譎計 
−kekkei- 《5》















後孔に挿入したままの指を、手塚は焦れったそうに蠢かした。
伏せた瞳を上げてちらっと乾に視線を向ける。
だが乾が平然とした顔で手塚を見つめているのを見ると、はっと視線を逸らす。
それからまたおずおずと視線を乾に向けてくる。
左手を後ろに突き入れ必死で動かしている手塚は、そこが部室であるというのを忘れたようだった。
まだ白昼で日も高く、そして部室の壁を隔てた外では、部員たちが試合をしているというのに。
いや、そういう状況だからこそ、余計に手塚は興奮しているのだ。
こんな恥ずかしい姿を晒している自分に酔っているのだ。
遠くからわあっという歓声が微かに部屋に入って来る。
そのざわめきと、それから手塚の忙しい吐息が部屋の中に響く。
一分一秒たりとも手塚の姿を見逃すまいと、じっと観察をしている乾の視線が、更に手塚の羞恥を煽るのだろうか。
頬を上気させ、半開きになった唇を舌で舐めながら、手塚が耐え切れぬように大きな吐息を漏らした。
「乾………」
苦しげに手塚が名前を呼んできた。
乾の許しを請うように目を開いて、それからおずおずと右手を自分の勃起しきったものに触ろうとする。
「駄目だよ、手塚」
手塚がそれに触れようとした瞬間、乾は厳しく手塚に言い放った。
「もし自分で前に触ったりしたら、俺は出ていくよ」
はっと手塚が目を開いて、泣き出しそうに顔を歪める。
乾を何度も伺って、お願いだとるような目をして、それでも乾がなんのリアクションも起こさないのに項垂れる。
あきらめたように目を伏せて、それでも身体の中の熱をどうしようもないのだろう。
ぐちゅぐちゅと左手の指を何回も肛門に突き入れて、必死で身体の中の熱を逃がそうとする。
しかし、自分で後ろに指を入れたぐらいではイケないのだろう。
苦しげに顔を歪めて、とうとう手塚の切れ長の綺麗な瞳から涙が流れ出した。
「乾……」
さっきよりもずっとせっぱ詰まった声。
乾は殊更にこやかに手塚に笑って見せた。
「なんだい?」
「それを……」
掠れた小さな声で手塚が譫言のように言葉を紡ぎ出す。
「ちゃんと言ってごらん?」
子供に話しかけるように、乾は優しい声を出した。
「おまえのそれを……」
ひくっと手塚の喉が震える。
「これをなんだい?」
ごくり、と何度も唾を呑み込んで、目を閉じて、手塚は震える声を出した。
「おまえのそれを…ここに入れてくれ……」
自分の予想通りに実験結果が出るというのは、なんと気持ちの良いものなのだろう。
乾は、込み上げてくる笑いを抑えることが出来なかった。
すっと立ち上がって手塚に近寄ると、手塚が頬を紅潮させて、乾を陶酔した目つきで見上げてきた。
「乾……」
掠れた甘い声で囁かれ、乾も背筋に戦慄が走る。
突き上げるような衝動が襲ってきて、乾は乱暴に手塚の後孔に自分自身を押し付けると、手塚の腰を掴んで、一気にそれを挿入した。
「う……ッッ!」
掠れた呻きと共に、手塚の身体が跳ね上がる。
熱く濡れた肉襞の中に、ずぶずぶと自身をめりこませ、隙間なく密着するほど奥深くまで突き入れると、乾の全身を得も言われぬ歓喜が貫いた。
こんなに興奮したことなど、一度も無かった。
挿れたばかりだというのに、もう自分が絶頂の階段を駆け足で昇っているのが分かる。
「あ……ッう、ン…ッッ」
熱い吐息と共に甘い呻きが手塚の口からひっきりなしに漏れる。
乾は手塚の腰を強く掴むと、机を壊すような勢いで律動を始めた。
「ぃ…いいッ……ンンッう……ッッ!」
もう理性も判断力も何もかもが吹き飛んでいるのだろう。
手塚がうっとりと瞳を潤ませ、蕩けきった表情で乾に縋り付いてくる。
激しい吐息と、譫言のように漏れる喘ぎ。
それに、接合部分からの、ぐちゅぐちゅという淫猥な水音。
それらが乾を一層猛らせた。
一体手塚は理性が戻ったら、どんな表情をするのだろうか。
こんな恥ずかしい姿を自分に晒して。
学校の中だというのに、こんな淫らなことを。----しかも部室で。
テニスコートでは、手塚の指図で部員たちが真面目に試合をしているというのに。
そう思うと、ぞくぞくとした喜びが込み上げてくる。
嬉しくて、たまらなくなる。
自分が学年で一位の成績を取った時よりも、ずっとずっと嬉しい。
テニスの試合で収集したデータでの予測通りに、相手を完膚無きまでに打ちのめした時よりも。
そんな事など比べものにならないほどの喜び。
「ふふ……」
とうとう堪えきれなくなって、激しく腰を打ちつけながら乾は笑い出した。
「手塚……」
興奮のままに手塚の両脚をぐいと掴んで、机の上に押し倒す。
腰を乱暴に突き入れながら、手塚の性器を潰れるほど強く掴む。
「うう……ッ」
息も絶え絶えに手塚が呻いて、次の瞬間、握りしめた性器がびくびくと痙攣し、先端から精液が迸り出た。
乾が手塚の腹に押し付けるようにして性器を掴んでいたせいで、先端から迸り出た液体は、手塚の美しい整った顔にまで飛び散った。
それを見た途端、乾にも絶頂が訪れた。
手塚の体内深く欲望を叩き付けると、それを感じ取ったのか、手塚が身体を震わせ、朦朧とした視線を乾に向けてきた。
自分が放った粘液をこびりつかせたまま、虚ろな視線を彷徨わせる手塚は、息を呑むほど妖艶だった。
「フフフ……」
突然笑いが込み上げてきて、乾は手塚と繋がったままで低く笑い続けた。

















乾のよって立つ基盤は、データ収集と分析、及び実験である。
どのような事柄でも、データを正確に収集し、それに基づいて分析をし、実験をして推論を立てれば、物事は殆どが解明できる。
それが乾の生き方であり、そうやって失敗したことはまずなかった。
「手塚、待ってたよ」
今日も乾は部室に残って、最後に手塚が来るのを待っていた。
ギィ、と扉が開いて、コートの戸締まりをした手塚が最後に入ってくる。
部室に乾が一人で残っているのを見て、はっとしたように身体を強張らせ視線を彷徨わせ、それから俯いて頬を染める。
最近の乾は、新たなデータ収集に凝っていた。
今までは乾のデータ収集の目的は、学校の成績をあげるためだったり、或いはテニスで相手に勝つためだった。
しかし、今は違う。
「手塚……帰ろうか?」
乾がバッグを持とうとすると、手塚が僅かに狼狽える。
手塚は、期待しているのだ。
乾とセックスすることを。
「…どうする、手塚?」
乾が重ねて言うと、瞬時視線を彷徨わせて、手塚がおずおずと口を開いた。
「……しないのか?」
言いながら、乾を熱に浮かれたような目で見つめてくる。
きっと、手塚の下半身は既に勃起して、疼いているのだろう。
今日は、どんな風にデータを集めてみようか。
ぞくぞくと嬉しさがこみ上げてきて、乾は唇の端を歪めて笑った。
















「おいで……」
手塚が瞳を輝かせて乾に近付いてくるのを、乾は満足げに眺めた。





















手塚も満足……(汗)