夕方の部室














関東大会の一回戦で、氷帝学園は青春学園に敗退した。
一回戦で負けた場合、敗者復活戦にも進めないから、全国大会に駒を進める望みは断たれる。
昨年全国大会に出場した氷帝としては、残念な事ではあったが、勝負とはそういうものである。
跡部を始め負けた部員達も、精一杯戦ったからか、悔いは残っていないようだった。
些か残念に思いながらも、榊には関東大会の運営という別の仕事があったため、気落ちしてもいられなかった。
一回戦8試合が終わると、次週に2回戦、或いは更に準決勝と、次々と試合がある。
運営上の事務仕事も目白押しだった。
一回戦8試合が全て終了して数日後の平日の夕方、榊は再び神奈川の立海大付属中に足を運んでいた。
運営上の会議のためである。
氷帝学園には午前中のみ出勤し、所定の音楽の授業をこなしてから、午後出張という事で神奈川まで来た。
会議は午後3時からで、次回の試合についての議題が数人の理事達の間で協議された。
会議が終わったのは午後7時を回っていた。
立海大の広い会議室を出て、玄関から外に出る。
既に校庭には人影がなく、体育館や部室棟からの灯りが暗い中にぼんやりと光っていた。















「遅くなったな…」
理事達が次々と帰り、最後になった榊が玄関から出ようとした所に、少年が一人立っているのが目に入った。
玄関の太い円柱に背中を凭れ、腕組みをして下を向いている。
立海大テニス部のジャージを着て、微動だにしない。
じっと動かない姿は、瞑目しているようでもあった。
榊の足音を聞きつけたのか、ふ、と顔を上げ、秀麗な眉をやや寄せて、切れ長の黒い双眸を合わせてくる。
立海大付属中テニス部副部長の、真田弦一郎だった。
「……真田君か、…どうしたんだ?」
先日と似たようなシチュエーション。
榊はふとデジャブを覚えた。
前回、立海大付属に来た時も、帰りに彼と会ったのだった。
あの時は玄関ではなく、校門の所だったが。
校門の所にたたずんでいる彼に声を掛け、そして………。
「もう、校舎内には誰もいないぞ? 誰か待っているのか?」
もしかして自分を待っていたのかも知れない、と思ったが、確証がつかめなかったので、榊は言葉を濁した。
「……あなたを待っていました…」
真田の低く響く声が、夕闇に流れていく。
「……俺を? ……何の用かな?」
内心の漣を知られぬように平静を装い、榊は玄関を出た。
真田が顔を上げて、組んでいた腕を解いた。
「…特に用事はありませんが…」
真田の表情は暗くてよく分からなかった。
しかし、その黒々とした目が、何か訴えているように感じ取れた。
「…部活中かな?」
「…いえ。先ほど終了した所です」
果たして彼が自分に何を言いたくてここで待っていたのか分からない。
が、ジャージ姿でいるということは、まだテニスをやっていたのだろう。
真田が、自分をどうして待っていたのか。
先日の事が榊の脳裏に思い浮かんだ。
暗々とした木の下に浮かび上がった白い項。
口付けた時の、彼の微かに震えた身体……。
「………テニスでも、やるか?」
このまま帰るわけにはいかない。
なにか……テニスぐらいしか思いつかなかった。
提案してみると、真田が逡巡したように瞬きをした。
「……先生は、ラケットをお持ちではないようですが」
「あぁ、貸してもらえるかな?」
真田の言葉に重ねるようにして言うと、真田が視線を微かに揺らし、考えるように眉寝を寄せた。
「…では、宜しくお願いします」
低い落ち着いた声音。
真田の後ろからついて行きながら、榊は足が地に着かないような、そんな不可思議な感覚にとらわれていた。

















案内された部室は、さすが全国一のテニス部だけあって、中学校のものとは思えない設備と充実度だった。
氷帝学園も全国に誇れるレベルだが、立海大ほどではない。
さすが、全国大会優勝の伝統校は違うな、などと思いながら中に入る。
テニス部だけで一つの建物を使用しているらしく、エントランスから中に入る所にテニス部とプレートが掲げられており、内部は部屋がいくつも廊下を隔ててあり、シャワールームや仮眠室まで整備されていた。
レギュラー用の部室だろうか、一際豪華で広い部屋に案内される。
落ち着いた色調の広い部屋に、壁の一方にはソファとテーブルが、もう一方にはロッカーや机が整然と並んでいる。
奥にも扉があり、シャワールームや洗面所がついているようだった。
部屋は明るく電灯が灯されていた。
その光の中で、先に入った真田の黒く艶やかな髪や、日に焼けた健康な項を見ていると、榊は不思議な興奮がわき上がってきた。
---------先日。
ふとした悪戯心で、真田の項に口づけをした。
あの時の、僅かに震えた身体や、しっとりとした肌の感触がまざまざと思い出された。
部屋に、二人きり。
ドクン----------不意に鼓動が跳ねる。
榊はそのままドアの所で立ちつくした。
真田の後ろ姿を眺め、不意に襲ってきた興奮に狼狽する。
すると、どうしたのか、というように真田が後ろを振り向いてきた。
「……どうかしましたか?」
さえざえとした鴉の濡れ羽色の瞳が、潤んだように室内灯に光る。
意志の強そうなきつい眼差しや、引き締まった唇が、突如榊に堪えがたい劣情を催させた。
跡部を相手にしているときとは、また違った興奮だ。
この意志の強そうな、落ち着いた少年を、己の腕の中で思う存分に啼かせてみたい。
中学テニス界にて、既に皇帝と呼ばれ、誰にも屈する事などないであろう誇り高い彼を、己の前に屈服させ、跪かせたい。
………そんな、暗く、だが熱く滾った欲望だった。

