SOCKET
最近、室町が用もないのにオレの所までやってくる。
この間、室町とセックスしてからだ。
学校の中でも、わざわざ2年の教室からオレの所まで、昼休みとか教室を移動する時とか、ちょっとした時間を見付けては話をしに来る。
別に、室町が嫌いな訳じゃないけど。
でも、オレは内心困っていた。
だって、室町ったら、すっかりオレのことを好きになっちゃったみたいなんだ。
…………誤算だ。
南だってヘンになっちゃった(というかオレがさせたんだけど)のに、室町まで?
室町なら、軽く遊び感覚で応じてくれそうだったから、セックスしたのに。
マジになった室町をどうかわしていいものやら、オレは途方に暮れていた。
どうして、こんなにややこしくなっちゃったんだろう。
オレは亜久津一筋だっていうのに。
その亜久津とは、ここんとこ全然しゃべってない。
そして、南と室町には好かれてしまってる。
まぁ、オレがセックスとかしたから悪いんだけど。
でもさ、男とセックスしたからと言って、別にその相手を好きにならなくてもいいんじゃないかな?
南も室町もそれなりに格好いいし、女の子の人気も高いのにさ。
変なの。
……とか、お気楽に思ってる場合じゃないぞ、キヨスミ。「千石さん……」
今だって、室町が結構マジに迫ってきている。
オレと室町は部室にいた。
オレはさっさと帰ろうと思ったのに、室町がなんやかやと質問してきて、それに答えていたら他のヤツはみんな帰ってしまって、オレと室町の二人だけ。
そうしたら室町が、早速オレを抱き締めてきた。
「ね、ねぇ、室町君……あのさぁ……」
困ったオレはへらへら笑いながら、一応室町に言ってみた。
「あのねぇ、こういう事、あんまし良くないと思うんだよね。室町君、オレなんかとこんなことしてちゃ駄目だよ?」
「なんでですか? オレは千石さんと、したいんです!」
したいって、えらく直接的な…………
「千石さん、いつでもしてくれるって言ったじゃないですか?」
-------はい?
そういう事、言ったっけ?
とか考えていたら、室町にソファに押し倒された。
あーあ………まぁ、しょうがないか………。
「ン………むろまち……くん………」
室町が圧し掛かってきて、オレのシャツをたくし上げると、胸にむしゃぶりついてきた。
膨らんでもいない、固い胸なんかまさぐっても面白くないと思うけどなぁ。
でも、室町はもうすっかり臨戦態勢で、忙しく息をしながら、オレのハーフパンツを引き下ろして足を抱え上げてきた。
「千石さん……!」
きゅっと前を握られて、思わず仰け反った所に、突然、
-------バタン、
とドアが開いて、眩しい外光が視界を覆った。
四角く区切られた白い光の中に、黒いシルエットが浮かび上がる。
「あ………」
室町が喉を詰まらせたような変な声を出して、慌ててオレから離れた。
「………なんだよ、お取り込み中か? オレに構わずやってろよ」
嘲笑とともに、冷たい声が聞こえた。
亜久津…………?
驚愕してオレは身体を起こした。
入ってきたのは、亜久津だった。
「亜久津………なんで?」
「……ああ? ちょいと忘れ物でな……」
亜久津がオレを見て、けっと唾を吐いた。
「……じゃあな」
亜久津は、部屋の隅の亜久津専用のロッカーから何か取り出すと、さっさと部室を出ていこうとした。
「あ、亜久津、待ってよ!」
久しぶりに会えたっていうのに、最悪。
オレは大股開いてるし、室町が上にのっかって、入れてる最中。
バタン、とドアが開いて、亜久津が出ていく。
「……待ってっ!」
室町が固まっているのをいいことに、オレはパンツを慌てて引き上げると、亜久津の後を追った。「亜久津、亜久津、待ってよ!」
夕暮れの校庭に、白い後ろ姿が小さくなる。
オレは必死で走った。
校門の近くでなんとか追いついて、嫌そうに顔を顰める亜久津の腕をひっつかむと、オレは門の側の資材倉庫の裏へ、亜久津を引きずるように連れてきた。
嫌がって来てくれないかと思ったけど、意外に亜久津はおとなしく、オレが引っ張るままについてきてくれた。
ほっとしたけれ、それよりもどうやって亜久津に言い訳しようかと、オレはそっちで頭が一杯だった。
ていうか、だいたい亜久津がオレの話なんて聞いてくれるのかな?
すっごく不安になって、オレは倉庫の裏の大きな木の下まで来ると、亜久津からそっと離れた。
亜久津が肩を竦めて、オレを胡散臭そうに睨んできた。
「どうしたよ、千石」
「どうしたって………その………」
面と向かうと、なんか言葉が出てこない。
マジになると、オレってあんまり語彙が豊富じゃ無くなっちゃうんだ。
へらへらしてれば、適当にいくらでも言葉が出て来るんだけど。
「まさかテメェが部室でヤってるとはな。さすがにびっくりしたぜ? オレがオトコの味教えてやったら、病みつきになっちまったのか? 千石? それにしても、下級生を食うとはな、おめえも結構なタマだぜ」
亜久津が馬鹿にしたように言ってきた。
「違うよぅ……だって、亜久津が……」
うまく言葉が出ない。
「オレがなんだよ?」
「……亜久津が、オレのこと、抱いてくれないから……」
「……ああ? オレのせいかよ?」
「……………」
亜久津のせいだよ。
オレはこっそり心の中で呟いた。
亜久津がオレに冷たいから、オレは寂しかったんだ。
亜久津にとって、オレなんてどうでもいい存在みたいだから、せめてオレを大切に扱ってくれそうなヤツに甘えたかったんだ。
南も、室町も、とってもオレを好きになってくれたのに。
なのに亜久津だけ、冷たいじゃないか。
「おまえ、オレ以外に誰と寝たんだ?」
「………さっきの室町と………南………」
「おいおい、もしかして部員をみんな喰っちまう気かよ。そのうち全員なんて事になったら笑い事じゃねえな」
亜久津が呆れたように肩を竦めた。
「すげえ部だな。山吹中テニス部はよ。……みんな兄弟ってか?」
「……オレ、亜久津しか好きじゃないよぅ」
オレはなんだか悲しくなって、亜久津を見上げながら抗議した。
「おいおい、今更キモイ事言ってんじゃねえよ」
亜久津がけっと吐き捨てるようにいった。
…………キモイ?
