誕生日 《3》
「………ちょ、ちょっと待て!」
後ずさりしかけた俺を長太郎は勢いよく押し倒してきた。
「ちょ、長太………」
「ベッド行きますか? それともここで?」
「……ちょっと待てって!」
「………分かりました。ここでやります……」
--------な、なんでそうなるんだ?
「あ………ッちょたッッ!」
いきなり長太郎が俺のTシャツをたくしあげ、ハーフパンツを引き下ろしてきた。
「うわっ! やめッッ!」
あわてふためく俺を尻目に、長太郎が俺の脚の間にぐいっと割り込んできた。
「………ッッッ!!」
-------しかも!
俺の息子を思いきり握ってきやがった。
そんな所、他人に触られたこともねえのに。
………そりゃ、付き合ってたらそういう事しなくちゃならねえよなっとは思っていたし、今日だって、………長太郎とそういう事するんだろうかって思ってはいたけれど、こんなに突然、しかも乱暴にされるとは思っていなかった。
「……あ……ッッ!」
ぎゅっと掴まれて、長太郎の大きな指が俺を根元から扱きあげてくる。
「や……めろッ!」
「やめません。……宍戸さん………好きです……」
長太郎のこんな押し殺した声は、初めて聞いた。
ぞくり、と背筋を何かが駆け抜けて、俺は思わず震えた。
「や………だよ、おい……」
長太郎に扱かれてる所から、ずきずきと快感が駆け上がって来る。
快感と狼狽がせめぎあって、俺はもっと余裕が無くなった。
「あ………く………ッッ!」
一気に快感が脳まで突き上がってきた。
俺は長太郎の手の中に、温かな粘液を迸らせていた。「宍戸さん……可愛い………」
長太郎のうっとりとしたような声を聞きながら、俺はぼぉっと脱力していた。
すごい快感だった。
今まで自分で擦った事しかねえし、ちょっとやるかって感じで寝る前にごそごそってぐらいだったから。
こんな、全身どっかに飛んでくような快感は感じたことが無かった。
気持ち良かった。マジ。
他人にやられるのって………こんなにいいもんなのか……。
………いや、長太郎だからか………。
分からねえ…………。
俺が混乱していると、長太郎はそんな俺を今度は俯せに転がしてきた。
「宍戸さん、あと10分で12時です」
あ、そうか……………俺の誕生日が来るのか………。
「あなたの誕生日は、俺たち一つになって迎えましょうね」
「………うわッ!」
急に………とんでもない所に痛みを感じて、俺は我に返った。
「……ちょ、長太郎!」
振り向くと、長太郎が俺の…………俺の尻の穴に、指を埋め込んでるんだ。
そりゃあ、男同士てそこ使うのは分かってるけどよ。
………でも、ちょっと待て!
「うぁ………ぁ………ッッ!」
ぐいぐい、と長太郎の指が中に入ってくる。
俺はたまらず声を上げた。
だって、そんなトコ………俺、他人に見られるのもいじられるのも、………初めてで。
……汚くねえのか?
尻だぜ………肛門なんだぜ?
