寒紅-kan-ko- 《2》
それから数日。
桃城はなんとかして跡部のことを考えまいと努力した。
部活動ではいつもの何倍にも練習量を増やし、何も考えないですむように身体を疲れさせようとする。
しかし、いくら身体が疲れても、頭の中は跡部のことばかり思い浮かんで、夜は殆ど眠れなかった。
眠れなければないほど、桃城は余裕が無くなり、更に跡部のことを考えるようになった。
どうしてももう一度会いたい。
とうとう桃城は、先日と同じく、夜、跡部の家まで行ってみることにした。
その日は金曜日で休みの前の日だったから、母親には友人の家に寄ってくると言って、夜遅くなるから先に寝ていてくれと予め断っておいた。
そういう事にして、川沿いのランニング道路を走る。
公園の所から市街地に入って、記憶を頼りに道を走っていくと、見覚えのある大きな三階立ての邸宅に着いた。
跡部の家だ。
-----家にいるのだろうか?
門扉の所からこっそりと中を窺って、どうしようかとしばし考えて、そのまま20分ほどそこに立ちすくむ。
跡部の家は電気が点いており、誰かがいることは確かだった。
と、突然、重厚な大きな扉が荒々しく開けられ、眩しい内部の光が外にぱっと漏れ出てきた。
思わず目を細めて、桃城は扉の方を凝視した。
「テメェら、うぜえんだよ!」
跡部の吐き捨てるような怒鳴り声が聞こえ、バタン、と一層大きな音でドアが閉められる。
ぎょっとして桃城は、思わず街路樹の影に隠れた。
ばたばたと跡部が走ってきて、門扉を乱暴に開け、隠れている桃城の前を横切って、走り去っていく。
跡部は氷帝の制服を着たままだった。
跡部があんな風に声を荒げるのを聞いたことはなかったので、桃城は少なからず驚いた。
跡部と言えば、いつも冷笑を口に浮かべ、人を斜めに見ているような印象があったからだ。
桃城は走り去った跡部の後をそっと追った。
氷帝の制服を着ているので、跡部の姿はすぐに桃城の視界に入って来た。
よほど怒っているのだろう、何かぶつぶつと悪態を吐きながら跡部は歩いていた。そのまま20分ほど歩いて、繁華街の一角にある雑居ビルのゲームセンターに入ったのを見届けて、桃城も恐る恐るその店に入った。
知り合いなのだろうか、数人の若い男と跡部が店内で話をしていた。
跡部が肩を竦めて吐き捨てるように言う言葉に、男達が反応して、笑ったり跡部をからかうように話しかけたりしている。
男は、10代後半、高校生から大学生ぐらいに見えた。
こういう連中と付き合っているのだろうか。
桃城は意外な心持ちで跡部の様子を窺った。
そのうち、その若い男のグループのリーダー角だろうか、一番年上の二十前後と思われる金髪の男が、跡部の肩に馴れ馴れしく手を掛け、抱き寄せるようにしながら店の奥へ跡部を連れていくのを見て、桃城はどきっとした。
どきどきする胸を押さえて、ゲームをしに来たように見せかけて、それとなくその二人の後を追う。
二人は店の奥の反対側の出口から外に出ていった。
反対側は寂れた裏道で、人通りもなかった。
ゲーセンから出るような振りをして外を窺うと、裏道の塀に凭れて、跡部が若い男の口付けを受けていた。
跡部よりも何センチか背の高いその男に塀に押し付けられて、口付けを受ける跡部は、息を呑むほど妖艶だった。
「……駄目だぜ………」
僅かに甘えを含んだ声で、跡部が男の首に手を回す。
「今日は結構乗り気じゃねぇか?」
くっくっと口の中で含み笑いをしながら、男が跡部の腰をぐいっと引き寄せて、跡部の尻を撫で回すように大きな手を蠢かした。
かぁっと頭の中に血が上って、それを見た瞬間、桃城は思わず二人の前に飛び出していた。
「跡部さん、こんな所にいたんスか!」
元気良く声をかけながら、ぎょっとしている跡部を、有無を言わさず手を掴んで引き寄せる。
「ほら、もう行きますよ?」
奇襲が功を奏したらしく、呆気に取られた二人がなんの行動も移せないうちに、桃城は跡部の手を掴んだまま、裏道を走りだしていた。そのまま息も吐かずに走って、川沿いの公園まで跡部を引きずるようにして連れてくる。
「な、なんだよ、テメェ!」
四阿の所まで連れてきて、そこで漸く立ち止まると、跡部が眦を吊り上げて桃城を睨んできた。
「………うっ!」
その跡部の鳩尾に、桃城は鋭く一撃を喰らわせた。
虚を突かれた跡部が思いきり鳩尾に拳を受けて、思わず呻いて倒れるところを、桃城は跡部の首から引きちぎるようにしてネクタイを抜き取り、それで跡部の腕を後ろ手にきつく縛り上げた。
跡部が何の抵抗もできない間に、乱暴に跡部のズボンを下着もろとも引き剥ぐ。
「テメェ…………」
ぎりっと自分を睨んでくる跡部の顔を見下ろしてせせら笑って、桃城は何か罵声を浴びせようとして開いた跡部の口にハンカチを突っ込んだ。
「ぅ…………」
口の中で、跡部がくぐもった呻きを漏らす。