「真田君……」
不意に榊は真田に近寄ると、彼の身体を抱きしめた。















抱きしめると、堅く引き締まった筋肉の感触が腕に伝わってきた。
筋力トレーニングを余程積んでいるのだろう。
どこにもたるんだ所など無い、素晴らしい筋肉の連なり。
ジャージの裾をたくし上げ、脇腹から手を差し入れ、直接素肌に手を這わせると、堅い腹筋が波打って掌に当たる。
「………」
真田は動かなかった。
言葉も発せず、抵抗もせず、じっと立ちつくしている。
今まで部活をしていたからだろうか。
首筋に顔を埋めると、爽やかな匂いがした。
ぞくり、と官能を刺激する、彼の匂いだ。
忽ちペニスに熱い血流が流れて込んでいく。
背筋を電流が駆け抜け、榊はごくり、と喉を鳴らした。
自分も言葉を発せず、ただ股間を、真田の股間に擦りつけるように動かしてみる。
びく、と微かに身動ぎしつつも、真田はやはり抵抗しなかった。
唇を引き結び、眉を寄せ、微動だにせずに立っている。
擦りつけた己のペニスに、堅い相手のものが当たった。
彼も興奮していた。
(…………!)
不意に榊は意外な念に打たれた。
この、皇帝と称されるような少年が、股間を膨らませて、他校の監督をしている中年の男に抱きしめられているなど。
誇り高く誰にも屈しないはずの彼が、こんな所で、男相手に興奮して。
「………」
言葉が見つからず、口を開き懸けて、榊はやめた。
言葉など、何を言っても真実を伝えられるとは思えなかった。
この、今の自分の気持ちを言えるとも思えなかった。
ただ。
「………」
黙ったまま、榊は……静かに真田を傍らのソファに押し倒した。

真田は抵抗しなかった。

















ソファは3人がけのもので、大人が一人十分に寝られる広さがあった。
押し黙ったまま、そこに真田を俯せに押し倒し、腰をぐっと引き上げさせる。
そんな体勢を彼が黙って受け入れるとは到底思えなかったのに、彼は何も言わず、何の抵抗もしなかった。
ただ、黙って、榊にされるがままに俯せになり、腰を上げられれば、微かに顔を振り、それでもソファに四つんばいになって尻を上げてくる。
ジャージのズボンにゆっくりと手を掛け引き下ろすと、さすがに身体を堅くしたが、それだけだった。
明るい室内灯に、真田の、引き締まった形の良い尻が露わになる。
日に焼けていない尻肉は白く、太腿の日焼けとのコントラストが扇情的だった。
後ろからぐ、と手を入れ、尻の方から真田のペニスを握り込むと、彼の身体が震えた。
ペニスは中学生とは思えないほど大きく、括れていた。
熱く弾力のある、堅い感触。
榊の手に余るほどの大きさのそれは、しかしどこか清楚だった。
一言も発しないままそこを握り込み、根元から括れた先端まで指で絞り込むようにしながら扱くと、真田が苦しげに息を吐いた。
尻が微かに震える。
形の良い臀筋がきゅ、と引き締まる様を見ると、ぞくり、と耐えようのない興奮が湧き上がってきた。
思わず顔を近づけ、尻を割り開いて奥まった部分に唇を寄せる。
今度ははっきりと真田の身体が震えた。
真田の後孔は、彼らしく精悍で、きつく引き締まった襞が美しく連なっていた。
その薄茶色の綺麗にそろった襞に唾液をくちゅ、と流し入れ、周囲を舌で舐め上げていく。
尻の震えが大きくなり、それにともなって苦しげな息づかいが聞こえてくる。
だが、それでも真田は逃げなかった。
四つんばいになり、下を向き、苦しげに息をし、ソファの布地を無骨な大きな指で引きちぎるぐらいに掴んで耐えている。
「………」
背筋を稲妻が走り、それが尾てい骨から自分のペニスまで突き抜けていく。
こんなに興奮したことなど、なかった。
興奮に我を忘れた。
無意識に手を動かし、カチャ、と金属音を立てて自分のスーツのズボンのベルトを外す。
ジッパーをさげ、下着の中から己の猛った凶器を取り出す。
は、としたように真田が身動ぎ、肩越しに振り向いてきた。
目線が合う。
さらりとした前髪が揺れ、秀麗な眉が寄せられ、切れ長の黒い双眸がじっと己を見上げてくる。
何を考えているのだろうか。
分からなかった。
ただ、じっと己を窺ってくるような瞳が、榊を次の行動に走らせた。
唾液を送り込んで申し訳程度にほぐした後孔に、榊は堅い怒張を押し当てた。
真田が息を呑み、瞬きをして目線を伏せる。
次の瞬間、一気に榊は真田の中に押し入った