「くッ………いたッッ」
しかし長太郎のヤツは陶酔したような顔つきで、指を2本に増やしてきた。
「やっぱり初めてだから、痛くないようによく濡らさないと駄目ですよね」
「や………ッッ!」
不意にとろりとした冷たい感触がして、俺は変な声を上げてしまった。
思わず肩越しに後ろを振り返って、自分の尻を見てみると、
「………………」
尻にノズルのようなものが突き刺さっており、長太郎がものすごく真面目な真剣な顔をして、スプレー缶のようなものを指で押しているところだった。
「うわ………ッ」
2、3回長太郎が押す度に、俺の中に冷たい物体が入り込んでくる。
「な、なんだよ、それ」
「あ、これですか。これは………潤滑剤ですよ。あなたと一つになるのに、痛くしたくないから。もう、大丈夫ですかね?」
「う……………」
ノズルが引き抜かれたかと思う間もなく。また長太郎の指が入ってくる感触がして、俺は背筋を仰け反らせて呻いた。
「ちょ、ちょっと………」
潤滑剤も入っていたせいか、今度は全く痛くなく、それどころか、腰からぞわぞわとなんとも言えない感覚がした。
俺は、これ以上ないほど狼狽していた。
だって、まだその、心の準備ってものが。
いくらなんでも俺、本当にこのまま長太郎と…………。
「もう大丈夫みたいですね。あと5分です、宍戸さん」
意外と冷静な長太郎の声がして、次の瞬間俺は、自分の肛門に熱く固い弾力のある肉の塊が押し充てられるのを感じた。
ぎょっとしてまた振り返ると、今度は長太郎が勃起しきった自分のものを俺の肛門に押し充てていた。
「ちょう、たろう…………」
がくがくと震える身体をなんとかおしなだめて、俺は掠れた声で長太郎を呼んだ。
「宍戸さん、好きです。愛してます」
真剣に射抜くように、強い視線で長太郎が俺を見つめてくる。
「……………」
愛してます、という言葉が、俺の心の中にすっと矢のように突き刺さってきた。
--------そうだ。
長太郎は、いつも俺にこうやって一直線に、真っ直ぐに言ってくる。
夏休みの時もそうだった。
俺のこと、本当に好きなんだな。
俺のこと、……どこがいいんだか分からないけど、本当に愛してくれてるんだな。
不意にそう思って、俺は突然身体がかぁっと熱くなった。
鼻の奥がつうんとなって、あ、まずい、と思った時には、もう涙が滲んできた。
「宍戸さん…………」
もう一度だけ確認するかのように、長太郎が俺の名前を呼んで、それから唇を噛み締めて、腰を強く掴んできた。
来る、と覚悟を決める余裕もなく、次の瞬間、長太郎は俺の中に突き入ってきた。
「……………ッッ!!」
ものすごい衝撃が、俺を襲った。
焼けるような、ひりつくような形容しがたい痛みと、それと同時に、俺の中に長太郎が入ってきていて、俺はとうとう長太郎とセックスしたんだ、という認識が、俺の頭を沸騰させた。
全身が震え戦慄いて、俺は身体を支えていることが出来なくなり、上半身を絨毯の上に突っ伏して、腰だけを上げ、顔を絨毯に押し付けて、漏れる声を抑えた。
「うッ………く………ッッ!」
「宍戸さん、好きです……」
切ないような、許しを請うような長太郎の声が愛しくて、俺はどうしようもなくなった。
なんだろう、この気持ち。
心の底から蕩けて暖かくなって、なんとも言えずに幸福感が溢れてくる。
俺、長太郎のこと、きっと好きなんだ。
そうだ。
だって、こんな事………長太郎と裸でこんなことをして、こんなに嬉しいんだから。
そう思うと、腰が更に蕩けて、痛いんだか気持ちいいんだか、もう俺は分からなくなっていた。
長太郎が俺の腰をゆさぶりながら、動き始める。
「うぅッ………くッッッ………!!」
揺さぶられて、全身を電流が走り抜け、ぞくぞくと悪寒にも似た痺れが指先まで伝わる。
初めて味わう激しいその感覚に、俺はすっかり飲まれていた。
「あ………あッあッ……ちょ、たろ……ッッ!」
もうどうしようもなくなって、きれぎれに長太郎の名前を呼びながら、絨毯に顔を擦り付けて身体を捩る。
「宍戸さん、愛してます。好きです……」
