不如帰 
《17》
















「いや……」
手塚は首を振って、不二をしっかりと抱き締めた。
抱き締めた部分から、心まで暖かくなっていうような気がした。
無意識のうちに抱き締める手に力を込めて、手塚は口付けに没頭していた。
キスが終わると、不二が手塚をカーペットの上にそっと横たえてきた。
「ごめん、すぐに欲しがったりして、でも…………していい?」
優しくふんわりとした声音。
夢中でこくこくと頷くと、不二が幸せそうに笑った。
お互いもどかしげに服を脱ぎ、裸になって抱き合うと、不二のひんやりとした肌や、どきどきとした鼓動が直に伝わってきて、手塚は堪えきれなくなった。
「不二、不二……!」
何度も言いながら、不二を二度と離すまいとするかのように縋り付く。
不二が、そんな手塚を宥めるように、ぎゅっと強く抱き締めてきた。
それから身体をずらして、手塚の性器を愛おしげに口に含んでくる。
「……あ………」
こんな風に優しく愛されるのは、本当に久しぶりだった。
優しく甘噛みされ、すっぽりと咥えられ、先端を吸い上げられる。
不二の熱い口腔内は、手塚を忽ち絶頂に押し上げた。
「あ……ああッくッッ……不二……ッッ!」
何度か口の中で扱かれただけで、ぞくぞくとした快感が全身を走り抜ける。
手塚は呆気なく弾け、熱い粘液を、どくり、と不二の口に放出する。
それを余さず受け止めて、不二は、こくりと飲み干した。
そのまま口をずらして、手塚の後孔をそっと舐めてくる。
唾液をくちゅ、と送り込んで、襞を解すように柔らかく舌を差し入れてくる。
「この間は酷くしちゃってごめんね………大丈夫だった?」
蕾の周囲を愛撫しながら、不二が申し訳なさそうに言ってきた。
「君が傷付いていたら、どうしようって思ってた……」
「大丈夫だから……」
不二の舌で愛撫されて、ぞくぞくと堪えようのない快感が、其処から駆け上がってくる。
一刻も早く、不二が欲しかった。
不二と一つになって、不二の存在を、身体で確かめたかった。
不二が本当に戻ってきてくれたのだという事を、確認したかった。
「大丈夫だから。不二、早く………」
不二の腰に絡めるようにして、自分から脚を広げる。
さっき達したばかりだというのに、手塚の性器は、また硬く勃ち上がっていた。
それを不二の性器に擦り付けるようにして、不二を促す。
不二が息を詰めて、手塚の後孔に、不二自身を宛ってきた。
「手塚……好きだよ………」
許しを請うように一言言うと、不二は一気に楔を打ち込んだ。
「う…………ッッ!」
次の瞬間、痛みとも快感ともつかない衝撃が、手塚の全身を走り抜けた。
熱く焼けた鉄の棒が、身体の内部に打ち込まれる。
全身から汗が吹き出て、手塚は硬く目を閉じた。
瞼の裏に蛍光色の閃光が光る。
不二がぐっと身体を沈める度に、堪えきれない喘ぎが漏れる。
--------不二が。
不二が、入ってきている。
その認識が、手塚を陶酔させた。
本当に、……不二なんだ。
今、俺の中に入っているのは、……俺を好きだと言っているのは、不二なんだ。
菊丸じゃなくて。
跡部でもなくて。
不二が、俺を抱いている。
「不二……不二………」
今までの辛い思い出が、瞬時、手塚の頭の中を走馬燈のように走り抜けた。
寒い冬の日、不二に別れを告げられたこと。
菊丸と、まるで傷つけあうかのように抱き合ったこと。
呆然としている所を、跡部に助けられたこと。
それらがどっと胸の中に溢れ出て、手塚は堪えきれなくなった。
「不二………ッ!」
激しく泣きながら、手塚は不二にしがみついた。
二度と離すまいとするかのように、強く不二の背中に手を回し、脚を絡める。
