忍足の災難-千石編- 《3》
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「う……く………ッ」
「忍足君、どう………気持ちいい?」
千石の声が頭上から振ってくる。
忍足は霞んだ瞳を開け、長い睫毛を何度も瞬かせて、微かに頷いた。
気持ちがいい。
はっきり言って、忍足は驚愕していた。
しょうがないと思ってあきらめて、マグロでいいか、と思っていたのだが。
千石はすぐには入ってこなかった。
よほど経験豊富なのだろうか。
ジローのように欲望に任せて馴らしもせずに忍足に突き入ってきたりせず、忍足が羞恥で顔が真っ赤になってしまうまで、執拗に丁寧にアナルをほぐしてきた。
「忍足君のここ、綺麗な色だね」
とか。
「俺の指くわえこんで、離さないよ?」
などと耳を塞ぎたくなるような恥ずかしい事を口にしながら、アナルにローションを垂らし、指で揉み混むようにして内部を広げてくる。
「ん……く……」
そんな風に丁寧に愛撫された事など無かったので、忍足は戸惑った。
「こっちも大きくなってきたね……」
そう言いながら、千石が忍足のペニスをぱくっとくわえてきた時には、忍足はたまらず身体を陸に上がった魚のように跳ねさせた。
「…そ、そんなこと、しなくてええって」
「ダメダメ。忍足君にも気持ち良くなってもらわなくっちゃ。一緒に天国にいきたいもんね」
明るい声と共にすっぽりと口に含まれて扱きあげられ、ぞくぞくとした快感が全身を駆け巡る。
しかも千石は、ペニスを口で愛撫しながら、同時にアナルに入れた指を曲げたり、指を増やして中をかき混ぜるようにして、微妙に内部を擦ってくるのである。
前と後ろからの攻撃には、さすがに忍足も堪えきれなかった。
漏れそうになる声を、歯を食いしばって抑える。
「声出してくれていいのにな。忍足君のいい声聞きたいよん?」
などと千石が機嫌良さそうに言ってきたが、そんな恥ずかしいこと絶対にできない。
「もうええから、はよ……」
そう言って千石を促したが、
「だーめ、忍足君が一回抜いてからね」
にこにこしてそう言わ、次の瞬間、忍足の内部に入った指がぐい、とある一点をつついてきた。
「……うっ!」
途端に激烈な快感が背骨を駆け上がり、忍足は次の瞬間、千石の口の中にどくり、と白濁した欲望を迸らせていた。
目の前がふっと暗くなって、全速力で駆けて突然止まった時のように呼吸ができず、汗が吹き出てくる。
気持ちが良くて、忍足は汗と涙で霞んだ目を開けて、ぼんやりと快感に浸った。
なんだかとても気持ちが良く、そのままぼうっとしているうちに、アナルから指が引き抜かれ、そこに千石の熱く硬い肉棒を押し充てられたのを感じても、忍足は抵抗する気も起きなかった。
(ああ、やられるんやな……)
他人事のようにそう思っただけである。
「……行くよ?」
そう言って千石がぐい、と腰を突き進めてきても、痛みは全く感じなかった。
それより、待ちこがれていたものが自分の中にぴったりと押し入ってくるその充足感が快感で、忍足は固く目を閉じて顔を振って熱く吐息を漏らした。
身体中が蕩けていた。
まさか自分が、殆ど話したこともない男と、しかも、自分が抱かれる側でこんなに快感を感じるなんて。
はっきり言って信じられなかった。
よく考えると、非常に情けない図である。
恥ずかしくて穴があったら入りたいような気持ちでもある。
それなのに気持ちがよくて、身体中が喜んでいて、なんと表現したらよいのか分からない。
ジローとした時もそれなりに快感はあったが、今、千石から与えられている快感は、ジローの時とは比べ物にならないほど、大きく深いものだった。
忍足の腰をしっかりと掴んで、千石が腰を叩き付けるように激しく動かし始めた。
それにも忍足は翻弄された。
「う……う…く……ん……」
肉と肉が打ち合う音や、ぐちゅ、という湿った水音、ソファがぎしぎしと軋む音。
千石や自分の 荒い息づかい。
そんなものが全部自分を燃え立たせる要素となって、たまらなくなる。
「あ……んう………ッッ」
千石が腰を動かしながら、腹の間で再び勃起した忍足のペニスをぎゅっと掴んで
「一緒に行こう?」
ぐいぐいと腰を突き上げながら息を弾ませて言ってきた。
「う……ん………」
無意識に頷いて、忍足は千石の与えてくれる快感に没頭した。
「行くよ?」
激しい腰の打ちつけが速くなる。
千石が上擦った声でそう言って、一際深く忍足の奥をえぐって、熱い白濁を迸らせてきた。
忍足も堪えきれず、顎を仰け反らせて千石の手の中に射精していた。
激しいセックスが終わると、忍足は理性と羞恥心が戻ってきた。
自分の身体にのし掛かって満足したように息を吐いている千石を、
「ちょっとどいてや」
と口ごもって言って押し退けて、身体を離す。
汗と自分が放った体液でべたついた身体を少しでも綺麗にしたくて、持っていたスポーツタオルで乱暴にごしごしと拭く。
「あれ、もう後始末しちゃうの?」
気怠げに顔を上げた千石が、残念そうに言ってきた。
しかし、すっかり理性が戻った忍足には、いつまでも裸で抱き合ってるなんとんでもないという気持ちが先に立っていた。
だいたい、どうして千石と寝てしまったのか?
