「…く…ぅッッ………ぅ………」
微かな、喘ぎ。
苦しいのだろうか。痛いのだろうか。
いつもの、テニスコートに響く、他を威圧するような声ではない。
掠れた低いテノール。
鼓膜を圧し、全身を嗜虐の炎で焼き尽くすような、そんな淫靡な声。
井上がペニスを突き立てると、其処はきつく締まり、容易には井上を受け入れようとしなかった。
が、真田のペニスを握って扱くと、それに合わせて後孔が緩む。
その隙に乗じて、井上はずぶりと雁首まで埋め込んだ。
真田の身体が戦慄き、太い眉がくっと寄せられ、額に汗が浮かぶ。
知性を感じさせる広い額に、艶やかな前髪が乱れ散り、真田が僅かに顔を振ると、それに合わせて髪が揺れた。
固く閉じた瞼が微かにひくつき、長く黒い睫が細かく震える。
真田のペニスを扱いてやると、そこは再度堅く勃起し、すぐに手の中に余るほどの体積を擁してきた。
先端から滲み出た先走りで、くちゅ、と湿った音がする。
雁首まで埋め込んで、一旦息を吐き、再度息を詰めて、今度は一気に根元までペニスで深々と貫いていく。
ガクン、と真田の顎が仰け反り、筋肉の逞しく付いた胸がぐっと反り返る。
腸が蠢き、井上のものに軟体動物のように絡みつき、熱い粘膜が吸い付いてくる。
ずきん、と尾てい骨から脳天まで、電撃が駆け上った。
ペニスが更に一回り太く堅くなる。
真田がひゅっと息を飲み、全身を戦慄かせる。
「真田君……」
深々と埋め込んだ体勢で、井上は真田の名前を呼んだ。
答えて、真田がうっすらと瞳を開いた。
深い黒い瞳が、井上を茫洋と見上げてくる。
鋭い眼光は、今は霞に覆われ和らいでいた。
「いのうえ、さん…」
掠れた、甘いテノールが、井上の股間を直撃する。
「いたく、ないか……?」
上擦った声で尋ねると、真田がふっと瞳を細めた。
「大丈夫、です……」
それ以上は口を閉ざし、また瞳を閉じる。
テニスプレイヤーの垂涎の的であろう、理想的な筋肉の付いた腕が、井上の背中に回され、井上の存在を確かめるように肩胛骨から首筋までまさぐってくる。
「……真田君っ」
全身がかっと燃え上がった。
彼が、俺を受け入れている。
そう思うと、夢のようだった。
いや、今だけの夢だろう。
だが、嘘ではない。
今、俺は自分の腕の中に、皇帝を抱いているのだ。
どくん、と血流が一気にペニスに流れ込む。
保ちそうにもなかった。
井上は唇を噛み締めると、ぐっと腰を引き、激しく抽送を開始した。
「う……ッッぐ……ぅッッ……!」
真田が、喉を詰まらせて、掠れた呻きを発する。
それが耳を擽り、たまらなく井上を興奮させていく。
ぐいぐいと腰を突き上げ、真田が特に反応する一点を集中して擦り上げていく。
湿った淫靡な水音を部屋一杯に響かせ、ベッドを壊すかの勢いで、真田の身体を貪る。
「く………ッッ!」
前立腺を刺激したからだろう、真田が喉を仰け反らせ、呻いた。
右手で扱いていた彼のペニスがびくびくとのたうつ。
日に焼けた小麦色の喉も、上下に淫靡に動く。
頭の血が、ペニスに流れすぎたせいだろうか、目の前がふっと暗くなるような気がした。
たとえようもない興奮に、息など吐けなくなる。
「…………!」
もう、限界だ。
熱くうねる腸に、己の怒張をたたき込んで、井上はそこで全身を激しく痙攣させた。
目の前が真っ白になったような気がした。
熱い奔流が、自分の全てを押し出していくようだった。
暫く放心状態で、真田の身体に自分の身体を密着させたまま、井上は荒い息を吐いていた。
腹の間が、ねっとりとする。
真田も、再度射精したらしい。
「…真田君……」
漸く頭に血が戻ってきて、ふらつく頭を起こして、身体の下の真田を見ると、彼も大きく胸を上下させて息をしながら、瞳を閉じていた。
汗にまみれた、乱れた前髪。
寄せられた、太い眉。
震える、長い睫。
高い鼻梁。
整った唇。
井上の視線に気づいたのか、真田がすっと瞳を開けた。
涼やかな、切れ長の黒い瞳が、鋭さを取り戻していた。
「………」
射竦めるように見つめられ、井上は視線を逸らした。
-----------駄目だ。
やはり、真田は皇帝だ。
自分など、足元にも及ばない。
こうして、彼を抱いたというのに、……微塵も彼は損なわれていない。
「大丈夫、かな……」
井上はゆっくりと身体を起こし、真田に負担を掛けないように、繋がっていた部分を抜いた。
「……」
真田が一瞬眉を顰める。
ぞくぞくと、背筋が震えた。
彼を、もっと犯したい。
犯して、自分の腕の中で、身悶えさせたい。
凶悪な欲望だった。
井上は唇を噛み、無理矢理にそのよこしまな欲望を頭から追い払った。
身体を離し、立ち上がると、ユニットバスに行きタオルを湯で濡らして持ってくる。
身体を拭いている間、真田はゆったりと井上に身を任せていた。
肛門に指を入れて体液を掻き出す時にも、僅かに身体を強張らせたものの、井上にされるがままに、足を開いた。
それは、王者が下々の者に身の回りを任せるようでもあり、井上にそうされるのが当然、という信頼でもあった。
綺麗に拭き清め後始末をすると、真田がベッドから立ち上がった。
さすがに痛みを感じたのだろう、立ち上がった瞬間、顔が歪む。
「…大丈夫か?」
衣服を整えていた井上は、狼狽して真田に声を掛けた。
真田が、三白眼の虹彩をすっと狭めて、井上を凝視してきた。
「………」
やはり、圧倒される。
どうしてだろうか。
先ほどまで、この身体を蹂躙した、というのに。
真田がジャージを身につけるのを、井上はぼんやりと眺めた。
やがて、いつもの、寸分隙もない真田が、仮眠室のカーテンを開け窓を開く。
さっと夕方の空気が入ってきて、部屋の中の篭もった空気が一掃されていった。
「…アンケートの結果、とれましたか?」
不意に尋ねられて、井上は動転した。
そういえば、その口実で彼を……。
「あ、あぁ、そうだね。いろいろ協力有難う…」
皮肉なのか揶揄なのか真意が分からず、戸惑いながらそう言うと、真田がふっと笑った。
「こういう協力ならば、いつでもいいですよ…」
「……真田、くん……」
「テニス以外の運動も、悪くない…」
「………」
井上が呆然としている間に、立海大の皇帝は、失礼、と言って、皇帝然とした態度のまま、部屋を出て行ったのだった。
井上さんってこんな感じで奉仕してくれそうです。
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