縦長の意匠を凝らした大きな窓から、淡い太陽の光が差し込んでいる。
「…………」
眩しさにうっすらと目を開けると、床の磨き上げられたフローリングに差した光が、薄いベージュの天井に反射して、それがゆらゆらと煌めいていた。
しばらくぼんやりとそれを眺めるともなく眺め、ごろり、と寝返りを打とうとして、跡部は傍らにいる人物にぶつかった。
「………」
自分のすぐ隣に手塚が眠っていた。
規則正しい寝息と、眼鏡をかけてないせいでいつもより表情の柔らかな寝顔が目に入る。
そう言えば、昨日-----というよりは、正確には今朝だが、手塚と初詣に行って、その後遅くなったからという事でそのまま寝てしまったのだった。
まだはっきりと覚醒していない頭を巡らして、壁にかけてあるヴィクトリア調の古い時計を見る。
「もう、こんな時間か…」
時計の古い文字盤に差した針が、10時を示していた。
頭を振って起きあがり、部屋に隣接して設置してあるバスルームで熱いシャワーを浴びる。
漸く頭がはっきりしてきて、跡部は濡れた髪をバスタオルで拭きながら、ベッドでまだ眠っている手塚を見下ろした。
今朝は………そう言えばなんだかなし崩しに関係を持ってしまったが、考えてみたら、ほとんど無理矢理じゃないか。
手塚にしてやられたような気がして、腹が立った。
寝ているのをいいことに、手塚の頭を拳で軽く殴ってみる。
寝顔が顰められ、切れ長の瞳がゆっくりと開いた。
「……おはよう、跡部…」
数度瞬きをした黒い瞳が、じっと自分を見上げてきたので、跡部はそれを睨んでやった。
「もう10時だぜ。お前、家に帰らなくていいのかよ?」
「……そうか。帰らないといけないな。跡部の家にも迷惑がかかるしな…」
そう言いながらも、手塚が腕を伸ばして、跡部をベッドに引き入れようとしてきた。
「な……んだよっ……起きるんだろ?」
「今日は元旦だ。せっかく休みなんだし、もう少しお前とこうしていたいんだが…」
真面目で早起きがモットーの規則正しい生活をしている手塚にしては珍しい言動だったため、跡部が返答しかねていると、強引に手塚が跡部を抱き締めてきた。
「シャワー浴びてきたのか?……肌が湿っているな…」
抱き寄せられ首筋に口付けられ、甘い痺れが首から広がる。
「昨日、ってか、今朝やっただろうがっ…」
「………いやなのか?」
手塚がそのままコトに及ぼうとしているのが分かって慌てて跡部が身を捩りながら抵抗すると、手塚が不審げな声で聞いてきた。
「……嫌とかどうとかじゃなくて、お前らしくねえだろ……って……んッ!」
最後まで言い終わらないうちに、手塚の唇で自分のそれが塞がれる。
それだけでもう跡部は、身体が抵抗をやめてしまうのを感じた。
手塚とこうして触れ合えるのも、久しぶりだった。
普段は学校が違うからあまり会えないし、ましてやこうして同衾するなど、滅多にない。
手塚の匂いを嗅ぎ、手塚の体温を感じているだけで、心が充たされて、もっと手塚を感じたくなる。
手塚よりも、自分の方がより相手を欲していると、跡部は密かに自認していた。
手塚の舌が口腔内に入ってきて、自分の舌に絡まってくるのを感じる。
負けまいと跡部は自分からも舌を絡めて強く吸い上げた。
手塚の長めの髪をひっぱり、身体を反転させて手塚を自分の身体の下に抱き込む。
「……なんだ、意欲満々ではないか?」
「テメェに合わせてやってるんだぜ。俺様は優しいからな?」
手塚の微かな苦笑にわざとらしくふんと鼻で笑って、跡部は上から再び手塚に深く口付けた。
口付けながら、手塚の着ていたパジャマのボタンを外し、ズボンを脱がせていく。
自分は何も身に着けていなかったので、すぐに肌が直に触れあった。
ひんやりとした手塚の肌に、自分のシャワーで火照った肌を押しつけていく。
手塚の腰に跨った姿勢になって上体を起こし、手塚のペニスに自分のそれを擦り合わせると、あっという間に跡部は興奮した。
「跡部…」
手塚が下から手を伸ばし、跡部の顎や胸を撫でてくる。
それが心地よく、跡部は瞳を閉じて、ゆっくりと腰を動かした。
下半身が熱く蕩けて、焦れったいような、ぞくぞくするような快感が生まれる。
