「…………」
「お前が突然メールしてきて、俺の前からいなくなって………俺はとても寂しくて、自分がなんだか自分でないような気がしたんだ。あの時図書館に一緒に来ていた女子は、同じクラスでたまたま入り口で一緒になっただけだ。偶然だ。俺は………」
手塚の黒い虹彩がすっと狭まった。
長い黒い睫が、瞬きに合わせて揺れる。
「お前に会いたくてたまらなくなって……我慢できなくて、ここに来た。……もし、お前に冷たくされたら、と思うと怖かったが、どうしても、会って、どうして突然来なくなったのか訳を聞きたいと思って……。忍足……」
手塚の手がすっと忍足の手を握ってきた。
「好き、だ………」
「………て、づか……」
低く掠れた声が甘く囁かれる。
……まさか、手塚が。
信じられなかった。だが、真実だ。
自分の前には手塚がいて、彼は自分にキスをしてきた。
それどころか、自分に向かって好きだ、と-----------。
「手塚っ!」
突然激情が全身を揺るがし、爆発した。
手塚をきつく抱き締め、そのままソファにその身体を押し倒す。
上から圧し掛かり、唇を求めて深く口付ける。
手塚は抵抗しなかった。
瞳をすっと閉じ、忍足の背中に手を回して、慈しむように抱き返してきた。
「え、ええんかっ? 俺、なにするかわからんって……まずいねんっ」
手塚の唇を吸い尽くすかのごとく何度も深く唇を合わせながら譫言のように呟くと、手塚が小さく首を振った。
「あぁ、いい………なんでも、してくれ…忍足。……お前になら、してもらいたい……」
その言葉を聞いた途端、忍足の全身はかっと燃え上がったような気がした。
「…手塚!」
激情のままに、忍足は手塚の制服を乱暴に退き剥いでいった。
「……っ、く……ッ」
部屋にバリトンの響きの良い声が木霊する。
手塚は抵抗しなかった。
無我夢中で手塚の制服から下着まで乱暴に脱がせても、ソファの上で忍足に身体を預けたまま、身体の力を抜いて静かに瞳を閉じていた。
自分の眼鏡と共に、手塚の眼鏡をも震える手で顔から取り去る。
黒く長い睫がうっすらと開いて、忍足を見上げてきた。
「……恥ずかしいものだな……」
掠れた声が聞こえると、体の中が煮えたぎったように熱くなってどうしようもなくなる。
「あ、あぁ、ちょい待ち……俺も脱ぐよってにな……」
慌てて乱暴に自分の服も脱ぐ。
裸になって身体を押しつけると、ひんやりとした張りのある筋肉の感触が、忍足の胸に直接伝わってきた。
胸が爆発しそうだ。
肌を合わせているだけでも、もうどうにかなりそうだった。
下半身があっというまに充血し、堅くなっていくのを感じて赤面する。
が、同じように下半身に手塚の熱く堅いモノが当たっているのを感じて、忍足はと背筋がぞくぞくと震えた。
手塚も感じてくれている。
身体をずらし、震える手で手塚自身にそっと触れる。
「………ッ」
手塚が息を詰め、目を閉じて顔を背けた。
手塚のそこは……形良く勃起していた。
他人の勃起した部分を見るなど初めてだったし、男の性器などを見て自分が興奮するなどとは、信じられない事だったが、忍足は一気に血が上った。
目の前が霞むほど興奮した。
思わず顔を近づけて先端の薄桃色に光った部分を咥える。
口の中一杯に充足したそれを舌でこすり、ゆっくりと口を上下させる。
「お、したり……っ」
手塚が上擦った声を上げた。
「だめだ……よ、せ……ッ」
と口では言うものの、忍足を押し退けようとはせず、忍足の頭に伸ばした手で僅かに髪を掴むぐらいである。
熱く脈打つ肉塊を握りしめ、ゆっくりと顔を上下させていくと、先端から甘いような苦いような不思議な味の液体が滲み出てくる。
それを舌でざらりとぬぐい取り、更に口を動かすと、ややあって手塚が身体を強張らせた。
口の中に温かな粘液が迸るのを、忍足は躊躇なく飲み干した。
夢のようだった。
まさかこんな事を自分たち二人がするなど……実際こうして今手塚を抱いているのにまだ信じられない。これはリアルな夢で、目が覚めたら自分は一人寂しく寝ているだけなのではないのか。
