磊塊
-rai-kai- 《3》













「跡部さん………」
はっとして顔を上げると、跡部は唇の端を歪めて笑っていた。
-------確かに。
跡部が榊に進言すれば、榊は考えを変えるかも知れない。
鳳はそう思った。
あの榊に対して、唯一テニス部内で影響力のある人間が跡部なのだ。
跡部の発言が榊を変える可能性があるという事だけは鳳にも分かっていた。
「……跡部さん、お願いします」
思わずそう頼んでいた。
「どうか、宍戸先輩を、レギュラーに戻すように監督に言って下さいっ」
跡部がすうっと瞳を細めて、鳳をじろりと眺めてきた。
「そんなに宍戸に戻ってもらいたいのか、おまえ?」
「だって、宍戸先輩は、本当に一生懸命頑張って、力もすごくついたんです、オレが保証します」
「ふーーん、まぁ、俺が監督に言うかどうかはおまえ次第だけどな……」
「……えっ?」
自分次第、という言葉を聞いて鳳が顔を上げたところに、すっと跡部が顔を近づけてきた。
「………………」
自分の唇に、温かく濡れた柔らかなものが押し当てられたのを感じる。
一瞬、何が起こったのか分からなくて、鳳は呆けたように顔を離した跡部を見た。
「あとべ……さん………」
跡部がくっくっと笑いながら自分を見ているのが分かって、漸く鳳は、自分が跡部にキスをされたのだという事に思い当たり、途端に心臓が跳ね上がった。
「どうだ、おまえ次第って意味、分かったか?」
「跡部さん……」
跡部が鳳の顎に手をかけた。
「………どうする?」
そのまま鳳の首にしなやかな腕を回して、跡部が火照った身体を擦り付けてきた。
シャワー上がりの湿り気を帯びた素肌と、仄かに香るシャンプーの甘い匂いが、鳳の身体をびくり、と震わせた。
「あとべ………さん?」
「なんだよ、物わかり悪いな、おまえ……」
跡部が舌打ちした。
「俺とセックスしろって言ってんだよ」
「……なっ!!」
驚いて目を見開いて跡部を見ると、跡部が面白い物を見たとでも言うように、灰蒼色の美しい瞳を細めた。
「やるのかやらねえのか? どうすんだ?」
「で、でも……」
「俺はうぜえ言い訳とかはごめんだ。おまえが黙って俺とやるなら、宍戸のこと、監督に頼んでやる。おまえがやらねえなら、それでこの話はおしまいだ」
言いながら、跡部が鳳の制服のボタンを外してきた。
「やらねえと、宍戸はこのままだぜ?」
とどめの一言のようにそう耳元で言われて、鳳は唇を噛んだ。
どうしてこんな事に。
オレは……………。
鳳は、密かに宍戸が好きだった。
その好きというのは、今まさに跡部が自分にしかけているような意味での、好きだ。
宍戸の役に立ちたいという気持ちと共に、宍戸に触れたい、優しく抱き締めたい、キスしたい…………そして、身体を繋ぎたい。
と、そんな事考えるのは不謹慎だと思いながらも、心の底からわき上がってくる欲望には勝てなかった。
それでも。
宍戸にそんな自分の内心がばれたら、宍戸は自分を二度と信頼してくれなくなるだろう。
そう思っていたから、必死で表に出ないように隠していた。
しかし、跡部にはばれていたのだろうか?
「どうする、鳳………?」
首筋に口づけられ、総毛立つ。
「宍戸が好きなんだろ、鳳………? だったら、答えは一つじゃねえのか?」
--------その通りだった。
宍戸をレギュラーに戻したかったら、跡部の言うことを聞くしかなかった。
「なんだよ、宍戸に操立ててんのか?」
跡部がくすくすと笑う。
「いいじゃねえか、……宍戸のためなんだからよ。……なぁ、鳳よ……俺は宍戸とも寝てたんだぜ?」
(……………!)
鳳の頭の中で何かが爆発した。
跡部の不品行な所業については鳳も部員の口さがない話の中で見聞きしていたが、実際本人の口から、それも宍戸との関係について聞かされると、かぁっと頭が煮えたぎった。
自分が崇拝し、敬愛し、心の底から愛している宍戸と、跡部が。
それも、遊びでだろう、……軽々しく寝ていた。
という事実が、鳳の理性を席巻した。
次の瞬間、鳳は跡部を乱暴にソファに押し倒していた。
「ふふふ………」
鳳がその気になったのを見て取って、跡部が嬉しそうに笑った。
「優しくしてくれよ、鳳……」
誰が優しくなんかするもんか!
鳳は跡部に煽られているとも気付かず、唇を噛み締めたまま、跡部に圧し掛かっていった。















