LOLLIPOP 《2》
その部屋は、壁に沿って本棚やら箪笥やら、それから中央に二人掛けのソファが置いてある簡素な部屋だった。
本棚の一角には、ビデオやCDが乱雑に積まれている。
ドアをしっかりと閉めて、跡部は小さく溜め息を吐いて、それから樺地をソファに座らせた。
樺地が困ったように瞳を瞬かせて、跡部を見つめてくる。
はぁ、と跡部は額に手をやった。
どうしよう。
樺地を連れてきたのは、興奮した身体を持て余している樺地を何とかしないと、と思ってのことだった。
が、いざ連れてきて二人きりになると、樺地が無垢なだけに、跡部は子供に悪戯をするオヤジにでもなったような気がして、気後れした。
樺地には、そんな事知らないでいてほしい。
そんな風にも思ってしまったのだ。
とは言っても、樺地ももう中学2年生。
いくらなんでも、何も知らないままではいられまい。
「なぁ樺地、あのな………」
跡部は樺地の隣に座って、樺地の手を取った。
樺地の手は熱くて、その手がぎゅっと握り返してきた。
「おまえ、ここ勃っちまったんだろ?」
なんとなく恥ずかしい。
跡部は少々口ごもりながら、樺地のソコを手で包み込んだ。
「………!」
樺地がびくり、と身体を戦慄かせる。
「あ、別に変な事じゃねぇんだぜ? 男だったら、誰でもそうなるんだ。ああいうの見ればな。でも勃っちまったら、出すもん出さないとすっきりしねえぜ?」
「………ウス」
「出すって意味、分かんのか、樺地?」
そう言って樺地を覗き込むと、樺地が小さく首を振った。
「分かんねぇんだったら返事すんなよ」
「……ウス」
「……ったくもう………おい、動くなよ」
舌打ちして、それでも跡部は恐る恐る、樺地のズボンの前を開けた。
「…………」
樺地が身体を強張らせるのが分かったが、構わずトランクスの中から、樺地の性器を引きずり出す。
(でけえ…………)
体格が並外れて大きいのだから、ソコも大きくて当然なのだが、自分の1.5倍はありそうな大きさに、跡部はぎょっとなった。
しかも、樺地自身はなんの知識もないようなのに、その器官はすっかり先端が剥けて凶悪なまでに存在を主張しており、先走りの透明な液体まで滲み出ていた。
「これをこうやって扱くんだけどよ、………なぁ、樺地……」
軽く手で握ってその手を動かすと、樺地がびくり、と身体を震わせた。
「どうだ樺地……気持ちいいか?」
「……ウス」
「……たまに、ウスじゃない言葉も言えよ、樺地…」
「………気持ち、いいです………」
「………そうか?」
樺地が自分の手で快感を感じているという事実が、跡部を些か得意にさせた。
なんとなく嬉しくなって、跡部は樺地の膝の間に割って入ると、樺地のソレに唇を近づけた。
すっぽりと口で咥えると、樺地がびくっとした。
「あとべ……さん!」
「……動くなよ、樺地……気持ちいいんだろ?」
「……ウ、ウス………」
樺地のソレは、奥まで咥え込んでも到底全部入りきらないほど大きかった。
そして、口の中が火傷するほど熱かった。
歯を立てると弾力のある固い感触と、脈打つ静脈の動きが伝わってくる。
口を窄めるようにして形をなぞりながら、根元から先端に向かって舐め上げると、樺地が跡部の肩をぎゅっと掴んできた。
自分の与える刺激で、樺地が明らかに快感を覚えている。
それが無性に嬉しくて、跡部は夢中になって樺地のソレを扱いた。
根元の太い部分を両手で掴んで、先端の鈴口に舌を差し入れてつついてみる。
そうしながら指で握りしめて、上下に何度も擦りあげる。
「……跡部さん………ッ!」
樺地が掠れた声で自分の名を呼んで、跡部の肩を痕が付くほど強く掴んできた。
次の瞬間、跡部の口の中に、温かな粘液が勢い良く迸った。
----ケホッッ。
勢いと量の多さに思わず噎せて、唇の端から飲みきれなかった精液がこぼれる。
白い粘液を滴らせながら、跡部は樺地のソレを口から離した。
無我夢中でフェラチオをしていたせいか、顎が痺れていた。
「……どうだった、樺地……?」
それでも、樺地がどう感じたか気になって、跡部は精液で濡れた唇を手の甲で拭いながら、樺地を見上げた。
樺地は顔を赤くして、彼にしては珍しく息を弾ませていた。
「気持ちよかったか?」
「……ウス……」
俯いて、小さい声で返事をする。
いつもの大きな体を小さくして、身の置き場がないような感じで返事をして、下を向いている。
そんな樺地を見ていたら、跡部は突然自分のしたことが恥ずかしくなってきた。
何にも知らない樺地に、あんな事を。
------いや、樺地だって、そろそろ覚えないといけない事だ。
俺は人助けしてやったんだ。
------でも。
なんだか、樺地を汚してしまったような気がする。
樺地は、ショックを受けただろうか?
もしかして、俺の事、不潔だとか思ってないだろうか?
