正しいペットの飼い方 《3》
どくん、と勢いよく先端から粘液が迸ると、全身に震えが走った。
「うわ、かかった………」
一滴残らず放出して、深い溜め息を吐きながらベッドに沈み込むと、長太郎がなにか言ってるのが聞こえた。
「………ああ?」
「宍戸さんの、すごい勢いですね。オレの方まで飛びましたよ?」
………ああ、そうかよ……テメェが飲ませた薬のせいじゃねえかよ。
全身の脱力感と解放感に浸っていたので、長太郎の言い分もどうでも良くなっていた。
本当に、気持ちが良かった。
今までこんなにすごい快感を感じたことがなかった。
自慰でも、セックスでも。
だいたい、長太郎とのセックスは、気持ちいいことはいいが、それと同じくらい痛くて、快感を覚える、というほどでもない。
どちらかというと、今までは、長太郎が満足してくれる表情が見たくて、長太郎とセックスしていたと言う感じだ。
だから、今日のようにものすごい快感は初めてだった。
俺はもう、なんだか自分でも訳が分からなくなっていた。
その証拠に、長太郎の前で思い切り自慰をしてしまったというのに、気持ち良さが勝っていて、羞恥心がわいてこなかった。
脚を広げたままでぼんやり、射精の余韻に浸っていると、
「宍戸さん、オレも………」
長太郎が言って、俺の身体を俯せに転がしてきた。
「ここ、使わせて下さいね……」
長太郎の指が俺のアナルに入ってきたとき、俺は無意識に腰を突き出して、長太郎にせがんでいた。
「長太郎……もっと、深く……」
-----おいおい、俺が言ってんのかよ。
頭の片隅では、そういう風に俺の狂態を呆れてみているもう一人の俺がいたが、でも、それより、もっと刺激が欲しかったんだ。
だって、長太郎の指が入ってきた途端、背筋を電流が走り抜けて、もう、俺は腰がぐずぐずに蕩けてしまった。
指が感じる一点を擦ってくると、ぴん、と張り詰めるような衝撃が脳天まで突き抜ける。
「あっ………あッあッ………!」
我慢できなくて、掠れた呻きをあげながら、長太郎の指をもっと飲み込もうと無意識に尻を揺らす。
「宍戸さん………」
感激したような長太郎の声が、恥ずかしいようで、それでいて嬉しい。
「そんなに気持ちいいんですか? すごいな……」
上擦ったような声で長太郎が言ってくるけれど、俺はもう目の前の快感を追うのに精一杯だった。
「ここも、こんなに………もう、勃起してますよ?」
どうやらまた大きくなっちまったらしい。
長太郎が後ろから手を回して、俺のペニスをぐっと握りしめてきた。
「……くッッ!!」
また目の前に閃光が散って、俺は喉を枯らして喘いだ。
「ねえ、後ろも、すっかりひくひくしている。……オレの指、こんなに飲み込んじゃって………中が見えますよ、宍戸さん………赤くて、柔らかそう………」
ずぶ、と指の本数が増した。
「くぅっ!!」
俺はベッドのシーツを千切れるほど握りしめて、ひたすら耐えた。
後ろと前からの刺激で、脳はぐつぐつ煮え立ってるし、身体はとろとろに蕩けきっている。
もう、俺、……駄目かも………!
「じゃあ、もう、いいっすよね……」
俺が身体を細かく震わせて、快感の波に耐えていると、すっと指が引き抜かれた。
「あ………」
軽い喪失感がし、後ろからの快感が消えて、尻が焦れったく疼いて俺は悶えた。
「長太郎……やだ…」
「大丈夫ですよ、今度はオレのを入れさせてもらいますから………ね?」
「は……はやく………!」
俺が言ってるんだぜ。
早くだってよ…………。
------本気かよ!
「可愛い、宍戸さん……」
長太郎が勝手なことを抜かしているが、俺は怒る気力もなにも残っていなかった。
アナルに、ぴと、と熱い肉塊が押し付けられる。
次に来る甘い衝撃を予感して、俺は全身が震えた。
「…………ッッ!!」
それは一気に、俺を貫いて入ってきた。
そして、入ったと同時に激しく動き始める。
「あッッ………あッあッ………く………ああッッ!」
痛くなど無かった。
今まで、最初は痛みしか感じなかったというのに。
今日は、もう、俺は外聞も何もなく泣き叫んで、長太郎に腰を突き出して、動きに合わせて腰を振っていた。
頭が霞んで、もう、何も考えられない。
身体中がぐつぐつと煮え滾って、熱い溶鉱炉の中のように溶けて、その真ん中を、長太郎の熱く硬い楔が、容赦なく貫いてくる。
気持ちがいい。
死にそうだ。
どうしよう、俺、もう、………死んでしまう!