ごくり、と喉を鳴らして生暖かく苦い粘液を飲み干しながら、忍足は思った。
いや。そんなことはない。
「………手塚……」
口の中に残った手塚の残滓に唾液を混ぜて、忍足は奥まった部分に顔を近づけた。
「…おしたり…っ!」
張り詰めた双球の下のひっそりと息づく箇所に、ねっとりと唾液を送り込む。
手塚が息を飲んで掠れた声を上げる。
その声が心地良い。
唾液を十分に送り込むと、忍足は口を拭いながら顔を上げた。
手塚の腹筋が美しく波打って、その向こうの胸が大きく上下している。
「手塚……」
上擦った声で囁きながら、手塚の両足を掴んで自分の肩に担ぎ上げる。
そうして勃起しきった自分自身を、奧の蕾に押し当てる。
手塚がびく、と身体を震わせて目を開けた。
深い焦げ茶の美しい瞳が自分を見上げてくる。
「好きや……」
許可を求めるように囁くと、手塚が視線を緩め、微かに笑った。
忍足の首に手を回し、身体の力を抜いてゆっくりと目を閉じる。
「あぁ……俺も……」
掠れた声に合わせるように、忍足はぐっと力を込めて狭い後孔に自分自身をねじ込んだ。
「………ッッ!」
手塚が一瞬息を飲み、端麗な眉を顰める。
狭い入り口が侵入を阻んできたが、忍足も既に限界だった。
「すまん、手塚……ッ」
一気に腰を進め、逃げを打つ手塚の身体をソファに縫いつけて深々と自身を埋め込んでいく。
熱い眩暈がした。
身体が宙に浮き、手塚に入りこんだ部分から、熱い情熱が全身に広がる。
幸福だった。
この世に自分と手塚だけになり、二人が寸分なく繋がって鼓動も感情も共有しているような、そんな満ち足りた気分。
「手塚……手塚ッッ!」
快感が押し寄せてきて、もう我慢できなかった。
痛みに強張って震えている手塚の身体を強く抱き締めて、激しく腰を動かす。
湿った水音が部屋に響き、手塚の声にならない呻きと激しい息づかいがその中に混じる。
体も心も満ち足りて、やはり夢のようだった。
興奮が脳を沸騰させ、身体中の神経が、手塚と繋がっている部分に集まっていくようだった。
こんな幸福が、この世にあったなんて。
忍足はもう何も考えられなかった。
ただ、本能の命じるままに身体を動かしていた。
忍足が達した時、半ば意識が朦朧していた手塚は、忍足が身体を離すと漸く目を開けた。
理性が戻ったようで羞恥に目許を赤らめながら、身体を起こし、忍足と目線を合わさぬように、時折痛みに顔を顰めながら衣服を身につける。
制服を着て眼鏡を掛けると、いつもの怜悧な雰囲気が戻ってきて、忍足は嬉しいような寂しいような、複雑な心持ちがした。
「……では、失礼する…」
手塚が言葉を発したのは、手塚が身支度を調え、荷物を持ち、二人が部屋を出てからだった。
「もう、帰るんか……?」
寂しげな口調が分かったのだろうか、手塚が玄関口で忍足を振り返り、黒い瞳をじっと合わせてくる。
「手塚……」
たまらなくなって忍足は手塚を抱き締めた。
彼の匂いがした。
清涼な、爽やかな、それでいて甘い匂い。
「また、会えるん?」
「あぁ、図書館にまた一緒に行こう」
「図書館だけやないやろ? うちにもまた来て……」
たまらなくなって軽く啄むように手塚の唇に触れると、手塚が切れ長の黒い瞳を細めて微笑んだ。
「あぁ……また……」
「約束やな?」
手塚が微かに頷いて、約束だというように忍足の唇に一瞬唇を押し当ててすっと離れた。
「では……」
すうっとドアを擦り抜けていく後ろ姿が、視界から消える。
まだ夢のようだった。
でも、夢ではない。
本当のことなのだ。
何度も何度も自分に言い聞かせると、じんわりと幸福感が溢れてきた。
(手塚……)
視界が歪んで、忍足は眼鏡を取ってごしごしと瞳を擦った。
(はずかしぃな……)
だが、嬉しい。
今はこの気持ちに浸っていよう。
浸っていられるだけ、できるだけ長く……。
夢見心地のまま、忍足はその日は幸福な眠りについたのであった。
へたれ攻め…かな。
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