「………くッッ!」
真田の喉から苦しげな呻きが漏れた。
身体が硬直し、眉間に皺が刻まれ、瞳が固く閉じられる。
唇を食いしばり、戦慄く身体から、汗がしっとりとにじみ出てくる。
榊の左手は、真田の尻をがっちりと押さえていた。
掌の中で、臀筋が引き締まり、震え、弛緩し、また引き締まる。
ぐぐ、とペニスを最奥まで押し込んでやれば、堪え切れないのか、全身が戦慄く。
-------ガタン。
ふとどこかで扉でも開くような音が僅かに聞こえてきて、二人ははっと身を固くした。
「…………」
真田が振り向いて榊を見上げる。
榊も眉間に皺を寄せて真田を見つめた。
見つめ合ったまま時間が過ぎ、扉の開くような音は一回したきり、そのあとはなんの音もしなかった。
誰かが入ってきたわけではなかったようだ。
榊が安心して息を吐くと、真田も軽く息を吐く。
なんとなく可笑しくなった。
……こんな所で俺は一体何をしているんだ。
榊は自問した。
他校の中学生を、しかもそこの学校で犯すなど。
全く狂気の沙汰だ。
(一体俺は……)
ふ、と口元に笑みが浮かぶ。
真田が瞬きして、瞳を眇め、榊を肩越しに見つめてきた。
その瞳に笑いかけると、榊は、堰を切ったように激しく動き始めた。
ぐちゅぐちゅと湿った淫靡な音を響かせ、柔らかく狭い入り口が傷つくのも構わずに、己の堅い凶器をねじ込み、引き抜いては、またえぐり突く。
右手で握った肉棒を力を込めて搾るように扱き上げ、先端のぬめった部分に爪を立てる。
「……うッッッ…」
真田が、微かに声を発した。
低く押し殺した呻きは、どんな喘ぎよりも妖艶だった。
聞いた途端に、かっと身体全体が熱くなった。
あまり保ちそうにもなかった。
ソファをぎしぎしと軋ませて真田を揺さぶり突き上げ、内壁を角度を変えてえぐる。
「…っく、…ッッッ……ぅ……」
微かに聞こえる声が、耳から背骨を通り、ペニスを直撃する。
「……!」
ぐぐ、と最奥までペニスをねじ込むと、榊はそこでぐ、と唇を噛んだ。
どくどくと己の欲望が迸っていく。
きゅ、と扱き上げた右手の中のものがはじけ、指に熱い粘液が滴り溢れるのを感じながら、榊はゆっくりと息を吐いた。















事がすむと、興奮は津波が引くように収まっていった。
身体を離し、ぐったりとした真田を仰向けにしてティッシュで後始末をしてやる。
尻の穴を綺麗に拭かれるまでされるがままになっていた真田だが、榊が離れると、ゆっくりと身を起こした。
形の良い額から、汗がしたたり落ちるのを、右手で緩慢に拭う。
軽く顔を振り、身体を起こす時に顔を顰めたが、そのまま唇を噛んで起きあがり、制服に着替える。
榊はドアの所に凭れて真田が身支度を整えるのを待っていた。















「…では、俺は帰るとする。…テニスができずすまん」
真田が身支度を終え、自分を見つめてきた時に、榊は静かに言った。
「……いえ。…そのうち、ご指導ください」
深い黒の瞳が、じっと榊を見据えてきた。
さらり、と前髪が揺れ、僅かに目線が絡み合う。
「あぁ、……また、会えそうだしな…」
榊がそう答えると、真田がふ、と微笑んだ。

「有り難うございました」
礼儀正しい一礼。
背中に真田の視線を感じながらガタン、とドアを開けて部室を出ると、外は既に夜になっていた。
牽牛と織姫が、夜空に輝いている。
(………)















どっと疲れが襲ってきた。
明日も学校だ。
榊は顔を振り、乱れた髪をかき上げた。
疲れてはいたが、まだ足はふんわりと宙に浮いているような気がした。


















接点捏造もいいところですが…(汗)