情交 
《2》











部屋に入ると、跡部が扉をバタン、と閉めた。
薄暗い部屋に、ぼんやりと跡部の姿が浮かび上がる。
真田はふと眩暈を覚えた。
これから跡部と……。
「……脱げよ……」
真田を追い越してベッドに腰を掛けると、跡部が顎を上向けて、見下ろすようにして真田に言ってきた。
尊大な声の調子に、思わず真田の太い眉が寄せられる。
だが、拒絶は出来ない。
「…………」
身体を強張らせて、立海大の制服を脱いでいく。
跡部の視線が痛い。
跡部とこんな事をしていいのか-------------さすがに逡巡が、真田の動作を鈍らせる。
「おい、早く脱げよっ」
のろのろとした動作に焦れたのか、跡部が苛立たしげな声を出してきた。
上半身を脱いだところで不意に乱暴に手を掴まれ、ぐい、と引き寄せられる。
思わず体勢を崩した所を、ベッドに押さえ付けられて、真田は息を飲んだ。
抵抗をしてはいけない。
もし自分が本気を出したら、跡部よりも体格の勝った己のこと、跡部ぐらいはねのける事は容易だろう。
だが、自分に選択肢はない。
もう承諾したのだ、跡部に抱かれることを。
跡部に、抱かれる---------------?
急にその言葉が現実味を帯びて真田を襲った。
身体は興奮しているのに、心が一挙に現実に戻ったような気がした。
まさか。
………そんな事、とても考えられない。
跡部は、友人だ。
好敵手で、信頼もしている。
なのに、その跡部と、これから…………。
「……だ、だめだ…ッッ!」
急に狼狽が真田を襲った。
「うるせえよっ!黙ってろ…!」
真田が怖じ気づいたのを感じ取ったのか、跡部がイライラした声を出し、真田のズボンを乱暴に引き下げてきた。
「てめぇは黙って突っ込まれてりゃいいんだよッ」
「………」
跡部の口調も信じられない。
呆然として見上げると、跡部が口許を歪めて笑った。
「いい顔だぜ、真田………モテモテだったんじゃねえのか?」
跡部がぐっと両足を抱えてきた。
はっとして我に帰ってももう遅かった。
両足が抱え上げられていた。
尻の孔に冷たい感触がする。跡部が何か塗りつけていた。
ぬるりとしたジェルのようなものだ。
「…ま、まてっ!」
上擦った掠れ声で漸くのことでそう言ったが、間髪を入れず尻に跡部のペニスの感触がした。
背筋が総毛立つ。
「行くぜ?」
跡部がにやりと笑った。
一気に尻の孔を引き裂くがごとく広げてペニスが突き進んでくるのを、真田は呆然としたまま感じた。