背中が総毛だち、触れあっている部分の神経が研ぎ澄まされていくような気がする。
「腰を上げてみろ」
手塚の手がすっと伸ばされ、跡部のペニスから、後ろに指が這わされる。
「…っ……ッく…」
先走りで濡れた手塚の指が蕾に埋め込まれると、腰が思わず跳ねた。
「……明るい所で見るのも、不思議な感じだ…」
「っバーカ………どこで見ても、綺麗だろ?」
「あぁ…」
「冗談に真面目に答えるなよっ……ンッッ!」
指がずっと差し込まれ、感じる点を突いてきたので、跡部は思わず喉を仰け反らせて喘いだ。
天井にゆらゆらと光がゆらめいて映っている。
頭を振って快感をやりすごし、息を吐く。
「本当に、綺麗だと思う。………いつまでも、見ていたい…」
手塚が大真面目な口調で言ってきたので、さすがの跡部も羞恥で頬が赤くなった。
「どこの口からっ……そんな、言葉出るんだよっ……恥ずかしいやつだぜ……ッ!」
「思った通りの事を言って恥ずかしいのか?」
指で内部を掻き回され、たちまち跡部は息が上がった。
腰がうずうずと疼き、我慢できなくなる。
「い、いいからっ……もっ、いくぜっ…」
手塚が頷き、指を引き抜くのとほぼ同時に、跡部は手塚のペニスを鷲掴むと、息を詰めてそれを己の後孔に導いた。
解れた入り口に押し当てたかと思うと、一気に体重を掛けて腰を下ろしていく。
「はッッッッ!」
ズシン、と重く鋭い快感が、腰から頭の先まで駆け抜けた。
手塚が体内に侵入した衝撃が全身に伝わり、その部分から稲妻のように一気に痺れが広がっていく。
「…くっ……あ、……ッ、てづかッッ!」、
落とした腰をぐっと引き上げ、手塚自身が抜け落ちてしまうほどにすると、唇を噛んで一気にまた腰を下ろす。
それに合わせて手塚が下から腰を突き上げるように動かしてきたので、衝撃が更に激しくなり、跡部は耐えきれずに呻いた。
「あ、ッく……ちょ、っと待てよッッ……駄目だっ…あ、あぁッッ!」
突き上げられ、体内奥深くまで堅い楔が打ち込まれ、内部が一気に焼かれていく。
熱く煮え滾った快楽が全身を駆け巡り、堪え切れそうにないのに、更に手塚が跡部のペニスを掴んで扱いてきたので、跡部は忽ち我慢の限界を超えてしまった。
息も吐けず硬直し、脳が酸素不足になって目の前が真っ白になる。
びくびくと痙攣しながら絶頂に達した後は、朦朧とした身体を揺さぶられ、跡部は息も絶え絶えに喘ぐだけだった。
跡部が気が付いたのは、シャワーの音からだった。
快楽の余韻に浸った身体が心地よく、呆けたまま顔だけ動かすと、手塚がシャワーを浴びて出てくるところだった。
「シャワー借りたぞ」
「……あぁ…好きに使えよ…」
服を着て眼鏡を掛けた顔は、いつもの冷静な落ち着いた手塚だった。
「家族が心配していると思うので、そろそろ帰る」
「あーそうかよ…」
「またメールする。休みの間にまた会おう」
身体を動かす気になれず、怠い手を上げて形ばかりの挨拶をする。
「…ではまた」
手塚は帰り際はいつもあっさりとしている。
(まぁ、元々あいつはあっさりしすぎだけどな…)
あっという間に部屋から手塚がいなくなってしまって、部屋が急にがらんとした。
ゆっくり身体を起こすと、ぼんやりしている間に手塚が後始末をしてくれたのだろうか、身体は綺麗に拭かれていた。
「…………バーカ…」
本当はもっとずっと一緒にいたかった。
休みなんだから、一日朝から晩まで一緒にいられたって悪くないはず。
「……俺がバカだぜ」
自分のそんな感傷的な願いに苦笑が漏れる。
跡部は頭を振って起きあがった。
「樺地でもつれて、どっか行くか…」
一人でいると、手塚が恋しくなって、寂しくなる。
そんなふうに手塚に囚われる自分が、嫌だった。
跡部は溜息を一つ吐いて、乱れた髪を鬱陶しげに振り払った。
「………俺の方が、あいつよりもずっと好きなんだよな………」
枕に手塚の匂いが微かに残っていた。
目を閉じてそれをかぎ、跡部は自嘲気味に笑って、軽く枕に唇を押し当てた。
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