謔浪
-gyakurou- 《3》















手塚が、切れ長の目を張り裂けんばかりに見開いて、菊丸を見上げてくる。
菊丸は、くすっと笑って、その手塚から眼鏡を取った。
眼鏡のない手塚は、眼鏡が知的な雰囲気を醸し出している分、それが無くなって、代わりに色気が増していた。
濡れたような茶色の瞳が、途方に暮れたように菊丸を見る。
長い睫毛がふるふる震えて、寄せられた眉の真ん中の皺までもが妖艶だった。
すっげぇ、色っぽい。
菊丸はぞくぞくした。
興奮に駆られて、手塚の衣服を乱暴に引き剥がそうとすると、はっと我に返ったのか、手塚が抵抗してきた。
「よ、よせっ!」
「ねぇ、そういう事言っていいの? オレにさ?……オレの言うこと聞かないと、大石に言っちゃうよ?」
びくっと手塚が抵抗を止める。
菊丸は含み笑いをした。
「そうそう、おとなしくしていてよ。別に酷いことするわけじゃないんだから。ただ、お互い気持ちよくなろうってだけだし?」
語尾を上げて手塚にウィンクすると、手塚が唇を噛んで、視線を逸らした。
やっぱり、嫌なんだ。
まぁ、嫌じゃないわけないか。
愛しの大石じゃなくて、悪いね、手塚。
でも、大石は絶対にこんな事してくれないと思うよ?
シャツを脱がせ、ズボンを下着毎引き下ろすと、手塚が全身を震わせた。
全裸に剥いた手塚を、菊丸は馬乗りになったままで、しげしげと眺めた。
バランスの取れた上半身と、細い腰。
色白で、艶やかな餅肌。
胸の突起が淡い桃色に震えている。
形の良い臍から下を見ると、やわやわと茂った淡い繊毛と、その中で震えている手塚自身が見えた。
萎えた状態のそれは、桃色の頭を少し覗かせて、双果とともに柔らかそうに実っている。
(へぇ…………)
実のところ、菊丸は、手塚に対して性欲があったわけではなかった。
ただ、振り向いてくれない大石に恋い焦がれていて、しかもそれを言い出せない彼に、苛立ちを感じていただけだった。
しかし、今こうして手塚の裸体を見ていると、身体の奥から抑えがたい欲情が湧き起こってきた。
(男でもいけるんだ、オレ………)
ちょっとした新発見だった。
なんとなく嬉しくなる。
勢いよく自分も服を脱ぎ捨てると、菊丸は手塚の身体にむしゃぶりついた。
淡い乳首を口に含んでみる。
「…………!」
手塚がびくり、と身体を動かした。
くりくりと歯で噛んで、舌で転がすと、たちまちそこが勃ち上がってきた。
「やーらしい、手塚。……大石じゃなくても、感じちゃうんだ?」
口を離して笑いながらそう言うと、手塚が顔を背けた。
切れ長の瞳にぽってりと涙が溜まっているのを見て、ますます菊丸は興奮した。
変なやつ。
嫌なら嫌って、はっきり言えばいいのに。
そんなに大石にばれるのが、怖いんだ?
結構手塚も臆病だね。
あんなにテニスは上手いくせに、変なの。
そういう手塚を見るのは、ぞくぞくした。
右手で、胸から腹、それからその下の茂みを掻き分けて、縮こまっている性器をぎゅ、と掴む。
「よせっ!!」
ふにゃっとしたそれを指で絞るようにして扱くと、手塚が首を振った。
「よせじゃないだろ?……もっと、して、じゃない、手塚?」
他人の性器を愛撫するなんて、菊丸にも初めての経験だったが、自慰の時と同じようにきゅっきゅっと強弱を付けて根元から先端まで指を動かしてみる。
すると、そこはすぐに硬くなってきた。
先端の鈴口から、ぬるり、と粘液が滲み出してきたのが分かって、それを指で掬いながら馴染ませるようにして更に擦る。
「あっ……や………よせ……ッッ!」
手塚がせっぱ詰まったような声を出してきた。
「イっちゃえば?」
耳に吹き込むようにして囁くと、手塚が菊丸を押しのけるように腕に力を入れた。
そこを体重をかけて押さえ込んで、更に手を動かす。
「…………くッッ!」
手塚が低く呻いて、次の瞬間、手に熱い粘液が迸った。
「結構早いね、手塚。……たまってたの?」
くすくす笑いながらそう言うと、手塚が頬をかぁっと染めて瞳を伏せた。
白晰の顔がぽっと赤くなるさまは、ぞくぞくするほど妖艶だった。
背筋を甘い痺れが走り抜けて、下半身に血が集まる。
こんなに色っぽいなんて、びっくり。
悪くないじゃん。
大石も、こんな手塚に想われてるのに気付かないなんて、勿体ないよね。
そう思いながら、菊丸は、
「俯せになってくれる?」
と言って、手塚を俯せにさせた。
手塚はあきらめたのか、おとなしく菊丸の言うことに従った。
きゅっと締まった、乳白色の尻が露になる。
ドクン、とまた血がうねった。
自分のものも、もうすっかり勃ち上がっていて、びくびく震えている。
菊丸は、ぐい、と手塚の尻を持ち上げると、手の中に溜まった白い粘液を、その中心に塗り込んだ。
指でまさぐって、柔らかな襞に囲まれた入り口を探し当て、粘液を馴染ませながらそこに指をくい、と挿入する。
「……ぅ……ッッッ!」
手塚が掠れた悲鳴を上げた。
「どう?……痛い?」
火傷しそうに熱い内部の粘膜の感触に、脳がくらくらする。
思わず上擦った声で聞くと、手塚がシーツを強く握りしめて、身体を震わせた。
「大丈夫だよね? 手塚のここ、なんだかオレを歓迎してるみたいだし……」
「嘘だ……」
「嘘じゃないって……ほら」
「く………ッ!」
内部で指を曲げると、手塚が釣り上げられた魚のように身体を跳ねさせた。
さっき達したばかりの性器がむくむくと大きくなるのを見て、菊丸は嬉しくなった。
「ここ、イイんだ?」
指をくいくいと曲げて、感じる点を刺激する。
「あっ………く………ッあッッ!」
顔をシーツに埋めて、手塚が堪えきれないというように、あえかな喘ぎを漏らした。
(すっごい……手塚……)
普段の、取り澄ましたような表情とも、それから、大石の前で見せる恥ずかしげな表情とも違う。
こんな手塚は見たこと無かった。
ぞくっと背筋を電流が走り抜け、下半身を直撃する。
菊丸は指を抜くと、そこに自分の滾ったものを押し付けた。
ぬるり、と無理矢理先端を挿入し、そこから一気に根元まで打ち込む。
「……うあぁッッッ!!」
手塚が背中を仰け反らせて、掠れた悲鳴を挙げた。
脳天まで痺れるような快感が突き上げてきて、菊丸は歯を食いしばった。
すごい快感だった。
自慰とは比べ物にならない、激烈な快感。
「駄目……オレ、すぐにイっちゃうかも……」
手塚に言い訳するように言うと、菊丸は手塚の腰を掴んで、律動を開始した。
熱い肉壁を引きずり出すようにして凶器を抜き、ぐぐと襞を掻き回すようにして突き入れる。
「あ……あっあっ………くッッッ!」
手塚の身体の負担とか、痛みとか、そういうのを考えてやる余裕もなかった。
腰を強く掴んで激しく揺さぶると、手塚が切れ切れに呻きを漏らす。
それを聞くと、更に耐えきれなくなる。
数回抜き差しを繰り返すと、絶頂がやってきた。
ドクン、と数回、菊丸は手塚の体内に熱情を迸らせた。
手塚がシーツに頭を擦り付けて、全身を震わせたのが扇情的だった。