「は、くッ………うッ……お、おおとり………ッッ」
理性を失って激昂している鳳は、普段の彼からは想像もつかないほど乱暴だった。
慣らしもせずに突き込まれて、鋭い痛みに跡部は呻いた。
泣いているのか俯いて唇を噛んで、鳳はひたすら跡部を揺さぶった。
「い……てえ……よッッ………もっと……優しく………ッ」
さすがの跡部も、鳳の乱暴さに弱音が出た。
限界まで広げられた脚の付け根が引きつる。
そこに鳳が、容赦なく楔を打ちつけてくる。
体重がかかってソファがぎしぎしと軋み、不自然に投げ出された腕がソファの背に当たって痛んだ。
乱暴な挿入に肛門が切れたらしく、脳まで突き抜けるような痛みが走る。
しかし、出血が潤滑剤代わりになって、鳳の動きは速度を増した。
「あ……あ………ッッッ」
鳳は制服のズボンをずり下げただけの格好だった。
はだけたYシャツを引き絞るようにして跡部が縋り付くと、それを振り払うようにして一層激しく腰を打ちつけてくる。
「……おい、泣いてんのかよ?」
不意に、ぽたり、と裸の胸に温かな水滴が落ちてきたので、跡部は驚いた。
下を向いているので表情は分からないが、それは鳳の目から落ちてきたようだった。
「なんだよ、気色わりいな………おい……」
忙しい息の下からそう言うと、鳳がぐい、と跡部の腰を掴んで、跡部を壊すかのように激しく動かした。
「鳳ッ、……う……あッッ…………ッッッ!」
そんなに乱暴にセックスをされたことは、さすがの跡部でも殆どなかった。
痛みが脳に突き刺さり、身体中が熱くなる。
痛みと快感がないまぜになって意識がふうっと遠ざかる。
そのまま揺さぶられて、意識が朦朧とした頃、鳳が絶頂に達し跡部の体内に射精した。
跡部もほぼ同時に、無意識に腹の上に白い欲望を放出した。















「これでいいですよね、跡部さん。……宍戸先輩のこと、よろしくお願いします」
跡部からさっと離れて制服を整えた鳳が、慇懃無礼ないつもの態度で言ってきた時、跡部はまだ脚を開いたままだった。
「では、お先に失礼します」
鳳は跡部を見ようともしなかった。
視線を逸らしたままバッグを肩に担ぐと、涙がまた出てきたのか目をごしごしと擦って、逃げるように部室から出ていく。
「……なんだよ、……そんなに嫌だったのかよ………」
そこまで嫌がられるとは思っていなかっただけに、跡部は呆気に取られた。
舌打ちして、ソファにもたれ掛かる。
胸がむかむかした。
鳳の純情に、訳もなくイライラした。
宍戸なんて、俺と遊びで寝てたこともあるようなヤツなのに。
そんなヤツを、泣くほど好きなのか。
泣きながら自分を抱いていた鳳のことを思い出し、跡部は顔を顰めた。
後味が悪かった。
むしゃくしゃしてソファを乱暴に蹴り上げて、跡部はのろのろと起きあがった。
鳳が入っていた箇所がずきずきと痛んだ。
そこだけでなく。
………信じられないことに、胸も痛かった。
自分が傷付いているのを知って、跡部は呆然とした。
「……くそっ!」
悪態を吐いて、跡部は顔を振って立ち上がった。
痛みに眉を顰めながら、制服を身に纏う。
なぜか視界が歪んで、跡部は狼狽した。
セックスして、自分が泣くなんて。
もし忍足にでもばれたら、さぞかしバカにされるだろう。








「……くそっ!」
もう一度悪態を吐いて、跡部は目を擦った。
そして、唇を血が出るほど噛み締めると、乱暴に部室のドアを閉め、日の落ちた暗い校庭に向かって歩き出した。
















FIN

こういう跡部自分では好きです〜v