「……くッッ……は、ぁッ、て、づかッッ!」
切れ切れの喘ぎ。
疲労しているのがあきらかに分かる声音にも、容赦できなかった。
自分の衝動の激しさに、手塚は自分でも驚愕していた。
凶暴な情欲が身体中を駆け巡る。
跡部を貫き、揺さぶり、一度達してもまだ離すことができず、俯せにさせたかとおもうとすぐに突き入れた。
肩胛骨が浮き上がり、刈り上げられた項に汗が伝う。
震える身体を背中から抱き締めて、項に唇を押しつけて強く吸い上げる。
「っく……あ、あぁッッ!」
ぐっと腰を突き入れると、堪えきれないのか、跡部が背中を仰け反らせて呻く。
項から耳下まで強く吸って薄赤い痣を残しながら、跡部の身体を骨が折れるほどに抱き締め、左手を腰に回して、跡部のペニスを強く扱いていく。
「アッ、う……くッッ…………ッッ、てづかッッ、も、うッッ……」
苦しげな声に全身の毛が逆立った。
このまま、跡部が気絶するまで、犯して、犯し抜いてやりたい。
テニスコートで、気絶したまま立っていたお前。
そのコートに、俺が立っていたかった。
お前に最後のサーブを、俺が打ちたかった。
……跡部。
跡部、お前は誰のものにもならない。
それは分かっている。
お前は、たとえどんな事があろうとも、決して汚れない。
傷つかない。
それが、お前、跡部景吾だ。
「跡部…ッ」
お前に出会えて、どんなに幸せだろうか。
お前と俺と………こうして、今、一緒にいられることが、まだ信じられない。
お前が俺を好きになってくれた事が。
それが、俺にとって何にも代え難い幸福だと、お前は知っているだろうか?
お前とこうして身体を繋げることができる事が、俺にとって奇跡にも等しい幸福だという事を。
「……あ、あぁぁッッ……だっめだっ、て、づかっっ!くッッッ!」
震える全身をきつく抱き締めると、跡部の匂いがした。
樹木のような、爽やかな、それでいて欲情を煮えたぎらせるような、そんな甘い匂い。
「跡部ッッ!」
----------好きだ。
お前が好きだ!
心の中で叫ぶと、聞こえたのだろうか、跡部が微かに笑ったような気がした。
ふと気が付くと、跡部はほとんど意識を飛ばしかけ、ベッドに沈み込んでいた。
深い息を吐いて、手塚はそっと身体を離した。
狂ったような情欲は、漸く治まって、深い幸福が、手塚を充たしていた。
「跡部……すまない……」
涙だろうか、汗だろうか、目許が赤く腫れていた。
舌で拭うと、塩辛い味がした。
ぐったりとした身体を優しく抱きしめ、労るように何度も短髪に口付ける。
短い髪がちくちくと頬に当たるのがくすぐったい。
その感触が不可思議な心持ちだった。
「……ん…」
「跡部……」
無防備な、あどけない表情。
髪型のせいか、いつもより幼く見えた。
「……加減、しろよ…」
喉が枯れたのだろうか、掠れてしわがれた声。
「…大丈夫か?」
「……ばーか…」
甘えるように胸に顔を擦りつけてくる仕草が愛おしくて、手塚は胸が詰まった。
「……俺のことなんざ、構ってるひまはねえだろうが。全国大会、必ず勝てよ?」
「あぁ、勿論だ。……氷帝に勝ったからには、全国で優勝する……。だが、今日は、俺がお前に構ってもらいたかったんだ……」
「あぁ?どうしたよ…?寂しくなったのか?」
くすっと笑って、跡部が手塚の頬を撫でる。
「そうだ。寂しかった。……お前に会いたくてたまらなかった……」
「……素直すぎて不気味だぜ、手塚」
跡部が笑うと、どうしてこんなに嬉しくなるのだろう。
灰青色の瞳に、自分の姿が映るのを見ると、どうしてこんなに幸せな気持ちになるのだろう。
「愛している……」
「………ばーか、分かってるぜ……」
「……お前は、俺のものだろう……?」
「あぁ、テメェのもんだよ……手塚……」
軽く口付けされて、手塚は胸が詰まった。
溢れる思いに、言葉が継げない。
いつの間に、こんなに跡部を好きになっていたのだろう。
この、腕の中の存在が、これほどまでに愛おしいとは。
跡部が側にいる。
そのことが、こんなにも嬉しいとは。
跡部、お前は誰の物にもならない。
お前は孤高の帝王だ。
誰にも靡かず、ただ一人君臨し、そして一人で散っていく。
その潔い姿が、たまらなく愛おしい。
そんなお前だからこそ、好きになった。
誰にも弱音を吐かない、そんな強いお前だからこそ好きになった。
そんなお前が………愛おしくて切なくて。
跡部、分かっているのか、お前は。
俺をこんなにも熱くさせるのは、……お前だけだという事を。
規則正しい寝息が聞こえてきて、手塚はそっと跡部をベッドに横たえた。
短い茶色の髪に手を添えると、慈しむように包み込み、そして、目を閉じると、跡部の広い額に、触れる程度に口付けを落とした。
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