「なんだよ、手塚さぁ……いつまでも泣いてるなよ……」
事が終わって、上機嫌でベッドで余韻に浸っていると、隣で手塚が微かに嗚咽を漏らしているのが聞こえて、菊丸はむっとした。
「て・づ・か?」
自分に背中を向けている手塚を、無理矢理自分の方を向かせると、赤く充血した瞳が、途方に暮れたように菊丸を見てきた。
「いいじゃん、別に……気持ち良かったろ? 手塚だって、すげぇよがってたじゃん?」
被害者づらしているのが気に食わなくて、手塚を覗き込みながらそう言うと、手塚が赤面した。
「俺は…………」
「なに? 今更言い訳とかするわけ?」
「そういうわけじゃ……」
「いくら大石の事好きでも、大石じゃ抱いてくれないよ?」
「…………」
手塚が切なげに目を伏せる。
(おっ、悩んでる悩んでる!)
菊丸はおかしくなった。
-----やっぱりさ、身体の関係って結構重要だよね。
「ね、オレ、結構良かったでしょ? ねぇ、これからもオレとこういう事、しない?」
「……えっ?」
手塚がびっくりしたように目を見開いてきた。
「なんつーの? セックスフレンドってやつ、どう?」
「菊丸…………」
手塚が困惑したように瞳を揺らす。
きっと、手塚の頭の中では今、理性と本能がせめぎあっているに違いない。
そういう不道徳なこと、手塚は嫌いだもんね。
でもさ、身体は正直だし、気持ち良いこと、やめられないでしょ?
大石じゃ絶対にしてくれないものね?
「……ね?」
にっこり笑って更に手塚に言うと、手塚が目線を右に揺らし、左に揺らし、それから恐る恐る小さく頷いた。
「じゃあ、決まりっ!……ね? もう一回、しよ?」
そう言って、手塚の唇に自分の唇を押し付ける。
舌を絡ませると、手塚がおずおずと応えてきた。















ふーん、手塚って…………
こういう事、かなり好きなんだ?
知らなかったな。
大石じゃなくても、感じちゃうんだ?







「き……くまる………」
手塚が濡れた声を漏らした。







まぁ、いいけどね。
オレも、別に手塚のこと好きな訳じゃないし。
ただ、大石を手塚に取られるの、癪に障ったからだし。
あれ、オレ、大石のこと、好きなのかな?







よく分からなくなってきた。
頭を振って、菊丸は行為に没頭した。



















大石×菊丸になっちゃったvv