「ぅ……く……ッッ」
声が漏れる。
うっすらと開いた目に、薄暗い灰色の天井が飛び込んでくる。
顎を仰け反らせているため、前髪が額から流れ落ちて、顔を振ると目にかかるのが鬱陶しい。
いや。それよりも。
自分の身体が、全身熱を持って、宙に浮いているようだった。
ズキン、と下半身から激烈な快感が背骨の中を走り抜ける。
「あ……くッッ…!」
思わず声が漏れた。
ひゅっと息を飲み、どうにかして快感をやり過ごそうとしても、次から次へと脳髄に鋭い電流が流れ込んでくる。
気持ちが、良い…………身体がどうにかなりそうだ。
「はッ……ぁ……ッッ」
顔を激しく振り、真田は脳裏に浮かんだその言葉を振り払おうとした。
気持ちが良い、など……。
-------------だが。
「く……ッっ!」
ずぶり、と跡部のペニスが体内深くめり込んでくる。
内臓がずしんと押し上げられ、思わず低い声が漏れ出る。
大きく限界まで開かされた脚の付け根がじんじんと痺れてくる。
喉を詰まらせて呻き、息を詰めていたせいか苦しさに耐えきれなくなり、激しく息を吸い込む。
「おい……もっと、声出せよ…」
耳元で囁かれて、ぞわり、と鳥肌が立った。
思わず目を開くと、至近で跡部の吸い込まれるような灰青色の瞳と目が合った。
ずずっと固い肉棒を押し込まれ、間髪を入れず、引き抜かれる。
耐え難い快感が押し寄せてくる。
全身が震え、シーツを握りしめた指に血液が流れなくなり、白くなるほど力がこもる。
厚い胸が膨らみ、息を吐き出す。
尻の筋肉が引き締まり、堅くなっては緩まって、跡部のものを受け入れている其処が蠕動し、緩やかに快感を導き出す。
「すげぇな……ナカがうねってくる。それに、すっかり勃ってるぜ、真田……後ろだけでもイけそうじゃねえか」
跡部の、甘く掠れた囁き。
首筋にぞくっと戦慄が走り、思わず縮めると、そこをねっとりと舐められる。
「すげぇ締め付けだぜ……鍛えてるだけあるってか…」
跡部の上擦った声が脳裏に流れ込んできて、真田は思わず強く目を瞑った。
「ほら、こっち向けよ、真田…」
言いざまぐぐっと怒張が叩き込まれ、ずしん、と重い快感が脳天を貫いた。
喉を詰め、息を止めると全身から冷や汗が吹き出す。
盛り上がった肩の筋肉と首の筋肉に、跡部が口付けを落としてくる。
「……いいぜ、真田…」
跡部の声が、耳元を擽る。
耐えきれなくなって激しく首を振ると、黒い前髪が宙を舞った。
「こっちも随分でかくなってきたな…」
不意に目の前に閃光が散った。
お互いの腹の間で擦れて膨れあがっていた真田の性器を、跡部がぐっと握り込んできたのだ。
「こんなにしやがって……淫乱」
言葉の卑猥さに、全身が震える。
どくん、と血が流れ込んで、そこが一段と熱くなる。
跡部が嬉しげに笑った。
「最高だぜ、真田…」
強く握られ扱かれて、目の前が真っ白になっていく。
全身から汗が噴き出し、目の前が霞んで、酸素不足の脳が激烈な快感を伝えてくる。
「はッ……あ、……ぁぁ…ッッ!」
跡部がずぶずぶと深く真田の内壁を抉ってきた。
ある一点を突かれて、全身が戦慄いた。
目の前が爆発し、背中が反りかえる。
一瞬身体が宙に浮いたように意識が浮遊し、真田は跡部の手の中に、勢いよく濃い白濁を吐き出した。
跡部が薄く笑う声が、微かに聞こえた。















情事が終わると、気怠い脱力感が襲ってきた。
はぁはぁと肩で激しく息をしながら、簡易ベッドを軋ませて、顔をシーツに埋める。
しっとりとかいた汗が冷えて、真田は突っ伏した顔をぼんやりと上げた。
跡部が、見下ろしていた。
「…………」
結局、跡部と関係してしまった。
しかも、感じたままに声を上げ、あられもない姿を晒しして。
いったい、俺は………。
自分が信じられない
だが、跡部のものを突っ込まれてよがった自分も、紛れもなく自分なのだ。
「………」
怠い腕を上げて軽く頭を振る。
「真田…」
跡部の整った顔が降りてくるのを真田は瞳を眇めて見上げた。
唇が触れ合って、熱い吐息が混じり合う。
ねっとりと口付けされて、だが不快ではなかった。
無意識に目を閉じて、跡部の唇を受け止める。
舌が入り込んできて、口腔内を這い回る感触が、まだ余韻に浸る身体に残った火を掻き立てる。
「……よせ…もう、いいだろう…?」
「やだね…」
「…跡部…?」
「今日の所は許してやるけどな。……俺がしたくなったらすぐに応じろよ、真田。……いいな?」
「…何を言って……」
「いいな、真田」
思わずかっとなって睨み上げたところを、低い声で再度言われた。
ぐ、と返答に詰まり、真田は視線を逸らした。
「…………」
「ちょうどいいだろ? 俺が相手してやるよ、真田…」
首筋に唇が押し当てられ、ぴり、と痛みが走る。
「またメールするぜ…」
ぞくぞくと戦慄が走った。
首筋に手を当てながら俯くと、跡部が微かに笑った。
「そそるぜ、真田…」
起きあがった途端に、跡部の吐き出したものがとろり、と内股を伝い落ちてきた。
息を詰めて、真田は目を閉じた。
心の底に、暗い欲望の喜びがまぎれもなく存在するのを感じながら。












「……分かった……」
返答を聞いて笑う跡部の声が、薄暗い部屋に流れていった。
















というわけでめでたし……