夢を見た。
真田を犯そうとしている夢。
夢の中で真田は、俺の前で這い蹲って、尻を向けていた。
引き締まった尻だ。
真田の裸は合宿などで随分見慣れている。
当時は筋肉の付いたいい身体だなぁとか単純に羨ましく思った程度だったけど。
夢の中の真田の尻は、すごく扇情的だった。
きゅっと臀筋が引き締まり、固くて、でも掴むと弾力があって熱かった。
夢の中で熱いなんて感じる訳ないのだから、それは錯覚なんだろうけど。
掴んでぐい、と左右に割り広げると、尻肉がぶるぶると痙攣したように震えて、真田の身体がびくっと動く。
中心でひくついている可愛い入り口が真田に似合わなくて、俺は夢の中でくすっと笑った。
途端に真田が緊張して、尻の肉がさらにきゅっと引き締まる。
そういうのを見ているだけで楽しくて、俺はくすくす笑いが止まらなかった。
あの後起きなかったら、最後までヤっていたのかな。
残念なことに、朝になっていて、看護師さんが病室の扉を叩いた音で目が覚めてしまった。
起きたら、………俺のペニスは勃起していた。
もし、夢の中でヤっていたら夢精なんていう恥ずかしい事態になっていたかな。
それはちょっと嫌だけど………でも、やっぱり夢が中断されたのは、残念だった。
本当の真田の肛門は、どんなになっているのだろうか。
不意に、見てみたくなった。
俺はベッドでごろりと仰向けになって、窓の外の青い空を眺めながら一人笑った。
真田が来たら、見てみよう。
そう思った。














午後、部活が終わった後、すぐに病院に向かってきたんだろう。
真田が夕方やってきた。
病院では夕食も終わり、あとは寝るだけって時間だけど、真田にとっては学校が終わったばかり。
全くよく来るよ。
部活が終わって病院に寄って、それから自宅に帰ったら、忙しくて大変だろうにな。
-------なんて。
ちょっと考えてしまって、俺は不愉快になった。
はっきり言って、そういう真田の行為はうざくて気持ちが悪かった。
もう来るなって何回も言ってやったのに、相変わらず来る。
いったい何が目的なんだ。
俺に何を期待しているんだ、真田。