「あのな、大きくなっちまったらさ、こういう風にやって出すんだぜ、樺地……」
気恥ずかしくてたまらなくなって、跡部は樺地の方を見ないようにして、もっともらしく言ってみた。
「……な、もう覚えたろ?」
そう言って、樺地から離れようとしたところを、
「………跡部さんは?」
不意に、樺地に呼び止められた。
「ああ?……俺?」
「そうです。跡部さんも……」
急に樺地が立ち上がった。
あっと思う間もなく、跡部はソファに座らせられた。
カチャ-----。
樺地の大きな手が、自分のズボンのベルトを外しているのを、跡部は呆気に取られて眺め、それから我に返った。
「お、おい、……俺はいい!」
「でも、跡部さんも大きくなってます……」
トランクスからソレを引き出されて、跡部は息を呑んだ。
「やッ………よ、よせったら………!」
ぬるり、と樺地の口に飲み込まれて、跡部は思わず背中を仰け反らせた。
ソファの背に背中が当たって、仰向いた目に天井が映る。
樺地は何事も覚えるのが早い。
天才とも言える。
先程自分が樺地にしたことをそっくり返されて、跡部は狼狽した。
「い、いいったら、樺地………あ………あっ……!」
いつのまに勃起していたんだろうか。
いつのまに。
雑誌見せられたときは、全然勃ってなんかいなかったのに。
「あ………は………ッ」
初めてとは思えぬ程、樺地は巧みだった。
ぞく、と戦慄が背筋を駆け抜けて、思わず樺地の短髪に手を差し入れて強く掴む。
「あ……樺地………かば……じぃ………あ………んッッ!」
ぞくぞくと快感が次から次へと全身を駆け抜けて、跡部は狼狽と快感でパニックに陥りそうだった。
まさか、こんな------!
樺地に、こんな事をされて、しかも気持ちいいなんて。
……女じゃねえんだぞ、樺地なんだぞ。
今、俺をしゃぶってるのは、樺地なんだぞ…………!
そう思うと、羞恥で一気に全身が燃え上がる。
「やっ……だ………樺地………あ………ッ」
内股が震え、樺地の顔を挟むようにして喘ぎながら、跡部は身体を捩らせた。
「あ…………あっあッッ!!」
絶頂が津波のように押し寄せてきて、耐えきれなくなる。
全身を震わせて、跡部は樺地の口の中に精を放った。
「……気持ちよくなかった、……ですか?」
事もあろうに、樺地の口の中に射精してしまった。
放心状態でぐったりとしていた跡部に、樺地が不安げに話しかけてきた。
「あ……い、いや、……気持ちよかった……」
恥ずかしくて樺地の顔が見られない。
赤面して俯いたままそう言うと、樺地が安心したようにほっと息を吐くのが分かった。
そんな樺地をこっそり見上げて、跡部はなんともいえない気持ちになった。
こんな事をしても、樺地はいつもの樺地だった。
大きな身体を折り曲げるようにして、自分を伺うように見てくる。
ちょっと不安そうなつぶらな瞳と視線が合って、跡部はずきん、と胸が痛くなった。
「樺地………」
名前を呼んで、大きな身体に抱き付く。
「おまえ、……他のヤツにあんな事しちゃ、駄目だぞ?」
心配が急にこみ上げてきた。
樺地は誰にでも優しいし、純粋だ。
だからこそ心配だ。
こんな事、他のヤツにもやったりしたら、とんでもない。
例えば忍足とか………。
忍足あたりなら、ふざけて樺地に誘いをかけそうだ。
-----絶対、駄目だ!
「………?」
「いいな、樺地。……ああいうことしてイイのは、俺だけだ。……分かったな!」
「……ウス」
樺地が表情を和らげて返事をする。
その顔があどけない様子で、跡部は思わず赤面した。
罪悪感とともに、羞恥を感じていたたまれない。
樺地が怒らなくて良かった。
……跡部さんがあんな事をする人だとは思わなかったです……。
なんて、もし言われたら。
いや、樺地のことだから、俺に対してそんな事言うはずないが。
-------でも。
胸がドキドキして、心がざわざわした。
鼓動が頭まで響いてくる。
なんだか、変だ。
俺は…………どうしたんだろう?
「跡部さん………」
樺地がそっと、跡部の肩を抱いてきた。
樺地が触れたところから、電流が走った。
「あ………ッ!」
「………?」
「な、なんでもない……」
慌てて返答して、跡部は視線を逸らした。
「……そ、そろそろ帰ろうぜ?」
「……ウス」
胸のドキドキが治まらない。
それになんだか、胸が苦しい。
なんだろう、この気持ち。
変だ、俺…………。
樺地の視線から逃れるようにして、跡部は鳳達がいる部屋に戻った。
部屋には忍足と鳳しか残っていなかった。
「跡部って大胆やなぁ……」
絨毯の上でごろっとだらしなく転がっていた忍足が、にやにやしながら話しかけてきた。
鳳は顔を真っ赤にして俯いていた。
「な、なんだよ……」
きっと、向こうで何をしていたのか、ばれていたに違いない。
かぁっと頬が熱くなったが、跡部はできるだけ素っ気なく返事をした。
「だってなぁ………」
忍足が笑う。
「もうこっちは恥ずかしゅうて、雑誌なんか見てられなかったわ」
「う、うっせえな。……おい樺地、帰るぜ!」
「……ウス」
忍足のにやにや顔に見送られて、跡部は樺地を引きずるようにして外に出た。
樺地がいつものように跡部のバッグを肩に担ぎ、従者のようにかしずいて付いてくる。
樺地が落ち着いているのに対して、跡部は、頬の火照りがどうしても収まらなかった。
胸のドキドキも、どうしても治らなかった。
身体が熱くて、樺地を振り返ると鼓動が跳ねて、なんだか自分の身体じゃないみたいだった。
(……くそッッ!)
心の中で何回もそう悪態を吐いて自分を叱咤しつつ、その日は跡部は混乱したままで樺地と別れたのであった。
やっぱり樺跡だとこのぐらいが……まぁ、限度っぽい(笑)