続:忍足の災難 
《1》











最近、忍足はめっきり平和な日々を過ごしていた。
平和な日々とは-----------誰にも襲われず、不本意にセックスを強要されない日々のことである。
今までは部室でジローや岳人と二人、或いは三人きりになるとびくびくしていたものだったが。
最近は全くそういう不安を抱かなくてすむようになった。
痛い思いも、尻に流し込まれた精液をやれやれと思いながらごそごそ処理することもない。
或いは、無理矢理口にペニスを突っ込まれるような事もない。
というのも、先日、部員達の前で跡部が宣言してくれたのだ。
『忍足は俺のもんだから、以後手出し厳禁』と。
部長の宣言ときては、聞かざるを得ない。
ジローや岳人はあからさまに不服のよう、で二人して『横暴部長』とか『そんなのズリィ』などと喚いていたが、跡部が全く相手にしなかったのであきらめたらしい。
……さすが跡部だ。
部室に忍足とジローと二人きりなどになっても、ジローは襲ってこなくなった。
ちぇ、などと未練がましく上目遣いに見上げて甘えてはくるが、ソファに押し倒したりとか、ジャージを引き下げて尻にペニスを押しつけてきたりとか、そういう事はなくなった。
おかげで忍足は、穏やかな平和な日々に安住できていた。
当の跡部は、というと、これがまた紳士だ。
ストイックな聖職者、とまでは言い過ぎだが、忍足にとってはそのぐらいに思えるほど何もしてこない。
みんなの前で俺のモノ宣言をしたのは、どうやらジローやガクトがこれ以上忍足に無体な事をするのを辞めさせようと言う目的のみのようであって、跡部自身が忍足をどうこうしようというつもりはないようなのだ。
忍足としては、跡部の『俺のモノ宣言』の元になった事件の時に跡部とはセックスをしているから、当然その後も跡部が相手をしてくれるものだと思いこんでいたのだが。
ところがどうも違うらしい。
ジローや岳人に対しては、忍足に変なことをしないよう牽制してくれたり、一緒に帰ったり、帰りに寄り道をしたり、そういう点ではいかにも俺たち付き合ってます、という雰囲気ではある。
ただ一点、身体の関係を除いては。
跡部はセックスのセの時どころか、キスさえ忍足にしてこないのである。
まぁ、忍足が気の毒だと思って同情して気を遣ってくれているのだろうから、それはいいとして。
………セックスがないのには困った。
なにしろそれまでは、殆ど毎日と言っていいぐらい、ジローや岳人、或いはジローや岳人トが呼び込んだ他の部員、滝などにいいように尻の孔に突っ込まれていたのである。
いやいやだった忍足も、すっかりそういう爛れた性生活に身も心も慣れてしまっていた。
突然それが無くなったから、気持ちでは我慢しようと思っても、身体が言うことを聞いてくれない。
「忍足、もうちょっと待っててくれ」
跡部が部長室で几帳面に部誌にその日の出来事を記入しているのを、向かいのソファに座って横目で眺めながら、忍足は、跡部に分からないように小さく溜息を吐いた。
ちらっと跡部を眺める。
机に向かって真剣に物書きをしている跡部の、すっきりとした項や、ややだらしなく襟元の緩んだシャツからほの見える肩。
半袖シャツからのぞく、鋼のような筋肉のついた二の腕。
眺めると、ぞくり、と身体の心が熱を持ってくる。
(あかんあかん……)
制服のズボンの中で、むくむくとペニスが頭を擡げてきたのを感じて、忍足は秀麗な眉を顰めて自分で自分を叱咤した。
「よし、終わった。じゃあ、帰るぜ」
「あ、あぁ、そやな…」
内心の不埒な気持ちを悟られぬように努めて平静な声を出して、跡部に続く。
二人並んで仲良く歩きながら、跡部が機嫌良くその日の学校での出来事などを話してくるのを、忍足は心の中でこっそり溜息を吐きながら聞いた。















跡部とセックスがしたい。
-----------しかし、跡部にその気がないのではどうしようもない。
元々彼はボランティア精神でセックスしてくれたに違いない。
しつこく迫るのも恥ずかしいし、そんな事をして跡部に嫌われたくない。
「はぁ……」
と深い溜息を吐いて、忍足は自室のベッドに寝転がった。
自宅に帰ってきてからも結局跡部のことが頭から離れず、ペニスが微妙に疼いている。
「しょうもないなぁ……」
肩を竦め溜息を吐いて、忍足はそろそろとパジャマのズボンを下着ごと脱ぎ捨てた。
袋の方から握り込むようにして、ペニスの根元を掴む。
既に半勃ち状態だったソコは、数回扱いただけであっという間に張り詰めた。
びくびくと頭を振って先端から先走りが溢れてくる。
ぬるぬるとした鈴口を人差し指で擦って粘液を指につけると、忍足はその人差し指を袋の下、奥まった部分に押し当てた。
「ぅ………」
使い込んだ孔はすぐに忍足の指を受け入れた。
つぷりと指を埋め込んで、自分のイイ部分を指の先でぐりっと擦るだけで、もう目の前が霞むほどの快感である。
左手で竿を握りしめ上下に扱きながら、肛門に指を二本差し入れて内壁を抉るようにして感じる点を突き上げる。
「う……うッく…ッッッ─ッ!」
欲求不満のせいか、呆気なく忍足は弾けた。
どくどくと手の中に溢れる白濁を、傍らのティッシュボックスからごそごそとティッシュを取り出して拭き取る。
「はぁ……なんや、物足りんわ……」
気持ちいいことは良かったのだが、やはり何か違う。
指ぐらいでは駄目だ。
後ろにもっと、太くて堅くて熱い他人の肉塊を突き入れられたい。
思う存分深くまで挿入されて、イキたい。
「……しょうもな…」
汚れたティッシュを丸めてぽんと屑籠に投げ入れると、忍足はベッドに俯せになって呟いた。