自分のいい加減さに呆れる。
殆ど見ず知らずの、しかも他校生とこんな事をしてしまうなんて。
だったらまだ跡部にでも抱かれた方がましや…。
と思って、それもぞっとしないなと忍足は眉を顰めた。
どちらにしろ、自分が抱かれるという想像が良くない。
自分は氷帝学園のテニス部の中で樺地や鳳についで背が高いのだから、真っ当に考えれば抱く方だ。
可愛い岳人やジローや跡部なら………と考えて、現実にはきっと全員に抱かれる方やなと思ってしまって、忍足は溜め息を吐いた。
「どうしたのさ、忍足君……」
千石がにこにこして忍足を覗き込んできた。
「や、別に……」
ちゅ、と頬に口づけられ視線を逸らす。
「ねえ、俺結構うまいでしょ?」
「そ、そうやな」
確かに千石はうまかった。
こんなに快感を感じたことはなかったので、忍足は正直に頷いた。
千石がにこにこする。
「忍足君も、すごく具合が良かったよ? 芥川君が夢中になるのも判るね。色っぽくて感度が良くて、すごい締め付けてきて……」
そんな風に褒められても恥ずかしいばかりで嬉しくもなんともない。
忍足はほぉっと溜め息を吐いた。
「…ねえ、コレ一回で終わりじゃ寂しいよ……」
千石が不意に自分の手を取って手の甲に自分の唇を押し充てながら言ってきたので、忍足はびくっとした。
「たまに俺と会って、こうしてキミを抱かせて……?」
「抱かせるて……」
「ねえ、いいでしょ?」
返答に困っていると、押し被せるように千石が言ってきた。
「ねえ、いいでしょ、忍足君。俺達身体の相性いいし、キミも気持ちよさそうだったし、ね?」
ねって……親しげに言われても困る。
「いつもじゃなくていいんだよ、たまにでいいからさ、お願い?」
至近距離でにこにこと笑いかけられて、忍足は思わず頷いてしまった。
こんな風に邪気のない笑顔を向けられると、ついつい甘くなってしまう。
考えてみると、この千石の甘え方はジローと似ている気がする。
無体な要求をされても許してしまうのだ。
千石がぱっと顔を輝かせて、何回も忍足の頬に唇を押し付けてきた。
「ありがとう、忍足君、嬉しいな」
「そ、そうかいな。……とにかく、俺、そろそろ帰らんと………」
「ええ、もうなの? 寂しいな。今度、じゃあ俺がキミの家行っていい?」
結構ずうずうしい。
意外に押しが強くいろいろ要求してくるのに、忍足は困惑した。
「ねえ、いいでしょ?」
「そ、そうやな…」
どうしても断ることが出来ない。
口ごもって小さくそう言うと、千石がにっこり笑った。
「ありがと」
ちゅ、ちゅっと何度も頬に口づけられて、恥ずかしくて忍足は千石を振り切るように立ち上がった。
「じゃあ、俺帰るわ」
「送ってくよ?」
「え、ええって……ほな、さいなら」
這々の体で千石邸を後にして、忍足は足早に自宅へ帰っていった。
腰を少し庇いながら。
忍足は総受けなのでしたv