見下ろしてくる。
「大丈夫……」
オレは痛みを堪えて平気な振りをして、急いで服を身に着けた。
ちょっとふらつきながら立ち上がると、跡部はもう部室を出ていこうとするところだった。
なんだか、……寂しかった。
オレの事なんて、どうでもいいんだろうな。
またそんな事を考えてしまった。
「また電話するからよ」
外に出ると、跡部が話しかけてきた。
「テメェから電話してきてもいいぜ?」
「う、うん………迷惑じゃない?」
「別に……出たくねえ時は出ねえから、気にすんな」
そう言って跡部がまた唇の端を上げて笑った。
形の良い唇が綺麗に笑いの形になって、灰青色の瞳がオレを射るように見つめてくる。
-------ドキン。
胸が痛んだ。
どうしてこんなに格好いいのかな、跡部君。
あんなひどい扱いされても、そんな事どうでもいいっていう気になってくる。
跡部君と話をしたり、こうやって一緒に歩いたりできれば、いいっていう気になってくる。
こういうのって、…………跡部君に恋してるみたいじゃないか。
そうなのかな、オレ。
…………まさか、ね。
「じゃあな」
氷帝の門の所でオレたちは別れた。
跡部はそのまま学校送迎用のバスに、オレは反対方向から電車に乗るからだ。
跡部は最後まで機嫌良さそうに、バスの中からオレに手まで振ってくれた。
「あーあ………」
跡部の乗ったバスが見えなくなると、オレはどっと疲れが出て、思わず溜め息を吐いた。
「……千石クンらしくないよねぇ………」
もっとクールに、スマートに他人と付き合うのが、オレのポリシーだったような気がするんだけど。
尻がまだ少し痛かった。


オレは肩を竦めてもう一度溜め息を吐くと、夕暮れの町をとぼとぼと歩き出した。















FIN

やっぱり跡部が好きなキヨなのでした〜