雨雲 
《2》











「いや、ちょっと気分が悪くなっただけだよ、お前は健康でいいよな…」
「……大丈夫か?」
真田の心配そうな声に俺はにっこり笑ってみせた。
「なぁ真田、お前の身体、ちょっと触らせてくれないか。元気が俺の方に伝わってくるかもしれないからさ」
「あ、あぁ、…いいが」
真田が戸惑いながら俺の前まで歩いてきた。
この間さんざん俺に酷いことされたのに、この無防備さはなんだ。
俺は時々真田が分からなくなる。
俺の心の中の方がまだ分かりやすい。
真田に対するどろどろとした汚いものがいっぱい詰まった心。
それに対して真田は---------ただのバカなのか。
それとも、俺なんかには計り知れないほど、こいつの心の中は広いのだろうか。
なんにしろ、ムカつく。
俺はゆっくり、ベッドサイドの手荷物から裁縫セットを取るとその中から細く小さな安全ピンを取り出した。
「………」
真田が息を止める。
「真田は健康だから、きっと血も濃いんだろうなぁ…。うらやましいよ」
柔和な笑みを見せて、俺は真田を見上げた。
「……ゆきむら…」
「…動くなよ。絶対にな?」
僅かに身体を強張らせたものの、真田は動かなかった。
張り詰めた小麦色の肌にそっと手を沿わせ、俺は真田の小さな乳首を親指と人差し指で挟んだ。
くりっとしたそこは、指で挟んで転がしてやると、ぷっくりと勃ち上がってきた。
乳輪には数本短い黒い毛が生えていて、それが指に当たる。
真田が息を飲んで、太い眉を震わせた。
「ふふふ……」
俺は視線を絡めて笑いかけると、安全ピンの針先を乳首に、ちょうど耳にピアスの孔でも開けるかのように押し当てた。
反対側にはティッシュを丸めて押し当てる。
「……ゆ、き、むら…」
真田が掠れた声を上げた。
それでも動こうとはせず、拳を握りしめて仁王立ちしている。
安全ピンをぐっと押すと、乳首の柔らかな部分に針先がほんの少しめり込んだ。
真田が身体を硬直させたが、そんなに痛みは感じてないようだった。
ただどうしたらいいのか分からないようで、色を無くした顔に不安を上らせている。
(ふん……)
まぁ、乳首なんてそんなに痛いわけないしね。
俺は安全ピンを一気に乳首に突き刺して貫通させた。
「うッッッ!」
真田がバリトンの美声で呻いた。
(イイ声してるよな……)
安全ピンの針をはめて、俺は目を細めて銀色に光るそれを眺めた。
真田が何度も深呼吸し、厚い胸板を上下させる。
安全ピンが揺れて、血は出ていないが、乳首が赤く腫れる。
「どうして……」
掠れた声で呟くので、俺はじろり、と真田を睨んだ。
「煩いな。…お前は黙ってればいいんだよ」
吐き捨てるように言うと、びくっと身体を震わせる。
頬が紅潮し、握った拳がぶるぶると細かく震えている。
一丁前に怒っているのだろうか。
ムカっときて。俺は真田の腰を脚で蹴った。
「四つん這いになって尻向けろよ」
「………」
真田が一瞬眉を顰めて俺を見下ろしてきた。
その視線を見返して睨み返すと、息を飲んで身体を震わせながら、ゆっくりと四つん這いになる。
白くて筋肉の堅そうな尻が、俺の目の前に突き出された。
俺はいらいらした。
俺の言うなりになる真田が、憎らしかった。
ベッドサイドに、俺が元気のいい時に病室で素振りの練習に使っていたテニスのラケットがおいてあった。
それを取って握りしめると、俺はラケットで真田の尻をバシっと叩いた。
「うッッ!」
真田の背中がびくん、と反り返る。
何度も何度も素振りを繰り返すように叩きつけると、白い尻が赤くなってきた。
-----------お前のせいだ。
お前が俺にこんな事をさせているんだ、真田。
自業自得だ。
嫌なら逃げればいい。
俺は病人で、力もない。
お前が本気を出したら、俺なんていとも容易く押さえ付けられるだろうに。
………お前が。
お前がこの状況を甘んじて受けているから。
いや、お前が望んでいるから。
……俺はわざわざお前の望みを叶えてやっているんだ。