オレはショックだった。
亜久津に気持ち悪いと思われてるんだ……。
南とか室町が相手だとオレが優勢なのに、亜久津の前だとオレは何も言えなくなる。
どうしよう。
亜久津が抱いてくれないのも寂しかったけど、それより、亜久津に嫌われたり、気持ち悪がられて無視されたりしたら。
オレはすっごく怖くなってしまった。
「……ごめんね……」
亜久津に嫌われたくない。
オレは無理してへらへらした。
へらへらしてれば、マジにならなければ、きっと亜久津だって、オレのこと気持ち悪いとか思わないだろうし。
「あのさ、オレの言ったこと、忘れて? やっぱ男同士だもんね、ヘンだよね! えへへ……」
とにかく、亜久津に嫌われたくない。
オレは亜久津にウィンクして、元気の良い振りをして笑った。
「でさ、部活出てきてよ! 亜久津がいないと山吹中勝てないからさ……」
そこまで言ったとき、突然亜久津がオレを鋭く睨んできた。
「千石、テメェ………」
急に胸ぐらを掴まれて、次の瞬間、オレは地面に押し倒された。
「なに笑ったやがんだよ! 気に入らねえな!」
亜久津の怒鳴り声に耳がきぃんとした。
荒々しくハーフパンツを下ろされる。
「あ、亜久津………!」
両脚を乱暴に広げられ、アナルにぐいっと亜久津の指が突き入ってくる。
カチャカチャとベルトを外す音がする。
呆然としているうちに指が引き抜かれ、代わりに亜久津の固いペニスがくちゅ、とアナルに押し当てられた。
次の瞬間、身体を切り裂かれるような痛みが脳天まで走り抜けた。
「やッ、あくつぅッッッ…………!!」
亜久津の、激しい息づかい。
亜久津の、白っぽく光る髪。
亜久津の………熱いペニス。
--------亜久津が、入ってきてる。
感激で、痛みまでもが嬉しくて、オレは亜久津に貫かれながら、涙を流した。
亜久津だと、やっぱり、無理矢理にしかしてくれないのかな。
でも、どんなでも嬉しい。
亜久津、…………亜久津が好き。
「亜久津………」
怒られそうだったから、こっそり囁いて、オレは亜久津の背にそっと手を回した。
亜久津は乱暴にオレの中で動いて、腸壁に精液を叩き付けると、入ってきたときと同じく唐突にペニスを引き抜いた。「……くそ!」
亜久津が悪態を吐きながらズボンを直すのを、オレは強姦された体勢のままぼんやりと眺めた。
「おい、いつまでそんな格好してんだ!」
亜久津が苛ついたように言ってくる。
「……あ、ご、ごめん……」
我に返って、オレは身体を起こした。
「いてて………」
アナルがずきずき痛んだ。
そんなオレを亜久津は目を眇めて見下ろしていたが、オレがなかなか立てないのを見て、乱暴に抱き起こしてくれた。
「ありがと……」
オレはどんな事でも、亜久津がしてくれることは嬉しかった。
小さい声で礼を言うと、亜久津がそっぽを向いた。
「……千石、テメェ、……いいか? オレ以外とやるんじゃねえ!」
「………え?」
「……分かったな!」
「亜久津………」
亜久津はイライラした手つきで地面に投げ出してあったオレのバッグを掴むと、中からシャーペンとメモ帳を取り出した。
「やりたくなったら電話しろ。言っとくが、テメェがやりたくてもオレがその気じゃなかったらやってやらねえからな!」
乱雑な字で、メモ用紙に携帯の番号が書いてあった。
「亜久津………いいの?」
「うるせえな!」
けっと唾を吐いて、亜久津が大股で遠ざかったいく。
オレは呆気に取られて、メモ用紙と亜久津の後ろ姿を交互に眺めた。
携帯の番号…………ってことは、これ、亜久津の携帯で、オレに教えてくれたって事だよな。
電話して、いいんだ。
で、亜久津……………セックスしてくれるんだ?
------うわぁ、…………ホント?
なんだか急に胸がどきどきしてきて、オレはその場にしゃがみこんだ。
亜久津、ほんとに、ほんとに…………?「と、とにかく、番号いれとこ!」
オレはバッグから携帯を取り出して、亜久津の名前と番号を登録した。
なんだか突然仲が進展して、オレは夢みたいだって思った。
嬉しくて、オレはすっかり部室に残していた室町のことなんか忘れていた。
FIN
室町君の事はどうでもいいらしいキヨ(汗)