俺はお前が嫌いだよ。















「………調子はどうだ?」
あからさまに嫌な顔をしたのが分かったんだろうか、真田がびく、と身体を震わせた。
「別に……いつもと同じだね」
「……そうか……」
「あ、でもね、………今日いい夢みてたんだけど、途中で起こされちゃってさ……続き見られなくて残念だったんだよね」
「……夢か? いい夢だったのなら、良かったな」
俺が饒舌に話し出したので、真田があからさまにほっとしている。
(バーカ……)
俺は鬱陶しげに前髪を掻き上げて、真田を見上げた。
「続き、見てみたかったな」
「どういう夢なんだ?」
「あぁ、お前が出てきた夢」
「……俺が?」
「うん。お前がいればさ、見たかった続き、今お前にやってもらえるかな…」
「……俺にできる事なのか?」
「勿論。簡単だよ」
俺の役に立てるって分かって、真田が嬉しげに表情を緩める。
太い眉が少し下がり、瞳が細められる。
(やッぱりこいつはバカだな)
俺は心の中で苦笑した。
どうして、相手が嫌がってるとかさ、お前と話なんてしたくないんだって思ってるって、そういうの分からないんだろうね。
自分が思っていれば、相手もいつか思ってくれるとか、そういう風におめでたく信じてる所がさ、なんていうか、やっぱり真田だよ。
「真田がしてくれると、俺は嬉しいんだけどな…」
「俺に出来ることならなんでもするぞ」
……って、本当、安請け合いするよな、こいつ。
いつもながら俺は感心した。
死ね、とか言われたらどうするんだろうな……。
俺がそんな事言わないとでも思ってんのかな?
まぁ、言わないけどさ……だって、真田にそんな事言ってもし本当に死なれたら面倒だ。
真田の面倒まで見きれないからね。
勝手にやってくれ。
「本当に、してくれるのか?」
「あぁ」
真田が力強く頷いたので、俺はベッドから半身を起こした。
「じゃあ、絶対してよ?」
そう言って俺は真田を手招きした。
「実はね、真田がまっぱだかになって俺に肛門見せてくれる夢を見たんだ」
「………は?」
真田の太い眉がぐっと顰められた。
「まっぱだかは面倒だからさ、下だけでいいよ。ズボンとか脱いで四つん這いになって、俺に尻と肛門見せてくれないかな?」
「………な、なにバカな事を……」
声が裏返ってる。
俺は顎を上げて真田を睨めつけ、肩を竦めた。
「夢の続き、してくれるんだろ? さっきなんでもするって言ったじゃないか?」
「そ、それはっ………だが」
「だがもなにもないよ。約束は守れよ、真田」
「…………」
「ほら、下、脱いで…」
と言って俺が真田のズボンに手を伸ばした所を、無意識だろうけど、真田がバシっと振り払ってきた。
無意識だろうけどね。
でも、俺はカッとなった。
だって、真田だよ? こいつにこんな事されるなんて。
来るなといってもしつこく来るのを何とか我慢してやっているのに、いったい何様なんだよ、お前は。
カッとなって一瞬頭に血が上って、次の瞬間、その血がすうっと下がって冷えていく。
瞳を眇めて、真田を凝視する。
真田がはっとしたように表情を変え、落ち着きなく視線を左右に揺らした。
「幸村……」
苦しそうな声。
さすがに肛門を他人に見せるのは、いやなんだ、真田でも。
まぁ、そうだろうな。
「………別にいいよ」
俺ってすぐにこういうの面倒になるんだよな。
だって、真田に対して怒るなんて、そういう無駄なエネルギー使いたくない。
怒るのってすごく精神消耗するからね。ばかばかしい。
「もういいから、帰ってくれないか?」
「……幸村……」
「さよなら」
時間の無駄。
エネルギーの無駄。
真田と話しているぐらいなら、その辺の野良犬と話でもしていたほうがずっとマシだ。
「す、すまんっ、……幸村……怒ったのか?」
---------------だから。
お前に対して怒るなんて、そんな面倒でエネルギーいることしたくないわけ、俺は。
バカみたいじゃないか。
怒るってのはさ、対等だったり、相手の存在が自分にとって重要だったりさ、そういう対象に対してすることだし。
お前に対して怒るなんて、本当無駄以外の何物でもないよ。
それに、折角真田の肛門が見たいって思った興味も、すっかり萎えちゃった。
俺がお願いして見せてもらうなんて、バカみたいじゃないか。
いいよ。夢の中で見せてもらって、夢の中のお前で遊ぶからさ。
「幸村……」
真田が泣きそうな声を出した。
そういう声、出さない方がいいよ、真田。
せっかくの男前がだいなしだよ。
お前、固くて格好良くて男らしいっていう外面で通っているんだからな。
「……す、すまんッッ………すぐに脱ぐからッ!」
そう言って真田が狼狽してズボンのベルトを外し始めたので、俺はやれやれと身体の向きを変えた。
「もういいって。早く帰ってくれよ」
「幸村………」
ベルトを外し思いきり下着ごとズボンを膝上まで降ろした所で、真田が途方に暮れた顔をする。
間抜けな顔だな。
というか、格好もものすごく間抜けだった。
筋肉のがっちりとついた太腿と、シャツの裾からはみ出している黒々とした陰毛。
それに、真ん中で重そうに垂れ下がっている真田のペニス………。
そんなものをちらっと眺めてしまった。
ペニスはただ力無く垂れ下がっていただけだったが、それでも大きかった。
大きくて、しかも先端はすっかり剥けている。
結構局部は毛深いようで、白いシャツからはみ出た陰毛が渦巻いているのが、滑稽さに拍車をかけている。
夢で、見たかな…。
いや、ペニスは見てなかったかも。
ちょっと面白かったけど、もうすっかり興ざめしていた俺はそんなもの見せるな、というように手を振って真田から視線を外した。
「な、なんでもするッ。先ほどは突然だったので驚いてしまったのだ。幸村ッ」
真田の狼狽しきった声がおかしい。
(なんでもするってさ………真田、本当にバカなんだな……)
「もう面会時間終わりだから、帰れよ」
「で、では明日……明日も来ていいだろう、幸村?」
必死だな、真田。
なんでこんなに必死なんだか、この男は……。
しかも、自分の肛門見せたくて必死になってるって、どっかおかしいって気づかないのか?
「明日はまた別な事してもらいたくなるかもだけどね?」
肩を竦めてそう言うと、真田がほっとしたように全身の緊張を解いた。
「あ、あぁ、分かった。……すまなかった、幸村……」




別にすまなくもなんともないんだよ。
だいたい俺がお前に酷いこと要求してるんだからさ。
ずり降ろしたズボンを恥ずかしげに穿き直し、何度も頭を下げ、名残惜しげに振り返りながら病室を出て行く真田の、骨格逞しく筋肉の付いた後ろ姿を眺めながら、俺は心の中でそう思った。





今日も、夢を見るだろうか。
なんだかばかばかしくて、涙が出てきた。
テレビを付けると無意味に明るい音楽が耳に飛び込んできた。





眠れそうになかったら、また薬を貰おう。
夢なんて見ないで、本当は眠ってしまいたい。
真田のことなど、少しも考えたくなかった。
頭の中からすっかり消えてしまえばいいのに……。
そうしたら俺は自由に前向きに生きられそうな気がする。
お前が悪いんだよ、真田。




溜息を吐いて、俺は枕に顔を埋めた。
















前回に引き続きバカな真田で……