「……手塚…………
不二の熱い吐息が首筋に掛かり、くらりと眩暈がした。
身体中が熱湯の中に浸かったかのように熱くなる。
不二の入っている箇所から、溶岩が流れ出すかのように更に熱いうねりがやってくる。
こうやって不二と抱き合い、不二と一つになって快感を共有できている事が、こんなにも幸福だとは。
手塚は涙を止めることが出来なかった。
菊丸や跡部の顔が、瞼の裏に思い浮かんだ。
二人とも、しょうがないなというように笑っていた。
弱くて卑怯な自分を支えてくれた二人だった。
自分が不二を好きで、想いに堪えられないと分かっていても、助けてくれた。
-------ごめん。
…………ありがとう。
二人が笑いながら肩を竦めて、脳裏から消えていった。
涙が頬を伝って首まで流れ、そこを不二が優しく舐めてきた。
「不二……………ッッ」
真っ白な光が、稲妻のように差し込んでくる。
身体がふわっと浮き上がり、全身が熱く煮えたぎった。
不二が手塚をぐっと引き寄せ、一際深く楔を打ち込んでくる。
「あ…………あッあッッ!」
もはや手塚は何も考えられなかった。
身体がどんどんと浮き上がって、真っ白な光が自分を包む。
程なくして、不二が手塚の内部に愛の証しをそそぎ込んだ時、手塚も二度目の絶頂に達していた。
泣きはらした目を、不二がじっと覗き込んでいる。
手塚が気付くと、不二が瞳を細めて、髪の毛を撫でながら自分を見つめていた。
不二の色の薄いふわりとした髪に電灯の光が当たって、下から見上げるときらきらした空気を纏っているように見えた。
「不二………」
思わず手を伸ばして不二の頬に触れようとすると、不二がその手塚の手をそっと握ってきた。
「手塚…………愛してる………」
不二がそっと、窺うような口調で言ってきた。
「これからもずっと、ずっと愛してるよ………」
「不二………」
静かな声。
「僕、バカだから、また君を悲しませてしまうかも知れない……でも、そんな時はどうか僕を許して欲しい……」
「許すなんて、俺だって……」
不二が恥ずかしげに笑った。
「今回は跡部とかエージとかにすっごくお世話になっちゃったよね。あとでお礼しに行こうか?」
「え……二人でか?」
「……恥ずかしい?」
「い、いや、別に、その…………」
恥ずかしいと言えば実際恥ずかしかった。
何しろ、菊丸も跡部も、手塚とは特別な関係になっていたからだ。
そこに、不二と一緒に…………。
眉を寄せて考え込んだ手塚に、不二がくすっと笑った。
「ごめん、いやかな?」
「いや、そんな事はないが……」
「僕ね、勿論、手塚がエージとか跡部とかと……って思うと悔しいけど、……でも、分かったんだ。手塚の何が欲しかったかって、………心なんだなって……。勿論、身体だって、欲しくて欲しくてたまらないけど、でも、心がなくちゃイヤなんだ。手塚の心は、……僕のものだよね?」
「……身体もだ。不二……」
少々憮然として言うと、不二が照れくさそうに笑った。
「ごめんごめん………身体も、心も、……僕のものだね、手塚?」
「ああ……」
「愛してるよ………」
吐息と共に掠れた声で囁かれ、ぞくっと身体が震える。
不二の濡れた唇が、自分のそれに覆い被さってきた。















(愛してる……ずっと、ずっと………)
心の中でそう答えながら、手塚は目を閉じて不二の口付けを受けた。
………愛してる。
俺の心も身体も、全部おまえのものなんだ、不二。
不二でなくては、嫌なんだ。
不二、愛してる……………。















涙がまた溢れてきた。
手塚は自分から腕を回して、不二に深く口付けた。


















FIN