お前が俺にさせているんだ、こんな事を。
真田は動かなかった。
尻肉を緊張させこわばらせ、ぶるぶると震わせながらも、じっと俺の打擲に耐えていた。
そのうちに俺の方が息切れし、目の前が暗くなった。
ラケットを放り出し、はぁはぁと肩で息を吐いて、ベッドに蹲る。
「ゆき、む、ら……?」
真田が恐る恐る小さな声を出してきた。
「……動くな!」
俺は顔を上げて肩越しに俺を見ている真田を睨んだ。
ぎくっとして、真田が息を飲む。
--------駄目だ。
こんなんじゃとても治まらない。
俺はぜいぜいと息を切らしながら、周りを見回した。
尻を叩いたぐらいでは、乳首にピンを突き刺したぐらいでは、全く真田に効いていない。
むしろこの男を喜ばせている気がする。
見回すと、真田が脱いだ制服が目に入った。
俺はいざりよって、制服のズボンから革ベルトを抜き取ると、それを振り上げた。
「……ゆきむらッッ!」
さすがに真田が声を上げた。
ひゅっと空気を切り裂いて振り下ろしたベルトは、真田のほの赤い尻に、真っ赤なベルト跡を見る見るうちに浮き上がらせた。
「ぐぁッッ」
真田の、本当に苦しげな呻き声に、俺は津波が引いていくように、どろどろと湧き立っていた憤りが治まっていくのを感じた。
気持ちがいい。
すっきりする。
身体は力を使いすぎてもうふらふらだったが、俺は渾身の力を込めて、再度ベルトを真田の尻に振り下ろした。
-------ビシッ!
肉を打ち付ける音が響いて、真田の身体が跳ね上がる。
十字に浮き出た赤い跡から、うっすらと血が滲み出てくる。
「…こっち向けよ」
俺ははぁはぁと肩で息を切りながらそう言うと、真田の左足を蹴って病室の床に真田の身体を転がし、今度は下腹部めがけてベルトを振り下ろした。
「…ぐあああッッッッ!」
ベルトは、真田の鍛え上げた腹筋から、濃く茂った陰毛と、それから重く垂れ下がっていたペニスの茎部分を直撃した。
真田が喉の潰れたような悲鳴を上げて、下腹部を両手で覆うと、身体を丸めて病室の床の上をのたうち回った。
俺は力を使いすぎて、目の前がふっと暗くなった。
ベルトをぼとり、と床に落とし、ぐったりとしてベッドに沈み込む。
「う……ぐぅ…ッ、…う、く……ッッ」
真田が苦悶している声と、床をごろごろと転がる音が耳に心地良い。
気持ちがゆったりとして、やっと落ち着いた気がした。
真田が苦しんでいる。
よっぽど痛かったんだろうな……そりゃそうだ。
でも、まだまだ俺の痛みほどじゃない。
お前の痛みは、そのうち治る。俺の痛みはずっと続くんだ。
おれでも、俺は随分と優しい気持ちになっていた。
ごろり、と寝返りを打って真田の方を向くと、真田は股間を押さえたまま、激しく肩を上下させ床に頭を擦りつけるようにして息をしていた。
「真田…」
呼ぶと、顔だけが動いて俺の方を見てきた。
黒い瞳に涙が溢れ、赤く濡れた唇が震えていた。
さらりとした黒髪が、涙と汗で額や頬に張り付いていた。
(綺麗だな、真田)
やっと俺の物になったような気がするよ。
そういうお前なら大好きだよ。
俺はにこっと微笑んでやった。
「俺は一眠りするよ。あぁ、ピンは自分で外しておけよ。化膿するといけないからな?」
重い手をあげて真田に向かって振ってやる。
真田が力無く頷いた。
「じゃあ、おやすみ」
俺は心地よい今のうちに眠りたかった。
真田に背を向けて瞳を閉じると、すうっと平安な眠気が襲ってきた。
身体は泥のように疲れていたけれど、それがかえってテニスの試合の後のように爽やかだった。













次に目を覚ました時、すでに真田はいなかった。
あれからどうしたんだろうか。
部屋は綺麗に片づいていて、俺が放り投げたラケットまできちんと窓辺に置かれていた。
既に夜で、窓の外は真っ暗だった。
身体を起こして、俺はじっと暗い空を眺めた。
曇りなのだろう。空には星一つ見えなかった。
















いたたたた…