コンソレーション 
《2》











ラケットを抜くと、血がべったりとついていた。
そのグリップを見て跡部は初めて、オレがかなり出血していた事を知ったみたいだ。
「……大丈夫かよ…」
跡部が表情を曇らせたので、オレは痛くて貧血が起きそうだったけど、へらっと笑って見せた。
「へへ、痛いよ……跡部君の注射で、痛いの抑えて……?」
「テメェ……バカかよ…」
ねだるように言ってみたら、跡部が形の良い眉を顰めて吐き捨てるように言った。
「そんなに痛そうなのに、突っ込めるかよ」
「跡部君のなら、痛くないし……痛いのなんか、なくなるよ……ね……入れてよ……」
跡部のが入ったら絶対痛くて死にそうだろうとは思ったけど、でも、このままだと気まずいまま別れることになりそうで、オレは嫌だった。
跡部はプライドが高いから------オレにこんな事をした自分を、後で許せなくなるかも知れない。
そうしたら、オレとももう会ってくれなくなるかも。
そんなの、いやだった。
オレの方が、ずっと跡部のこと、好きなんだ。
だから、跡部は、オレになにしてもいい。
いいから、嫌いにならないでほしい……。
「跡部君…」
跡部の制服のズボンに手を伸ばして、オレはベルトを外した。
中から、跡部のペニスを取り出す。
久しぶりに見るそれは、やっぱり綺麗だった。
跡部らしく、上品で形が良くて、でも、大きくて……まだちょっと柔らかいかな。
「ん……」
洋式便器の蓋に腰掛けて、オレは跡部のペニスを口に咥えた。
座った時に尻から脳天まで激痛が走り抜けたけど、必死で我慢する。
ペニスは、口に含むと、ぴく、と動いてむくむくと頭を擡げてきた。
……気持ち、いい。
こうしてペニスをしゃぶってるだけでも、尻の痛みがすっと引いていくような気がした。
跡部の熱が、オレの唇に伝わってくる。
伝わった熱が、身体全体に広がるような気がする。
「……なんで、最近連絡してこなかったんだよ」
不意に跡部が声を出したので、オレはびくっとした。
咥えたまま上目遣いに跡部を見ると、跡部は顎を少し突き出した尊大な表情で、でもオレをじっと見下ろしてきた。
透き通った青い瞳が、オレを射通すように見つめてくる。
淡い色の虹彩に、睫を伏せているから、長い睫が湖面に落ちる霧雨のようにさざめいた。
「…跡部君から、連絡、なかったから…」
剥きたての果実のようなペニスを口に入れたまま、答える。
跡部が、唇を歪めた。
「……俺が、負けたからだろ…?」
「…………」
返答、できなかった。
どんな答えをすれば、跡部が傷つかないだろうか。
なにを言っても、傷つきそうな気がした。
黙ったまま、瞳を伏せて、ぱっくりと喉奧までペニスを頬張り、裏筋を舌でなぞり吸い上げる。
跡部の手がオレの髪をくしゃ、と撫でてきた。
「ンな事、気にしてんじゃねぇよ…」
優しい声。
オレは恐る恐る跡部を見上げた。
「バーカ……」
跡部の目。
日本人以外の血が混じっているのか、青みがかって透き通っていて、深海に光を通した時みたいな色。
その瞳が笑っていた。
「……うん、……バカ…」
なんだか鼻の奥がつうんとして、泣きたくなってきた。
反対にへらへらして、答えて見せたけど、ちょっと語尾が泣き声になってしまった。
「千石………俺が、欲しいか?」
「…うん、欲しいよ。……オレ、跡部君の事スキだから…」
「バカだな、千石…」
低く通る声。
跡部の声で名前を呼ばれると、ぞくっと甘い戦慄が走り抜けた。
「ンじゃァ、入れてやるよ…」
跡部が、オレの身体を便器に押しつけ、足を持ち上げてきた。
血でぬるついた所に、跡部のペニスが押しつけられる。
さっき裂けた所が激痛を脳に伝えてきたけれど、そんな痛み、たいした事ない。
だって、心が暖かかったから。
心が痛くなかったから。
「………ッッッ!」
跡部は一気に入ってきた。
さすがに目の前が暗くなるほど激痛が全身を駆け抜けた。
尻が裂けて、そこから身体が二つに引き裂かれるような。
オレは目を固く閉じ、跡部にしがみついた。
トイレの個室に、湿った音が反響する。
夕方の空気が、ここだけ熱く重く立ちこめているような気がする。
鉄の匂いが立ち上ってきて、オレは眩暈がした。
跡部は容赦なく入ってきた。
奧まで入っては、ぐっと身体を引いて、また勢いを込めて突いてくる。
そのたびに、閉じた目の裏に真っ赤な閃光が散った。
「ぅ…んッ……うぅ……ッッ……!」
喉を詰まらせ、顎を上げて仰け反って、オレは痛みを堪えた。
全身が、火傷したように熱かった。
跡部が入っている所から火が燃え広がって、オレの全身を包んでいく。
「……くッ……せん、ごくッ…!」
跡部が低く呻いて、ペニスを思いきり突き込んできた。
目の裏が真っ赤になる。
全身から冷や汗が吹き出て、ふらっと身体がおぼつかなくなる。
「……………」
跡部がオレの中で熱く弾けたのをうっすらと感じながら、オレは殆ど意識を飛ばしかけていた。















元々今日はテニスの試合をしたから、オレは疲れていた。
そこに痛みと、跡部に会えた嬉しさとか様々な感情が混ざり合って、オレは暫く朦朧としていたみたいだった。
ふと気が付くと、跡部がオレを見下ろしていた。
「…あとべ、くん…?」
すごく、優しい瞳をしていた。
オレを尊大に見下ろすいつもの目じゃなくて、ちょっと口許に笑みを浮かべて瞳も細めている。
心がキュン、となって、オレは目を瞬いた。
「バーカ…」
跡部が囁く。
………うん。
オレって、本当にバカだと思う。
跡部君にこんな事されても、嬉しいんだもん。
きっと……跡部君になら、殺されても、嬉しいかも……。
「立てるか?」
「う、うん…」
跡部が後始末してくれたらしく、オレの尻は綺麗に拭かれていた。
「なんか当てといた方がいいぜ。…血がまだ出るだろ…」
跡部がポケットティッシュをオレに突きだしてきたので、オレはぼけっとしてそれを受け取った。
立ち上がると、ズキン、と脳天まで激痛が走ったけど、必死で堪えてズボンを穿き、ティッシュを尻に宛った。
なんだか、お襁褓してるみたいで変な気分だったけど、でも、血が出て下着を汚す心配がなくなったから、ちょっと安心かな。
「…帰るぜ」
跡部がオレのスポーツバッグを肩に担いだ。
「え、いいよ、オレが持つよ」
スポーツバッグには、ラケットがきちんとしまわれていた。
「俺が持ってやるなんざ、金輪際ねぇんだから、大人しく持たせてろ」
「…ありがと……」
「バーカ…」
跡部が肩を竦めて、そっぽを向く。
なんだか……痛いのがすうっと消えていった。
痛いって言う刺激は脳に伝わってきているけど、それを感じる神経がマヒしちゃったみたいに。
----------嬉しい。
こんなに優しい跡部君………夢みたいだ。







「今日だけだからな」
うん、今日だけでも、いい。
今日の跡部君を、ずっと覚えているから。
オレはこくり、と頷いて、跡部の手を握った。
跡部は、そっとオレの手を握り返してくれた。
















すごいラブラブになった…