この話はGenius305『初めての敗北』の後話という想定で書いてます。
一応塚跡でシリアスですがはっきりいって駄作以外のなにものでもないんでまぁ適当に読んでいただけると幸いです(汗)






残照














死闘が繰り広げられたテニスコート。
夏とはいえ、長時間の試合のせいで、すでに日は西に傾き、暑かった長い一日も終わろうとしていた。
会場を埋め尽くしていた見物人も去り、青学のメンバーも、意識を失った跡部を担架で運びながら去っていった氷帝のメンバーも、全てが去り、テニスコートは物音一つしなかった。
ただ、コートの外に蝉の声が響き渡るばかりである。
手塚はコートに立っていた。
青学の面々が一緒に帰ろうと言うのを断って、彼らを見送ってから、またコートに戻ってきたのである。
入る時に警備員の人に、もうすぐ閉めるからと言われた。
すぐに戻りますから、と断って特別に入らせてもらった。
誰もいない、がらんとした中を歩いて、先ほど、跡部が立っていた所まで足を向ける。
そこに、あの時---------------。
永遠に続くかと思われたタイブレークの果てに。
微動だにせずに、彼は一人立っていたのだ。
魂がどこか遠くへ、飛び立っていってしまったように。
周りの喧噪も、越前の仕打ちにも、一切構わずに。
……それでも。
焦点が合っていないにもかかわらず、灰青色の透明な瞳は前を見据え。
両脚はコートをしっかりと踏み締めて。
唇はきり、と結ばれ、それでも少し笑っているようにも見えた。
彼特有の、傍若無人な、不遜な笑み。




……しかし、遠くからだったから、はっきりとは分からない。




本当は、どんな表情をしていたのだろう。
心臓はどんなふうに鼓動を打っていたのだろう。
瞳は、本当は何処を見ていたのだろう。
ラケットを握りしめた手は、熱かったのだろうか。
それとも、冷たくなっていたのだろうか。


跡部……


どうして、あの時、近づいていけなかったのだろう………俺は。


どうして……越前だったんだろう、お前を倒したのが。
……どうして、俺でなかったのだろう……?


勿論、オーダーを決めた段階で、結末はある程度分かっていたはずなのに。
自分が跡部と当たらないというのは、自分で納得して決めたはずなのに。



それなのに、今のこの俺の、行き所のない気持ちはなんなのだ。



果てしないタイブレークの末に立ち上がったお前。
立ち上がって、ラインまで歩いて、そこで仁王立ちして意識を失ったお前。
最後の瞬間に、お前の目には。


……俺ではなくて越前が映っていたのだな。


そう思ったら。
瞬間、全身が煮えたぎるように熱くなり、次の瞬間にはさっと全身が冷えていった。

















夕方になって少しだけ涼しくなった風が、手塚の頬を軽く撫でていく。
ふと、視界の端がきらりと光った。
見下ろすと、コートの上に、柔らかく丸まった金の一筋が落ちていた。
氷帝の樺地が綺麗に後始末をしていったはずだが、残っていたらしい。
屈むと、夕方の太陽光に、それがふんわりと光った。
風で飛ばないように注意深く掬い取ると、さらりと指を滑って、金色の淡い光がきらきらと揺れた。


突然、息が吐けなくなって、手塚は眉を顰めた。
指が、震えた。


さらさらと滑り落ちそうな、儚い金の糸。
手の中で、ほのかに光って、それは、跡部の微笑に少し似ていた。




跡部。跡部……。


急に胸が苦しくなった。
視界が霞んで、手塚は何度も目を瞬いた。


潤んだ瞳に、淡い金色の光が優しく滲んだ。












すいません(汗)