数日後、悶々としたまま、相変わらず現状の変わらない忍足は、その日も部室でぼんやりと休憩を取っていた。
セックスしたいという飢餓感が、日に日に募っていくような気がする。
こんな状態では、跡部に会わす顔がない。
自分の急場を救ってくれた跡部に対して、申し訳ない気持ちになる。
が、身体の疼きはどうにも止められない。
どうしたものか……とぼんやりソファに寝そべっていると、
「…忍足先輩」
そこに日吉が入ってきた。
「どうしたんですか?…なんだか最近元気がないですね」
「…そ、そか?」
後輩の前で元気のない様子は見せられない。
忍足は上体を起こした。
いつもなら部室にはジローや岳人のどちらかがいたりして、さすがに跡部の手前、もう無体な事をしかけてくることもないが、相変わらず親しげにスキンシップを図ってきたりはする。
が、今日はジローも岳人も先日の英語の試験の出来が悪かったため、追試を受けていた。
跡部は跡部で榊に呼ばれてまだ部活には来ていなかった。
その他の部員は全て部活に出てしまっていたので、レギュラー用の部室には忍足と日吉の二人だけだった。
「まあ、なんや、ちょっとな…。三年ともなるといろいろあるんや…」
日吉が忍足の隣に腰を掛けて、忍足の顔を覗き込むようにしてきたので、忍足はははっと力無く笑って見せた。
「三年だから、じゃないでしょう、忍足先輩。……先輩が元気のないわけ知ってますよ」
「……は?」
と日吉の手がするりと伸びてきて、忍足の股間をぎゅっと握ってきた。
「…うッ!」
瞬時に脳天まで得も言われぬ快感が走り抜け、思わず忍足は甘い呻きを漏らしてしまった。
「あ…う……んッ」
はっとして口を抑えるがもう遅い。
日吉がにやっと笑った。
「身体が寂しいんでしょ、忍足先輩…」
吐息混じりの掠れ声で囁かれ、耳がぞくぞくと粟立つ。
「忍足先輩、前はジロー先輩や岳人先輩とさんざんお楽しみだったのに。跡部部長は可愛がってくれないんですか?」
「…そ、そんな事、どうでもええやろ?」
反論すると、日吉がふっと笑った。
「跡部部長、意外とストイックですからね。でも忍足先輩は身体が寂しくて寂しくて我慢できないんじゃないんですか?」
言いながら日吉が忍足のジャージの上から突如ペニスを握ってきた。
そのまま乱暴に上下に扱いてくる。
身体中の血が、たちまち洪水のようにペニスに集まり、神経全部がそこに集中する。
びりびりとした快感が脳まで突き上げてくる。
久しぶりに与えられる他人からの直接的な愛撫に、忍足は理性があっという間に吹き飛んでしまった。
「ほら、もうこんなになってますよ?」
「うッッ!」
日吉の手がジャージの中に入り込んできた。
熱い肉棒を、日吉のひんやりとした冷たい手が直接握り込んでくる。
裏筋を引っ掻くように爪を立てられ、雁首をくい、と抓られて、忍足はたまらず腰を蠢かしながら、背中を仰け反らせた。
「んッッ!」
仰け反った所に日吉の顔が覆い被さってきた。
「先輩……」
甘く囁かれ、次の瞬間、日吉の薄い唇が軟体動物のように忍足の唇を覆ってきた。
顔を背けようとしても、力が入らない。
生き物のように舌が動いて口腔内に入ってきて、忍足の舌を捕らえると蛇の交尾のように絡まって吸い付いてくる。
「う……んん…ッ」
頭の中がぼうっとして、忍足は全身から力が抜けた。
無意識に足を大きく開いて、もっとというように腰を日吉の手に擦りつけてしまう。
「忍足先輩、可愛いですね…」
日吉のくすくすと笑う声にも、最早快感に浸された忍足は反応できなくなっていた。
日吉の唇を食むように自分から唇を押し当て、舌を絡ませて唾液を吸い上げる。
日吉のさらりとした髪に指を入れて無我夢中になって口付けを交わしていると、
-----------バタン。
突然扉が開く音がして、日吉がはっとしたように自分の身体から離れていくのを感じて、忍足も快感で虚ろになった視線で扉の方を見た。

「あ、跡部……」
















日吉も忍足を狙っていたのですがまだやってなかったという設定でv