そのまま俯せに床に押し倒すと、桃城は、跡部の白い尻を掴んで引き上げ、その中心の奥まった蕾みに、自分の性器を容赦なく打ち込んだ。
「ううぅッッッ!」
跡部の全身が痙攣する。
何の準備もされていない器官に無理矢理突き込むのは、桃城にとっても相当の痛みを伴ったが、その痛みも更に桃城を猛らせた。
跡部の艶やかな髪を鷲掴んで喉を仰け反らせ、跡部が苦しげに身体を震わせるのを見ながら、乱暴に腰を動かす。
跡部の内部を抉るように突いては身体を引き、更に強く打ちつけて、跡部の奥の奥まで凶器を突き立てる。
「うッうッ………ううぅッッ!」
さすがにそれには跡部も耐えきれなかったのか、床に顔を突っ伏したままで、力無く顔を振り、苦しげに呻いた。
その様子がまたぞくぞくとした快感となって、桃城はもはや何も考えられなかった。
ただ目の前の肉体を、………もっと壊したい。
めちゃくちゃにしてしまいたい。
そういう凶暴な欲望だけが、桃城を支配していた。
乱暴な抜き差しで傷付いたのか、跡部の太股に鮮血がたらりと垂れるのを見て、桃城は更に興奮した。
血が滑りを良くしたのか、ぐちゅ、という淫猥な音と共に激烈な快感を覚える。
忽ち絶頂がやってきて、桃城は腰を突き出すと、どくん、と跡部の体内に精を叩き付けた。
崩れ落ちそうになる跡部の腰を掴んだまま、手を前に回して、跡部の性器を乱暴に手で扱く。
「う………う………ッ」
跡部が僅かに上半身を捩らせた。
が、後ろ手に縛られ、口の中にハンカチを詰められている上体では抵抗もできない。
好きなように跡部のそれを弄っていると、それはずっしりと重く膨れ上がって、桃城の手の中でびくびくと脈打つようになった。
跡部の性器を弄んでいる僅かの間に、桃城のそれもすぐに回復した。
跡部のそれから手を離し、形の良い尻をがっちりと掴むと、桃城は二度目の性交に突入した。
「ぅ………う………ッッ」
もう抵抗する気力もなくしたのか、跡部が弱々しく首を振る。
白く滑らかな背中に汗がしっとりと浮き出て、しなやかな背筋が反り返り、尻の窪みが可愛らしく揺れる。
ぞくぞくとした快感が込み上げてきて、桃城は再度激しく揺さぶり始めた。
「くッ……ううッッッ」
弱々しく頭を振りながら、跡部が振り返って、桃城を見上げてきた。
綺麗な瞳に涙が一杯に溜まって、許してくれというように懇願の瞳で見つめられ、桃城は胸がずきずきとした。
心は痛いのに、身体はますます猛ってくる。
もう歯止めが利かない。
跡部の顔を睨むように見据えながら激しく腰を動かすと、また喩えようもない快感が桃城の喉を詰まらせた。
歯を食いしばって、目を閉じて、桃城は、跡部の体内を何度も抉った。
脳が蕩けるような快感と、針が突き刺さるような心の痛みがない交ぜになって、何もかも分からなくなる。
腰を打ちつけながら、跡部の性器を乱暴に扱くと、跡部が苦しげに背筋を仰け反らせた。
桃城の手に生暖かな粘液が溢れる。
それを感じた瞬間、桃城も二度目の精を跡部の体内深くに叩き付けていた。夜の公園に深々とした夜気が忍び寄り、はっと気付くと桃城の目の前には、ぐったりとして床に突っ伏して苦しげに身体を震わせる跡部がいた。
ふらりと立ち上がって、血と精液で汚れた自分の性器を拭き、何度か深呼吸をして、気分を落ち着かせる。
それから桃城は、跡部に近寄った。
突っ伏して足をだらしなく開いたまま、跡部はぐったりと横たわっていた。
きつく縛っていたネクタイを解くと、手首に赤い痣が突いていた。
仰向けに身体を転がして、口から唾液で濡れそぼったハンカチを取る。
跡部がひゅう、と喉を鳴らして、何度も息を吸い込んで、苦しげに睫毛を瞬かせた。
しばしそんな跡部を食い付くように眺めて、それから桃城はもぎとるように視線を跡部から逸らすと立ち上がった。
四阿から出ようとすると、
「桃城…………」
はぁはぁと苦しい息の下から跡部が声を掛けてきたので、桃城はぎくり、と身体を震わせて立ち止まった。
振り向くと、床の上に上半身を起こして、跡部がじっと桃城を見上げていた。
怒りや憤怒の表情はうかがえなかった。
どこか戸惑った、迷い子のような表情だった。
「おまえ………」
跡部が呆然としたような口調で言ってきた。
「……オレのことが、好きなのか?」
頼りなげな視線。
震える口元。
涙が幾筋も流れて、跡のついた白い頬。
唇を引き結んで、厳しい表情で、桃城はしっかりと頷いた。
跡部が切なげに瞳を揺らして、泣き出しそうに表情を歪めた。
そんな跡部を更に厳しく睨むようにして見据えると、桃城はぱっと身体を翻して四阿から駆け出した。
息も吐かずに無我夢中で走った。
酸素を求めて肺が悲鳴を挙げたが、それでも走るのを止められなかった。
胸がきしきしと痛んだ。
それでも桃城は走り続けた。
桃城ちょっと可哀想かな………