続:忍足の災難 
《2》











間の悪いことに跡部が立っていた。
テニスバッグを肩に掛け、手には榊から渡されたのだろうか、何か書類の束を持っている。
扉の所に立ったままで、射抜くような鋭い視線で見下ろされて、忍足は全身の血が引いた。
「…おや、どうも申し訳ありません、失礼します」
変わり身の早い日吉はさっと立ち上がると、テニスラケットを手に跡部と入れ替わるようにして部室を出て行ってしまった。
後にはソファにだらしなく寝そべって唇の端から涎を垂らし、脚を大きく開いたままで、ジャージが半分尻の見える状態で脱げかけている忍足だけが残った。
(ど、どないしよ……)
跡部と視線が合って思わずごくり、と唾を飲み込む。
はー、と跡部が肩を上下させて大きな溜息を吐いた。
「忍足、お前……」
「す、すまんかった…けど、俺…」
忍足は慌てて返答した。
跡部が怖い。
どうしたらいいのか分からない。
胸がどきどきして、跡部を見ていられない。
が、跡部は、
「ったくしょうがねえな……」
と額に手を当てて頭を振った。
「そうびくびくするなよ。怒ってねえからよ…」
「そ、そか……?」
跡部が怒ってないと聞いて、忍足ははぁっと息を吐いた。
「しかし、お前……そりゃあ、ジローや岳人もしょうがねえやつだが、忍足、お前が一番淫乱なのかもな」
跡部が肩を竦め、やれやれといった調子で手を振る。
「…そんな事……」
「そんなじゃねえだろ、日吉なんかにいじられてよ、すっかり気持ちよくなりやがって、弁解できんのか、お前?」
「…………」
図星なので、答えようがない。
跡部がつかつかと近寄って、忍足を真上から見下ろしてきた。
「お前のことを俺様のものと言ったのは、お前がちょっかい出されねえようにって事だったんだが、お前、身体の方もどうしようもねえ感じなんだな…」
跡部の視線に耐えきれず俯いて、ジャージを引き上げようとするところを、跡部が手で押さえてきた。
「…なんや?」
「…尻出してみろ。俺が見ててやるから、俺の前で抜いてみろよ…」
「……は?」
そう言われて忍足は困惑した。
確かに興奮してしまったし、なんとかしたいが----------呆れている跡部の前で、など、恥ずかしくて情けなくてできやしない。
「そ、それは勘弁……」
と、慌ててジャージを引き上げようとすると、それよりも早く跡部が両手で忍足のジャージをぐいっと引き下ろしてきた。
「…ひゃっ!」
あっという間に足首まで下ろされ、靴と共に脱がされてしまう。
少々しぼんだとは言え、先ほど日吉に弄られていて半勃ちのままのペニスがぺろん、と跡部の目の前に飛び出てきた。
跡部が息を吐いて苦笑する。
「ンなにしといて今更だろうが…」
そう言ってどっかりと忍足の向かいのソファに座る。
「ほら、独りでやってみろよ…」
有無を言わせない物言いと、跡部の強い視線が自分に注がれる。
こうなると、元々押しに弱い忍足のこと、拒絶できなくなってしまう。
跡部の視線に促されて、忍足はおずおずと自分のペニスに手を絡めた。
自慰は毎日自分の部屋でしているが、跡部に見られている、と思うとそれだけでもう興奮の度合いが違う。
羞恥や自己嫌悪の気持ちが、興奮に拍車を掛ける。
「…ンッ!」
知らぬ間に甘い声を上げ、跡部の目の前でペニスの根元をぎゅっと掴み、搾るようにして扱き、亀頭を指で握りしめて鈴口に爪を立てる。
凄い快感だ。
独りで部屋でやるより、何倍も気持ちが良くてどうにかなりそうだ。
忍足は霞んだ目で、跡部を眺めた。
跡部が微笑しているように見える。
恥ずかしい。
--------------でも。
まだ足りない。
尻の孔がむずむずした。
ひくついて、じーんと疼いてくる。
尻の肉が痙攣したように細かく震えてくる。
尻にずしん、と太くて堅いモノが欲しい。
熱くて火傷しそうな堅いものが。
そう思うと居ても立ってもいられなくなった。
跡部が欲しくて欲しくて我慢できない。
忍足は脚を限界まで広げると、陰嚢を掴んで引き上げ、跡部に自分の尻の孔がよく見えるように晒け出した。
「な、跡部、入れてや……ここ、な?」
自分がどんなに浅ましく恥ずかしい事をしているか、自覚はあったものの、恥ずかしさよりも身体の疼きの方が勝った。
指をつぷつぷと肛門に出し入れして、跡部に見せる。
「すげえなお前……」
跡部がくすっと笑って立ち上がり、かちゃ、とベルトを緩めた。
下着の中から形の良い性器を取り出しながら、近づいてくる。
跡部のそれは、跡部とよく似て美しく惚れ惚れとするようだった。
かぁっと顔に血が上り、目の前が霞む。
近寄ってきた跡部に思わず手を伸ばして抱きつき、瞳を閉じる。
「じゃあ、遠慮無くいくぜ……解れてるようだしすぐに入れるぜ?」
と言う跡部の声が聞こえたかと思うと、肛門に一気に灼熱の楔が打ち込まれた。
「くッッ!!」
脳が一気に爆発する。
喉を潰して呻きながら、忍足は跡部にすがりついた。
跡部は入った途端から容赦なかった。
激しく腰を突き入れては引き、引いては突き入れて抽送を繰り返す。
「…あッ、跡部ッッ!」
先ほどの自慰の快感などお話にならないほどの激烈な悦楽が、忍足の全身を揺るがす。
全然違う。
こんなに気持ちがいいなんて。
気が狂ってしまいそうだ。
「おいおい、そう締め付けるなって」
跡部の余裕のない声が耳元で聞こえる。
「あッ……う、も、もっとやッッ!」
自らも腰を激しく動かして、ソファを壊れるほどぎしぎしと言わせながら、跡部の怒張を深く飲み込む。
感じる内部を抉られて、目の前が真っ白になる。
「はぁぁッッ!」
顎を仰け反らせて白目を剥きながら忍足が勢い良く白濁を迸らせると
「う…ッッ」
と低く呻いて、跡部も忍足の体内に熱い欲望を流し込んだ。















「あーあ……」
部室で二人の激しいセックスが繰り広げられているのを、扉の外でドアに耳を付けて、岳人とジローはげっそりとした顔で聞いていた。、
「ちぇ、忍足のヤツ、とうとう我慢できなくて、自分から跡部のこと誘いやがった」
「最近すげえ欲求不満でうずうずしてるようだC、もう少しで俺たちの所に戻ってくるかと思ってたのにー」
「全くだよな……」
面白くない、という調子で岳人がぼそっと呟く。
「今度跡部がいない所で犯しちゃおうよ」
「それもそうだなー。忍足が跡部だけで我慢できるわけねえよな」
「あーあ、全く面白くないCー」
と扉の前に蹲って、岳人とジローは二人の情事が終わるまで中に入れず、ぶつぶつと文句を言っていたのだった。