長太郎がそう言って来る度に、身体が更に熱くとろける。
俺は……………。
俺も、長太郎のこと、愛している。
好きなんだ。
そう思うと、胸が痛くなって、身体中が熱くなって、全身が震えて、俺はいつまにか長太郎の動きに合わせて腰を振っていた。
やがて、一際深く長太郎が俺に腰を打ちつけて、次の瞬間、激しく身体を震わせるのが分かった。
ああ、長太郎、俺の中でイったんだな………。
不意にそう思って、なんだか、わけもなく涙が出てきた。
とうとう俺たち、セックスしたんだ。
本当に、俺は長太郎を受け入れたんだ。
長太郎がそっと俺の身体から出ていく感触がする。
俺は身体を支えきれなくて、そのまま頽れるように絨毯の上に仰向けになった。
尻は火傷したようにずきずきと、鼓動と共に痛みが頭まで響いてきたけれど、それでも全身が温かなお湯に浸ったかのようで、なんともいえず心地良かった。
「宍戸さん…………」
不意に耳元で囁かれて、重たい瞼を上げて声のした方を見ると、長太郎がまじかで俺を見て微笑んでいた。
頬にそっと口づけられ、俺はぱちぱちと何度か瞬きをした。
「お誕生日、おめでとうございます。今12時5分です。あなたの中に入って、一つになってあなたのお誕生日を祝うことができました。俺、本当に嬉しいです」
そうか…………。
12時過ぎたんだ。
ぼんやりとして、時計を見、それから長太郎を見る。
「宍戸さん………」
労るような声音で、長太郎が俺の名前を呼んできた。
呼びながら、俺の髪を撫でてくる。
「すいませんでした。強引にあなたを抱いてしまって」
なんだか申し訳なさそうに言ってくるので、俺はいささかむっとした。
別に、おまえに無理矢理やられたわけじゃねえ。
俺だって、ちゃんと覚悟してやってきたんだし。
なんかそんな風に言われると、いかにも俺が無理矢理ヤられたみてえじゃねえか?
俺は、重たく怠い腕を上げて、長太郎の髪を撫でた。
「別に………強引じゃねえよ。俺だって、おめえとやるつもりで来たんだからよ」
「宍戸さん……」
途端に長太郎がぱぁっと顔を輝かせた。
「良かった。宍戸さんが、もう俺と口を聞いてくれなくなったらどうしようって、ちょっと不安だったんです。俺…………」
そう言うと長太郎はおずおずとした動作で 俺の唇に軽く口付けを落としてきた。
「俺、宍戸さんの事、本当に好きだから………好きで好きでセックスしたくてたまらなくて、でも宍戸さんにもし嫌われたらどうしようって、本当に怖かった。……怖いけど、でもしたくて我慢できなくて……」
なんか、言葉を区切り区切り恥ずかしそうに、ちょっと言いにくそうにしゃべる長太郎を見ていると、俺は訳もなく嬉しくなった。
そんなに俺のこと好きなんだ、こいつ
悩んで、それから強引に俺のこと抱いちまうまで、俺のこと好きなんだな。
そんなに俺、こいつに想われてるんだ。
なんか、………なんて言ったらいいんだろう。
マジに俺は感動してしまった。
「長太郎………」
自分から唇を押し付ける。
長太郎の唇は、ちょっと冷たくて濡れていて、それでいて口の中はすごく熱かった。
舌を絡ませると、長太郎が俺をしっかりと抱き締めてきた。
それから、長太郎の方からも舌を絡ませてきた。
…………不思議だな。
なんか、こんな風に本当に恋人同士みたいに、抱き合ってキスしてるなんて。
…………いや。
俺たち、本当に恋人同士になってきたんだな。
そう思ったら、またなんか涙が出てきた。
嬉しくて、幸せな気持ちだった。
「悪いな………長太郎………」
感謝の気持ちを言いたくて、でもちょっと照れくさくて、俺は少し視線を逸らして小さい声で言った。
「誕生日、祝ってくれて悪いな。嬉しかったぜ……」
照れくさかったけれど、それでも、どうしても長太郎に言っておきたかったから。
こうして、俺の誕生日に、はじめて長太郎とこんな風に抱き合えて……嬉しかったから。
「宍戸さん………」
長太郎の感激したような声がして、俺はしっかりと抱き締められた。
「……好きだ………」
長太郎の腕の中で俺はそっと言って、それから目を閉じた。
FIN
宍戸更に乙女…。