「ちょた………あッあッあッ………死ぬッッ!」
死ぬなんて、恥ずかしい言葉を叫んでいた。
長太郎が一層激しく、強く抜き差しを繰り返す。
身体がふわっと浮き上がって、ぞくぞくとした電流が、背筋を稲妻の如く駆け上がってきた。
「あああッッッ!」
目の前が真っ白になって、俺は喉を仰け反らせて、呻いた。
どくん、と身体中の体液が迸り出たような気がした。
「……宍戸さん!」
体内深くに、長太郎の精液が叩き付けられる感触がする。
俺は身体全部を突っ張らせて、息も絶え絶えにそれを受け止めた。「……宍戸さん、大丈夫ですか?」
全身が心地よい疲労と倦怠感に包まれていた。
俺はしばらく呆然としていたらしい。
ふと気が付くと、俺は大きく脚を広げた格好で仰向けに横たわっており、脚の間に入った長太郎が、指を俺のアナルに入れて、精液をかき出しているところだった。
「オレ、いっぱい入れちゃったから………ちょっと我慢してて下さいね……」
別に、……あまりにも気持ちよかったので、俺はどうでも良くなっていた。
いつもなら、こうやって長太郎に後始末をされるのが恥ずかしくて、拒否して自分でトイレとか行っていたものだが。
赤ちゃんがおむつを変えるような格好をさせられても、もう好きにしてくれって感じだった。
長太郎は、入っていた所をしげしげと見ながら、嬉しそうに精液をかき出していた。
「ちょっと腫れてるけど………でも痛みはないですよね?」
「………ああ……」
って、ぼんやりしている場合かよ、と思うんだが。
でも、本当に、気持ち良かった。
セックスって、こんなにいいものだったんだ。
だったら、長太郎がせがむのも分かるかな………。
全身がぬるいお湯に浸ったようで、弛緩していて、心もすっごく解放されたような感じだ。
「宍戸さん、好きです………」
長太郎が俺の頬にちゅっとキスをしてきた。
くすぐったくて、気持ちいい。
「ああ………俺も好きだ……」
ぼんやりとそう答えてしまって、はっとすると、長太郎が目尻を下げて、にやついていた。
「夢みたいです。宍戸さんがそう言ってくれるなんて……」
「あ………のな、薬のせいだぜ、薬の。………ちょっと変になってるんだ、俺」
「………そうなんですか?」
長太郎が瞳を瞬かせて、俺を覗き込んできた。
「じゃ、宍戸さんは、オレのこと、本当は好きじゃないんですか?」
「……………」
そう言われても困る。
だいたいなぁ、こんな恥ずかしいことさせてやってるのに、今更好きも嫌いもあるか!
俺は長太郎を睨み付けてやった。
「……宍戸さん……」
途端に、長太郎が情けない声を出してくる。
さっきまで俺に薬まで飲ませやがって、好き放題していたくせに、変に気が弱いんだよな、こいつは。
でも、大きい図体を縮こませて俺を眺めてくる目が、また悲しげな犬みたいで、俺はたまらなくなっちまった。
「……好きだよ! 当然だろうが!」
照れくさくて、ぶっきらぼうに吐き捨てるような感じで言ってしまったけど、聞いた途端に、長太郎が破顔した。
「……宍戸さん!」
抱き付いてきて、俺の頬やら瞼やら、鼻やら、もうどこにでもキスをしてくる。
やっぱり犬みたいだよな。
俺が拾ってやりたかったあの捨犬も、俺が飼ってやれてたら、こんな風にじゃれてきてくれたのかな?
嬉しげな、茶色の目一杯に、俺を映して。「こら、離れろったら………」
そうは言ってみたものの、俺も長太郎の背中に腕を回して、そっと抱き締めた。
FIN
というわけで犬好き宍戸なのでしたv